第141話 狩場移動1日目

ミラ姉は、ギルド出張所でギルド依頼の契約書作りと契約をするため、ギルマスに同行した。僕たちは、一度、コテージに戻り、フォーメーションについて、考え直すことにした。


狩場ポイントが変われば、ケインたちのリキロゲンボム移動販売所の場所も変更しないといけない。ゴーレムを警備に付けているとはいえ、今までより危険度が増すようなことにならないように販売場所の選定には、万全を期す必要がある。


一番重要なのは、狩場へのロックリザードの誘導と調整を行うシエンナの場所だ。自らの安全が確保されなければ、十分な指揮ができない。シエンナもそれは十分わかっていので、昨日のうちに場所を選定していた。今までよりも、ロックリザードが大型化するはずだが、適切な指示さえ出せば、ソーディーとインディーで対処できるだろうということだった。バッキーとガーディーの役割も今まで通りで大丈夫だということだったが、冒険者の狩りが安定するまで、ヒールができる僕とミラ姉も狩場に待機した方が良いだろうということになった。


第1の餌場での狩りも進めておかないと、最後には低ランクの冒険者の手に負えないロックリザードだけになってしまう可能性があるということで、そこでの狩りは、A・Sランクの10パーティーとリキロゲンボムを500個ずつ持たせた、アンディーとロジャーにやってもらうことなった。A・Sランクの10パーティーは、昨日も途中から第1餌場で狩りをしていたから問題ないだろう。


今日のリキロゲンボムの販売開始を少し遅らせてもらって、ギルマスと狩場の変更確認に行ったから、まだ、誰も狩りに出ているものはいない。


リキロゲンボムの販売開始前に、道具屋の前に、狩場の変更を知らせた看板を立てた。A・Sランクパーティーへの第1狩場での狩りの依頼は、直接ギルマスが行ったようだ。ギルド出張所の掲示板にも狩場の移転は掲示してある。オマケに、拠点出口にも貼り紙が貼ってあった。これだけ知らせれば、低ランクの冒険者も戸惑いなく奥の狩場へ入って行くことができるだろう。


「今日からの狩場では、昨日より大型のロックリザードが多くなりまーす。リキロゲンボムには余裕を持たせてくださーい。1パーティー8個以上、そろえていただいた方が安心でーす。」


ケインたちには、リキロゲンボムを昨日よりたくさん持って借りに出るように伝えることを任せている。大型のロックリザードになると行動不能にするためには、頭に2個以上のリキロゲンボムが必要になる。ロジャーたちのように頭に直接高威力の一撃を与えて仕留めるのではないなら、切断する首の周りに4個以上のリキロゲンボムをぶつけて弱体化させないと切断さえ難しい。その為の8個もちだ。


ほとんどのパーティーがお金には、余裕がある。大型のロックリザードを狩れば、素材量も最低金貨5枚は手に入るはずだから、挑戦する価値は十分あるはずだ。


冒険者たちが狩り場に着いた。少々足場が悪く、戸惑っているバーディーもあるが、シエンナが追い込んでくれたロックリザードが、小型から中型の者ばかりなのでてこずっているパーティーは少ない。それでも、リキロゲンボムの狙いを外すパーティーは少なからずいる。足場が悪いということは、狙いにくいということでもある。


「危ない。」

僕たちの目の前で、1つのパーティーの連携が崩れた。中型のロックリザードを狩ろうとしていたパーティーだ。


前衛の盾師が、足元の岩が崩れたことで転倒してしまったんだ。頭にむかって、ボムを投擲しようとしていた、冒険者へのガードが外れ、大きく口を開いたロックリザードが、空中で投擲姿勢を取っている冒険者に向かっていく。冒険者は、上手く頭にボムを命中させたが、ロックリザードの牙が、冒険者の脇腹をかすめていった。鮮血が飛び散る。ロックリザードの足元では、盾師がどうか立ち上がり、ロックリザードの動きを止めた。


パーティーメンバーが投擲した2個目のボムがロックリザードの頭に命中した。連携を取り戻したパーティーは、その後何とかロックリザードを狩ることができた。しかし、牙に引っ掛けられた冒険者は軽傷ではなかった。


ミラ姉が、冒険者の所に駆け寄った。


「傷口に、毒があるかもしれないよ。」

僕が、後ろから叫ぶ。


ミラ姉は、冒険者に近づくと、傷口に手をかざした。

「アンチドート!」

「ヒール!ヒール!ヒール!」


淡い光が、傷口を覆い、冒険者の傷が塞がり、事なきを得た。出血もそう多くはない。

「大丈夫。もう、大丈夫よ。」


ミラ姉は、自分に言い聞かせるように、怪我をした冒険者に向かって話しかけていた。


「あ…、ありがとう。治療代は…、幾ら支払えばいいんだ。」


「う、ああ、治療代か?ギルドとの契約の時、決めていなったな…。今の治療代は、今晩の夕飯の時、何か奢ってくれればいい。ギルド契約の一環なんだ。この討伐依頼で死人や大怪我人を出さないっていうな。」


