第103話 二人のギルマス

 <ロジャー視点>


 朝食は、お腹いっぱい食べた。この宿の朝食は、ミラ姉にとっては、神聖な戦いの場だ。足手まといにならないように精いっぱい食べた。お腹が苦しい。


 朝食が済むと直ぐに冒険者ギルドに顔を出した。王都に自転車を広めてもらったお礼と救急用のゴーレムバイクを卸値で調剤ギルドに販売することの許可を取るためだ。


 受付に並ぶと直ぐに奥に回るように指示を出され、受付を通り抜けて、奥の会議室の方に向かった。その途中、職員の方にギルマスの執務室に行くように言われて、今、ギルマスの前に立っている。


「よく来てくれた。王都に顔を出したのには挨拶にも来てくれないのかと心配していた所だ。こころで、王都の自転車見てくれたか?粗悪品も多いのだが、今や王都の名物になっているぞ。」


「はい。私たちが、王都でマウンテンバイクをお披露目してまだ日が浅いと言うのにすごい数の自転車が出回っていましたね。本当にすごいと思います。ご苦労様なさったのでしょう。」


「商業ギルドと鍛冶師ギルド、精錬術師ギルドに錬金術師ギルドまで協力し合って製造販売したからな。それに、腕時計もたくさん売れているぞ。わしは、腕時計を販売している商会の顧問になってな、冒険者ギルドのギルドマスターは後進に譲って、商売に専念しようと思っているところだ。ヌアハハハハッー。」


「そんなこと許されるはずないでしょう。」


 ギルマスの部屋に入って来たギルド職員の方が冷たく言い放った。


「今日の御用は何でしょうか?できれば、この気の抜けたギルマスに寝る暇もなくなるくらい大変なお仕事を渡して頂くと、わたくしたち、王都の冒険者ギルドの職員も溜飲が下がると言うものですが。」


 何か、ギルマス、職員の方に嫌われているのでは…。何事かやらかしたのだろうか?


「いえ、その…、ギルマスに寝る間も与えないようなお仕事は、持ってきていませんが、ギルマスと内密のご相談がありまして。」


「では、私共わたくしどもは、失礼させていただきます。くれぐれもギルドマスターを調子に乗せないようにご配慮お願いいたします。」


 職員さんが執務室を出て行って救急用のゴーレムバイクの話をした。ギルマスは直ぐに了解してくれて、俺たちは、調剤ギルドに向かった。


 調剤ギルドの中に入ると、真直ぐギルマスの執務室へ案内された。


「昨日は、どうもありがとうございました。3時間もかからずドローンが戻ってまいりました。しかも、お願いしたポーションも全て送っていただきました。これで、しばらくは、安心して朝を迎えることができます。」


「それは、良かった。王都の調剤ギルドの働きでたくさんの方の命が救われるのでしょうね。レイのポーションを役立てて下さってありがとうございます。代金のことは、多分、ドローンに手紙が入っていたでしょうし、私たちは、ポーションの内訳も存じませんので、レイの薬師ギルドカードに入金お願いします。」


「それは、困りました。レイ様からの手紙には、パーティーのギルドカードに入金するように指示があったのですが…。」


「もう!レイったら。レイからの指示がそうなっているのなら仕方ありませんが、ポーション代としていくら入金するのか私たちに教えていただけますよね。」


「それは、大丈夫です。今回は、大目に納入していただいたので、王都ギルドから少し報酬を支払わせてもらいました。全てのポーション代金として金貨4000枚でございます。」


「その中にゴーレムバイク5台分は含まれているのか?今から納品なんだけど。」


「もう、納品して頂けるのですか?まだ、ずっと後だと覚悟しおりましたのに。代金は、含まれておりません。おいくらになるのでしょう。レイ様のおかげで、王都の調剤ギルドは、資金が潤沢にございます。直ぐにお支払いすることができると思いますよ。」


 ブラウン様、ニコニコ顔だ。よっぽど色々うまくいっているのだろう。ミラ姉も遠慮なく、定価を伝えていた。勿論ギルド卸価格だよ。人命救助に使用するためのバイクだからね。当然だ。


「5台で金貨400枚になります。これは、パーティーのカードで大丈夫です。サービスで、病人をベッドのまま運ぶことができる幌付きの牽引寝台車もお付けします。これも5台。バイクの収納バッグに収納しておくことが可能ですから必要に応じてご利用ください。バイクは、二人まで乗ることができます。有効利用お願いいたします。。」


