第86話 素材

 12時前には、フォレストメロウの冒険者ギルドに着いていた。ロジャーとアンディーは、交渉は退屈だと言って参加していない。町中をぶらつくらしい。

(二人ともズルいぞ。)


 「ギルマスをお願いできるか?」

 ミラ姉が、受付のお姉さんに聞いた。


 「ギルマスは執務室です。そちらにいらっしゃいますか?」


 「いや、できれば、狩って来た魔物を見てもらいたい。素材の買取価格と討伐依頼の適正価格を聞きたいのだ。」


 「その魔物は、大きいのですか?」


 「はい。ロックリザードですから、大きいサイズもたくさん狩ってきましたよ。」

 僕は、答えた。


 「じゃあ、倉庫の方に行ってらしてください。ギルマスを呼んできます。」


 「じゃあ、行こうか。」僕たちは、ギルドの裏に回って倉庫の入り口の方にいった。


 「こんにちは、親父さん。」


 「おう、なんか久しぶりだな。王都で大活躍だったらしいな。」


 「大活躍だなんて…、でも、たった10日ちょっとしかこの町を離れていなかったのに本当に久しぶりな気がします。」


 「お前たちが、この町で活躍し始めたのは、ここ一月だからな…。そのうちの10日間もこの町から離れていたら久しぶりにも感じるさね。」


 「ところで、今日は何の用だ?」


 「今日、100体ほどのロックリザードを持ってきました。素材としての査定をお願いしたいのですが宜しいですか?」


 「100体か…、まずは、最上級品から出してみてくれないか?」


 「レイ。最上級品だそうよ。お願い。」


 「はい。了解。」


 僕は、アンディーがソード・ショットで倒した中で一番大きいロックリザードを出した。


 「これが最上級品だと思います。」


 「このサイズのロックリザードなら、肉が300kgは、余裕で取れるな。魔石もまあまあの大きさだろう。それに、皮だ。非常に素晴らしい。傷一つない皮。この皮ならオークション物だろうな。安く見積もっても、金貨40枚は下るまい。不要素材の処分量は差し引くとして、これなら1体金貨50は、出せると思うぞ。」

 「この大きさのロックリザードの解体にはどのくらいの時間かかりますか?」


 僕は、畳みかけて聞いた。


 「そうだな。今は、解体班の手が空いてるから全員でかかって30分だな。」


 「解体量は、幾らになるでしょう。」


 「皮を卸してくれるならいらんぞ。皮だぞ。それ以外は、銀貨5枚。不要素材の処分料が銀貨1枚だ。」


 「じゃあ、不要素材は引き取りますので、今すぐ解体をお願いします。」


 「えええええっ、皮を卸さないのか。頼む、卸してくれ。防具屋、魔道具に引っ張りだこなんだ。」


 「一旦、引き取ったらすぐに卸させてもらいます。100体以上持ってきたので、全部ギルドで解体してもらったら大変なことになるでしょう。一度、解体していただければ、後は、何とかさせて頂きますので、『なる早』でお願いします。」


 「良く分からんが、分かった。『なる早』で解体する。待ってろ。」


 解体班チーフのおやじさんの『なる早』指示でロックリザードは、解体されていった。見事としか言いようのない素早さだった。


 30分と言っていた解体がなんと20分で終わった。見とれていた。

 『パチパチパチパチ』


 終了した時思わず拍手を送った。


 「有難うございます。」


 「おう、拍手ありがとうな。」


 親父さんが少し恥ずかしそうに僕たちに手を振ってくれた。


 「解体されたロックリザードを全て収納させてもらいます。」


 「アルケミー」


 精錬魔術をかけて、ゴミを取り、不十分な血抜きを済ませる。これで、素材に分けることができるようになったはずだ。


 次は、一番小さく、皮が痛んでいるロックリザードを出した。前足から後ろ脚までが2mほど、切れた首からしっぽの先までは5mくらいの大きさだ。頭があった時は、6mはあっただろう。小さいけど大きい。一番大きいものは、10mは超えていたから、今出したものは、半分くらいの大きさに見える。


 「このロックリザードならどのくらいの値段で引き取ってくれる?」


 「これか…。少し小さめだし、前足近くで首が落とされているな…。しかし、この位きれいな皮だと金貨10枚は下らないだろうな。皮鎧が5人分は余裕で作れる。肉は、100kgは取れるだろうな。」


 「肉って肉屋に卸したらいくらくらいで買ってくれるんだ?」


 ロジャーが聞いてきた。


 「この町の肉屋だったら1kgで銅貨1枚かな。それで計算すると100kgで金貨1枚ってところかな。しかし、一軒の肉屋で50kg購入してもらえるかどうかだぞ。うちのギルドでも、300kgが限界だ。売りさばききれない。」


 「ドローンがあるから大丈夫。各町のギルドにさえ連絡しておけば、肉を氷漬けにしてその日のうちに新鮮なまま届けることができますよ。王都までだって1時間ちょっとで届けられるのですからね。大丈夫でしょう。」


 「そうだな。ドローンがあった。今から、国中の冒険者ギルドに連絡して、肉屋と契約させよう。この国の食糧事情がしばらくの間変わるかもしれないな。」


 「大量に買ってもらうなら、100kg金貨1枚では無理かもしれないですね。100kg、銀貨1枚では、安すぎか。まあ良いや。人の手を通れば値段は上がる。潤うものも出てくるはずだから。」


