第82話 帰郷
フォレストメロウのギルドマスターとの魔術契約は、直ぐに終わった。ギルドの会議室を出ると、冒険者ギルドのマスターの執務室へ呼ばれた。
王宮から、指名依頼の代金と査定が届いていたので、報酬をもらうためだ。報酬は、金貨50枚も支払われていた。Bランク冒険者としては破格の報酬だ。2割の金貨10枚をギルドに収め、金貨40枚を僕たちのギルドカードに入金してもらった。査定はA評価。ギルマスにも褒められた。
その後、冒険者ギルドに
マウンテンバイクを50台
ゴーレムバイクを10台
納品した。
材料は、パーティーで集めて、僕とアンディーで作ったものだ。代金は、僕たちのギルドカードに入金してもらった。
金貨1800枚。毎度ありがとうございます。
今日一日で金貨1840枚の収入だ。
鍛冶師ギルドと錬金術師ギルドに売り込む予定の時計の代金は後日入金してくれるそうだ。一つ金貨2枚で良いと言ったのだが、契約は任せておけと言われた。
ギルドマスターに貰った時計の代金は、昨日のうちに調味料や食材の代金になってしまった。高級食材や香辛料を沢山買ったから宿の美味しかった料理をいくつか作れるようになった。
宿に戻って、部屋を引き払い、清算をしようと受付に行ったが、支払いはなかった。全て調剤ギルドが支払ってくれていた。
何もすることが無くなった。出発は正午すぎと言っていたから、まだ1時間以上ある。しばらく宿のラウンジでのんびりしていたら11時30分になっていた。
大きな荷物は全て僕のアイテムボックスとロジャーのストレージの中だ。ミラ姉とアンディーも肩掛けのアイテムバッグは持っているけどほぼ手ぶらの状態で王都の門の方に歩いて行った。
20分程歩いて門に到着した。門の前には出店がでて、たくさんの人たちが集まっていた。何かあるのかと聞いてみたが、良く分からなかった。
何かの出発イベントがあるらしい。
出発の準備をするため、人だかりから離れた場所に移動しようとして呼び止められた。
「アンデフィーデッド・ビレジャーの諸君。遅かったではないか。」
声がする方を見ると、ボールス様が立っていた。
「騎士団の出発準備は整っている。こちらへ来てくれ。」
何のことかわからないまま連れていかれた。
ボールス様について行くと、マウンテンバイクに跨った騎士様たちが18台が、2列になって並んでいた。
ボールス様とドリー様のマウンテンバイク以外の全てマウンテンバイクが並んでいることになる。
その先頭には、ブランドンさんとウィルさんがいた。
「あの…、どういうことでしょう?」
ミラ姉が戸惑い顔で尋ねた。
「お主らには、伝わってなかったのか?」
「なにがでしょう。」
「バイク騎士団が、途中までお主らと長距離走行訓練を行い、ウィルとブランドンは、お主らに随行し、フォレストメロウのお主らの村まで行くのだ。」
「え?聞いておりません。」
「以前した、お主らにドローンを随行させ、村との連絡を取ることができるようにするという話は憶えておるな。」
「はい。ドローンに追跡させて村の私たちの家まで連れて行くことでした。」
「ドローンだけでなく、お主らと連絡を取れる人材も必要だということになってな。ブランドンとウィルが同行することになった。」
「あの…、それで、出発のイベントと言うのは、何なのでしょう。」
「初めてのバイク騎士団の集団行動だ。ドローンのお披露目も含めて出発式のイベントが急遽計画されたのだ。異例の早さだったようだぞ。王と宰相閣下がほとんど決定して実行された。」
「そんなこと、ありえるのですか?」とロジャー。
「普通、ありえんな。」とボールス様は答えた。
「しかし、やっちまったんだ。ごり押しで。全くあの二人は…。」
後から聞こえたつぶやきは、聞かなかったことにする。
「それでな。お主らには、バイク騎士団の長距離移動訓練もかねて、王都から200km程離れたミッドリバーの町の側まで同行してもらいたいのだ。そこから騎士団は、王都に戻ることになる。ウィルとブランドン以外はな。」
