第132話 デモンストレーションと討伐開始
今日から、ロックリザードの討伐が開始される。僕たちは、朝から
食堂は、仕込みに忙しい。夕食から本格的に食事を提供することになるのだろうけど、酒場兼用の食堂なので、初日はどの位の料理を準備しておかないといけないのか予測が立たないのだ。数日たてばある程度落ち着くのだろうけど、ここ数日をどう乗り切るかスタッフは戦々恐々である。
冒険者ギルドの出張所は、比較的落ち着いている。素材の取り出しは、ロックバレーの中で僕が行い、冒険者に渡すか、手数料に銀貨1枚を受け取って引換券を渡し、それをまとめて出張所に渡すことになっている。初仕事は、町からバスでやってくる冒険者の登録確認と宿泊案内である。
手持ちのない冒険者もいるかもしれないため、ここでしっかりと身元を見定めないと治安が悪くなる可能性がある。強盗まがいのことをする冒険者が居たら大変だ。明日から命を預けあう仲間になるのだから、信頼できる人たちだけにして欲しい。
手持ちがなくても、信頼できるようであれば、宿泊料は、依頼料をもらった後で良いことにしてもらった。拠点の外で野宿なんかして事故にあってもらっては魔物を呼び寄せることになるからだ。
とにかく、安全第一。死亡事故0の討伐依頼を目指すのだ。
12時になった。後、10分ほどで第一陣が到着するはずだ。第一便には、定員の40人きっかりの冒険者が乗って来た。拠点の前で全員を降ろし、バスはすぐにフォレストメロウの町に向かって走って行った。更に20分後にも40人。更に20分後に40人。あっと言う間に予定人数の200人を超えた。
この調子だと、宿泊場所としてコテージを何十棟か増やしておかないといけないようだ。コテージは、男性用と女性用にして、中で雑魚寝をしてもらう。利用料金は、1泊銅貨1枚にする。清掃などの担当は、宿のスタッフにお願いした。ごめんなさい。
ベッドや小部屋がある宿の宿泊料金は、1泊銅貨3枚に設定していたから、コテージには、手持ちの少ない初級ランクの冒険者が泊るようだ。初級ランクの冒険者にとって金貨1枚の討伐報酬は大金だ。無理をしてけがをしないようにして欲しい。
初日の昼だけで、冒険者が232人も集まってしまった。しばらくの間、宿泊場所の確保や荷物の整理でごたごたしていたが、冒険者の動きが収まったのを見計らって、ギルド出張所の前に集合してもらった。初日ということで、ギルマスもこの拠点に来てくれている。
まずは、ギルマスの挨拶だ。
「諸君、今回は、我々、フォレストメロウと王国の依頼の為集まってくれたこと感謝している。諸君も知っての通り、今回の討伐対象のロックリザードは、防御力が高く、危険な魔物だ。しかも、その危険な魔物が、ここロックバレーでは1万頭以上の群れになっている。」
ざわざわとしたささやきが広がっている。
「そんなこと聞いていなかったぞ」
「そんな大群、この人数じゃあ、倒しきれるはずないだろう。」
不安と不満の声が広がろうとしていた。
「静まれ!心配は無理がないことだ。心配するなとは言わない。いや、むしろ心配しないといけない。しかし、我々は、無理な依頼をしたわけではない。ここに、ここ一週間で1000体以上のロックリザードを討伐したパーティーがいる。彼らのレクチャーを受け、討伐方法を実践すれば、必ず倒すことができる。そして、自分たちの命を守ってロックリザードを討伐する方法は、フォレストメロウで契約する時とここで契約確認する時にも、徹底的に知らせているはずだ。」
ギルマスのスピーチの直後にも漏れてくる声…、
「そんなこと聞いたっけ?」
「俺は聞いたけど、討伐ポイントとか良く分からなかった。」
など、また、ざわざわとした話し声が広がっていく。
