第84話 発泡アルミニウム

 今日は、学校は休みだ。今日と明日は休み。たった2日しか登校していないけど、疲れた。中学生になってからは、体調が良くても学期に十数日しか登校していない。修学旅行にも参加していないし、体育会にも参加したことがない。思い出らしい思い出がない3年間になろうとしていたんだ。


 友だちとの約束はない。遊ぶと言ってもみんなどんなことしてるんだろう。さっぱりわからない。台所に降りていくと母さんはもう起きていた。


「お早う。」


「休みなのに早いのね。小さい子どもみたい。」


「そう?小さい子どもって、休みの日に起きるの早いの?」


「そうみたいよ。昔、ママ友が言ってた。玲は、毎日寝坊だったけどね。」


「子どもの早起きの話は、置いておいて、唐突で、例えばの話なんだけどね、ドローンを大きくして、人が乗って飛べるくらいにするとしたらどんな問題が発生すると思う?」


「本当に唐突ね。ドローンを大きくするのね。まず…、強度と重量の問題。例えばさ、大きさを3倍、つまり全長30cmのドローンを90cmにするとしたら、全く同じ材料で同じ構造にした時、重さは何倍になると思う?」


「3倍じゃないんだよね。…。重さって体積に比例すると考えて良いのかな?」


「そう。その通り、重さは体積に比例します。同じ素材ならね。だから、ドローンみたいに複雑な形で考えるより、立方体で考えたらいいわよ。」


「立方体?」


「サイコロね。」


「ああ…。サイコロね。」


「じゃあ、サイコロの長さを3倍にしましょう。一辺だけね。」


「長細い直方体になるよね。」


「正解!、体積は何倍になる。」


「サイコロ3個分になるから3倍だね。」


「じゃあ、さっきのが縦だとすると横を3倍したらどんな形?」


「平べったいサイコロになるね。板状の正方形。それって面積だね。3×3になったってことだから、サイコロ9個分、重さは9倍だね。」


「そうね。だったら大きさ、つまり、縦・横・高さ全て3倍にしたらどうなるの?」


「9倍の更に3倍だから27倍だ。そうか。だから、強度と重量が問題になるのか。」


「対策は、材質の強度を上げて、密度を下げるっていう相反することになるのよね。これってとっても難しいことなの。でも、玲なら解決できるかもよ。」


「宇宙開発の為の素材、発泡金属作ってみない?」


「良く分からないけど…、何それ?」


「発泡スチロールって知ってるでしょう?」


「知ってるよ。発泡スチロールくらい。白くて軽くて家電なんかの箱の中に入っているよね。」


「じゃあ、ポリ袋も知っているわよね。」


「柔らかくて透明の袋。ゴミ袋でしょう。ビニール袋とどこが違うのか分からないけど…。」


「最近のゴミ袋は、塩化ビニールは使わないわね。で、そのポリ袋によく使われるのがポリエチレンなの。そのポリエチレンに気泡を入れて成型したのが発泡スチロール。気泡が入っているから軽くて丈夫なのよ。」


「それと発泡金属と何の関係があるの?」


「アルミで発泡スチロール作ったら軽くて丈夫になると思わない?」


「気泡をヘリウムにしたらもっと軽くなるかもね。水素だとアルミが溶けてしまうかもしれないけどヘリウムを気泡に使ったらとっても軽い金属が出来るかもよ。」


「ヘリウムは知ってるよ。でも希ガスでしょう。化学変化で作ることはできないでしょう。」


「でも、空気の中に5ppmくらいあるのよ。あなたなら集められるんじゃない?」


「ppmって何?」


「100万分の1濃度」


「それって何?」


「100分1が百分率1%でしょう。さらにその10000分の1ってこと、小さすぎてイメージできないでしょう。」


「つまり、100万の内の1つが1ppmってことだよね。じゃあ、5ppmは、100万の内の5つってことだね。」


「そう。10m四方の空気がつまり、縦横高さが10mね。それが、100万リットル。その中に5ℓのヘリウムがあるってことね。」


「10m四方は、アイテムボックスに収納するのは簡単だよ。それでたったの5ℓなんだね。で、例えば、自動車位の大きさのドローンを作るのにどれくらいのヘリウムが必要なんだろう?」


