第115話 多足ゴーレム戦車

「とにかく、ゴブリンがこっちに来ないように壁を作るわよ。私たちでゴブリンを押し込むから、あの狭くなったところにできるだけ頑丈に壁を作って、天井までしっかり積み上げておいてよ。それから、私たちが出るための通路の確保は、お願いよ。」


「でも、ガーディーたちが抜けることができる通路となるとかなり大きなものになるよ。」


「何言ってんの。ガーディーたちは、シエンナが収納して出るのよ。私たち二人がぎりぎり抜けることができれば大丈夫。できるだけ急いて作ってね。ロジャーたちが合流するまでに準備を整えておきたいの。」


「わかった。できるだけ急ぐよ。」


「シエンナ。行くわよ。」


「はい。」


 二人が、2体のゴーレムを連れて角を曲がると直ぐに戦闘音が聞こえてきた。シエンナの盾の陰からミラ姉がアイスジャベリンを撃ちまくっているようだ。ガーディーとソーディーがゴブリンを打ち払う音も聞こえた。


 戦闘音が少し奥に離れた後、僕は、角の狭くなったところにロックブロックを積み始めた。壁と壁の間に10個ブロックを並べると一杯になった。高さは6個分。上に行くほど狭くなっているから51個のロックブロックで埋めることができた。


 まず、ブロックを積み上げて行った。なるべく継ぎ目が同じ場所にならないように調節しながら積み上げた。厚みは3個分とるブロックとダンジョンの壁の間には粘土を詰めて隙間をなくした。


 出来上がった後に、右端のブロックを6個収納して通路にした。


「ミラ姉!シエンナ!できたよ。戻って。」


「レイ!こっちに来て。」


 ミラ姉が、僕を呼んだ。僕は、狭い通路を這ってミラ姉たちの方に移動した。僕が移動しないといけないんならもう少し大きな通路にしておくんだった。


「どうしたの?」


「思ったより、奥のゴブリンの数が多かったわ。既に集落の状態になっていた。木材はどこから持ってきたのか…。ディーコムさんたちの目を盗んで持ってきたにしては、規模が大きすぎたわ。どこかに外に抜ける道ができているのかもしれない。あるいは、下の層から持ってきているのか…。」


「でも、ダンジョンの魔物って階層移動しないんじゃないの?」


「絶対ってわけじゃないわ。それに、スタンピードの時は、全階層から魔物は外にあふれ出してくるわよ。」


「でも、出口が他にできているにしては、ダンジョン内のゴブリンの数が多すぎませんか?」


「それは、そうね。森のゴブリンが増えている様子もなかったし…。ということは、下につながる通路がこの奥にあるのかもしれないわね。ゴブリンが自由に行き来できる通路のようなものが。」


 話している間にも、ソーディーとガーディーの間からミラ姉は、アイスジャベリンを撃っているし、シエンナは、飛んできた岩や矢を盾で防いでいた。器用だ。


「それで、僕に用事って何なの。なんかとっても物騒な場所なんだけど、ここ。」


「ここから、50mくらい奥に、その集落があるのね。その手前に攻撃拠点の塹壕を作りたいんだけど難しい?」


 壁のこちら側は、急に広くなりながらなだらかに曲がって奥の方につながっていた。


 アンディーなら土魔術で一瞬で壁を作れるんだろうけど、僕の場合地面を均してその上にロックブロックを積んでいかないといけない。そんな事してたら格好の的になってしまう。


「どのくらいの大きさの拠点が必要なの?」


「私たち全員の身を守ることができなければいけないから幅5m位は必要よね。」


「ここに一旦防御壁を作るから時間を稼いでくれる?」


「了解。何か思いついたの?」


「うん。壁の向こうで作ってくる。ここじゃ危なくてしっかり作ることができないから。」


 僕は、通路をふさいだ壁の通り道の前から高さ2m程の塀を通路の真ん中くらいまで積み上げた。壁の厚みを1.5mにして、階段状に足場を作っておいた。


 壁の上に弾避けと攻撃用に透明フードも付けた。透明だが、強化ガラスよりも金属に近い素材のようだ。レイが精錬で作った特殊素材らしい。ミラ姉とシエンナ用に2か所設置した。


 シエンナなら、そこからソーディーとガーディーに指示を出し、ゴブリンたちを寄せ付けないようにしてくれるはずだ。


 ここまで、準備して抜け道から外に出た。多足類の動き方を参考にして石の足で金属の箱を胴体にしたゴーレムをイメージする。


 全面と側面には金属の窓枠にはめられた透明金属で、透明金属の左右に開け閉めできる小さな金属扉を設置し、攻撃魔術を敵に向けて放つことができるようにしておく。後方にも小さな透明金属窓と攻撃用扉を付けた。


 ゴーレム素材のハンドルで方向を指定できるようにして、ゴーレムバイクのハンドルと同じように全方向の障害物を感知できるようにしておく。


 天井には、5mmの鉄板を貼り、その上に50mm発砲アルミニウム、更にそれを厚さ2mmのミスリルでコーティングした。天井との行き来は、同じ素材で作ったハッチを開け締めしてできるようにした。


