第145話 大怪我

 朝食が終わると、少しだけ休憩して、すぐに森のダンジョンに向かった。初めて小型戦車でダンジョンを走ることになるから運転は、シエンナにお願いする。


 1階層と2階層は、何事もなく突破した。戦車の前に飛び出してきたゴブリンは、ゴーレムアームで簡単に討伐することができた。ゴーレムの手の平に残った小さな魔石は、走りながら天井に座っているロジャーに渡したようだった。さすが、シエンナ。器用だ。


 ゴーレム階層についてもスムーズだった。近寄って来たゴーレムは、腕に掴んで射線を通し、アンディーと僕がコアを回収した。あっと言う間に、ガーディアンの部屋に到着した。


 ゴーレムアームの右手にロジャー、左手にアンディーが乗って、123のタイミングでコアを回収した。その後、ロジャーと僕で金属素材を回収して、そのまま、ダンジョンを出た。パーティーハウスを出てからわずか20分でコアを採集してダンジョンを出ることができた。


 これから、2日ごとにゴーレムコアを回収することになる。


 そのまま、ロックバレーの拠点に向かった。エリックさんは、ゴーレム戦車の後ろの席に座っていたよ。初めて、コアの回収の様子を見て感動していた。エリックさんにとっても、ガーディアンクラスのゴーレムは、難敵なのに簡単に壊していくといって感動して叫んでいた。


「なんてこと、何て非常識な討伐をするのですかー!」って


 そうかな…。僕たちにとっては、常識なんだけど…。


 それから、ロックバレーに行って、日常的な討伐が始まると思っていたんだけど、道具屋にボムを10000個渡してギルドに行くとなんか様子が違っていた。


「レイさん、本当に今日まで有難うございました。」


「え?どうしたんですか?」


「え?あの…、そろそろ討伐依頼が終わるんですよね。」


「え?どうしてですか?」


「あの…、昨日で、8431体のロックリザードを倒しているのですよね。当初1万体程いたロックリザード殆どを…。今までのペースで行けば、今日で討伐終了。遅くとも、ここ2~3日で終わるはずなのですが…。あれ?」


「あれ?本当にそんなにたくさん討伐していますか?狩場には、まだ、4000体は超えるロックリザードが居るように感じるんですが…。まあ、今までのペースだと2~3日で狩り尽くす数ですが…。でも、どうしてでしょう。まあ、ロジャーたちも、少なく見積もっても1万って言っていましたからね。1万2千体位いたとしてもおかしくはないのですが…。」


「そうですか。まだ、この忙しさが続くのですね…。レイさん、解体作業、素材分け…、今日もよろしくお願いします。はあ~。」


 ゾーイさんが、大きなため息をついた。やっぱり疲れているよ。短期間で終わると思っていたから頑張れたんだね。ファイト!


 今朝は、昨日みたいに忙しくない。みんなも拠点のコテージで一息ついている。道具屋の開店時間まで後、30分くらいあるからだ。


 ロジャーとアンディーにボムを1000個ずつ渡そうとしたけど、今日はいらないと言われた。昨日までの分が沢山あるそうだ。一発で1体仕留めることができるようになったそうだ。


「ギルドで、もうすぐ討伐が終わるはずだって言われん多だけど、そうなの?昨日も、今までのペースで狩場に追い込まれてきていたけど、まだ、たくさんいるのかな?」


「昨日は、4000体弱になったと思うけど、なんか一晩経つと増える気がするんだよな。」


「そう、特に、入り口近くで狩り終えたはずの小さいのがチョロチョロしているのが不思議だよな。」


「そいつらが大きなロックリザードから追い出されるように狩場の方に追い立てられているんだ。だから、狩りのペースが落ちないってのもあるな。小さい奴もいるからな。」


「とにかく、今日で、大物は、ほとんど狩り終わると思うから、何か分かるかもしれないぞ。」


「今日で大物狩りが終わるのならさ。いや、まあ良いや。大物狩りが終わった後話すよ。」


 ロジャーとアンディーは奥の大物狩りへ向かい、僕たちは、冒険者の狩場に向かった。シエンナとソーディーとインディーがいつもの配置に着くとすぐに冒険者たちの狩りが始まった。


「1体目は、中型です。Cランク以上のパーティーで担当。2体目は小型Dランク以上で担当。…」


 次々にシエンナからの指示が出され、順番に冒険者たちが担当したロックリザードを追い立てていく。大型のロックリザードの追立には、ガーディーが力を貸している。見事な連携だ。6日目ともなると、冒険者のパーティー同士の連携もスムーズだ。