「わかった。私は、アイニッキ。今晩の晩飯時に必ず奢る。本当に助かった。」


「私は、アメリア。仲間には、ミラと呼ばれている。晩御飯、楽しみにしておく。」


アイニッキたちのパーティーは、引換券を貰うと次のロックリザードを討伐するため、追い込み口付近に待機した。


それからも、主にC・Dランクのパーティーに数多くのけが人が出た。そのたびに、アンチドートとヒールを施していく。今日一日で、何日分の晩御飯が手に入るのだろう。パーティーメンバー全員分以上に奢ってもらえる数が増えて行った。


「レイ。私、そろそろ、魔力がやばいわ。」


「それじゃあ、試してもらいたいことがあるんだけど、いい?」


「何?また、非常識なことになるんじゃないでしょうね。」


「僕がさ、ヒールを精錬する時に、前はとっても魔力を使ってて、一日に1個が2個精錬したら魔力枯渇で気を失っていたの覚えてる?」


「ああ、そう言えば、1カ月ちょっと前は、魔力枯渇で何度も気を失っていたわね。」


「それでさ。今は、ミラ姉ほどじゃないけど、ヒールをかなり精錬して、発動しても魔力枯渇にならなくなったのって不思議じゃない?」


「まあ、そう言われれば不思議だけど、どのスキルかの熟練度が上がったからじゃないの?まあ、あんたは、ヒールをあんまり使わないで、ポーションばかり使うけどね。」


「そう、それは関係あると思うんだよね。ポーションの材料さ。ポーションの材料をそろえたら、ヒールを精錬する時に魔力が少しで済むようになったんだ。毒消しポーションの材料でアンチドートの魔術の精錬に魔力が少しで済んだしね。」


「それと、私とどういう関係があるの?そもそも、私はあんたみたいに魔力を精錬しているわけじゃないから、材料があっても使うことなんてできないわよ。」


「そうだよね。材料だとね。じゃあ、ポーションだったらどうなると思う?」


「ポーションだったら、普通にポーション掛けたり飲ましたりするに決まった要るでしょう。」


「違うよ。一度ミラ姉の魔力回路のかなに取り込んでヒールとしてかけてあげたらどうなるのかなって話さ。」


「ポーション瓶を手に持ってヒールをかけるってこと?そんなことしても何も起こらなかったわ。それに魔力回路に取り込むって、ポーション瓶から魔力が漏れて、魔力回路に影響したことは一度もないから無理じゃないかしら。」


「ミラ姉、ポーション瓶って魔力が漏れないように作られた瓶なんだよ。そうしないとポーションの効果がだんだんなくなっていくからさ。だから、幾らポーション瓶を手に持っていても魔力回路に取り込むとこも影響することもないと思うよ。」


「じゃあ、どんな瓶に入ったポーションを使うって言うの?」


「例えば、ミスリルのボトルじゃあどうかな?」


僕は、手持ちのミスリルで蓋をすることができるボトルを2本作って、初級ポーションと上級毒消しポーションを詰めて、取り出した。


「ミラ姉、こっちが初級回復ポーションで、こっちが毒消しポーションポーション。次の治療の時、左手にボトルを持って、魔力を取り込むながら右手で魔術を発動してみてよ。それで、魔力の減り方が違うか試してみて。」


「二つ一緒には持てないから、アイテムバッグに入れておくわ。」


それから、ミラ姉は、ポーションを左手に持って治療をしてみてくれた。初めの怪我人は、左足の骨折だった。普通のヒールなら、ヒールをかけて2時間位で、完全に折れたところがくっつく感じだ。牙や爪で傷を負ったわけではないから、消毒の意味のアンチドートは、必要ない。


「ヒール」

一番魔力を使わない、初級ヒールを使ったようだったのに、まぶしい光が骨折の個所を包み、変な方向に曲がっていた左足が元に戻った。顔や、手に会った小さな擦り傷や裂傷も全て良くなっている。


