第113話 深夜のファミレス

 目を開けると、ベッドの側に、男の人と女の人が立っていた。お父さんとお姉さん?玲に兄姉きょうだいがいたって聞いていないけど…。お父さんとお母さんなのか?


「おはよう?こんばんはかな?」姉さん?が話しかけてきてくれた?


 窓の外は、まだ暗闇に包まれていた。


「今、何時ですか?」


「午前3時よ。流石に、私たちも眠いわ。玲は、眠くないの?」


「体は、目をつぶってしまいそうで、今にも寝てしまいそうなんですけど、気持ち的には、全然眠くないです。なんか変な気持ちです。」


「何はともあれ、異世界の玲、いらっしゃい。初めまして。お母さんの春奈よ。」

「お父さんの勇気だよ。」


「お母さん? と、お父さん。」


「なんで、母さんだけ疑問形なの!」


「いや…、あの。姉ちゃんか、どっちかなと思いまして。」


「合格!その答えは、100点ね。勇樹さん、今の玲の答え、これが正解よ。見習いなさい。」


「はいはい。単に、玲の化粧品のおかげで若く見えるだけだと思うけどね。俺だって、姉ちゃんかと思ったって言うと思うぞ。」


「あのね。勇樹さん、単になんていう副詞を使うから、減点されるのよ。若いお母さんでびっくりしてるんだから…、お姉さんと思うくらいに…。ね、玲。」


「はいっ!」


 僕は、本能で悟った。この会話に深入りすることは、火傷の危険性があると。だから、なるべく短時間の返事で済ます。本能が伝えてきた答え方だ。


「ところで、転生してきたばかりだけど、眠いか?」


「えっ?さっきまで、お昼だったから…、眠いってことはないです。」


「時差ボケ起こすよね。一瞬で12時間変わるんだからね。早寝したといっても、まだ、6時間も寝ていないはずなんだけど…。」


「ねえ、せっかくだからファミレスにでも行って、何か食べてからひと眠りしない?車で行けば、20分位の所にスカイジョイがあったでしょう。」


「あのファミレス、24時間営業だったっけ?感染症で営業時間短縮しているファミレス多いからな。」


「ちょっと待って、スマホで調べるから。」


「あの…、お父さん…、ファミレスって…、ファミリーレストランって…こんな時間に開いている食堂?。」


 玲の知識で何となく意味は、浮かんでくる。でも、こんな暗い時間、深夜の3時に食堂なんて開いているのだろうか。この町は、そんなに安全で大きな町なのか?町の中に車で20分もかかるような場所があるのだろうか。


「大丈夫。空いてるみたいだから、行きましょう。服は、そのままで大丈夫よ。」


「防具は?何もつけてないみたいだけど…。」


 防具もなしに家の外に出るのって危険じゃないのか…。町中だってからぬ奴もいるはずなんだけど…。


「この世界では、防具なんか付けて町中を歩いていたら、コスプレイヤーか何かと思われちゃうわ。それに、私たち、防具なんて持ってないから…。これは、一般的な人は持っていないってことよ。防具なんて持っている人の方が少数派よ。武道か何かやっている人くらいかな?」


「ブドウ?」


「そんなことは、今は良いわ。出かけましょう。朝になっちゃう。それとも、ファミレス行かないで、もうひと眠りする?」


「いえ、まだ眠くないので 行ってみたいです。」


 僕たちは、お父さんの車に乗ってファミレスに向かった。車に乗るときも少し戸惑った。知識としては、浮かんでくるんだよ。車って言うものと僕がいつもどこに乗っているかって、でも、感覚が追い付かないんだ。


 ドアの開け方だって浮かんでくるんだけど、行動が追い付かない。力の入れ具合や力を入れる向きなんかも、自分の体なんだけど少し違和感があるし、道具の使い方に関しては、方向と力加減があるから…。良かった身体強化の魔術、持ってなくて。使ってたら、すでに何か壊してる自信がある。


 結局、お母さんにドアを開けてもらって、後部座席に乗り込んだ。ドアの所でガチャガチャやってたら察してくれた。なるほど、あんなふうにして開けるんだ。前は、開ける方向も少し違うんだね。