 すぐに僕の出番になった。その前から石材集めは行っていたけど、もう、一体目が討伐された。ケインのいる場所にメンバーの一人が駆け寄って行き、指示されたAの番号札を持ったゴーレムが駆け寄っていく。それが合図だったように次々にロックリザードが討伐されていった。


 僕は、ロックリザードの回収と解体、素材分けを休みなく行っていった。ある程度の量になるとケインの所に行って、ドローンで運んでもらう。きっと、ギルド出張所の皆さんも大忙しになっているだろう。


 お昼過ぎてもペースは変わらなかった。ただ、小型のロックリザード多くなっているようには感じたが、休む間もなく討伐されている。小型になった分、かえってペースが上がっているようにさえ感じた。


 速すぎるペースに冒険者たちに疲れが見えだしたころ、それは起こった。最大級のロックリザードが狩場へ現れた。獲物を待っていた冒険者はCクラスとDクラスの者だけ。そもそも、ソーディーたちが追い込んできたロックリザードではないのだ。僕たちからは見えない餌場の右奥から突然現れて、すごい勢いで狩場へと駆け込んできた最大級のロックリザードだった。


 その時、僕は、その反対側でロックリザードの回収をしていた。ミラ姉は、ケインたちの側にいた。大型のロックリザードは、冒険者たちを蹴散らして狩場の奥、行き止まりの方へ突進していく。蹴散らされた冒険者の連携は崩れたが、ほとんどが止め前の状態だった為、大けがをしたものはいなかったようだ。奥のパーティーは違った。今、戦闘に入ったばかり。2体のロックリザードにはさまれる形になってしまった。


「ガーディー!援護に走りなさい。」シエンナが指示を出す。


「ミラさん、大型ロックリザードに攻撃をお願いします。レイさんもソードショットで止めをさす準備を。」


 大型のロックリザードが目の前のロックリザードに向かってリキロゲンボムを放つために跳び上がった冒険者を後ろから咥えた。


「ウギャー。」


 パーティーの仲間が、大型のロックリザードにボムを投擲する。ロックリザードの顎のあたりに命中するが、動きを止めるほどの効果はない。首を大きく振ったロックリザードは咥えていた冒険者を口から落とすと側にいた冒険者に襲い掛かった。大きな口を開け、牙に掛けようとすごい勢いで迫って行った。


 その間に盾役の冒険者が入り、大楯で頭を弾こうとするが、大楯ごと吹き飛ばされてしまった。その隙に、もう一つリキロゲンボムを取り出した冒険者は、後方に飛びのきながらボムを大型のロックリザードの頭めがけて投擲する。ボムはかろうじて頭付近には命中するが、動きを止めることはできない。


「アイスジャベリン・アイスジャベリン・アイスジャベリン・アイスジャベリン…。」


 ミラ姉が大型のロックリザードに向かってアイスジャベリンを連発した。ようやく大型のロックリザードの動きが止まった。


「アイスジャベリン、アイスジャベリン、アイスジャベリン」


 ミラ姉が小型のロックリザードの動きを止めるため、アイスジャベリンを連発した。


「ソードショット!」


 頭に深々と大剣が突き刺さる。


『ドドドーンッ』大きな音をたてて崩れ落ちる


「ソードショット」


 小型のロックリザードへ止めをさした。


「しっかりしなさい。」


 脇腹から胸にかけて牙に貫かれている。口からは、ゴボゴボと赤い泡を出している。後、10cm中央近くを噛まれていたら心臓に達していた。それでも、普通なら助からない怪我だ。肋骨は何本も折れ、脊椎も損傷しているかもしれない。腕は、千切れかかっている。


「シェリー!しっかり。」


「氷の聖女様、シェリーを助けて下さい。」

「ヴェル、無理を言うんじゃない。せめて痛みを感じぬように薬を頂けないでしょうか。」


「あなたたち、離れて!離れなさい!」

 ミラ姉が、大きな声でパーティーメンバーをシェリーと呼ばれた冒険者から離した。


「アンチドート!」

 まずは、殺菌だ。


「アンチエクセプション!」

 状態異常解除。


「ヒール!ヒール!ヒ――――ルッ!」


 千切れかけていた腕は、繋がっていた。深くえぐられた脇腹も何本も折れていた肋骨も変形していた背骨も元に戻っていた。しかし、顔色は、悪い。まだ、血の気はなく唇は真っ白だ。痛みはないはず。安らかな寝息が聞こえる。