 「ということで、肉は、100g銀貨1枚で卸すことにした。」


 「後は、魔石ですがいくらくらいになりますか?」


 「一番小さなロックリザードの魔石でも金貨5枚にはなるな。一番大きな奴の魔石だと金貨8枚か…。」


 「そうしたら、ロックリザードは、素材だけでかなりの価値があることになりますね。」


 「それは、そうだ。こんなに大きなCランクの魔物の素材なのだからな。」


 突然、ギルマスが話に入って来た。


 「うぁっ、ビックリした。王都ぶりです。」


 「そうだな。3日前にあったばかりとも言うがな。」


 「で、どうした。ロックリザードの討伐依頼って聞いたが、どういうことだ?」


 「今回、王宮から、ロックバレーの石材の利用許可をいただきまして、石材採集のために邪魔なロックリザードを討伐しないといけないんですね。それで、今朝、ロックバレーまで行って様子を見て来たんです。そうしたら、いるわいるわ、ロックリザードがウヨウヨいるんです。」


 「そりゃあそうだろう。ロックリザードの大量発生で廃棄された石切り場なんだからな。」


 「そうですね。軽く2000匹は、発見しました。奥に入ってないので、多分もっといるんでしょうね。」


 「だから、それは分かっていたことだ。ただ、ロックリザードは、石切り場から移動することはなく、スタンピードの危険性は少ないだろうと放置されているのだからな。ロックバレーにロックリザード以外の魔物がたくさんいたのなら話は違ってくるがな。」


 「ロックバレーに、ロックリザード以外の魔物は発見できていません。スタンピードの危険があるわけではなくて、私たちが石切り場の石材が欲しいだけなのです。」


 「まさか、お前たち、ロックバレーのロックリザードを全滅させる気か?もしかしたら10000体はいるかもしれないと言われているCランクの魔物を。」


 「そうなんです。ロックバレーを取り戻すための討伐依頼です。素材は、良い値が付きそうですから」


 「まっ待て!普通の冒険者がどうやってロックリザードをこの町まで運んでくるんだ?どれだけ身体強化があっても、1日1体運んでくるだけでも無理があるぞ。しかも、ロックリザードを討伐した後にだぞ。そんな依頼無理だ。誰も引き受けてくれない。」


 「だから、僕たちが間に入るんです。ロックバレーでロックリザードを引き取って素材にして運ぶのは、僕たち。勿論、僕たちも、ロックバレーでの狩りもしますよ。冒険者は、ロックバレーで魔物を倒すだけ。一体倒すごとに魔物の死骸を僕たちに渡して報酬を受け取るという簡単なお仕事になります。この報酬としていくら払ったらいいかの相談なのです。」


 「皮がきれいなままで素材全部が利用できる死骸と皮がボコボコで魔石と肉の一部しか採集できない死骸とで依頼料を変えるのもどうかと思いまして…。」


 「そうだな。それなら、ロックリザードの討伐報酬と素材代金は別に考えたらどうだ?ロックリザードの討伐がお前たちからの依頼なのだろう。ロックバレーの石切り場を取り返せと言うのは、王宮からの依頼と言えないこともない。お前たちが使い終わったら、王宮管理の石切り場になるのだろうからな。」


 「そうですね。王宮からも依頼料出してもらいましょうか。ミラ姉、王様に手紙を書いてみてくれる?ロックバレーにロックリザードが10000体ほど確認できたから、冒険者ギルドに討伐依頼を出してほしいって。」


 「手紙って、今日だして、いつ返事が…、ドローン使うつもりね。分かったわ。紙と鉛筆出してちょうだい。ギルマス。上の会議室お借りしていいかしら。王宮にお手紙を書くので。」


 ミラ姉は、鉛筆と紙を受け取ると会議室に向かって歩いて行った。少しプンスカだったけど、僕は悪くないよね。


 「今日、狩って来たロックリザードの素材を出しますね。肉以外にしますので、他の町のギルドとの肉の取引契約宜しくお願いしますよ。」


 「まず、魔石です。」

 『ゴロゴロゴロゴロ…。』


 「次は、皮ですね。」

 『ドドドドドドドド…』


 「肉は、どうしますか?」


 「サンプルとして氷漬けにして100kg程頼む。」


 「ガラガラ…ボトボト」


 「…、査定に1日くれ。明日には、引き取り額を知らせる…ように頑張る。」


 倉庫に山盛りになった素材を前にギルマスが力なく答えた。たった105体分だ。これからもっとたくさん来ることになるのだから頑張ってもらわないと…。


 「そうだ。親方、解体をお願いしたい魔物があるのですが…。」


 ボアとフォレストシープは、自分で解体できる。それ以外の今まで解体したことがない獣と魔物を解体してもらう。ロックバレーの近くの草原にはたくさんの種類の魔物がいた。


 「分かった。その台の上に出しておけ。」


 「乗り切れないかもしれませんが…。分かりました。」


 『ドドドドドドドド…。』


 「お前…、いったいどの位の魔物を狩ってきているんだ…。」


 「これでも、帰りは、止めたんですよ。」


 ギルマスに続いて親父さんが青ざめていた。


 「よろしくお願いいたします。」


 僕は、120度の深々お辞儀でお願いした。

 


 

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