第136話 皇帝陛下とゴーレム車
帝都に着いた僕たちは、他の護衛騎士たちと一緒に待機部屋でくつろいでいた。謁見の間に行っているのは、ティモシー様とクーパー様、それに、献上品のゴーレムバイクを持ったルナ様とアイヴィー様だ。二人は、謁見会場に入っているわけではない。
「アンディ―殿、レイ殿、此度は、済まなかった。本来なら、我々が急ぎ王都に戻って、献上の品を運ばねばならなかったのだ。それでなくても、王都から騎士が、運べばよかったのだが、クーパー様にごり押しされてな。」
「そうなのだ。王都から来るにしても我々が向かうにしても、確かに失敗の可能性があるからなのだが…。マウンテンバイクを持っている今なら、失敗の可能性など1割もないはずなのだ。それに、日数も以前のように一カ月もかかるわけではなく往復しても、1週間弱、王都から片道だと4日もかからないのだぞ。」
「確かに、お主らに依頼すれば、我々のように何日もかけず、献上品を届けることができる。それにしても頼りすぎではないかと思ってしまうのだ。」
ウィル様は、本当に済まなさそうに声をかけて来てくれた。他の騎士たちは、申し訳なさ半分と自分たちへの信頼のなさへの不満半分のようだ。
そんな話をしてると、クーパー様が控室にやって来た。謁見中のはずなんだけど、どうしたのだろう。
「レイ殿、アンディ―殿、皇帝がどうしてもお主らを呼ぶようにと仰るのだ。此度の献上品を早急に届けたことに対して褒美を取らせたいとな。着いて来てくれるか。」
「しかし、私たちは、配送係と装飾の職人でございます。高貴なお方にお会いできるほどの者ではございません。(という設定のはずです。)」
「ティモシー様も私もそう申し上げたのだ。しかし、皇帝陛下はお聞き入れなさらん。身分などかまわん。よき働きをしたものに褒美を与えぬことこそ帝国の名折れだと仰るのだ。済まぬ。一緒に来てくれ。」
僕とアンディーは、クーパー様に連れられて謁見の間へ入って行った。首に縄を付けられて市場に売られていくような気分だ。作法なんて教えてもらっていないぞ。とにかく頭を下げて顔を見ないようにしておこう。
「お主らが、今回の検事用品をわざわざウッドグレン王国から運んでくれたものたちか。」
「はい。 左様でございます。」
アンディーが答えてくれた。
「うむ。
「はい。」
「顔を上げて皇帝陛下にお目通りしていただくのだ。」
クーパー様が小さな声で教えてくれた。
僕たちは、二人そろって顔を上げた。
「おおっ。まだ、年端も行かぬ少年ではないか。もう少し年を取っていると思っていたぞ。」
何て答えたらいいんだ。どう答えようもなく黙っていると
「ヌハハハッ。すまぬ、すまぬ。お主ら、帝国に仕官せぬか?今すぐ雇ってやるぞ。わずか半日で、ウッドグレン王国からこの帝都まで移動できるとは、いかなるスキルを持っているのか。しかも二人で移動してくるとはな。王国では、どのような者の元で働いておるのじゃ?帝国に来れば、今の地位よりも高い地位で雇い入れるぞ。仕官してまいれ。」
「皇帝陛下。お恐れながら、この者たちは、私共の王室ともゆかりのある冒険者でございます。ウッドグレン王国に家族もおりますゆえ、ここで仕官をさせようとするのはご遠慮ください。」
ティモシー様が、なんとかとりなしてくれた。
「うむ…。まあ、今回は、初目通りの場であるからな。無理強いはせんでおこう。しかし、冒険者であるなら、依頼は、受けるのであろう?皇室からの依頼であれば、受けてくれるかな。お主らの名は、何と言う?」
「アンディーと申します。私たちのパーティーは、アンデフィーデッド・ビレジャーと名乗っております。」
「レイと申します。」
「アンディーとレイか。以後、宜しく頼むぞ。お主らに依頼をしたいときは、誰を通せばよいのだ?帝国の冒険者ギルドか?」
「いえ、ウッドグレン王国の冒険者ギルドなければ、連絡は付かないかと存じます。」
「そうか。まあ、良い。では、私用の乗り物とやらも見せてくれぬか。ゴーレムバイクが良かったのだが、宰相の奴が許してくれぬのじゃ。馬に乗ることはあるのにな。」
「11台のゴーレムバイクが献上されれば、皇帝陛下もお乗りになれたのですよ。3台では、警護が薄すぎてとてもお乗せ頂けません。」