「あっ、ありがとうございます。こ…こんなに強力ヒール使ってもらえるなんて、たかが骨折なのに…。ほんとうに、ありがとうございました。」


ミラ姉もびっくりした顔してる。僕もびっくりした。でも、確かめないといけないことがある。


「ミラ姉、魔力の減りはどう?今までと比べて大きく減ってしまっりしていない?」


「え?いえ、それが、魔力は殆ど持って行かれなかった。これくらいの減り具合なら、あと何人治療しても魔力枯渇なんてならないと思うわ。」


「さっきの、初級ポーションの減り方確認したいんだけど、貸してもらって良い?」


「ええ。調べてみて。」


僕は、初級ポーションが入ったボトルをミラ姉から、預かって中身を確認してみた。ほんの少しだけ量が減っているようだったけど、僕が持っている初級ポーションとほとんど同じもののようだ。ほんの少しだけ魔力量が違うのか、同じものとしては認識しなかった。でも、この一本で何百回ものヒールをかけることができそうだった。


こんなに減らないんだったら、初級エリクサーを入れておけば、毒消しポーションがなくても大丈夫かもしれないな。


「ねえ、ミラ姉、毒消しポーションと回復ポーションを混合したら一本で、ヒールとアンチドートの両方に使えるか試してもらって良い?」


「それは、良いけど、毒消しポーションと回復ポーションを混合したポーションなってあったの?」


「前ね。試しに作ったのがあるんだよね。でも、たくさんはないから、大事に使ってね。」


「大事も何もふたを閉めたボトルの中に入ったまま使うのよ。どんな風に使ったら、乱暴に使うことになるの?」


「さあ…。目一杯魔力を込めたヒールにしたら乱暴に使ったことになるのかもしれないかな?」


「なにそれ。なるのかもしれないかなって未確定だらけじゃない。」


「とにかく、初級ヒールで治療するつもりでお願いします。」


この日は、その後も、何人もの骨折や怪我の治療を行ったが、大怪我を負ってミラ姉や僕の所に来る人はいなかった。


僕は、けがの治療は、ミラ姉に任せて、ロックリザードの回収と砦つくりの石材集めを行った。僕が石材を集めると狩場の足場が良くなる。時々、連携が崩れそうなパーティーの手伝いをしながら、石材集めを頑張った。


夕方4時、移動距離も少し長くなった為、狩場での狩りを終了することにした。冒険者の皆さんが帰るのと一緒にケインたちも拠点に戻した。足場を少しでも良くするため、石材をできるだけたくさん収納したかったからだ。


僕が収納して、素材に分けたロックリザードは、認識番号を付けて、ギルド出張所へドローンで送った。肉以外だ。肉は、全部、僕が引き取り、肉屋やギルドに卸すことにしている。僕が収納しておけば、腐ったりしないからだ。


「だいぶん、足場が整って来たわね。」


「うん。今日、かなりの石材を収納することができたならね。今日、収納した分だけで、パーティーハウスの壁はすべて作ることができると思うよ。」


「じゃあ、アンディーたちが戻ってきたら一度、村に戻りましょうか?ドローンで行けばすぐだし、この位この広場が平らになっているなら、ここにドローン出しても大丈夫でしょう。」


「でも、ゴーレム戦車でもすぐ着くよね。ここに出しておいて、アンディーたちが来たらすぐに出発しようか。」


「そうね。離陸や着陸後の手間を考えたら、ゴーレム戦車と時間はあまり変わらないわね。じゃあ、アンディーたちが来るまで、シエンナを呼んで、お茶でも飲んでおきましょう。それに、今晩は、パーティーハウスで御飯を食べないと、食堂で食べようとしたら大変なことになりそうな気がするのよね。」


「そうだね。最後の方は、聖女様って呼ばれていたからね。あっ、ちょっと待って、シエンナ呼ぶから。シエンナ、ゴーレム戦車でパーティーハウスに戻ろうと思うんだけど、こっちに来てゴーレム戦車を出して。シエンナに送信。」


「誰が聖女様よ。あんたのポーション使ってずるしているだけじゃない。あんな治療方法があるんなら、誰だって聖女様よ。」


「そうかな…。ミラ姉だからできるんだと思うけどな…。僕や、アンディ―の魔術の使い方を見ていて、魔術の変わった使い方を普通に受け入れられるようになっているからだと思うんだけど、違うかな?」


「まあ、あんたたちの非常識な魔術の使い方を見慣れているってのはあるかもしれないわね。でも、それにしても、ずるっこ魔術だと思うわ。あんたたちの非常識に引きずられてとは思いたくないんですけどね。」


そんな話をしていたら、シエンナが来て、ゴーレム戦車を出してくれた。ほどなくしてアンディーたちも戻って来て、二人を回収後、10分後の4時30分には、パーティーハウスに到着していた。





【後書き】

ミラ姉の光魔法の覚醒?いかがでしたか?まだ、とんでもないことにはなっていません。少し長くなりすぎてしまいましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


朝読コンクールの作品を書いてみました。長編の入り口になる短編という課題なのですが、児童文学になっているか不安です。読んでいただいて、ご意見などいただければ嬉しいです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330655893068467



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