第142話 相談方法と砦建築開始の一歩

 ゴーレム戦車が出発すると直ぐ、ロジャーが、金貨の入った袋と腕時計を渡してきた。


「これ、10日位前に王都にロックリザードの皮をととげに行った時、王都の冒険者ギルドのマスターから預かっていたんだ。

 まず、契約金の金貨600枚な。それと、預かっていた自動で時刻を合わせる時計。なんか、錬金術師ギルドと鍛冶師ギルドが共同で作ったらしいんだけど、セイレーンの魔石を使っていてな。そのせいで、装飾が出来なくなったから、何とかして欲しいんだと。

 セイレーンの魔石もここにある。それから、契約書な。読んでくれって。以上が預かっていたものだ。完全に忘れていたんだ。済まなかった。」


 僕としては、もうしばらく忘れていてほしかったくらいだけど、ロジャーから時計を受け取って、精錬コピーしてみた。確かに、完全に魔道具になっている。セイレーンの魔石はほんの少ししか使用されていないが、自動で時刻を合わせるのに重要な役割を果たしているようだ。


 どうして、装飾ができないのかは、契約書と一緒に入っていた手紙の中に書いてあった。魔力干渉を起こすらしい。この世界の宝石類は、ほとんど魔石だ。そんな魔石を装飾用に時計に取り付けると魔力干渉を起こし、時刻合わせが出来なくなるらしい。


 対処方法として今すぐ思いつくのは、金貨から作った金箔で装飾する方法これは、アンディーにお願いしないと無理。後は、本で読んだ人口宝石を作って装飾すること、これは、向こうの世界で玲にお願いしないと無理だ。向こうの世界の人口宝石を精錬コピーしてもらったら材料さえあれば、こっちでも作れると思う。それにも魔力が含まれていたら無理だけど…。


 まあ、人口宝石については、ダイアリーに書いて玲にお願いしてみよう。まず、すぐにできることをアンディーにお願いする。


「アンディー、この時計を金箔でコーティングするから、文字盤にかからない表のガラス面から、模様を入れてくれない。金箔面への模様は、ミスリルを貼るか彫るかでやってみてくれない。」


「参考になるデザインはあるのか?」


「ない。国王向けには、ドラゴンかライゴーラかフレームベアなんかの王族シンボルっぽいものが良いのだろうけど、ウッドグレン王国の象徴って何なのだろう。」


「知らないな。宰相閣下に聞いてみたらどうだ?」


 そんな話をしていたら、アンディ―のタブレットが震えて着信を知らせて来たようだ。そのすぐ後に僕のタブレットも震えた。


 僕のタブレットは、宰相閣下からだった。


『ティモシー:つい先ほど、王宮らの輸送隊が到着した。ゴーレムバイクとタブレットの手配、苦労を掛けた。森の賢者にくれぐれも感謝していたと伝えてくれ。

 それと大変申し訳ないのだが、皇帝陛下にお主らの連絡先を尋ねられ、伝えざる得なかった。

 依頼に関しては、必ず王宮を通すように言っている。王宮の方で受けることが可能かどうかを判断してお主たちには、王宮から依頼するという形以外には認められないとな。しかし、その前に、お主たちが可能かどうかも確認せねばならぬだろうと無理やり聞いてきたのだ。

 個人的な依頼も王宮を通すことを認める代わりに、連絡先を教えろとな。そうしないと、帝国から人を送って直接ギルドに指名依頼すると言ってきたのだ。

 ギルドでは、今まで、依頼者の国籍までチェックしたことは無かったからな。そうなると、皇帝は依頼し放題になる。それも、困るのでな。

 もしかしたら、皇帝から連絡が入るかもしれない。何か困ったことがあれば、私か、王室に相談してくれ。直接連絡を許可する。お主ら、アンデフィーデッド・ビレジャー全員にだ。これは、王室からの許可と考えてくれ。全員に周知を頼む』


 かなり衝撃的で長い連絡だった。いったいどう返したらいいのか考えこんでいると、アンディーがもっと衝撃的な連絡を貰っていた。


「みんな、見てくれ。皇帝からだ。」


『ルキーノ:アンディーか。先日ぶりだな。お主たち、褒賞を渡すと申したのに、受け取らぬまま帰ってしまったな。ティモシー殿には伝えるが、時間を見つけて帝国へ来い。お主とレイの二人でだ。歓待して褒賞を渡す。