「少し避けてくれますか。ここに場所を作って下さい。」


「ミラ姉、もう少しここに残って怪我人の治療をお願い。僕は、この人たちを拠点に連れて行くね。」


「分かった。治療は、任せてくれ。」


 僕は、小型のゴーレム戦車を出して、シェリーさんとそのパーティーメンバーを乗せた。シェリーさんの皮鎧は裂けてしまって下から白い肌が見えていた。僕は、アイテムボックスから毛布を出してシェリーさんにかけてあげた。


「どなたか、シェリーさん?をこの乗り物に運んでくださいませんか?」


「私が、ああ、私は、ヴェルだ。私が運ぼう。」


「パーティメンバーの皆さんは、戦車の中間座席に座るようにして、シェリーさんを後方座席に横に寝かせてください。頭側と足側に二人掛けて、シェリーさんが落ちないように支えてあげてくださいね。」


 男性二人が、中間席に座り、女性二人がシェリーさんを支えるようだ。


「では、出発します。少し揺れますが、シェリーさんをしっかり支えて下さいね。」


 拠点に戻ると、僕たちのコテージの横にもう一つ地下無しのコテージを作って出した。ベッドを大急ぎで作って、敷布団と毛布を作ってベッドに敷いた。


「簡易の療養所です。ベッドに寝かせてあげてください。傷は、家のリーダーが直したと思いますが、たくさんの血を流したようですから、完全に元気になるまで、何日かかかると思います。ここに、初級回復ポーションを置いておきますから、目を覚ましたら飲ませて下さい。少しは、元気になると思いますよ。」


 僕は、外に出ようとして、立ち止まって付け加えた。


「パーティメンバーの方で、面倒を見てもらえますか?」


「ああ、そうさせてくれるか?それと、シェリーの荷物をここに運んでおいていいか。できれば、私たちの荷物も運んでおきたいのだが、良いだろうか?」


「ああ、良いですよ。男性の方はどうされますか?」


「ああ、俺たちは、大丈夫だ。女性陣だけお願いしたい。」


「ええっと、それと、シェリーの治療費とここの使用料のことだが、どのくらい支払えばよいのだろうか。手持ちは、あるからきちんと支払うが、どのくらいかかるか少し心配でな。心づもりもあるから分かれば、教えて欲しいのだが…。」


「使用料ですか?そうですね。宿と同じで良いですよ。一人、銅貨3枚でしたっけ?それと治療費は、ギルドから依頼料としていただきますので、支払いはありません。そうですね…。皆さんは、晩御飯を奢って下さってますよ。」


「ほっ本当なのか…。やっぱり氷の聖女様の噂は真実だったのか。」




 暫くして、みんな戻って来た。食事の時間になる頃シェリーは、目を覚まし、初級回復ポーションを一口飲むとずいぶん元気になって食事の場所にやって来た。


 つかつかと、ミラ姉の前に歩いてきたと思うと、深々とお礼をし

「氷の聖女様、命を助けていただき、本当にありがとうございました。今日の食事を是非、奢らせてください。そして、できることでしたら、私たちをしもべとして…」


「五月蠅い!奢ってもらうのは分かった。感謝の気持ちも分かった。しもべなんていらない。絶対要らないから、それはやめて。いい!ケインたちの姉貴分としてあの子たちの指導をこれからもお願い。それだけで十分よ。」


「ええっ…。では、ミラ様を姉貴分とさせて下さい。何かあった時は、絶対呼んでください。すぐに駆け付けます。」


 ミラ姉の子分ができた。まあ、僕たちも子分みたいなものだけどね。




 今日の成果

 冒険者

  1822体 内オークション級 127 国宝 46 

 アンディーとロジャー

  930 体 内オークション級 600 国宝 212


 合計 2755 体


 累計 11186体



「おかしくありませんか?今日もこのペースって」

 ゾーイさんが憤慨して聞いてくる。


 確かにおかしい。いくら、見積もって1万体と見たとしても、こんなに狩っているのに減り方が少なすぎる。討伐終了になっても良いはずなのに。


「でもな。大物は、もうほとんどいなくなったんだ。何故か、俺たちの狩場よりも浅い所に現れたみたいだけど、後は、小型のロックリザードばかりのはずだぜ。明日には、討伐終了になるんじゃないか?」


「そうだな。狩場も固定しないで、全員餌場で狩りをしても良いかもしれないな。まあ、シエンナの支援は大変になるかもしれないけど、ほとんどが小型のロックリザードになるからな。」


 ということで、明日は、全員餌場での狩りをすることになった。ロジャーとアンディーは、石材集めを頑張ってもらうことにする。

 







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