「聞くのだ!この後、そのパーティー、アンデフィーデッド・ビレジャーの諸君に討伐のデモンストレーションとレクチャーを示してもらう。そして、この方法を後に訪れる冒険者たちにも確実に伝えるようにするのだ。今回の依頼では、死亡者を出さない。その為に、徹底するのだ。いいな。」
「話だけじゃあ信用できないよな。」
ロジャーが、小さな声で話しかけてきた。
「そうだね。じゃあ、討伐方法を見せに行こうか。」
「ギルマス、今からデモンストレーションに行きましょう。全員、ロックバレー入り口に移動させてください。僕たちについてくるように指示お願いできますか?」
「分かった。」
「オホンッ!今から、討伐のデモンストレーションと討伐方法のレクチャーを行う。全員、アンデフィーデッド・ビレジャーに続くのだ。」
僕たちは、232名の冒険者を引き連れてロックバレーに入って行った。僕たちの隣には、ケインとエミリー、ギルマスもいる。
「まず、冷却魔術を使った討伐の仕方をお見せします。」
「ミラ姉とロジャーでやってくれる?」
「勿論よ。最初だから、頭を落としましょうか。ロジャー、投げ斧で頭を落として。」
「了解。」
ここ数日、ロックバレーには入ってなかったから、餌場を追われた小さなロックリザードが何匹か入り口近くにうろついていた。ミラ姉はその中の一番小さいロックリザードを狙ってアイスジャベリンを放った。アイスジャベリンが頭部に命中するとロックリザードはほとんど動かなくなった。
「ご覧のように、ロックリザードは頭を急激に冷やすと、極端に動きが悪くなります。しかし、このままでは、防御力は高いままです。かなりの火力でも、その硬い表皮ではじいてしまいます。」
「ロジャー、小型の投げ斧で攻撃してみて。」
「了解。」
ロジャーが、投げ斧を首めがけて投擲したが、少し傷をつけただけではじかれてしまった。
「ご覧になりましたか?頭を急激に冷やしているので、動きが悪くなって投擲武器なども当てやすくなっています。しかし、このままでは、防御力が高くなかなか討伐できません。」
「ミラ姉、仕上げお願い。」
「了解よ。」
ミラ姉が、ロックリザードの首にアイスジャベリンを放った。見た目には何も変化がない。
「ロジャー、同じ武器を使って頭落とせる?何発か使って良いからさ。」
「大斧なら一発なんだけどな。まあ、いいわ。小型の投げ斧で落としてみる。」
ロジャーは、小型の投げ斧2発で頭を落としてしまった。
「攻撃個所を冷却することで、防御力を大幅に下げることができます。」
「それならそうと事前に言ってもらっておけば、俺たちは参加しなかったぞ。俺たちのパーティーは冷却魔術を持っていない。そんなパーティーは討伐なんて不可能なんじゃないか!」
「少々お待ちください。ケイン、リキロゲンボムを出してくれ。2個な。」
「ロジャー、アンディー、二人で、リキロゲンボールを使った討伐を目せてあげて。アンディーがボールの投擲で良い?でも、普通に投げてよ。ショットを使わずだよ。」
アンディーはニヤリと笑って、
「了解。」
とだけ言った。
近くにいる少し大きめのロックリザードを標的にしたようだ。身体強化でスピードを上げ、ロックリザード直前でジャンプするとリキロゲンボムを頭にぶつけた。凍傷防止用の手袋も付けているからかなり近づいて外さないように慎重に投擲していた。
頭を急激に冷やされたロックリザードは動きを止めた。周りに気を配りながら、ロックリザードに近づき、首筋にボムを投擲。投擲個所をめがけて、ロジャーが、小型の投げ斧を2度投擲し、首を落とした。
「ご覧になったように、今回の討伐の為、魔道具を開発しております。この魔道具を、4個で銀貨1枚で販売いたします。投擲技術が上達すれば、2発で1体のロックリザードを討伐できるようになるはずですから、冷却魔術をお持ちでないパーティーも今回の依頼を受けていただく価値が十分にあると思いますが如何でしょか?」
