第101話 ロックリザードの皮の納品

 <ロジャー視点>


「ただいま。ミラ姉、いる?」


 俺は、ミラ姉の部屋をノックして声をかけた。


「お帰り。何?」


 ミラ姉は、ドアを開けて俺を入れてくれた。


 部屋に入り、椅子に腰かけてさっき気が付いたことを話した。ギルド契約が、討伐1頭に付き金貨1枚だから、金貨1200枚か1000枚で良いんじゃないかということだ。ミラ姉としては、どちらでもいいそうだ。ギルドに金貨を1200枚渡して金貨を1000枚貰っても良いし、王宮から金貨1000枚貰っても良いということらしい。どっちにしても同じ金貨1000枚が収入だ。


 それぞれの部屋でのんびりしていると、王宮から呼び足しの使いが来た。ぐに正装に着替えて王都に向かった。


 王宮に着くと謁見の間に通された。頭を下げ、王様が入ってくるのを待っていると


おもてを上げよ。堅苦しい挨拶は良い。先日の依頼、早くも達成したということなのか?」


 王様は、部屋に入ってきながら話しかけてきた。


 王様玉座に座るのを確かめて話し出そうとすると、宰相閣下に止められた。


「陛下、少々お待ちください。」


「アンデフィーデッド・ビレジャーのお二方、まず、今日の謁見の出席者を紹介しよう。陛下と私、ティモシー・ウォルドクレイヴは、以前より顔を合わせておるな。今日は、お主らとの契約にも名前を連ねておった財務大臣のクーパー・エヴァンズが同席する。では、陛下のご質問にお答えしろ。」


「はい。御用命のロックリザードの皮1000体分。揃えることができましたので持参させていただきました。」


「うむ、もう驚かんぞ。では、見せてみろ。」


「ここにすべてをお出しするのですか?この広さの部屋に出してしまいますと大変なことになると存じますが…。何しろ1000体分ですので。」


 体長が10m以上頭からしっぽの先までだと25mを超える物がほとんどだ。いくら皮だけと言っても厚みは20cm以上ある。そんなものをここにすべて出したら、巨大な壁で入り口をふさぐだけでは済まなくなってしまう。


「そ…、そうか。では、一番大きな物を出してみろ。」


「はい。畏まりました。ロジャー、一番大きな物、私たちの前に出して。」


「ミラ姉、少し下がらないと広げられないよ。」


「分かった。」


「陛下、広げてご覧になることができるよう、少々間隔を開けさせていただきます。」


 俺たちは少し下がって一番大きなロックリザードの皮を広げた。頭の先からしっぽの先まで多分28mはあるだろう。大きすぎて厚みは、そう感じないが、多分25cmはある。一人分の鎧にするときは、かなり加工が必要になるだろうが、軽く100人分の鎧は作ることができるんじゃないだろうか。


「へっ陛下、これは、見事。国宝級と言っても差し支えございません。このまま、飾り物にしてもよろしいかと…。このような見事な皮見たことがございません。」


「あの…、この位の大きさの皮でしたら、後、186枚ございます。」


 ロジャーが説明を加えた。


「で…、では、それを出してみろ。」


「あの…、ですから、この大きさと0.2m~4m程しか変わらない皮が186枚です。10枚出しただけでも、この部屋からはみ出してしまいます。重ねてしまっては、部屋全体が埋もれても入りきれません。」


「それならば、その186枚の中で一番小さい物を出してくれ。一番大きいものと小さいものを見れば、そのすべてを推し量ることができる。」


「では、大きさを比較しやすいように、少し重ねて置かせて頂きます。」


「確かに、頭の先からしっぽの先まで比べると4mほどの違いはある。しかし、国宝級だ。これもそのまま飾っても良いほどの品だ。」


 エバンズ閣下は、顔を赤くしている。どうしてだろう。


「国宝級の品が187体分あるのは分かった。本来ならすべてを検分せねばならないのだが、お主らが言うように、この部屋にすべてを一挙に出すことは不可能だ。その上、お主らは、王室からの信頼も厚い。よって、国宝級、187体分の検分は終了したこととする。では、次に188体目からは、どのような品だ。」