 天井は、ロジャーとアンディーの為のステージだ。多分大暴れしてくれるだろう。


 操縦席と戦闘員の椅子は、床に固定し、シートベルトも付けた。攻撃魔術の発射席はスライド式に多少移動できるようにしておいた。


 座席設置やハンドルの調整など細かい作業になった頃アンディーたちが合流してくれた。アンディーには、いつの設置や天井のハッチと梯子の設置と調整など細かいことをやってもらって30分くらいで多足ゴーレム戦車が完成した。


 入り口は後方で、ゴーレムに指示すると扉が開いて、金属梯子を下ろすことができるように設置した。


 完成したゴーレム戦車を収納して3人で中に入った。ゴブリンたちは壁からかなり離れた場所に撤退していて、攻撃は収まっていた。ミラ姉たちは、ゴブリンににらみを効かせつつ休憩中だ。


「私たち頑張ったわよ。見て、そこら中に小さな魔石が散らばっているでしょう。あれが、私たちの頑張りの成果よ。」


 言われた方を見ると、数えきれないほどの小さな魔石が転がっていた。凄い!シエンナとミラ姉。


「ご苦労様。じゃあ、僕たちの頑張りを見て。」


 僕は、防御壁の横に多足ゴーレム戦車を出した。


「何それ!」


 左右に10本ずつの足を持つゴーレム戦車。


「多足ゴーレム戦車だよ。さあ、乗り込むよ。説明は、中でするから。操縦はシエンナにお願いしようと思うけど大丈夫だよね。」


 試運転無しのぶっつけ本番だ。シエンナなら大丈夫だと思うけど、実際に動かしてみるまで少し不安だ。


「扉を開けて、梯子を下ろしてくれ。」


 指示通りに扉が開き、金属の梯子が下りてきた。ゴーレム戦車は、足を畳んで梯子がきちんと地面に着くように調整してくれた。僕たちは、梯子を上って戦車の中に乗り込んだ。


「梯子を収納して扉を閉めてくれ。」


 戦車の幅は、5mほど長さは10mくらいはある。乗り込んだ状態で地上から天井上までの高さは3m程になる。


「操縦は、シエンナお願い。ハンドルから魔力登録ができるから使役し状態にして欲しい。」


「分かりました。」


 シエンナは、直ぐに魔力登録を行い。戦車を使役状態にした。これで感覚共有ができるようになる。敵の状況も車体の状況もそれこそ手に取るようにわかるはずだ。


「シエンナ、ゴブリン集落の方に移動してみて。」


「はい。移動開始します。」


 節足動物、多足類の動きをまねただけあって、車体の揺れはほとんどない。すべるように移動していく。


「右から前方から、ゴブリンの群れが近づいてきます。」


 全員、右側の窓の方に移動した。僕は、小さな金属扉を開けて、窓に手をかざした。


「ロックバレット、ロックバレット、ロックバレット、ロックバレット、ロックバレット、ロックバレット、ロックバレット…。」


 ロックバレットを連射して近づいてくるゴブリンたちを殲滅した。


「アンディ―、木の杭を沢山渡したら、ウェポンバレットでゴブリン集落に打ち込めない?」


「どのくらいの大きさの杭なんだ?」


「2~3mで太さは10~30cmかな。アイテムボックスの中に何でかたくさん入ってる。」


「ああっ、フォレポイ村の砦の計画場所に仮塀として撃ち込んだ杭のあまりか…。それなら、俺の収納には30本が限界かな…。アイテムバッグを使っても100本は入らないと思う。」


「ロジャーは?」


「俺のストレージにはいくらでも入れられるぞ。」


「じゃあ、ロジャーが、アンディーのアイテムバッグの中にドンドン補充していって、アンディーが打ち込む。それならできる?」


「そんなことやったことないけど、できるかもしれないね。」


「じゃあ、ロジャー、ストレージの入り口を開いて。」


「開くって、どうやって?」


「え?カパッて。」


 僕は、バッグの口を開けるしぐさで教えてあげた。


「できるか!そんなこと。俺は、触って移動させることしかできないの。」


「触れば良いの?何本くらい一緒にできる?」


「さあ?10位かな…。」


「じゃあ、手をここに。そこに出すから10本ずつね。行くよ。」


「うぁー!」


 ロジャーの手を10本の杭が押し上げる。ロジャーは必至で収納し、僕は、次々に杭を送りし出した。あっと言う間に1000本の杭を収納してもらうと、二人は、ハッチのを開けて天井に登って行った。


 アンディーに杭を打ち込んでもらっている間、僕は、オキシゲンカッターを集落に打ち込んでいった。


「撃ち込み終わったぞ。」


 アンディーの声だ。


「降りて来て~。」


「シエンナ、天井に登ってソーディーとガーディーを収納してきてくれる?」


「はい?」


「今から、ゴブリン集落に焼き討ちをかけるから。」


「そ…そんなことしたら、私たちも丸焦げになって死んじゃうわよ。」


「ミラ姉だって焼き討ち仕掛けるつもりだったんでしょう?」


「うっ…。」


 返事に詰まるミラ姉。


「言ってたじゃない、こんなダンジョンじゃ絶対やらないことだって。」

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