第95話 僕のクラスメイト

 朝早くから父さんが筋トレをしている。昨日のうちに、筋肉増加・筋力アップポーションを500㎖ペットボトルに10本作ってその内2本を冷蔵庫に入れていたからだ。


 母さん用の筋力アップポーションは、冷蔵庫に4本ずつ常備してある。職場に1本ずつ持って行き、昼休み中には筋トレしているそうだ。こっそりしているんだけど、気が付いたら人だかりができていたりするから困ると言っていた。


 父さんは、ムキムキマッチョを目指すと言って、今日からトレーニングを開始した。3日坊主にならなければいいんだけど…。


 「お早う。父さん、仕事、大丈夫なの?」


 「あっ。しまった。ポーションを飲んでトレーニングをすると、息も上がらないから思わず長くやってしまうな。急がないと…。」


 「朝御飯の用意はできてるから、慌てなくても大丈夫よ…。でも、そろそろ、ベースアップは必要な時間ね。はい、玲も早く食べて。母さんもゆっくりできない時間になって来たわ。」


 「今日は、夏休みの課題の確認テストなんだ。3年になって初めてテストを受けるから、少しドキドキだけど、どのくらい分かるか、ワクワクでもあるんだよね。勉強したつもりだからね。」


 「今までも、休みが多かった割には、平均点位は取っていたけど、3年生になって一回も試験を受けてなかったなね…。まあ、何とかなるでしょう。頑張れ!」


 僕は、たっぷりと朝ご飯を食べて学校に向かった。今日は、一日、夏課題テストだ。


 午前中のテストが終わった。4教科。国語、社会、数学、理科の順番だった。午後から英語。リスニングも含めて1時間の試験らしい。その後、学活があってお終いになる。


 給食中も、試験の話になった。本番の入試なら、午前中の試験の話なんかしないで、午後の英語のこと話したり、全く関係ない子と話してリラックスしたりするんだろうけど、午前中の試験の答え合わせ的な会話がほとんどだった。


 ほとんどあっていると思う。夏課題でやったような問題ばかりだったから、自信はあるよ。


 給食を食べた後、みんなは、運動場に行ったり、教室でおしゃべりしたりだ。僕が図書室にでも行こうかなと席を立った時に、本田さんが声をかけてきた。


 「あっ、持田君、どこか行くの?」


 「いや…、どこかに用事ってわけじゃないんだけど、暇だから図書室でも行ってみようかなって思ってたとこ。」


 「持田君って、本好きなの?この前も昼休みに図書室言ってたじゃない?」


 「そだね。本は好きかな。色々なことが分かるから。だけど、この前はバスケットのこと調べに行っていただけだよ。体育で初めてやったからさ。ルールも全く分からなくて…。次、ゲームをするって言ってたでしょう。」


 「えええっ。持田君、バスケットやったことなかったの?すごいダンクシュートしたって聞いたよ。」


 「ああ…。あれは、すごいんじゃなくて、単に、歩数が合わなかっただけで…、事故防止措置なんだ。怪我しないためのさ。」


 「ふーん?良く分からないけど、そうなんだ。でも、ダンクは、凄いよ。家の学校でできる人いないと思うよ。持田君以外。」


 「そ…、そうかなぁ…。じゃあ、次は、かっこよくダンクシュートできるように頑張るよ。」


 「そうだね。1学期に体育会ができなかった分、2学期にクラスマッチがあるかもしれないって言ってたから…。バスケだと良いね。クラスマッチ。私も得意なんだよ。バスケ。」


 「本当!じゃあ、今度教えてよ。シュートの仕方。特にダンクシュートの。」


 「まあ、ダンクシュートは、私はできないけど、どんなシュートかくらい教えられるよ。明日の昼休みにでも外コートに行ってやってみよう。」


 「ありがとう。明日だね。楽しみにしておくよ。」


 次の英語も夏課題に出たような問題ばかりだった。


 リスニングもあったけど、公園で、ジェシーとミランがフライングディスクで遊んでいたら、犬がそれをくわえて逃げてったみたいな話だった。要約するとだよ。


 簡単だった。


 テストと学活が終わり、帰ろうとしていると、また、本田さんが声をかけてきた。


 「持田君、お家どこ?」


 「緑町だよ。」


 「緑町か…、私、駅前なんだ。途中まで一緒だね。」


 「そっ、そうなの?僕、この辺りの地名あんまり覚えてなくてさ…。」


 「そうなんだ。まぁ、緑町と駅前じゃあ小学校違うしね。で、さあ。私たちと一緒に帰らない?」


 「たちって?ほかに誰かいるの?」


 「うん。6組のエリ。バスケの子。君のダンクのこと6組でも噂になってて、話したいんだって。明日、ダンクの練習するって聞いたら一緒に来たがると思うからさ。事前顔合わせということで、一緒に帰ろう。」


 「バスケつながりか…。いいよ。特に用事ないから。」


 僕たちは、連れだって下足置き場に歩いて行った。靴箱の所には、エリさんが待っていた。エリさんって苗字何なんだろう?


 「わっ!噂のモッチーだ。初めまして?かな。私、上村エリ。宜しくね。」


 「多分、初めまして、持田玲です。」


 僕たちは、靴を履き替えた後、お互いに自己紹介した。


 「玲君、私の名前知ってる?」


 「本田さんでしょ?同じクラスなんだから知ってるよ。テストの時、隣の責だからね。」


 「違うよ。名前だよ。苗字じゃなくて。」


 「鈴?さん?」


 「正解!」


 「ベルだよ。バスケ部では、ベルって呼ばれてたんだよ。」


 「エリは、カラね。襟だから、カラーでカラ。」


 僕たちは、歩きながら他愛ない話をした。青春だ!


 「持田君は、何て呼ばれてたの?」


 「特別な呼び名何て…、持田君か玲君だね。」


 「じゃあさあ、何の病気で入院してたの?感染症?」


 上村さんは、ズバズバ聞いてくる。別に嫌じゃないけど、家族以外と病気のこと話したことなんてなかったから、少し新鮮だった。


 「原因不明の病気。お腹の下の方が壊死する病気だったんだ。」


 「壊死って何?絵描く人、日本画家のこと?」


 上村さんは、お腹の辺りにへのへのもへじを描いていた。


 「エリっ!お腹の下の方に絵描いてどうするのよ。おふざけ言わないわの。」


 「ごめん。モッチー。で、壊死って何?」


 「プっ…。お腹に絵を描くって、アハハハっ。」


 「面白かった。それは、ようござんした。だから、壊死って…。」


 「ごめん、ごめん。本当に知らなかったんだね。只のギャグで聞いたのかと思った…。壊死ってのは、細胞が死んじゃうこと。組織もね。それが広がって、死にそうになってたんだ。」


 「死にそうにって、大袈裟な…。とっても元気じゃん。ダンクできるくらい。」


 「そうなんだ。病院の先生もびっくりするくらい元気になったんだよ。先生なんか奇跡、奇跡だっ!を繰り返していたからね。」


 「なんか、すごかったんだね。」


 「そうだね。命拾いしたって感じかな。あっ、僕、ここからあっちだから。またね。」


 「「バイバイ。」」


 二人と別れて、バスケのドリブルシュートのイメージトレーニングをしながら帰った。


 「1、2、ピョーン。」だ。


 はたから見たら少し不格好だったかもしれない。まあ、いいか。

 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る