「頭が落ちているものがほとんどでございます。中には、頭は落ちておりませんが、小さい物もあります。」


「では、その中で一番大きな物を出してみろ。その2枚に重ねて見せてくれぬか?比較検分を行いたいのでな。」


「畏まりました。」


 ロジャーは、答え、上級品の内一番大きな物を2枚目より少し下に重ねて出した。


「おおっ、頭はないが、これも国宝級と何らそん色なき品。」


「あの…、頭もお出ししますか?この皮の頭はありますが…。」


「頭もあるのか…、出してくれ。つながった大きさを確認したい。」


 陛下は、興味があるようで、ロジャーの提言に食いついてきた。


「畏まりました。」


 ロジャーが頭の部分を取り出し、首の先に置いた。一番大きなロックリザードの皮より数cm小さいだけの大きさになった。ほとんど同じかもしれない。


「頭があるのでしたら、飾り物としての価値も出てきます。そうなると、国宝級と遜色そんしょくございません。頭を落とした皮は、落とした頭の皮もそろっておるのか?」


「はい。すべてそろっております。頭の皮だけでも鎧2人から5人分は作れると思いまして、残してあります。」


 今度は、ミラ姉が答えてくれた。俺は、頭捨てていいんじゃないって言ってたけど良かった。全部収納していて。


「では、この程度の品をいかほど準備しておるのだ?」


「650体分でございます。」


「この品質の品が650だと。まあ、良い。では、一番小さいものを見せてもろ」


「あの…、頭が付いた小さい物と頭を落とした小さいものが同じくらいの大きさでして…、どちらをお出ししたら宜しいでしょう。」


「では、頭を落とした方を頭の皮と一緒にだしてくれ。」


 それは、国宝級の一番小さい物の頭を落とした大きさだった。


「うむ、それも頭の皮がある故、国宝級と遜色そんしょくないと言える。では、頭付きを出してくれ。」


 次に出したのは、頭付きだが、大きさが20m程の物だ。頭からしっぽまでで8mもの差があるためかなり小さく見える。


「大きく立派な物を見慣れてしまったためかなり小さく感じるが、これも国宝級と言っても構わない品だ。今までであれば、オークションに出せば、一枚で金貨数千枚の価値になったかも知しれぬ。しかし、これほど多くの上質の皮が出回るとなれば、その希少価値は暴落するだろうがな…。」


「陛下。後ほどご相談がございます。」


 財務大臣なんか悪い顔をしてる…。きっと善からぬことを企んでいる。そんな顔だ。国庫を潤す悪だくみでも思いついたのかもしれない。


「あの…、続きがあるのですが…。」


「あっ、そうだったな。では、今夏持参した品の中で一番質が悪いものを出してみろ。それで検分は終る。」


「はい。これでございます。」


 俺は、頭を落とした一番小さいといっても1000枚の中でだが、皮を取り出して今までと同じように重ねておいた。一番大きなロックリザードの皮と比べると10m程小さい。頭を付けても7mは小さいものだ。


「これが最悪の品か。これもオークション級だな。金貨数100枚は下らない。良く分かった。素晴らしい品ばかりだ。で、買い取り額だが。」


「分かっております。金貨1000枚でございますね。契約ですから不満などございません。ただ、今回のロックリザードの討伐は、ギルドを通しておりません。ギルド依頼がまだ掲示されておりませんでしたから。ですから、金貨1000枚を頂きたく存じます。もしも、ギルドを通さないといけないのでしたら、金貨1200枚をギルドに渡して、私たちが金貨1000枚を頂くことでも結構です。」


「お主ら、このような品を持参しておいて、それで良いのか?別途依頼料を受け取りたくて参ったのではないのか?」


「いいえ。滅相もございません。私たちは契約に従って皮を持参したのでございます。契約とは別途に料金を頂くだなんて冒険者の風上にも置けない行いなどいたしません。ただし、先ほども申しましたように、今回は、ギルドを通しておりませんので、その料金を頂きたく存じます。宜しくお願いいたします。」


 ミラ姉と一緒に90度の深々礼だ。心からお願いした。タダ働きは嫌だ。


「分かった。良く分かったから面を上げよ。金貨1000枚は当然の報いとして下賜いたす。しかし、思った以上の品を持参してくれた。その礼はしたいのだが、受け取ってくれるか?」


「ありがたく受け取らせていただきます。」


「うむ。後ほど財務大臣のクーパー・エヴァンズ卿より渡されることになるだろう。クーパー頼んだぞ。」


うけたまわりました。」


「あの…、エヴァンズ卿、持参した物より質は落ちるのですが、後370枚ほど持ってきております。1000枚以降は、適正価格でお買い上げいただくということでしたが、検分お願いできますでしょうか?」


「うむ。では、王宮の大倉庫へ着いて参れ。そこで、1000体分を引き取り、その後、370体分を検分いたそう。」


「有難うございます。」


 俺たちは、王宮の大倉庫について行き、そこで、1000体分のロックリザードの皮を出した。頭の皮とセットで出さないといけなかったのが大変だった。倉庫全体を使って100名以上の職員の方と1時間以上かけて整理しながら出していった。


 ようやく、1000体分を出し、次に同じように頭の皮とそろえて372体分のロックリザードの皮を出した。並んでいるロックリザードの皮を一目見たクーパー・エヴァンズ卿がミラ姉に泣きついてきた。


「済まぬ。アンデフィーデッド・ビレジャー、適正価格で買い取ると言ったが、この数でこの質のロックリザードの皮を適正価格で全て買い取ることは、難しい。ここは、お得意様価格で…、少し負けてくれぬか。均一価格、一枚金貨50枚でお願いできぬか。適正価格なら平均価格ではあるが、一枚金貨100枚は下らないだろう。しかし、そこを曲げて済まぬ。きっと、この借りは、返す。今回のお主らの働きで、国庫は潤うはずだ。だから、その際には必ず、借りを返す故、一枚金貨50枚で納入してくれ。頼む。」


「そんなに高く買い取って下さるのですか。総額いくらになるでしょう。金貨…えっ?18600枚。凄い。さっきの金貨1000枚と合わせると19600枚。」


 職員さんが小さな声で金貨の枚数を耳打ちしてくれたようだ。しかし、本当にすごい。その辺の領主様より金持ちになっちまった。



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