横から口をはさんできた方が宰相閣下なのだろう。最初行っていた11台ってそう言うことだったのか…。じゃあ、買ってくれればよかったのに。
「お恐れながら宰相閣下、発言を許していただければ、解決策を進言することができると存じます。」
と、言ってしまった。余計なことだ。言わなければよかった。
ティモシー様も変な顔している。クーパー様なんてドヨンとした顔になった。アンディーさえ驚いている。言った僕も驚いているけど。
「ほほう。私が、ゴーレムバイクに乗ることができる策があると?良い。言ってみろ。その進言とやらを聞かせてみよ。」
「ゴーレムバイクは、ウッドグレン王国で販売しておりますので、購入されてはどうかと思いまして、それを進言しようと思ったのですが、ティモシー様が怖い顔をしているので取り消します。申し訳ありませんでした。」
「ほうほう、ゴーレムバイクは、ウッドグレン王国で販売しておるのか。それは良いことを聞いた。ティモシー殿、それは間違いないのだな。」
「はい。数は、多くありませんが、ウッドグレン王国で販売されております。その輸出については、後ほど、こちらの財務と外交担当の者と詰めたいと存じます。その流れで、宜しいでしょうか。」
「勿論、是非進めてくれ。レイとやら、良い情報を教えてくれた。礼を言うぞ。報酬も期待しておれ。ヌアハハハ…。今日は、良いことが沢山ある気がするぞ。もう一つの献上品とやらを見せてくれぬか。このまま、見に行こうではないか。」
「皇帝陛下、まだ、安全確認が済んでおりませぬ。それが、済むまでお待ちください。」
「ウッドグレンの者たちが私に害をなそうとすると思うのか?バカバカしい。この者らは良き友人じゃ。心配せずともよい。なあ、ティモシー殿、クーパー殿。」
「「はい。仰せの通りでございます。」」
「なっ、クラン、言った通りであろう。では、参ろうか。」
僕たちも一緒に皇宮の中庭に連れてこられた。そこには、2階建てゴーレム車が止めてあり、横にはブランドンさんが直立不動の姿勢で立っていた。
「ほほう。これが、ウッドグレン王国からの私への献上品か。奇妙な魔道具だな。」
「2階建てのゴーレム車でございます。魔力登録をしていただければ、指示しただけで、乗り込んだものをお連れすることができます。勿論、ハンドルを使って運転することも可能になっております。」
「うむ。この色は、元々なのか?白は、わが国では、献上品の色。贈り物の色となっておる。この魔道具は、もともと献上品として作られたのか?」
「左様でございます。皇帝陛下への献上品として準備させていただきました。」
クーパー様、それってとってもまずい返事ではないでしょか…。確かにそうですが、それって決まったの昨日ですよね。馬鹿正直に言っちゃっていいんですか?
「うむ。そうか。それは、大層手間をかけたな。それでは、この魔道具の使い方をもう少し詳しく教えてくれぬか?」
「ブラントン、皇帝陛下にご説明いたせ。」
「はっ。僭越ながら、ご説明させていただきます。その前に、このゴーレム車の力を十分に引き出すためには、魔力登録が必要になるのですが、どなたの魔力登録をなさいますか?」
「何人の魔力登録が可能なのだ?複数人数登録しても大丈夫なのか?」
「はい。大丈夫でございます。ただし、第一登録者の許可がなければ、それ以下の者魔力登録はできないようになっております。」
「うぬ。では、私を第一登録者にするのが良かろうな。しかし、この後全員の登録をいちいち許可しないといけないのか?」
「第二登録者に登録許可権限を与えれば、大丈夫かと存じます。」
「わかった。では、私が第一登録者だ。第2登録者をクランにしておこう。クラン、運転手の手配も頼むぞ」
ブラントンさんは魔力登録の仕方を伝え、運転操作の方法も伝えた。
「では、初乗りをしてみようかの。」
「陛下、この後、財務・軍務各大臣との会議が予定されております。それに、ティモシー殿とクーパー殿は、引き続き経済面の打ち合わせがございますので、初乗りは後日ということにできませんか。」
