第140話 狩場移動とギルド依頼

 3日めの夜も食堂兼酒場はお祭り騒ぎだった。報奨金の他にも素材の引き取り料も支払われるのだ。討伐料だけで稼いでいるパーティーは金貨150枚以上稼いでいる。


 もちろん、金貨を10枚ほどしか稼いでいないパーティーもある。しかし、こんなパーティーでも大金を稼いだことには違いない。しかも、この後、素材量もいくらかは支払われるのだ。ロックリザードの皮が日に日に安くなっている為、いくらくらいで購入してもらうるかは定かではないが、一体分の全素材料金が金貨1枚を下ることは無いと思われている。


 ロックリザードの皮鎧は、冒険者にとって垂涎の鎧なのである。それは、重騎士以外の騎士にとっても同様である。ミスリルの金属鎧に次いで丈夫で硬い鎧なのだ。しかも、ミスリルと同じくらい軽い。もし、ロックリザード皮が、金貨1枚を切るようなら、誰も売らず、防具に加工してもらうだろう。一生物の道具を作れることになるのだ。


 僕も、町の防具屋でロックリザードの皮の防具一式を作ってもらっている。うちのパーティー全員分の鎧と小手や脛宛て、兜など一式だ。ケインたちへのプレゼント用の防具も注文済みだ。この国の鎧の中心がロックリザードの皮鎧になれば、初級冒険者が持っていても襲われ、奪われることは無くなるだろう。


 しかし、外交部隊に頑張ってもらって、ロックリザードの皮が暴落しないことを祈ろう。リキロゲンボムを使って借りをしてるため、小さなロックリザードからでも、1体分で数十人分の防具をセットで揃えることができる位の皮を取ることができるようになった。大型のロックリザードなら百人分以上とれる。


 この国には、50万人以上の兵士や冒険者がいるが、もうそろそろ全員分のロックリザードの皮が確保できたのではないかと思う。そのくらいの勢いで狩りが進んでいるんだ。だから、食堂は、お祭り騒ぎになっている。財布の紐が、緩くなるのはしょうがない。


 今日の夜は、タブレットが震えることもなさそうだ。何事もなく眠ることが出来ると願っている。風呂から上がって宿舎のベッドに入った。拠点の外では、魔物が吠える声も聞こえるが、拠点の中はいたって平和だ。ゴーレムの衛兵たちも頑張ってくれている。安心して眠ることができる。




「お早う。」


「お早うごさいます。」


 僕は、エヴィにリキロゲンボール3000個を卸した。エヴィは、今日から、戦斧も販売すると言っていた。大型のロックリザードが増えてきたからだそうだ。投げ槍も作ったが、使える者が少なすぎて、武器棚の飾りになってしまったと言っていた。


 朝食の打ち合わせの時、ケインとエミリーは、昨日の夕方、草原に出て、狩りの仕方を先輩冒険者に教わったと教えてくれた。シェリーさんとヴェルさん、ヒューブさんというCランクの冒険者で、後二人の後衛職の冒険者と5人で狩りをしているパーティーだそうだ。今日もロックリザードの狩りが終わったら教えてもらうと嬉しそうに話していた。


「皆さん。今日から狩場をもう少し奥に移動してもよろしいでしょうか?」


 朝食の打ち合わせの時、シエンナが聞いてきた。


「えっ、どうして?今までの狩場じゃ何か不都合でもあるの?」


「いや、狩場の不都合というよりも、得物不足と行った方がいいような状態になって来てるんです。」


 シエンナの説明を簡単に言うと、冒険者のスキルが上がって討伐速度がとんでもなくなっている為、今まで狩りをしていたあたりのロックリザードを狩り尽くしてしまったということだ。昨日、狩りの数が、一昨日より減っていたのはどうしてかなとは、思ってはいたんだけど、狩り尽くしてしまったからなのか。


「狩場をもう少し奥に移動したら、ソーディーの追い込みも時間短縮できると思うんですが、ダメですか?」


「狩場にできそうな、広い場所が奥にあるの?」

 ミラ姉が聞いてきた。


「足場は悪くなってしまいますが、同じくらいの広さの場所を見つけています。足場が悪い分、低ランクのパーティーは怪我の心配はあるのですが…。」


 シエンナは、昨日のうちに下見に行っていたようだ。


「これは、俺たちだけで判断できない内容かもな。ギルマスを呼んで決めてもらった方が良いんじゃないか?」


「すみません。昨日の夜、言っておけばよかったですね。」


「昨日の夜も今朝も同じようなものよ。ギルマス呼んでササッと決めてもらいましょう。」


 今は、朝一番にゴーレムバスを往復させている。向こうからこっちに来る人がほとんどだけど、お金がたまったってんで、朝から街へ買い物に行く人も出てきたからだ。そのゴーレムバスに乗って来てくれるようにギルマスに緊急連絡をした。すぐに返事が来て、バスに乗ってこちらに来てくれることになった。


