第107話 異世界帰りとお別れパーティー

「レイさん、大丈夫ですか?もう…、どうして」


 僕が目を開けると、シエンナは、半泣きだった。


「やあ…、只今ただいま。」


「ただいまって、レイさん、どこにも行ってないじゃないですか?さっきから、変です。何度も気を失うし…。」


「ごめん、ごめん。わざとじゃないんだよ。ちょっとした事故だったんだ。」


 机の上にメモがあった。やっぱり、ダイアリーか…。僕もそうだと思う。戻ってこれたのもダイアリー操作だったからな。こちらとあちら両方で使用しているアイテムだからな。転生きっかけになる可能性は十分ある。


 転生実験と向こうの世界の見学って面白そうだけど…。明後日あさってか…。明日には、ミラ姉たちも戻ってこれるかな…。まず、シエンナに異世界と玲のこと話しておかないといけないな…。


 話をする前に、本を見せよう。異世界の本。マウンテンバイクの乗り方の雑誌とバイクの本が良いかな。この世界の本っぽくないし。


「ねえ、シエンナ。この本読んでみて。」


「えっ?何ですか?本をお持ち何ですか。凄い。見せて下さい。読みたいです。」


 凄い勢いで食いついてきた。本は、好きなんだな。


「私が育った孤児院には、本があったんです。1冊だけでしたけど…。その本を何度も読みました。王都の図書館は、保証料が高くて入ることはできませんでしたが…。」


「マウンテンバイクの本を開いた途端、驚いて目を見開いていた。何なんですかこの絵。表紙にも描いてありましたが、色が付いた絵がたくさんです。こんな本見たことありません。それに、この兜もすごいです。小さな子どもが、色のついた兜をかぶっています。」


「凄いだろう。この世界にない本だと思うよね。」


「はい。魔法で作られた本なのでしょうか?レイさんの魔術で作った本?精錬魔術で。」


「それは、異世界で作られた本を僕の魔術でコピーした物なんだよ。異世界には、そんな本があふれているんだって。そして、そんな本を僕に届けてくれたのが、君が会った玲なんだ。」


「???」


「さっき、君と話していたのは、僕の体だったけど、僕じゃなくて異世界の玲、持田 玲なんだよ。君が持田玲と話していた時、僕は、異世界に行っていたんだ。まあ、異世界と言っても持田玲の部屋と部屋の窓から見える景色しか見なかったけど、窓から見える景色だけでも、全然ここの世界と違ったよ。」


「そんなこと言われても…。信じられません。でも、レイさんが嘘言うはずもないし…。それに、この本は、マウンテンバイクの絵が凄すぎるし…。子どもたちの写真もリアルすぎるし色も鮮やかすぎるし…。」


「そうだろう。僕は、異世界に行くことができるようになって、異世界から、僕とアイテムボックスを共有している持田玲が来ることができるようになった。凄いことだよね。異世界があるってだけでも信じられないことなのに行き来できるなんて。」


「行き来できるのってレイさんだけなんでしょう?それに、行き来しているのは、記憶と意識と精神?それじゃあ、夢と変わらないですよね。」


「そうだね。そういわれてみれば、でもいいんだ。夢でも。知識や経験は確かに得ているからね。」


「それで、こんど、持田玲さんが来たら、どうしたら良いんですか?」


「そうだね。無理のない範囲で要望をかなえてやって欲しいかな。ロジャー達にもお願いしておくからさ。」


「ちょっと待ってください。ミラさんから連絡が入りました。」


「王宮から呼び出しがかかったそうです。」


「どうしてだか聞いてみて。」


 シエンナが、テーブルの上にあった筆記用具を持ち、紙に書き込んだ。


『どうして、呼び出しがあったのですか?』


「アンディーが来たことが王族に伝わったから、晩餐会に呼び出されたんじゃない。」


 ミラさんがおっしゃってます。


「俺が門を通った後、自転車が、王宮の方に走って行くのを見たからな。門番が乗った自転車がすごくスピードを出していたから目立ってたんだ。」


「アンディーだね。」


 シエンナが頷いた。


「着替える必要もないからすぐに来るようにって言われているから行くそうです。下に馬車が待っているということです。」


「気をつけていってらっしゃいって伝えといて。」


「はい。」


「それから、シャルたちのお部屋作るの待っていて。村長にお願いして、お留守番用に、私たちの家の横に二部屋作りのコテージを建てる位にしておいて。」


 ミラさんがそう言って出て行かれました。


 そんなわけで、村長の家に行って二部屋作りのコテージを建てる許可をもらって来た。一応、避難用の地下室は作っておくことにした。穴は、シエンナのゴーレムに掘ってもらった。コテージを精錬して設置した。地下室には、魔力を貯めた魔石を置いておいた。いざという時の為だ。何もないとは思うけど、僕たちは、いないことが多いはずだから。


 それぞれの部屋にベッドとチェスト、小さな机とイスを準備した。少し殺風景だけど、自分たちできれいにしてくれるだろう。


 共通スペースに、4人掛けのテーブルと二口の魔石コンロ、調理台と水場を準備しておく。水瓶に水を入れておくとコックをひねるだけで水場の方に水が流れていく仕組みにした。水瓶が少し高い所にあるけど、大丈夫かな?足場を付けておこう。


 暗くなる前にシャルたちが住む家の準備は終った。今度は、僕たちの食事の準備だ。


「シエンナ、今から教会に行って一緒に食べない?多分、教会でシャルたちのお別れ会をすると思うから、差し入れ持って行ってさ。」


「お別れ会に私たちが行って大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だと思うよ。屋台で差し入れ買って、僕が、王都の宿の朝食メニューを精錬で作って差し入れすれば、増えた僕らの分以上になるでしょう。」


「食べ物の量は、そうでしょうが…、あまり親しくもなっていない私が参加するのは…。」


「これから仲間になるんだよ。みんな。だから、大丈夫。」


「はい…。分かりました。行きましょう。」


 僕たちは、ゴーレムバイクとマウンテンバイクで、フォレストメロウの町に向かった。町に着いてから、屋台を回り、美味しそうな串焼きや煮込み料理を買った。酒場に寄って、ワインも仕入れた。神父さんとマリンさんにだ。


今晩こんばんは。みんな~。差し入れ持ってきたよ。」


『バタバタバタ』


 孤児院の小さい子も含めてみんな走って来た。後ろからマリンさん。


今晩こんばんは。ようこそいらっしゃいませ。シャルちゃんと、アリアちゃんのお別れ会の準備をしていた所なんです。参加してくださいますよね。」


「よろしくお願いします。僕たちは、歓迎会ですけど…ね。」


「では、会場の方にご案内しますね。今、お料理を並べ始めたところなんですよ。」


 町の屋台で仕入れてきた料理や来る前に精錬した料理を並べるともう一つテーブルを出さないといけないくらいになった。料理を一つ出すたびに歓声を上げてくれた。全ての料理を出して、最後にワインの樽を出した。それには、神父様とマリンさんが歓声を上げていた。


「では、たくさんの料理と私たちをお導き下さる神に感謝して、シャルとアリア二人の門出を祝うパーティーを開始いたしましょう。」


 シャルとアリアは、これからの生活とメイドの勉強には不安はなく期待だけのようだった。他のメンバーともたくさん話した。ロックバレーの拠点でもワイワイ楽しく過ごすことができるだろうと思った。今日のパーティーに参加することができて良かった。

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