第96話 液体窒素の冷却魔道具
今朝は、ロジャーとアンディー、シエンナの3人に、昨日の場所で連携練習をしてもらって、僕とミラ姉は、拠点に残って魔道具の開発をしていた。
Cランクで氷魔術を使えないパーティーは多い。氷魔術が水属性の魔術の中では、熟練度が高くないと獲得できない魔術だからだ。しかし、ロックリザードは、体を急激に冷やさないと動きは素早いし、刃物も通らない。逆に言うと低温に弱点がある魔物で、急激に冷やすことができれば、比較的倒しやすい魔物ともいえる。
ミラ姉と今考えているのは、急激にロックリザードを冷やすことができる魔道具。しかも、比較的安く作ることができて、且つ、誰にでも使うことができないといけない。何しろ、これから討伐しないといけないロックリザードは、10000頭は下らない。1000頭近く倒したのに、減ったように感じないんだ。
できるだけ多くの冒険者で、たくさんのロックリザードを狩るために準備することができ、販売することができる魔道具…、そんなの今は、無い!
だから、作る。
「一番可能性があるのは、液体窒素?レイが作った、冷たい液体ね。あれは、氷の数倍どころか数百倍冷たいわ。」
「じゃあ、まず、液体窒素を陶器の壺に入れてみようか。密閉した壺の中に液体窒素を入れておいて、投げつけたら、リキロゲンボールみたいにロックリザードの動きを止められるんじゃないかな?」
「じゃあ、アルケミー・リキッド・ニトロゲン 500ℓ」
「アルケミー・ポタリーボール」
「ウィズ・リキッドニトロゲン」
「アイテムボックス・オープン」
冷え冷えの陶器のボールができた。素手で持つのは無理そうだ。持ってみようとミラ姉が手を近づけたけどやめた。そのうちピキピキひびが入り始めた。
「危ない。爆発する。」
僕は大急ぎで収納した。
アイテムボックスの中の本から、熱を伝えない方法を検索した。
『熱を伝えない → 断熱』
『断熱 ・ 自然素材 → ウール コルク …』
「サーチ・コルク」
昨日、採集した、木の皮がコルクと同じような性質を持っているみたいだ。
「ミラ姉、冷たくならないように作れるかもしれない。でも、アンディ―の力借りないと無理だわ。」
「じゃあ、アンディ―と交代するから、二人で、道具作り進めて、作る道具はさっき話した通りね。」
「アンディ―の所まで、僕も一緒に行くよ。ミラ姉なら一人でも大丈夫だろうけど、やっぱり一人じゃ危ないかもしれないから。」
「そうね。冒険には、バディーが不可欠だからね。行きましょう。」
僕たちは、留守番をゴーレムに任せて、狩場までミラ姉のマウンテンバイクに二人乗りで行った。怖かった。
(そうだった。ミラ姉には、マウンテンバイクがあるから、危険なんて爪の垢ほどもないんだった。)
拠点までは、アンディ―のマウンテンバイクと僕のゴーレムバイクで戻った。だってアンディ―の運転は怖すぎるんだもの。二人乗りなんてしたら、大変なことになってしまう。
拠点について、すぐに魔道具作りに取り掛かった。僕が、陶器のボールを作って、アンディーがクリエートを使って、その回りをコルクで覆う、更に粘土を使ってその回りを覆ったものをアルケミーで、陶器にする。最後に液体窒素をを中に入れて完成だ。
「アイテムボックス・オープン。」
手に取ってみた。少し冷たいけど十分に持つことができた。拠点の北側、壁の外に冷却魔道具を置いて、しばらく観察。20分経っても爆発はしなかった。一度、収納して魔道具をコピーした。その後、静かに元の場所に戻す。走って魔道具の側を離れた。近くにいる時に爆発したら軽い凍傷では済まない。
少し離れた場所にもう一個、冷却魔道具を置いてファイヤーボールが当たらないように周りに撃ち冷却魔道具の温度を上げてみた。すぐ近くに20発ほど打ち込むと、爆発し、そのあたりを凍らせた。20発のファイヤーボールまで耐えたのなら普通の温度だったら爆発しないかな…。
もう一つの冷却魔道具をしばらく観察していたけど、1時間たっても、爆発することはなかった。アンディーと相談して、狩場に行って実用実験をしようということにした。ついでに、冷却魔道具じゃ言いにくいので冷却ボムに改名した。
2台のバイクで走り、すぐに狩場に着いた。狩り場に着いて、シエンナたちと実用実験をしたいと言うと、ミラ姉とロジャーは、奥に狩りに行ってしまった。
実験開始。まずは、アンディーとガーディ―に組んでもらう。指揮は、シエンナだ。蓋を指揮しながら大丈夫かって聞いたんだけど、目の前でだったら全然平気だそうだ。ガーディ―だったらもしも冷却ボムが破裂しても凍傷にならないから安心だ。
ガーディ―に冷却ボムを2発渡した。ガーディ―は、ロックリザードに近づき至近距離から首と頭に冷却ボムを投げつけけるとすぐに、アンディーからロックリザードの頭までの射線を作った。ソードショットが見事に突き刺さり狩りは終了した。
もう一度ガーディに2発冷却ボムを渡した。2発ぶつけて退避するまでの時間が短くなった。
次は、アンディーと僕のペアだ。アンディーに20発の冷却ボムを渡す。アンディーから9発の大剣を貸してもらい、10発目は、アイムボックスに向かってソードショットを撃ち込んでもらった。凄い勢いで飛んでくる大剣は、怖かった。
「アンディ―、ボムは、頭と首だよ。」
「了解。任せろ!」
アンディ―は、マウンテンバイクに乗ってロックリザードに近づき、冷却ボムを投げつけていく。あっと言う間に10頭のロックリザードを行動不能にし、最後にボムをぶつけたロックリザードからソードショットを撃ち込んでいった。