 食堂で、食事中の冒険者に大きな声で連絡する。


「この後すぐ、町までバスを出します。町に用がある方は、お急ぎください。」


 数人の冒険者がいそいそと食堂を出て行った。町に行こうと思っていた人たちだろう。10分後、バスは、冒険者ギルド出張所の前から町に向かって出発した。今日は、冒険者ギルドの前まで入って行くことになっている。


 バスが戻って来た。5組26人の冒険者とギルマスがバスに乗っていた。


「この前は、済まなかった。あの勢いで素材を投げ込まれちゃあ、嫌がらせとしか思えなくてな。本当に、済まないことを言った。」


「いいえ、僕たちもこっちの倉庫にスペースを作ることに必死で、町のギルドの倉庫のことを考えていませんでした。申し訳振りませんでした。」


「おめぇらは、悪くねえよ。まあ、素材も少しずつ売れているし、ギルドとしては、ありがたいことなんだがな。あっそういえば、レイ、お前たち、王都のギルマスに何か頼まれていないか?ギルド間のタブレット連絡の試験の時に、レイ様とアンディー様へお願いしていた件、できているどうか確認して欲しいなんて連絡してきたぞ。何のことかは書いてなかったがな。」


「何のことでしょう。アンディー、分かる?」

「さあ?わからんな。」


「「あああっ!」」


 ロジャーとミラ姉が大きな声を出した。


「びっくりした!」


「レイ、後で、渡さないといけないものがある。また、忘れちまいそうだから、この後時間を作ってくれ。アンディーも一緒に。ずーっと忘れていた。すまない。」


 何故か分からないが、ロジャーが深々と頭を下げて謝って来た。


「「ああ。分かった。」」


 僕とアンディーは同時に返事をしたがロジャーが


「アンディーに謝ってんじゃねえ!」って切れていた。


 アンディーはただきょとんとしていた。アンディーは穏やかなお兄ちゃんだからね。その位じゃ怒らない。


 それから、すぐにシエンナに案内されて、新しい狩場を見に行った。確かに広さは十分なようだった。でも、シエンナが言っていたように足場がかなり悪い。


 前の狩場からかなり奥に入って来たが、ロックリザードがあんまりいない。広い新しい狩場予定地に10体もいないのではないだろうか。その広い場所からさらに手前の今までの狩り場にロックリザードを追い込むのは、かなり難しいだろう。


「この奥の方には、まだ、かなりの数のロックリザードが居るのか?」


「いますね。この先に2番目に大きな餌場があるんです。1番大きな餌場から追い出された、中くらいの大きさのロックリザードがウヨウヨいます。私たちの狩場は、更にその奥の一番大きな餌場です。そこには、生きが良い大型や素早いロックリザードが沢山いますよ。」


「ここ2日の勢いで狩っても、もうしばらくかかりそうなくらいたくさんいるのか?」


「そう。第2の餌場だけでも5000以上いるかもしれないな。ぱっと見だから正確じゃないぞ。それに、入り口側のロックリザードよりも大型になるから1体狩るのに時間がかかるようになると思う。そういう意味では、今までの数倍の日数をかけても狩り尽くすことができるかどうかあやしいな。」


「しかし、この石切り場をロックリザードから解放するためには、狩り尽くさないといけない。今までよりも危険度は、増すが、狩場ポイントはこちらに移動しよう。アンデフィーデッド・ビレジャーの諸君には、冒険者の安全の確保をお願いしたいのだが…、君らに、そんな義務はないことは十分わかっている。それでも、お願いしたい。今の君らは、フォレストメロウで一番の実力を持っていると思っているからな。頼む。死亡事故なく、この王宮からの依頼を達成したいのだ。」


「私たちができる範囲でよければ、その依頼うけよう。ギルド依頼と考えて良いのだな。」


「そうだ。ギルド依頼だ。ただし、半ボランティアになってしまうが、ギルドポイントはできるだけ大量に与えるぞ。俺の権限が許す限りな。」


「ギルドポイント、期待しておく。私たちの力の限り、死亡者や大怪我を負うものがが出ないようにする。」


「では、依頼文の確認と契約は、後ほど出張所で行う。今から、拠点に戻って狩場の移動を周知するぞ。」


僕たちは、ギルマスと一緒に拠点に戻った。今日から狩場を変更だ。




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