「さあ?まあ、一番軽い発泡アルミっていうので思いついたことを言っただけだから、発泡の気体は、窒素で良いんじゃない。金属に比べると十分軽いし、気圧を下げればヘリウムと変わらないくらいになるかもよ。上空に上がれば、気圧は下がるからどのくらいの圧力で気体を入れれば効果的なのかわからないのよね。」


「じゃあ、窒素で発泡アルミ作ってみる。発泡アルミニウムって英語で何って言うの」


「知らない。グー〇〇先生に聞いてみる。」


『アルミニウムフォーム』


 グー〇〇先生が発音してくれた。真似して精錬してみる。


「アルケミー・アルミニウムフォーム」


 発泡スチロールをイメージして軽いアルミニウムを精錬してみた。


 できた発泡アルミは、表面がザラザラしていた。持った感じは、軽い。発泡スチロールほどじゃないけど、水にはプカプカ浮くくらい軽かったけど、もう少し軽くするのと表面はツルツル。リンゴだ。皮が必要だ。発泡スチロールのリンゴのイメージ。


「アルケミー・アルミニウムフォーム」


 できた。母さんは、できた発泡アルミの塊を手に取ると押したり、叩いたりしていた。


「硬さ、軽さ、丈夫さすべて凄い。これ、鉄、スチールで作ってみない?違う使い道ができるかもよ。アルミニウムよりも硬度は上がると思うのよね。」


「分かった。鉄は、アイアンだよね。」


「鋼鉄の方が丈夫そうだから、スチールでやってみて」


「分かった。アルケミー・スチルフォーム」


 アルミよりも少し硬い感じの塊ができた。


「やっぱり、少し重いわね。人が乗るドローンを作るならアルミの方が良いかもね。回転翼は、泡の量を少し加減して強度を上げた金属の方が良いかもしれないわね。ひねりや歪みなんかの力が加わりそうだから強度重視ね。」


「分かった。そのことダイアリーに書いておく。自分で作れたらいいんだけどね。動力がないし、ドローンも精錬コピー失敗したからね。」


「そうだった。電子機器の精錬失敗の原因ってハードウェアの問題じゃないんじゃないって思ったんだった。」


「どういうこと?」


「電子回路が入った扇風機は、アルケミーできれいにしたけど壊れなかったでしょう。あれって少ないけど半導体が入っているのよ。」


「そうだね。壊れなくて良かったって思ったもの。でも、ゲーム機もタブレットもコピーしても動かなかったよ。」


「それって、プログラムがコピーできなかったからじゃない?」


「だってさ、ゲーム機何てスイッチも入んなかったんだよ。」


「そうなのよね。でも、タブレットもゲーム機もスイッチ入れるのにもプログラムが関係してるのよね。バイオスっていう基本プログラム」


「じゃあ、そのプログラムってどうしたらインストールできるの?」


「機械が必要ね。専用の物が必要みたいだけど、バイオスのインストールなんてしたことないわ。バイオスのアップデートならしたことあるけど全然違うみたいだからね。私には無理。精錬コピーしてpcの専門店に持って行って『バイオス壊れました書き込みお願いします。』って修理依頼したら修理してくれるところあるかもしれない。ないかもしれないけど…。」


「じゃあ、それやってみようか?」


 僕は、ノートパソコンを一台コピーしてみたけど、素材が足りなかった。


 夜になる前に、ドローンの大型化について発泡アルミニウムの作り方と軽くて丈夫な金属素材が必要だということをダイアリーに書いてリペアしておいた。レイがなんとか実現してくれると楽しいなとおもって。


 今日は、色々考えたけど、できたのは発泡金属だけだった。なんか、1日勉強していた気分だ。

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