第98話 素材の査定

「あっ、ギルマス。拠点の査定には全員行かないとだめか?」


 ミラ姉が突然聞いてきた。


「どうしてだ?何か用事でもあるのか?」


「ああ。ロックリザードの皮が1000体分揃ったんだ。王都に届けない訳にはいかないだろう。」


「何?もしや、ロックリザード1000体を狩り終わったのか。拠点づくりをしながら、たった3日間で…。嘘だろう。」


「すべて特上という訳にはいかなかったが、特上、上、中級品で1000体分そろえることができた。」


「本当に中級品なのか?読ませてもらった契約書には、ロックリザードの皮鎧を作ることができる品質が最低条件だったぞ。傷が多かったり、小さかったりしたら条件を満たさないからな。中級品を一つ出してみろ。俺が査定してやる。」


「レイ、中級品の中で一番小さいものを出してくれない。ギルマスに査定してもらいましょう。」


「分かった。ほいっ。」


 僕は、ギルマスの前に王都に持って行くはずの皮の中で一番小さいものを出した。


「これが一番小さい皮です。手に持つことできないので、地面に出しましたが、この品質で大丈夫でしょうか?」


 僕がギルマスに言うと、ギルマスは、なぜか口を開けたまま固まっていた。


「ギルマス?」

 ロジャーが、ギルマスの目の前で手を上下させてながら声をかけた。


「あっ…、うむ。特上品は、見せなくていいのだ。これは、オークション級の品だ。王宮に卸すことは勿論大丈夫だ。褒美さえもらえるかもしれぬ。だから、中級品の中で一番小さいものを出しなさい。それは、どう考えても中級品とは違うだろう。」


「えっ?レイ、それって中級品よね。首落としで、割と首の下の方で落としてしまった小型のロックリザードの皮よね。」


「うん。そうだよ。」


「では、特上品とやらを見せて見ろ。今、出したのが中級品だというのなら、特上品は、とんでもない品質のものということになるぞ。」


「レイ、まず、特上の一番大きいやつ。そして、特上の一番小さい奴を出してくれない。」


「了解。…あっ、無理だよ。ミラ姉。こんなところで出したら、道を完全にふさいで、町の人に迷惑だよ。」


 結局、みんなで解体所に行くことになった。


「じゃあ、一番大きい特上級を出しますね。」


 解体所の一番大きい解体台の上に出したが、乗り切れなかった。完璧な形の大型のロックリザードの皮。傷は、頭の一か所のみ他の傷はない。


「こんなに大きくてきれいなロックリザードの皮は、見たことがない。国宝級の品じゃないか…。」


 解体所のおやじさんがぼそりと呟いた。


「では、次、特上の一番小さいの…。」


「ストップ!分かった。もういい。お前たちが持って行くロックリザードの皮は、品質不足なんてことは絶対ない。自信をもって持っていけ。そして、王宮の皆さんがどんな顔をしたか教えてくれ。きっと、面白い顔をしてくれると思うからな。」


「そうですか。これで安心して納品できる。王宮の皆さんが、どんな顔をするかは、分からないが、がっかりされないなら嬉しい。」


「がっかりなんてされないさ。それは、俺が保証する。ただ、扱いには困るだろうがな…。」


「国宝級がいくつも納品されちゃあなあ。素材として切り刻むのも気が引けるだろうし…。王宮の皆さんがどんな顔をするか見て見たいわ。」


 ギルマスが、解体所のおやじさんと小声で話しているのが聞こえたけど、聞こえなかった振りをしておく。ミラ姉には、聞こえなかったみたいだし。


「それで、拠点の査定に行くのは誰で、王宮に行くのは誰だ?」


「そうね。ミーシャ様は、アンディ―が行けば喜ぶんでしょうが、この量のロックリザードの皮を運ばないといけないし、拠点の設備づくりにはアンディ―が必要だから…。王都に納品に行くのは、ロジャーと私。拠点の査定は、アンディーとレイ、シエンナの三人ね。それで良い?」


「問題ない。」

 とアンディ―。

「「了解。」」


「どうせ、俺が行っても喜ぶ人なんていませんよ。荷物持ち担当で、頑張るよ。」


 ロジャーがちょっとだけいじけていた。


「王都では、多分泊ってくることになると思う。路銀は、幾らか持って行くけど、ギルドカードがあるから大丈夫でしょう。ロジャー、レイから金貨を20枚くらい預かっておいて。いつもの宿屋に泊るわ。それから、ロックリザードの皮は、良い物から1000枚。予備として劣等品も含めてすべて収納しておいて。劣等品は、ギルド依頼で手に入る皮の参考として持って行って王宮に査定してもらいましょう。」


「おい。聞き捨てならないことを言っているな。」


 ギルマスが突然、話に割り込んできた。


「何のことでしょう?」


「その、劣等品の皮って言うものさ。ちょっと見せてくれないか?」


「えっ?どうしてですか?劣等品ですよ。」


「お前たちの、等級が意味不明なんだよ。とにかく、その劣等品を見せて見ろ。」


「あ…、はい。これです。」


 僕は、ロジャーとアンディ―が冷却ボムも何も使わず、力業で倒した何か所も傷がある皮を出した。


「これ!これが上級品って言うんだ。これで、何人分の皮鎧が作れると思う?30人分は、軽く作れるだろう!肘当て脛宛て兜全部そろえてだ。傷を避けて裁断するんだ。ほとんど無駄にはならない。上級者パーティーじゃなきゃ、こんなに傷を少なく狩ることはできないんだよ。いいか。これが上級品だ。その皮に謝っとけ。失礼な奴らだ。」


「はい。分かりました。これが、上級品なんですね。劣等品なんて言ってすみませんでした。」


「「「「すみませんでした。」」」」


「宜しい。以後気を付けるように。」


 ん?何で、僕たちは、ロックリザードの皮に謝っているのだろう…。


 ロジャーとミラ姉が出かける前に、上級回復ポーションを10本ずつ渡した。これで、少しは楽に王都まで走ることができるだろう。ミラ姉たちの出発を見送った後、僕たちも拠点の査定に向かった。


 ロックリザードの皮は、10枚ギルドに卸した。ロックバレーの入り口辺りにいた一番小さいロックリザードの皮だ。一枚金貨100枚で引き取ると言っていたが、今後のことを考えて、一番小さい皮は金貨50枚で良いことにした。すると、ギルマスが更に10枚購入すると言い出し、エイデンさんとすったもんだの末、合計20枚を金貨1012枚で購入してくれることになった。


 解体依頼をしていた魔物の素材を収納し、精錬した後、皮と魔石以外をギルドに卸した。皮と魔石は、多分これから大量に必要になる、マジックバッグの材料として、手元に持っておきたかったからだ。肉や牙などの素材と、毒袋なんかもあったようだけど、全部で金貨85枚ほどで引き取ってもらった。





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