第102話 明日の予定と昼休み

 宿に戻るとドローンが帰って来ていた。ミラ姉は、ドローンが持ってきた手紙を確認したようだったが、直ぐに何かする必要はないそうだ。時刻は、6時40分、日は沈んでいるが、辺りは十分明るく、宿の周りの屋台や飲み屋には人があふれていた。


「ミラ姉、少しお腹が空いた。何か食べに行こうか。」


「そうね。宿の食事は明日の朝ふんだんに食べられるからね。屋台周りをしようか。」


 アンディーと3人パーティーの時は、何をするにも一緒だったけど、4人パーティーになってミラ姉と二人で行動することも多くなった。一番多いのは、アンディーとだけど、ミラ姉を独占できるのは嬉しい。


「ミラ姉、何食べに行く?お肉か?」


「お肉。良いわね。美味しそうな屋台があったら買いまくりましょう。懐は温かいわよ。少々食べ過ぎても許す。」


 ミラ姉もご機嫌だ。


「あれ美味しそうよ。あれ。」


 大きな肉の塊を炭火であぶっている料理を見つけた。肉汁がポタポタと炭火に落ちて香ばしい美味しそうな匂いを漂わせていた。


「二人前、頂戴ちょうだい。」


 ミラ姉が注文して、代金を払ってくれた。銅貨1枚を払って、鉄貨2枚のお釣りがあった。高級肉料理だ。


 一品目は、肉ブロックの香辛料炭火焼きの薄切りだ。香ばしい匂いが空腹を殴りつけてくる。もう止まらない。あっと言う間に食べ終わってしまった。


 二品目に選んだのは、最近はやり出したハンバーガー。ひき肉のパテにトマティーナと葉野菜を添えてトマティーナとオーニオ、ひき肉と香辛料で作ったソースをたっぷりかけたものをパンで挟んであった。鉄貨4枚で二人分だった。ポトポトとソースをこぼしながら行儀悪く食べた。


 三品目は、冷やしたジュース。ハンバーガーと一緒に飲んだ。ワインでもよかったのだけど、疲れた体には、お酒よりもフレッシュジュースが美味しい。冷やしたジュースは思ったよりも高かった。2杯で銅貨1枚だった。


 それから、上げ芋やフルーツ。野菜の煮込み料理なんかを食べて晩御飯は終了した。


「宿に戻って、明日の打ち合わせをしましょう。ドローンの手紙も確認しないといけないからね。」


 ミラ姉と宿の喫茶コーナーで落ち合ってレイからの手紙を読んで、明日の打ち合わせをした。


 ドローンには、『ギルマスにギルド依頼達成S評価を貰ったこと。開拓村に戻ってドローンの手紙を確認したうえで、ポーショんを送ったこと。家の留守番をシャルたちに頼んでみようかという提案』を書いた手紙とゴーレムバイク5台が入っていた。


「明日は、まず、調剤ギルドに行ってゴーレムバイク5台を納品しましょう。それから暇になるはずなんだけど、油断はできないわ。きっと何か用事ができるはずだから、宿に戻って待機よ。良いわね。今日の夜、王室からの呼び出しがなかっただけでも奇跡と言えるわ。アンディーが来ていたら絶対呼び出されていたはずよ。不敬罪はやっぱり怖いわ。」


 そうなんだ。ミラ姉でも怖いんだ。全然、そうは見えないけど…。俺は、そんなこと考えながら明日の予定を確認していた。




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 昼休み。給食後のいこいの時間。僕は、試練の場にいた。昨日約束したダンクシュートの練習だ。ゴールリングより高く飛ぶことはできる。…、できるようになった。要は、いかに、確実にかっこ良く、パスやドリブルからシュートに移るかだ。歩数が合わない。


 空中では、向きを変えたり、止まったりできない。当たり前だ。さて、どうやってパスを受け取ってゴールリングの側までジャンプし、ボールをリングの中に入れるか。足運びが分からない。どこで跳んだらいいんだ?


 センターラインの辺りから走り出して、カラからボールをパスしてもらってリングの方に跳ぼうとすると、ゴールリングははるか後方になっている。いくら空中にいてもゴールの後ろからリングにボールを放り込むのは難しい。


 次は、本田さんに走るコースを支持してもらいながら、コース上でボールを手渡ししてもらって両足ジャンプ。なんかバレーボールみたいなジャンプだったけど、何とかゴールリングの近くまで跳んでいけてダンクシュートまがいをすることができた。


 しかし、あんまりかっこ良くない。何しろ、スピード感が皆無だ。やっぱりバレーみたいなストッブするジャンプじゃだめだ。走りながら斜め前にジャンプしないとスピード感を感じられない。


 でも、そうするとバスケットのバックボードに激突してしまう。下手したらバスケットゴールを壊してしまうことになる。


 何度か試行錯誤して成功した技は、大きく膨らんでバスケットボードと平行に跳び、ゴールリングとのすれ違いざまのダンクシュート。なんか少し違う気がしたけど、誰が見てもダンクシュートだ。


 そして、手渡しパスが確実だと悟った。僕は、試合では、ゴールリングへのボールの運び屋になる。なんか、テレビで見たアメリカンフットボールのランプレーみたいだ。


 これで上手くいくと思ったんだけど、上村さんから待ったがかかった。


「玲君のジャンプコースだと、シュートをした後、チャージングの反則とられない?絶対誰かとぶつかるよ。」


「そうね。相手チームのプレーヤーは、コートの外側を向いていることもあるかもしれないし、飛んできた玲君を避けきれないかもしれないわね。」


「じやあ、どうしたら良いの?」


「そうね…。ベル、玲君をもう少しゴール側に誘導してくれない。玲君は、ゴールリングの手前でジャンプの頂点になるように加減して、そして、リングにボールをたたき込んだらそのままゴールリングにぶら下がるの。そこでストップして、下に誰もいないことを確認して着地よ。」


「んーっ。それが出来たら苦労しないんだろうけど…。それって、NBAなんかでよく見るダンクシュートの後の絵図えずらだよね。」


「玲君、ボール無しでリングにぶら下がる練習してみようか。落ち際にゴールリングに手が届く位置に来るように跳ぶ練習よ。コースは、私が誘導するから。」


 僕は、本田さんが誘導する通りのコースを走り、

「そこっ!」

 の合図でジャンプした。


 上村さんの注文通り、ゴールリングの少し手前でジャンプの頂点になり、ゴールリングにぶら下がることができた。


「うまいじゃない。今の感覚を忘れないうちにもう一回やってみて。」


 上村さんは、スパルタだ。でも、今朝ポーションを飲んできた僕にはなんてことない。


 3回は、本田さんの誘導でジャンプしたけど、4回目からは、一人でジャンプしてぶら下がることができるようなった。まあ、最初の方は、何度かに一回しかぶら下がることができなかったけどね。でも、4回目は、ちゃんとぶら下がることができたよ。まあ、本田さんの誘導コースを忘れていなかっただけですけどね。


 10回成功した後、ボールを使って練習を開始した。本田さんの手渡しパスだと、失敗することなくダンクシュート後のぶら下がりまでできるようになった。そして、本田さんからのパスだと10回中8回成功した。上村さんのパスだと10回中4回の成功だ。練習は楽しかったけど、試合で使ってもらえるのだろうか?


 不安だ。

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