第79話 魔水晶探し

 今日から2学期。

 僕は、昨日の約束通り上靴だけを持って登校した。


 15分程歩くと学校に着いた。一人で歩いて行ったのって初めてだ。


 校門では、知らない先生が、生徒会の役員と一緒に朝の挨拶をしていた。

 『「お早うございます。」』


 何人もの生徒会役員皆さんが、声をそろえて挨拶をしていた。


 みんなマスクをしているからどんな顔かわからない。


 知っている子いるかな…。


 教室に入るとみんなに注目された。鞄は持たず、持っているのは上靴袋だけなもんんだから目立った。どこの不良だっていう目で見られたりした。恥ずかしかった。


 先生からずっと入院していて、夏休み中に退院して、今日から登校できるようになったことを説明してもらった。


 『「おめでとう。」』

 みんなに退院のお祝いを言ってもらって今日の始業式はおわった。

 (ようなものだった)


********************************************************



 次の朝、朝食後に一日の過ごし方について話し合った。


 「私は、アンディーさんのウェポンバレットが見たい。」とミーシャ様。


 「僕は、ツーリングに行きたい。」とチャールズ様。


 チャールズ様は、湖から少し離れたところにある滝を見に行きたいのだそうだ。そこでは、水晶が見つかることがあって、とっても稀に魔水晶も落ちいてることがあるらしいと言っていた。


 滝に行って魔水晶を探した後、滝の上にある峠から東の方を見て見たいらしい。そこから、僕も見たことがない海が見えると言っていた。天気が良い時だけほんの少し見えるだけらしいけど、僕も見て見たい。


 「希望を聞いてみたらどうかしら。」とミーシャ様。


 「でも、誰の希望ですか?アンディーが、ツーリングに行きたいと言ったらウェポンバレットを見せることができませんよ。」とロジャーが突っ込む。


 「俺は、そんな意地悪言わないよ。」


 「良かったです。」

 ミーシャ様は、本当にほっとしたようだ。


 「では、希望を聞いてみようか。」


 「ロックバレットを見たい者。」


 「できれば。」とブラントン様。

 「はい…。」とウィル様が手を上げようとしたけど、ボールス様ににらまれ手を下げた。


 「うぬ。では、ミーシャ様と私、ブラントンとアンディー。」


 「チャールズ様とドリー、ロジャーとレイ、アメリアとウィル。以上6名がツーリングに行くグループということで宜しいかな。」


 「はい。」


 「隊列は 先頭 ウィル。お主、道は分かっているはずだが大丈夫か?」


 「はい。大丈夫です。でも、ボールス様、ウェポンバレットができるようになったら見せて下さいよ。そして、教えてください。約束ですよ。ブラントンも。」


 二人とも、コクコクと頷いていた。男の約束だ。できるようになれば果たされるだろう。


 「もう一度隊列確認だ。ウィル。レイ。チャールズ様。その右ドリー左アメリア。殿がロジャー。みな、チャールズ様のことは頼んだぞ。一列で移動するときは、アメリアが前に出てドリーとチャールズ様を前後にはさむのだ。いいな。」


 「「はい。」」


 ツーリング組は、軽食などを準備してもらい1時間後に出発することになった。アンディーたちウェポンバレットを練習するグループは、さっそく別荘の西側の正面が崖になっている広場に歩いて行った。


 数分後、ドカーンと言う音が聞こえるとウィルさんが崖の方に走って行っていた。時間まで見学させてもらうそうだ。


 僕たちが出発する時間、ウィルさんがボールス様に引きずられて戻ってきた。


 「もう大丈夫です。気持ちの整理ができました。」


 僕たちは、ボールス様に言われた隊列で出発した。


 「では、行ってまいります。」


 ドリーさんが挨拶して僕たちは出発した。


 ウィルさんが索敵をしながら先頭を走る。時速100km程のスピードで滝がある山に向かった。1時間程走ると滝に向かう山道の入り口に来た。


 ここからは一列で走る。スピードも少し落とす。急な坂道になっているためマウンテンバイクのテクニックが必要になる。前輪も後輪もギヤを落として坂の角度によって変えていく。


 身体強化を使っているからゆっくりという訳ではない。細い山道をかなりのスピードで走って行っている。


 ゴーレムバイクは、前のバイクに遅れないようにバランスを取りながらなるべくスムーズに走ることができるコースを選んで走ってくれる。僕とチャールズ様は、落ちないようにハンドルにしがみつき足を踏ん張っていた。