 それと、もう一つの依頼、タブレットのことだが、この国の半分の都市や町から連絡が付くようにしたい。お主の国の王室とも一台だけでも良いから正式な連絡道具として確保しておきたい。

 そのタブレットは、帝国から、王国へ、貸し渡す形をとるから、200台の中に含めておいてよい。

 いずれは、他国との連絡手段としても使うことができる様になればと考えているが、今の所、国内の半分の街とウッドグレン王国の王宮用だ。

 その規模のタブレット200台をどのくらいの期間で準備できるか、王室経由で知らせろ。そう、お主らのに尋ねてくれ。いいか。必ず、褒賞を受けに来るのだぞ』


「皇帝への返事が王宮経由で良いのなら、まず、ティモシー様に、色々聞いてみてくれないか?」


 僕がいうとすかさずアンディーが突っ込んでくる。


「色々って何を?聞いてくれないかって、誰が聞くって言うんだ?そもそも、ティモシー様に連絡を受けたのは、レイなんだからレイがティモシー様に聞かないといけないんじゃないか?」


「ええっ?だって、皇帝から連絡を受けたのは、アンディーなんだから、まず、そのことをどうしたら良いかアンディーが聞いてよ。そして、ついでに王室のシンボルには、どんな魔獣が良いか確認してくれたらいいじゃない。王様用とかお妃様用とかさ。」


「いやいや、そもそもタブレットの規模を聞いたんだから、その規模に必要なゴーレムコアの数を試算できるのはレイだけでしょうに、そのことと、王室のシンボルのことを伝えて聞くついでに、皇帝陛下に帝国に来るように言われたことを伝えて、どのように返事したらいいのかを相談すればいいじゃないか。」


 もはや、擦り付け合いである。その間に村についてしまった。


「ねえ、グループの設定があるんだから、ティモシー様と3人で相談してみたら?皇帝からの手紙の内容もお知らせするんでしょう?」


 皇帝様やティモシー様なんかが出てくる会話を村の真ん中でできるはずがなく、僕たちは、ゴーレム戦車から降りることができていない。


 まだ、夕方4時30分だ。暗くなるまで、時間がある。大きな乗り物が村に入ったため、村の人たちが集まってきてしまった。


「人が集まってきたから、後で、二人でティモシー様に相談しようか。」


「そうだな。」


 僕たちは、ゴーレム戦車の外に出るとすぐに村長のジョージさんに呼ばれた。


「アメリア、こりゃあいったいなんだ。最近、大型の馬車よりも大きな物がウロウロしているっていう噂があったが、これのことか?」


「きっとそれは、ゴーレムバスって言う乗り物のことだと思うわ。40人も乗ることができて、ここから町くらいまでなら、あっと言う間よ。この乗り物と似てるけど、違う物。森の賢者様が作って私たちが実験運用の安全確認の依頼を受けたの。この乗り物も森の賢者様が作ったものよ。凄いでしょう。」


「これも実験運用中なのか?」

 フレッドが聞いてきた。


「いいえ。これは、私たちが借りている乗り物よ。森の賢者様が必要な素材を取りに行く時に使うためにね。」


「それで、今日は、なんでこんな乗り物に乗って戻って来たんだ?」

 村長さんが聞いてきた。


「村の砦を作るための石材を運んできたんだ。明日から、みんなで木の壁に沿って並べてもらって良いかな?手伝いの為のゴーレムは、置いて行くからさ。木材の壁の内側に並べてくれたら、後でアンディーが土魔術で沈めて基礎にするから。」


「ゴーレムを使っていいなら、俺たちでやっとく。」

 ジョージ村長が請け負ってくれた。


「じゃあ明日の分の石材、どこに置いていたら良い?それと、ゴーレムは、誰に預けておこうか?」


「フレッドで良いんじゃないか?なあ、フレッド。お前明日から、この村の依頼を受けな。依頼料は、一日、銀貨1枚でどうだ?ゴーレムも貸してもらえるらしいぞ。」


「おう、分かった。ゴーレム使わせてもらえるうえに、依頼料まで貰えるなんて願ってもない。是非やらせてくれ。」


「じゃあ、村長に依頼料を預けておくわ。」

 ミラ姉が、村長に金貨を5枚渡した。


「おいおい、こんなに預かっていちゃあ、フレッドを何人も雇わないといけなくなるぞ。」


「村のみんなで手伝ってもらったらいいかなと思って。村長さん、無理しなくても良いけど、毎日今日持ってきた位の石材を運んでくることになると思うの。出来たら、フレッドだけじゃなくて、大勢で手伝ってくれないかしら。」


