第106話 ダイアリーのリペア

 朝だ。目が覚めるとお腹が空いている。最近では当たり前の朝。ちょっと前までは、朝起きるのが辛かった。食欲なんてなかった。


 それにしても、お腹が空いた。昨日も早く寝た。早寝早起きだ。久しぶりにダイアリーに書き込みがあるようだ。僕は、メインページへ移動し、ダイアリーを開いた。


「ええっと、なんだって。シエンナの情報共有実験だって?シエンナって誰だ?」


 目の前が一瞬暗くなり、意識がアイテムボックスに吸い込まれていく…。




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「あれ?ここって、開拓村のレイの家?」


「どうしたんですか?急に、気を失ったみたいに机の上に崩れ落ちたからびっくりしました。座っていて良かったです。」


「君が、シエンナ?」


「えっ?」


 何が何だか分からないようだ。それはそうだ。鳩が豆鉄砲を食らったような表情?どう反応していいのか分からないのだろうな…。


 手元には、書き終わった日記の1ページが置いてあった。レイは、これを収納してリペアしようとしたんだ。僕が、日記を開いているのに気が付かないで。


(これって、異世界転生じゃねぇ。しかも、入れ替わりの異世界転生、レイにとっても、僕にとっても、パートタイムの異世界転生ができるってことじゃないか!)


「レイから話を聞いてない?僕は、持田 玲。レイとアイテムボックスを共有している異世界人だよ。初めまして…。だよね。」


「えっ?」


 少し、ハイテンションだった。初めて会った女の子にこんな風に話したこと今までなかった。シエンナは、オレンジに近い赤い髪の女の子でとってもかわいかった。西洋人の顔立ちだけど、日本人に近い感じ。とっても柔らかい雰囲気の女の子だ。


「今日は、さしあたり、挨拶だけね。ところで、ミラ姉やアンディーたちは、どこにいるの?」


「えっ?ああ…、皆さんは、王都にいらっしゃいます。?アンディーさんもそろそろ到着する頃でしょうか?って、レイさんですよね。私の目の前にいるの、何も変わらずレイさんなんですけど…?」


「そうか…、ここには居ないのか…。会いたかったなぁ。」


 色々、話をしたいところだけど、向こうの世界に行ったレイの方が混乱しているだろうから、できるだけ早く元に戻らないといけない。今日は、学校がある日だ。


 パートタイム異世界転生の方法を、半分憶測だけど、書き留めておく。シエンナに説明して、伝言頼んでも多分無理だと思いつつ、一応説明しておく。


「ええっと、シエンナ、良いかな?」


「な…、何でしょう。」


 疑いの眼差まなざしがなんか痛い。


「シエンナをからかっているわけでも、ふざけているわけでもなくて、僕は、この世界とは違う世界から意識や知識、記憶だけやって来た持田玲って言う異世界人なんだよ。さっきまで君の目の前にいたレイは、、僕の世界に行って混乱しているところだと思う。だから、できるだけ早くお互いに元の世界に戻りたいと思うんだけど、ここまでは良い?」


「フゥーっ、落ち着きましょう。レイさん。私のことは分かるのですね。ではないですよね。さっきまで一緒にドローンとの情報共有の実験をしてましたよね。何かあって、気を失って混乱しているだけなんですよね。」


 そうだよね。そう見えるよね。レイが、ちゃんと説明しておいてくれれば、こんな面倒なことにはならなかったのに…。


 でも、ぐずぐずしていられない。まだ、早朝で我が家の誰も目を覚ましていないだろうし…、外に何か出て行かれたら大変なことになる。


 紙と筆記用具を精錬して、異世界転生の方法を書いて行く。簡単なことだ。


『レイへ

 異世界転生の方法(半分憶測)

 ホームスペースのアイテムを同時に操作すると異世界転生が起こると考えられる。今回は、ダイアリーの操作で起こった。今度、ダイアリーの同時操作の実験をしてみよう。父さんや母さんに知らせておいて、向こうの世界を案内してもらおう。レイもこっちの仲間に説明しておいてくれ。


 もしも、明後日あさって都合が良ければ、時間を決めて転生してみないか。

 玲より 』


 次に、日記の用紙を精錬して


『日記を読んでいてくれ。できれば、ベッドの上で。   玲より』


 レイも急な転生の原因を探っているはずだから、ホームスペースのダイアリーに変化が感じられれば開くはずだ。開いていたらそのまま転生できるはず。怪我しない場所にいてくれたらいいんだけど…。




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 気が付くと、見知らぬ場所にいた。壁に掛けられた薄い布の向こうは少し明るくなりかけている。いや、暗くなりかけているのかもしれない。そろそろ夕刻と言う時間だったのだから…、でも、空気は何となく涼やかで夕方の雰囲気ではない。


 見たことがない文字が書いてある本がたくさん本箱の中にある。見たことない文字なのに読むことはできる。不思議な感覚だ。頭の中に刻み込まれている知識で理解できる。


 初めて見る道具があふれかえっていた。初めて見る道具なのに見ると道具の名前と何をするためのものなのかが分かった。知識だ。多分、玲の知識が僕に教えてくれているんだ。


 僕は、起き上がり、薄い布の向こうを見ようと布-カーテンに手をかけた。シャッと音をたてカーテンを開けた。透明な一枚ガラスの窓。その向こうに広がる景色。沢山の家々が並んでいた。


 魔物が居ないかサーチをかけてみる。半径5km範囲内に魔物は一匹もいない。ここは、町の中なのだろう。城壁が見えないからよほど大きな町なのかもしれない。広がる家々の向こうに城壁があるのだろうか。王都の何倍?いや、何十倍もの大きさの町なのではないだろうか。


 ここは、玲の家で、この部屋は、玲の部屋だ。それは、理解できた。しかし、どうして僕はここにいるんだ?


 そう考えると、少し不安になって来た。何をしていたら、この部屋に来ていた?ダイアリー…、そうだ。ホームスペースのダイアリーに書いた日記を直接リペアしようとしたらここにいたんだ。意識をアイテムボックスに吸い込まれて行って…。


 ダイアリーを確認してみよう。アイテムボックスを開いてホームスペースのダイアリーを開こうとしたら…。


『ガタ・ガツ』


「あいたたた…。」


 ベッドボードに頭をぶつけた…。やっぱり寝転がって転生すべきだ。レイのほっぺが鉛筆で汚れてなければいいけど…。


 明後日あさってレイの都合が良ければ、パートタイムで異世界転生だ。昼間の間、レイにこっちの世界を案内して貰っている間、僕は、向こうの世界で冒険しよう。楽しみだな…。

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