第92話 玲の平和な一日

 「玲、起きなさい。おばあちゃんちに行くわよ。」


 「何?何言ってんの?今日は、月曜日だよ。仕事どうするんだよ。」


 「あれ?今日は、月曜日だったっけ?何か曜日感覚が変ね。」


 「それは、土曜日に授業みたいなことしてたからじゃない?発砲アルミ作ったりさ。」


 「そっ、そうかな…?そんなことより、昨日のボディークリームとヒップアップクリーム、それにバストアップクリームの効果凄いわよ。あんたに見せようとは思わないけど、すごいことになってるから…、父さんもびっくりよ。自分も使いたいって言ってたから、貰いに来るんじゃない。」


 「そんなことより、何?おばあちゃんちに行くって、どういうこと?」


 「このクリームと…、昨日のプロテイン入り筋力増強剤をおばあちゃんに試してもらわないといけないと思って、でも…、月曜日じゃ行けないわね。残念。じゃあ、急いで仕事に行く準備しなくちゃ…。ごめんね。朝早くから起こしちゃって。」


 時計を見るとまだ6時30分だった。いつも起きるのは7時過ぎだから30分も早起きしてしまったことになる。昨日の筋トレの成果はどうなっているかな…。お腹の辺りを触ってみる。6パックとまではいかないけどほんのりと腹筋が割れているように感じる。


 筋肉増加増強ポーションを飲んで学校に行くと変なことになりそうだから、飲まないでおく、しばらくは、家に戻ってトレーニング前に飲むことにしよう。


 今日の学校は、普通に授業だ。ホームルームで係決めなんかがあるらしいけど、今のところ僕には関係ない。中学3年になって2日間しか授業に行っていないのだから、僕に係の指名なんてありっこないし、あったら困る。何していいのか分からないのだから。


 楽しみなのは、体育だ。2学期初めての体育なのだが、バスケットボールをやると聞いた。体育授業なんか今までまともに出たことがなかったからなあ。


 朝食、登校、英語と数学の授業までは、普通に平和に過ぎて言った。体育。生まれて初めてのバスケットボールだ。


 「持田、入院明けなんだから、無理しないようにな。」


 授業が、始まる前に体育の先生が心配して声をかけてくれた。


 授業が始まった。軽く体操をして、さっそく実技だ。まずは、パス。バスケット部だった生徒が見本のパスを見せてくれた。チェストパス。これが、バスケットボールの基本のパスだ。同じくバスケット部だった他の生徒が、僕についてくれた。


 「こうやって、両手でボールを持って、両手首ひねって手の平を内側から外側に向かって開くようにしながらボールを押し出す。」


 ゆっくりと手首と肘の使い方を見せてくれた。


 「じゃあ、ゆっくりパスするね。」


 山なりの優しいパスを僕の方にくれた。


 「パスを取るときは、両手を伸ばして、ボールを迎えに行って両手の親指と人差し指で三角形を作って、こんな風に。そう、ボールに合わせて取る。OK」


 パスキャッチはうまくいった気がする。次はパス。力加減が分からない。少し加減して、両手でホイッ。」


 『ビューッ』


 「うぁっ、そんなムキにならなくても、こんなに近いんだらさ。」


 それから、頑張って加減したよ。難しかった。


 パスが終わったら、シュート練習。レイアップシュートって言うのを練習したんだけど難しかった。パスをもらってシュートをするまでの歩数が合わせられない。しょうがないから貰ったらすぐ目一杯飛んだら、ゴールリングが僕よりも下に行ってしまって…。ぶつかりそうになったもんだから、急いでボールをゴールに放り込んでリンクに捕まったんだよね。事故防止の為仕方なかったんだよ。


 「ダンクシュート…!」


 「持田、お前、バスケやったことなかったんじゃないのか?」


 「はい。生まれて初めてで、レイアップシュートって難しいです。」


 「え?じゃあ、何でダンクシュートなんかやってんだ?」


 「事故防止の為…?」


 今日は、練習だけでゲームはなかった。良かった。後で図書室に行ってバスケットボールの本収納精錬しておこう。ルールも良く分からない。


 体育以外の授業は、平和に過ぎて言ったよ。昼休みに僕がスポーツ万能なんて噂が立っていたけど、すみません。不器用なだけです。こそこそと、教室を出て図書室でバスケットボールの本を収納精錬した。入門書から練習方法まで3種類ほど精錬した。これで、ルールに困ることはない。


 ようやく授業が終わった。トイレでジャージに着替えて、鞄は、アイテムボックスに収納した。


 筋肉量増加筋力アップポーションを一口飲むと、トイレを出て、靴を履き替えランニングだ。あまりにばかげたスピードで走ると色々とまずいことが起こりそうなので、ちょっと速め位のスピードで走ることにする。


 学校を出てしばらく走ると川沿いのお散歩コースがある。この道を上流に向かって走り出した。9月と言ってもまだ気温が高い。日も高く、この時間にジョギングや散歩をしている人はいなかった。


 暑い。暑さで汗が背中を流れた。途中何度かポーションで水分補給をした。その為か、息も上がらないし疲れも感じない。


 1時間程上流に向かって走ると、遊歩道ではなくなり、田舎道になった。でも、アスファルトの舗装はしてある。車は時々通るけど多くはない。川の上を通った風が、熱気を払ってくれる。気持ち良い。


 (もうすぐ、6時になるかな。そろそろ帰ろう。)


 来た道を戻った。太陽は、西に傾き、たくさんのジョガーが行きかうようになってきた。でも、ゆっくり走っていたら7時過ぎてしまう。やばい、あまり速く走るのもやばいけど、7時過ぎるのももっとやばい。全速力で走っているように見える僕を皆んが奇異な目で見てくる。やばい。全部やばい。


 家に着いたのは、7時前だった。母さんはもう家に戻っていた。


 「どうしたの?」


 家に上がるなり、母さんに質問された。ジャージで帰って来たしそうだよね。


 「ランニングに行ったら、思ったよりも遠くまで走ってしまって、慌てて帰って来たところ。」


 「はいはい。ポーション使ったでしょう。だから、加減が分からなくなるのよ。」


 はい、おっしゃる通りです。


 「汗かいたから、ジャージ洗ってもらって良い?」


 「はーい。洗濯物かごの中に入れて…。明日いるんだったら、自分で精錬したら?きれいになるんでしょう?」


 「明日はいらないから、洗濯でお願いします。そっちの方が良い匂いになるから。」


 今日も、平和な一日だった。向こうの世界に行けるようになったらなぁ。

 

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