「すまないが、我々のパーティーは、銀貨1枚の手持ちもなければ、冷却魔術も持っていない。最初の一体を倒すまで、何とか、援助をお願いできないだろうか?」
「そのようなパーティーもあると思い、1パーティーに付き4個だけに限り、ボムの前渡しを行います。契約書を持って、道具屋で手続きをお願いします。」
ギルマスが小声で話しかけてきた。
「お前たち以外のパーティーに討伐させてみてくれないか。冷却魔術持ちと、そのリキロゲンボムを使った討伐をやらせてみたいのだが…。いいか?」
「大丈夫ですよ。やってもらいましょう。ギルマスが指名してくれますか?」
「うむ。白銀の豹(パンサー)はいるな!」
「「「「おおーっ!」」」」
「Bランクパーティーの白銀の豹だ。お前たち、討伐方法は、理解したか?」
「おう、任せとけ。フォーメーションもばっちりだぜ。」
「じゃあ、ロックリザードの討伐を見せてくれるか。」
「シエンナ、ガーディーとソーディーを出して、他のロックリザードの牽制をお願いして良いかな。」
「分かりました。」
白銀の豹が石切り場の方に降りて行くのと同時にシエンナは、ガーディーとソーディーを出して、白銀の豹が狙っている1体以外がパーティーに近づけないように牽制してくれた。
白銀の豹の攻撃が始まった。ブリザードの魔術がロックリザードを襲う。ロックリザードの体全体にブリザードの冷気が当たり、動きは遅くなってきた。しかし、冷却の仕方から足りないのか完全に止まりはしない。
大剣で首を落とそうと攻撃を仕掛けるが、浅い傷しか負わせることができない。度重なる攻撃で、首の辺りだけでなく体の方にもたくさんの傷がついてきた。
「リキロゲンボムを首に投擲して、そこを攻撃してみて下さい。」
僕が、白銀の豹さんにアドバイスを送ると、パーティーメンバーの一人がボムを取りに来た。ボムを1個渡すと、ロックリザードの方に駆け戻り、首にボムをぶつけた。ブリザードで冷えている上に更に冷やされたロックリザードの首は白い氷を表面に貼り付けている。
『スコッ』
次の瞬間、軽い音をさせ、大剣が首を切り落とした。
「次は、リキロゲンボムを4個持って討伐に挑戦していただきたいのですが…、身体強化と大き目の武器を持っているパーティーならどなたでも大丈夫だと思います。」
そう、ギルマスに相談してみた。
「うむ。次は、希望者を募ろう。リキロゲンボムを4個渡す。身体強化を持っているパーティーで挑戦したい者はいないか?」
「私たちが挑戦したいのだが、今、大剣が折れているのだ。今回の討伐依頼で稼いだ金で修理しようと思ってたのでな…。大剣がないと討伐は無理か?」
女性冒険者さんが尋ねてきた。
「あの…、その大剣って今お持ちですか?」
「ああ、持っているぞ。大切な相棒だからな。」
背中にしょったリュックの中から大切そうに布にくるまれた大剣を出した。
「ちょっと、お預かりしますね。」
僕は、アイテムボックスの中に収納しリペアした。
「はい、どうぞ。挑戦してみて下さい。ケイン、ボムを4個渡して。凍傷防止の手袋も4人分ね。」
ぽかんと口を開けたままの女性冒険者に大剣を渡しながら、ケインにお願いした。
ケインは、マジックバッグの中らボムを4個と手袋を4人分渡した。
「かっか…、かたじけない。しゅ、修理代はいかほど…、」
「そうですね。では、銀貨1枚ほど頂いておきましょうか。後ほどで良いですよ。一体討伐すれば、金貨1枚もらえますからね。」
このパーティーは、ボムを頭にしっかりと命中させるのにボムを3発、要した。動きを止めた後、慎重に首にボムを命中させ、無事に討伐を完了した。
「たっ大剣の切れ味が…、すごいことになってる。」
女性冒険者は、愕然と大剣を見つめていた。
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