もちろん、僕もアンディーが行動不能にしたロックリザードにソードショットを撃ち込んでいったよ。少し楽しかった。
「シエンナ~っ!そろそろ、終わろ~。」
残ったロックリザードを片付けた。きっちり10頭。シエンナのコントロールは、完璧だ。
「じゃあ、ミラ姉たちを呼んでくる。」
アンディ―は、バイクに乗ってミラ姉たちを呼びに行ってくれた。こんな岩場でもスムーズに走り去っていく。谷はここまでよりも数倍凸凹しているのにすごすぎる。
シエンナと僕は、ゴーレム4体に護衛されならがバイク2台でのんびり、拠点まで戻った。北の壁の上から放置中の冷却ボムを確認してみた。爆発はしていない。
「シエンナ、ゴーレムって熱いとか冷たいとか感じることができるのかな?」
「指先にコアから感覚受容体を伸ばしておけばできると思いますよ。」
「感覚受容体?」
「そうです。見たり聞いたりするのと同じように物を握ったり、つまんだりするときは、触覚が必要です。金属や岩でできた指先にその感覚をコアから張り巡らしているんです。ですから、温感や冷感を感じることができるようにコアからそれを感じることができる感覚受容体を伸ばしておけば大丈夫ですよ。でも、触覚はともかく、温感や冷感は付けていないことが多いと思います。」
「シエンナの使役するゴーレムたちでその感覚を持っているのはどの子かな?」
「ガーディとバッキーは持っているんじゃないかと思います。何となくですが。」
「じゃあ、バッキーに、壁の外に放置してある冷却ボムが触れるくらいの冷たさが確認してもらってくれる?」
「良いですよ。バッキーなら、もし、近くにいた時に爆発しても、ダメージを追うことがないですから。」
バッキーは、正門から出て行って北の壁の外側に放置してある冷却ボムを手に取って確認してくれた。
「少し冷たいですが、手で持てないほどじゃないようです。」
「どうして分かるの?バッキーからサインか何かあった?」
「いいえ、バッキーと感覚を共有してもらったので確認できました。もちろん、持てる位の冷たさだってバッキーが伝えてきたからですよ。」
「それってすごいね。でも、まず、冷却ボムの確認から。放置して、もうすぐ4時間か…。液体窒素が抜けて、威力が落ちていないか試してみないといけないけど、みんなが戻って来てからの方が良いよね。」
「そうですね。」
シエンナも同意してくれた。今、確認したりすると見たかったのにと怒られるかもしれない。みんなを待っている間にアイムボックスの中にあるロックリザードの数を調べていた。
特上 … 50頭
上 … 82頭
特上の割合が多い。皮に傷は一か所だけだけど、上は少し小さい。ロジャーたちは、首の上の方で頭を落としている物の内、大型の物が上だ。大型でも首の下の方で頭を落としていたら中級になってしまう。中型で首の上で頭を落とした奴も中級。あまりいないけど、小型の物や中級でも首の下の方で頭を落とした物は、下級だ。体の部分に傷があったり、小さいものなのに首の下の方で頭を落として物は劣級だ。
それから、15分ほどで、みんなが帰って来た。
「お帰り。」
「おう。只今。今日も大漁だったぜぃ。」
ロジャーが少し変だ。
「で、今日の成果は?」
「上級品が、114頭。中級品、185頭。劣級、20頭だ。劣級は、ミラ姉が来る前、アイスジャベリンなしで狩りをした時の獲物だ。やっぱり冷やさないと難しいな。かなりの火力で首を落とそうとしたけど、仕留めきれなかった。魔力で、防御力を爆上げするんだ。凄いよ。まあ、それでも俺たちの敵じゃなかったけどね。」
「はいはい。凄いよ。ロジャーたちの火力と防御力は。僕とアンディーで特上50頭。上が82頭だったから、昨日の763頭と合わせると特上から中までで軽く1000頭を超えたね。ロジャー、今日の分の上と中を10頭くらいずつここに出してよ。収納して皮を取るからさ。」
僕は、ロジャーが出したロックリザードを次から次に収納精錬して素材別にしていった。全て収納し終わって数を確認すると、1094体分になっていた。劣級、20体分は、加えていない。
「ミラ姉、ロックリザード、1094体集まったよ。劣級は別にしてね。」
「じゃあ、ここでの活動は、一旦これで終了ね。」
「ちょっと待って。みんなに見てもらいたいものがあるんだ。」
「「「何?」」」
三人の声が重なった。
「北の壁の外にある冷却ボムなんだけど、そろそろ4時間放置しているんだよね。4時間放置していても何ともないんなら、冷却魔術を持たないパーティーに使ってもらえるでしょう。それでさ、今から確認したいんだけど、みんな見る?」
「「「もちろん!」」」
みんなで北の塀の上に登った。塀の前には、バッキーが待っていた。
「バッキー、あそこの木に向かって投げつけてみて。」
バッキーは、キョロキョロとしていたが動かなかった。あそこの木って言うのが良く分からなかったようだ。
「シエンナ、お願い。あそこの木に向かって冷却ボムを投げつけさせて。」
「あの…、すみません。あそこの木って、何処の木ですか?」
「バッキーの右手側、その先にある低木のこと。」
(シエンナにあの木が分からなかったから動いてくれなかったんだ。納得。無視されたわけじゃなかった。良かった。)
バッキーが低木に冷却ボムを投げつけると辺り一面凍り付いてしまった。成功だ。
「うまくいったね。これで、安心して他のパーティーに任せられるね。」
冷却ボムの実験を終えた僕たちは、これからフォレストメロウに向かってマウンテンバイクを走らせないといけない。
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