「なんと。お気遣い痛み入ります。私たちも患者様の為、一人でも多くの命を救うため努力してまいります。」


「はい。頑張って下さいね。私たちも応援していますから。」


 ミラ姉もかしこまった言葉遣いに疲れたようで、最後はいつもの言葉遣いに戻っていた。


「では、これで失礼いたします。」


 俺たちが、ギルマスの執務室を出ようとしたら、止められた。


「少々、お待ちください。昨日の話お考えいただけましたか?」


「はい?何のことでしょう?」


「執事とメイドをお世話いたしましょうかと言う話です。」


「あっ、それでしたら、知り合いの子がフォレストメロウの町にいるのでその子らに相談してみようかと話したところなのですが…、それに、私共の住まいは、執事さんやメイドさんがいるような家ではないので…。ちょっと、難しいかと…。」


「しかし、皆様の活動内容や皆様がお付き合いなさっている方々を考えると、執事やメイドが必要なのでは?何なら、お屋敷もお世話いたしましょうか?」


「いやあ…、私たちは、これからフォレポイ村を立派な砦にして、そこに住む計画なので、お屋敷のお世話と言われましても…。」


「そうなんです。俺たち、開拓村を立派な砦にしてそこに立派な屋敷を建てます。そうしたら、執事さんやメイドさんをお世話していただけますか?でも、フォレポイ村って田舎ですよ。そんなド田舎に来て下さる方いらっしゃるでしょうか?」


 しどろもどろになっているミラ姉に援護射撃にでた。


「そうですか。皆様の砦を建築なさるのですね。素晴らしい。完成したあかつきには、私も是非、絶対ご招待ください。心待ちにしておきます。絶対ですよ。その時は、お屋敷をお世話させていただきましょうかね。」


 何故だ。ギルマス目が獲物を狙う目になっている。田舎に作る手作り砦だ。そんなにすごい物じゃないって…。


 調剤ギルドを出て、宿の方に向かっていると、冒険者ギルドのギルマスがそちらの方から歩いてくるのが見えた。直ぐに、俺たちを見つけて駆け寄ってくる。何かあったのだろうか。


「今、お前たちを探しに宿まで行ったところだ。会えてよかったぞ。」


「何か御用ですか?」


「うむ、お前たちと言うか、レイ殿への用事なのだが、言付ことづけても良いか?」


言付ことづけだけなら、大丈夫ですよ。」


「うむ、では、もう一度、冒険者ギルドの執務室まで来てくれ。」


「え?言付ことづけなんじゃないの?」


 俺たちは、執務室に同行させられ、話を聞くことになった。要するに腕時計の販売契約の話だった。そして、その契約代金。


 ギルマスには、商才があるらしく、結構な値段で契約していた。しかも、その契約にちゃっかり自分の利益を乗せていた。そんなことしてるから冒険者ギルドの職員さんに嫌われるんじゃないのかな…。


「ここに契約代金、金貨600枚が入っている。これをレイ殿に渡してくれ。契約書の写しは、これだ。これも一緒に渡して確認を頼む。そして、これが、錬金術師ギルドが改造した、自動時刻合わせ機能が付いた腕時計だ。サンプルとして渡しておくから改良を頼む。セイレーンの魔石を使用したせいで装飾が難しくなってしまったのだ。改良のため必要なセイレーンの魔石も一緒に渡しておくからな。セイレーンの魔石は、王都の時刻を知らせる鐘に同調するために使用している。鐘にもセイレーンの魔石を使用しているのでな。もしも、装飾がうまくいったら、儂の名も連ねて、王家へ献上してもらいたいのだ。ギルド依頼という訳ではなく、儂からの依頼じゃ。頼む。」


「ギルマス…、まだ、商売のこと考えています?冒険者ギルドの仕事よりもご自分の商売のことばかり優先していると、ますます、ギルドの職員さんに疎まれるようになっちゃいますよ。」


 レイへの言付けと契約金や契約書のコピーを収納し、冒険者ギルドを後にした。ギルマスに職員さんたちが冷たい理由も良く分かった。


 王宮からの報酬がまだ決まっていないようなので、フォレストメロウへ帰ることができない。レイたちは何してるのかな…。








【後書き】

 パーティー資金がえらいことになっています。

 所で、この世界のお金の価値、大体ですが以下のようになっています。


 銭貨 … 10円

 鉄貨 … 100円

 銅貨 … 1000円

 銀貨 … 10000円

 金貨 … 100000円


 しかも、一般的な所得は低く、食料などは、6人家族でも一日鉄貨数枚で事足りるほどです。一般的な給料も一月に銀貨数枚が相場のようです。金貨1枚を一月に稼ぐなんて高給取りなのです。

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