「まあ、今日持ってきた石材の量を見て考えるわ。村の入り口の所に、置いてみな。」


「村長さん。村の入り口の所だと、みんなに迷惑かけることになりそうだから、新しく村になる予定の所に置くね。」


 僕は、そう言うと、新しく村の敷地にする予定の草原に歩いて行って、今日持ってきた石材の半分を出した。


『ドドドドドドドドド…。』


 なるべく丁寧に出したつもりだったけど、すごい音がした。あまり高く積み上げると危険だし、移動させるのが大変になるから3段くらいにいして平たくして置いている。およそ、約200m四方48万個のロックブロックが現れた。


「分かった…。これを木の杭に沿って何個ずつ並べたら良い?」


「基礎の部分になるから6個で良いのかな?アンディー。どう思う?」


「おう、それでいいと思うぞ、地下には3mくらい潜らせておけばいいのか?」


「さあ?どうなんだろう。村長さん、地下にどれくらい潜らせればいいと思いますか?」


「そんなことより、これを何日で木の杭に沿って並べろと言うんだ?まさか、明日一日で何て言わないだろうな。」


「3mの幅で、1周させてたら約24万個です。せめて毎日2段分くらい積み上げて行かないと、目指す地下3m、地上10mの砦の壁はなんて、一月かかっても完成しませんよね。」


「地下に埋める分って3mって6段…。明日一日で2段分の48万個の石材を積み上げてもおけというのか?」


「ゴーレムを4体貸し出します。村の皆さんで明日一日で2段分、宜しくお願いします。」


「何なら、もう少し依頼報酬上乗せする?一日銀貨5枚でどう?町から人を雇っても良いわ。その采配は、村長に任せるからなんとかしてくれないかしら。町からの移動に、ゴーレムバスを利用できるように始発を開拓村にするから。」


「うーん…。分かった。町からこの村までの移動手段を何とかしてくれるなら、商業ギルドに依頼してみよう。ギルドへの依頼は、一日、銀貨2枚にすれば、人が集まるだろうからな。フレッドと村の働き手への依頼も銀貨2枚に値上げしていいか?」


「それは、大丈夫よ。今の所、砦建設に回すことができるお金は潤沢にあるから。じゃあ、預けておくお金については、後で、村長と確認ね。」


「よし。それなら、今から町まで行って商業ギルドに依頼しないといけないな。その、ゴーレムバスというのは、今日から町まで走らせてもらえるのか?」


「そうね。シエンナ、今から大丈夫?」


「はい。丁度、町から拠点までのバスを走らせないといけない時間が近づていますから。ここから町まで走らせて大丈夫です。」


「そのことを、町と拠点の冒険者ギルドの方にも連絡しておかないといけないわね。それは、私がしておくわ。」


 そんな流れで、村の砦づくりは、開始されることになった。僕たちは、ゴーレムバスの手配をした後、パーティーハウスに戻り、夕食まで、拠点の壁づくりを行った。厚さ1mの壁を500m四方に積み上げていく。


 明日貸し出す予定のゴーレムたち4体と、ガーディーたちも動員してゴーレム8体と僕たち5人全員で積み上げ作業を行った。地下に基礎として埋め込むのは、5m。外の壁を突破した敵が攻め込んでくると考えると地下を深くしておいた方が良いだろうと考えてだ。


 壁の高さは、3mにした。せっかく作った、畑や果樹園への日当たりを優先した。それでも圧迫感が半端なかった。アンディーに土魔術で、壁を強化してもらって、パーティーハウスの城壁もどきが完成したのが6時半。お腹が空いた。


 作業をしながら、パーティーハウスの中を改めて見てると、青々とした畑と、まだ背は低いけど果樹園が出来ていた。初級ポーションとゴーレム集落の灰を使うと作物の成長が早い。今日の夕食は、畑の美味しい野菜が食べられるな…。


 その後に、ティモシー様への相談が残っている。少し気が重くなった。


 僕たちの拠点に使った石材は、65000個くらいで済んだ。残った38万個程の石材は、こっそり村の石材置き場の方に並べておいた。村長さんたちびっくりするかな…。しないよね。





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