「大臣どもと秘書官合わせても4人にもなるまい。このゴーレム車は、全員で一階に8人と護衛2人。2階に6人が乗れるのだぞ。この魔道具の中で会議ができる出ないか。2階と1階に分かれてな。そうだな…。行きは、私が運転するから、クランと財務担当、外交担当とティモシー殿、クーパー殿が2階で会議を行え、秘書官は、一名つけておけば良いだろう。一階に、軍務担当とその秘書官、警護兼運転手2名。おい、魔道具担当騎士、あと何人乗れる?」
「はっ、後、5名かと存じます。」
ブラントンさん凄い。即座に答えられるんだ。
「では、2名が警護担当だな。レイとアンディーだったかな。お前たちも乗れ。それから、魔道具担当騎士もだ。運転のレクチャーをしてもらわないといけないからな。すぐに準備にかかれ。車の外からの警護にゴーレムバイクに乗って4名。ウッドグレン王国の騎士も護衛に付くのだろう。」
「はい。許可していただければ。ゴーレムバイクで4名。」
「うむ。許可しよう。では、直ちに準備にかかれ。初乗りの出発時間は、今より、20分後、帝都の大時計で1時だ。」
僕たちは、準備するものなど何もないので、控室で休憩中だ。
「午前中で帰れるはずだったのに、まだ帰れそうにないね。」
「ボムを2000個作っておいてよかった。」
「しかし、なんで俺たちまでついて行かないといけないんだ?しかも、皇帝陛下の運転する車に乗ってだなんて…。何の罰ゲームなんだよ。」
「レイ、さっきみたいに余計なこと言うんじゃないぞ。いいな。」
「わかった。反省してる。」
すぐに時間は過ぎ、僕たちは、車上の人となった。アンディーと二人、皇帝陛下からは、少し離れた、一番後ろの席に座らされた。皇帝陛下は、ハンドルを握ってご機嫌である。
僕たちの前には、軍務担当大臣と秘書官。その前がドア側に警護の騎士。真ん中がブラントンさん。運転席を挟んで運転担当兼務の護衛騎士さんが座っている。護衛騎士さんの席は、少し低くなっていて運転手の視界を邪魔しないようになっている。まあ、運転手の席が他の席よりも少し高くなっているから、両サイドの席は、とっても低く感じる。クッションも悪そうだ。
軍務担当大臣と秘書官は、ゴーレム車のスピードにかなりビビっている。生まれて初めてのスピードだろうから無理もない。二人とも無口だ。ブランドンさんは、最初こそ運転操作のレンちゃーに忙しかったが、皇帝陛下が運転に慣れてしまえば話すことは無い。誰もしゃべらなくなった頃皇帝陛下が口を開いた。
「レイとアンディーだったな。お主ら、これくらいのスピードでは、怖くもなんともないようだな。」
「ゴーレム車、このスピードを維持して、30キロ先の湖まで行ってくれ。」
皇帝は、握っていたハンドルを離し、僕たちの方を見てきた。ブランドンさんは、ハンドルを話したことに少し驚いて、目を見開いている。両端の警護騎士は大慌てで立ち上がろうとした。
「やはり、慌てぬか。お主ら、この車のことも熟知しておるな。」
「答えたくないのか?まあ、良い。もう一つ聞くがな。お主ら、遠く離れていても連絡ができる魔道具を持っておるであろう。その魔道具、私にも譲ってくれぬか?できれば、お前たちの国王とじっくり話してみたくてな。それ以上に、お主らに仕事を依頼できるようにしておきたいのだが、聞き入れてくれぬか?」
「ティモシー様とクーパー様にご相談ください。」
僕が答えると。
「ということは、やはり、遠距離通信の為の魔道具を持っているということだな。ありがとう。正直に答えてくれて。」
「…。」
「これから、長く付き合っていきたと思っているからな。宜しく頼むぞ。フッ、フワハハハッ。」
ゴーレム車のかなに皇帝の笑い声が響いた。
それから、1時間後僕たちは、皇宮に戻って来た。帰りは、皇帝が2階席に上がったから少しは安心していられたけど、黙ったまま、椅子に座っているだけだった。
皇宮から出た僕たちは、すぐにゴーレムバイクを出して、今朝、ドローンを着陸させた場所までもどった。あたりの気配を探り、誰もいないことを確認してドローンに乗り込んだ。こんな怖い場所はなるべく早く脱出するに限る。
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