第108話 晩餐会のスープ

 <アメリア視点>


 王宮に呼び出された私たちは、大急ぎの湯あみを済ませて着替えさせられているところだ。正装は、アイテムバッグの中に入っていたのだが、制服以外、王室の前で同じ服装で立つことは不敬になるということらしい。


 私は、客間のドレスルームで、新しい服を着せられようとしていた。冒険者の服は制服ではないのだそうだが、戦いの場の防具は制服扱いだ。ファッションコーディネート係のお姉さんが私の衣装を選んでくれている。勿論、自分で選びたいとは思わない。お姉さんは、服を選びながら理由を言ってくれるんだけど何を言っているのかちんぷんかんぷんだ。


 髪の色が淡い金髪だからドレスの色はとか、今回は、少し大人っぽくするために口紅の色はとか、色々教えてくれるのだけど、良く分からない。でも、日に焼けていたらしい。白粉おしろいを顔だけでなく、首や肩、背中まで塗られた。


 化粧と着替えが終わった私たちは、ゲストルームに案内され、ロジャーとアンディ―と合流した。


「ミラ姉、すごい化粧だな。」


 案の定、ロジャーがからかって来た。と思ったよ。


「大丈夫。きれいだよ。」


 直ぐに、アンディーがフォローしてくれた。


「凄い化粧だけど、似合ってる。きれいだよ。」


 ロジャーも言ってきたけど、遅すぎだ。


「あんたたちもね。似合ってるわ!」


 これ以上、化粧やファッションの話はしないと態度表明。椅子に掛けて、出してもらったお茶と甘いお菓子を食べていると、間もなく、晩餐会の会場に移動するように案内された。


 会場の椅子に掛けるように指示され、音をたてないように気を付けて座った。数分後。


「王室の皆さまがいらっしゃいます。御起立、臣下の礼をお願いします。」


 執事長の指示で、席を立ち、跪いた臣下の礼で王室の皆さんをお迎えする。


 宰相閣下を先頭に、王室の皆さんが会場に入って来た。(見えてないけど、気配がした。)


 宰相閣下を制して陛下がお言葉を下された。


「そう硬くなるな。今日は、身内の夕食故、不敬は問わぬ。気を楽に、会食してくれ。」


「顔を上げてご挨拶なさい。」


 執事長が、小さな声で伝えてくれたので、私たちは顔を上げ、挨拶をした。


「本日は、お招きいただきありがとうごさいます。」


「帰郷してまだ数日しか経っておらぬが、再び、我らの望みを大きく上回る成果を持参してくれたこと感謝する。」


 国王陛下は、軽く頭を下げ、感謝の気持ちを伝えてくれた。陛下が頭を下げるなんてあってはいけないことなのに…。


「滅相もございません。私たちは、できる限りのことをさせて頂いただけでございます。その上、約束通り、残りの皮をお買いあげていただいたこと感謝しております。」


「クーパーから聞いておる。大層安く販売してくれたそうだな。後は、私たちの仕事だ。お主たちの働きをもって、この国を富ませ、国民の生活を豊かにしてやる。見ておいてくれ。」


「ありがたきお言葉でございます。今後とも、国の為、微々たる力ではございますが、振るわせていただきたく存じます。」


「期待しておるぞ。して、このような堅苦しい話は、終わりにしよう。今日も暖かい料理を準備しておる故、存分に食せよ。では、会食を始める。今日の日に豊かな…。」


 国王陛下の食前の祈りが終わると、テーブルに料理が運ばれてきた。最初の皿には、暖かいスープが注がれていた。私たちがいつも食べる具沢山のスープと違い、黄金色の澄んだスープだ。上に細かく刻んだ緑色のハーブが散らしてあった。


「美味しい。」


 思わず、声を出してしまった。恥ずかしい…。


「そうであろう。このスープは、僕も大好きなのだ。」


 チャールズ様が嬉しそうに私のつぶやきを拾った。顔が熱い。化粧が厚いから気付かれてはいないはず…。


 それから、しばらくの間うつむき加減で黙々とスープを頂いた。


「ロジャー殿、今回大層立派なロックリザードの皮を大量に持参していただいたそうだけど、ロックリザードの倒し方のコツなどあるのか?」


 オースティン第一王子が、尋ねてきた。


「はい?コツでございますか?そうですね。ございますよ。私たちも偶然見つけたのですが、奴らは、極端に冷やされると、動きが遅くなり、冷やされた部分が弱く柔らかくなるのです。強力な力であれば、切り落としたり貫いたりできるくらいに弱く。」


「では、冷やさなければ倒すことが難しいのか?」


「そうですね。冷やさなければ、動きは、速いですし、皮も極端に硬く丈夫になります。最初に倒したロックリザードは、小さい得物でしたが、皮はボロボロになり、素材として使用するのにはあまり向いていませんでした。肉と魔石取り用として利用できる程度の素材になっていましたね。でも、小さくて、ボロボロになりましたが、皮鎧5人分は作ることができるとフォレストメロウのギルドマスターは仰ってました。」


「チャールズたちと別邸に保養に行ったとき、一瞬でクマの魔物を倒したと聞いていたが、そんなお主たちでも大変なのだな?」


「冷やさなければ、ですね。冷やしてしまえば、私は斧で首を落とすことができますし、アンディーは、ソードショット1発で仕留めることができます。」


「ロジャー殿は、投げ槍で仕留めるのではないのか?投擲武器が得意だと聞いていたのだが…。」


「そういわれれば、そうですね。最初、斧で仕留めたのでそればかりやっていました。投げ槍で仕留めれば、皮への傷は最小で済みますね。今度やってみます。殿下、アドバイス有難うございます。」


「私も、一緒にロックリザードの狩りをやってみたものだな。」


「オースティン殿下は、アイスジャベリンを使うことはお出来になりますか?」


殿下が、水属性の魔術を使うことができると聞いていたので、私も話に参加させていただいた。


「いや。私は、水属性は持っているのだが、アイスジャベリンはできない。ウォーターボールと、生活魔術で水を出すことができる位だ。」


「では、冷たい水は、出すことができますか?」


「できるぞ。チャールズたちにも時々飲ませてやっている。」


「それであれば、いずれ氷も作ることが出るようになるでしょう。熟練度を上げれば、アイスジャベリンもできるようになります。そうなれば、一緒に狩りに行くことができるようになるかもしれませんね。」


 同じ水属性の魔力を持つ私からオースティン様へのアドバイスだ。ロジャーにアドバイスを頂いたお礼は、返しておかないといけない。


 王室の方々との楽しい食事は終り、お暇する時間になった。帰り際に、明日の午前中に王宮へ来るようにと伝えられた。今回の依頼達成の報酬を頂けるらしい。


 今回は、ロジャーが大人気だった。前回の依頼でクマの魔物を一瞬で倒したことが、王宮での評判になったかららしい。オースティン様は、機会があれば、ロジャー指名依頼を出して、ロックリザードの狩りをしてみたいと言っていた。


 オースティン様には、専属の騎士がついているからロジャーを騎士に任命したなどということはなかったが、一度ロジャーの狩りの様子を見て見たいそうだ。


宿に戻って、晩餐会の様子をレイたちに知らせようとしたら、教会でシャルたちのお別れ会兼歓迎会をしているということだった。


明日、村に戻ったら話があると言っていた。また、変なことしでかしているんじゃないかと思ったけど、明日になればわかることだ。今日はもう寝よう。それにしても、今日のスープは美味しかった。




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