 後部座席のドアは、スライド式って言うやつなんだな。玲の知識が僕に教えてくれた。だから、幾ら引いても押しても開かなかったんだ。


 本当に20分くらいでファミレスに着いた。でも、向こうの世界みたいにスピードは出していない。でも、家から10kmは、離れているそうだ。間に、城壁や門はなかった。ここが一つの町ならどれだけ大きな町なんだろう。


「勇樹、後ろのドア開けてあげて、運転席から開けられるでしょう。」


「ほいな。」


 お父さんが、何か操作すると後ろのドアがひとりでに開いた。凄い魔道具だ。


「玲、あんたどう見ても玲なんだから、そのバカ丁寧な言葉遣いやめなさい。普通に話して。いい、普通に。分かった?」


「分かりま…。分かった。」


「私たちは、母さん、父さん。良い?」


「はい…。うっ、うん。お母さん、お父さん。」


「ま、「お」位、良いか…。」


 お母さんは、合格をくれたようだ。


 ファミレスに入ると、静かな音楽が流れていていた。客は、そう多くなかった。それでも数組のお客がいた。みんな、防具も付けていないし、武器も持っていない。本当に危なくないんだろうか…。


 僕は、サーチで魔物の気配を探ってみた。魔物は…、いない。次は、野生の獣。知らない獣の気配はいくつかあったが、大きな物でも、小型のフォレストウルフ程度だった。これくらいの獣なら、車に乗っていれば襲われることはないだろうし、僕の魔術でも何とか対処できそうだ。


 でも、ここの建物の入り口で侵入を防ぐことができるのだろうか。少々心許ない作りだった気がする。


 そんなこと考えていると、店員がメニューを持ってきてくれた。リアルな挿絵があるから、分かりやすいけど、どれもおいしそうだ。


「玲、あなたは、お腹空いてるじゃない?」


「何でも良いぞ。あんまり、お腹が空いていたら、ひと眠りもできないからな。」


「でも、この時間にあんまり重いもの食べると、かえって眠れなくなるから、軽めのものにしなさい。雑炊なんか良いかもよ。私は、サンドウィッチのセットにするわ。フリードリンクついてるから。」


「フリードリンクって、何で…。何?」


「あそこにあるサーバーから、何杯でも、飲み物をお代わりできるっていうシステム。自分で注ぎに行かないといけないけどね。」


「僕も、そのフリードリンクって飲んでみたいな。雑炊には、フリードリンク付いていないんでしょう?」


「大丈夫。つけられるわよ。」


「僕は、ハンバーガーのセットで行こうかな。」


「玲は、雑炊にフリードリンクを付けて頼むのね。」


「うん。お願いし…。お願い。」


 フリードリンクのジュースを飲んだ。果実ジュースとは違うけどなんか美味しかった。こっそりメニュー化してみた。家で、再現できるかやってみよ。


 ジュースを2種類くらい飲み終わった頃、雑炊がやって来た。熱かった。こんなに熱々で客に出してくれるってすごいと思った。でも少し熱すぎじゃないだろうか。火傷しそうだったよ。


 僕が雑炊を食べ終わった時には、お父さんもお母さんも食べ終わっていて、お茶?を飲んでいた。


「どうだった?」


「う、うん。美味しかった。」


「そう。良かった。じゃあ、帰りましょう。」


 母さんが、スマホを出して料金を払っていた。僕とお父さんは、代金を払い終えるのを待って一緒にファミレスを出た。今度は、ガチャガチャしないで、車に乗った。お母さんにドアの開け方を教えてもらったからね。


 車のかなで、ファミレスの感想を聞かれたけど、ドアが心許ないと話したらあきれられた。解せない。


 家に戻って、朝までひと眠りしなさいと言われた。朝から、色々なところに連れて行ってもらえるそうだ。まずは、動物園って言うところらしい。珍しい獣を飼っているところらしい。なんでわざわざ獣を飼っているのか想像できないけど、この世界の獣を見るのは楽しみだ。


 でも、そんなところに行くのに、防具もなくて大丈夫だろうか?口には出さないけど…。心配しているなんて言ったらまた呆れられる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る