「それは、かまいませんが…、これって指名依頼ですか?」
「そうだ。ここに契約書がある。金貨50枚の依頼だ。騎士団の移動訓練の指導と王宮専用ゴーレムの試験も兼ねている。サインを頼む。後の手続きは、こちらで行う。」
「はい…。分かりました。」
ミラ姉は、渡されたペンで契約書にサインした。
「よろしく頼む。」
ミッドリバーまでの隊列、スピードの上げ方やハンドサインの打ち合わせなどが終わった頃、正午の鐘がなった。時計を見る。秒針も12の辺りを示していた。
しばらくすると騎馬隊に囲まれるようにしてゴーレムバイクに乗った王室の方々が現れた。
僕たちと門の間に着くと、騎士団は横に展開し、中からバイクに乗った王室の方達が現れた。
「只今より、新設バイク騎士団、王宮ドローンの出立式を執り行う。」
宰相閣下の声が魔道具で拡声され、響き渡った。
「まず、エルザード・ウッドグレン王より、バイク騎士団に名を賜る。」
「ウッドグレン王国初のバイク騎士団の諸君。お主らに、ファルコンズ・フラッピング・ナイツの名を与える。この国の為、今後とも励むように。」
『ハッ。』
左胸に握りこぶしを押し当てる敬礼とともに一斉に返事をする騎士団の皆さん。カッコ良い。
「ドローン、上空に待機。」
宰相閣下の声が響く。3機のドローンが上空に舞い上がり、10m程の高さで停止した。
『ウォ~!』というどよめきが沸き起こる。
「出立せよ。」王の声が響いた。
先頭はロジャーだ。次に僕、ミラ姉、アンディーの順。
アンディーの後方右にウィルさんを先頭にした騎士団の皆さん、後方左にブランドンさんを先頭にした騎士団の皆さんだ。
合図とともに出発。直ぐに時速100kmを超える。あっと言う間に遠ざかる王都。つい先日、王室のバイク試乗の時、見ていたはずだけど、そのスピードに驚きの声が上がる。その声を置き去りにして僕たちは、フォレストメロウに向かって、そして、その前のミッドリバーまで一気に走り抜ける。
10分もしないうちに、多分朝一番で王都を出たと思われる商隊に追いついた。スピードを時速30kmほどに落とし、横を追い抜く。馬を驚かさないようにゆっくりと走った。
途中、いくつもの商隊を追い抜いたが、そのほかには、何事もなくミッドリバーの近くの草原に到着した。出発から2時間ほどたっていた。
僕たちを追いかけていたドローンを着陸させ、一旦僕のアイテムぽっくの中に収納する。こんなに人眼が多い所で盗まれるはずはないが、念のためだ。
騎士団の皆さんに初級ポーションにフルーツ果汁を合成したジュースと焼き菓子を配る。あっと言う間に焼き菓子を食べ終わり、ジュースを飲み終えた騎士の皆さんの物欲しそうな目に負けて、もう一度焼き菓子とジュースを配った。
元気が出るし、美味しかったからね。焼き菓子は、宿のデザートを参考にして精錬したものだ。材料の関係で全く同じ味という訳ではないが、美味しく再現できたと思う。
ここから、騎士団の皆さん16名は王都に戻る。2時間程で帰り着くだろう。僕たちは、フォレストメロウに向かって出発だ。
残り260km程度。人数が減るからスピードを上げることができる。1時間半ほどで村に到着するだろう。
「では、道中気を付けて。」
ブランドンさんが騎士団の皆さんに挨拶している。
「皆さんもお気を付けください。」騎士様が挨拶を返す。
「私共は、皆様をお見送りして出発させていただきます。お先に出発なさって下さい。」
騎士の皆さんが整列して見送ってくれた。
『お気をつけて』
『お先に失礼します。』
挨拶をかわし、僕たちは出発した。
アンディーが先頭、次がブランドンさん、僕、ミラ姉、ロジャー、ウィルさんの順番だ。僕のスピードに合わせて時速180km程で走ると言ってくれた。
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