 ウィルさんがバイクを止めた。


 チャールズ様を中にして前が僕、右にドリーさん、左にミラ姉、殿がロジャーの陣形を取った。


 前からマウンテンベアーが現れた。体調は4mほど、魔物の中では大型の獲物だ。


 ウィルさんが剣を抜くと同時にロックバレットを撃った。射線が通っていたミラ姉は、アイスジャベリンを撃った。


 ロックバレットとアイスジャベリンがマウンテンベアに当たると同時にマウンテンバイクに跨ったまま飛んだロジャーが投げ斧でクマの首を落としていた。


 僕は、クマを収納して血抜きをして魔石を抜いた。素材に分けるのは後からでも良いだろう。


 「ロジャー!何で飛べるんだ!」

 ウィルさんが驚いて固まっていた。


 「変ですよね。ロジャー。」

 僕は、ウィルさんに同意だ。


 「あの大きさのマウンテンベアーを瞬殺するなんて…、貴方たち凄いのね。」

 ドリー様が誉めてくれた。


 直ぐに、隊列を組みなおし滝へと向かった。


 20分も走らせると滝に着いた。マウンテンベアーに会敵した後は、もう魔物には合わなかった。


 ロジャーと僕、ウィルさんで索敵したけど近くには魔物を居ないようだった。滝つぼの方に降りて行って、河原を少し整地して東屋を建てた。


 「チャールズ様、索敵しましたが、この辺りには魔物はいないようですから、水晶探しなさっても大丈夫ですよ。」ウィルさんがチャールズ様に話をしている。


 「ミラ、一緒に魔水晶を探そう。」


 「宜しいですよ。でも、水晶探しの前に何か食べませんか?」


 「うん。少しのどが渇いたもんね。」


 僕たちは、僕が出した氷で冷たく冷やした果物のジュースと焼き菓子でのどを潤してお腹を満たした。


 「じゃあ、水晶さがし始めよう。ミラ。」


 チャールズ様とミラ姉は、水晶探しを始めた。


 僕たちは護衛をしながら東屋で雑談をしていた。


 誰か一人は必ずミラ姉とチャールズ様のそばに立って索敵をしている。何異常があったら、大きな声を出して護衛の陣形を組むことができるように。


 「あった!」チャールズ様が大きな声を出した。


 「みんな、魔水晶があったよ。見て見て。」


 僕は、チャールズ様が持ってきた魔水晶を収納してみた。


 「残念ですが、これは魔水晶ではなく、黒曜石という石のようです。」


 チャールズ様が持ってきた石を返して教えてあげた。黒くてピカピカ光る石だった。


 「ええっ…。魔水晶だと思ったのに…。」と言いながら、直ぐに水晶探しに行ってしまった。


 (可愛い王子さまだな…。)


 2時間位水晶探しをしていた。魔水晶は見つからなかったけれど、4個ほどの水晶が見つかった。


 アイテムボックスの中に魔水晶が入っていればサーチで見つけることができるけど名前だけじゃ見つけられなかった。

 (一応やってみた。)


東屋に二人が戻って来た。


 「冷たいジュース、お飲みになりますか?」

 チャールズ様に聞いてみた。


 「うーん。お願い。」


 「じゃあ、私も。」とミラ姉が言うとみんなも飲むと言い出し、全員分のジュースに氷を入れてあげた。勿論、僕も飲んだ。


 東屋で少し休憩して、峠に向かうことにした。


 東屋を収納して山道まで歩いて行った。


 一列の隊形で山道を下る。スピードを押さえないと道を外れて崖から落ちてしまいそうだ。ロジャーは、落ちても全然平気なのだろうが他はそういう訳にはいかない。


 ウィルさんもドリーさんもすごいスピードだけど安全運転だ。ミラ姉は、言わずもがな。ゴーレムバイクは、安全速度一杯で走っている。

 (少し怖い。)


 チャールズ様は怖がっていない。

 (なんか負けた気がする。)


 下りは、速かった。峠まで続く道に戻のに20分だった。


 峠までは、つづら折りにはなっていたが、比較的広く走りやすい道だった。右に左に大きく車体を傾けながらバイクは坂道を登って行った。


 平均時速は、50kmを超えていたのではないだろうか。馬車なら2日がかり、馬でかけても丸1日はかかる道のりを1時間30分ほどで駆け上がって行った。


 峠には、宿泊もできる食堂と馬車止めの広場、展望所があった。


 僕たちは、バイクを降りて展望台に歩いて行った。


 峠を降りて森を超えれば国境だ。間に横たわる森は、とっても深く大きい。この峠の道はこの国を守る道でもある。途中で消える道である。


 森を守るのは、魔物たちAランク、Sランクの魔物たちなのである。強く大きすぎる魔物たちは、この峠に続く道を登ってくることができない。この道は、途中、細く深い谷底を通るのだ。森の魔物は、そこを通り抜けることができないのだ。


 深い森の先、国境の先、草原の先をこの展望台から見ることができる。

 そこには、丸く青い線が見えていた。その線の手前に広がっているのが海だ。


 僕たちが行くには、高く切り立った山を越えていくか、この道の先の森を超えていくしかない海だ。僕たちの国は、この森と切り立った山に守られている。


 「あの森を超えていつか海に行ってみたいな。」ロジャーが呟く。


 「あの森の先の国はどんな国なのだろう。見えるのに行くことができない国。トモマクガサ。」

 隣の国を初めて見たチャールズ様も呟いていた。

 多分お勉強なさったのだろう。小さいのに隣の国の名前も知ってる。


 展望台に30分ほどいただろうか。時計を見ると3時40分になっていた。


 「帰りましょうか?」

 ミラ姉がチャールズ様に話しかけた。


 「うん。」

 

 僕たちは、一列隊形で坂を駆け降りる。やっぱり速い。怖すぎる。


 索敵をかけているけど魔物は僕たちに追いつくことはない。全ての魔物やもしかしたら山賊さえも置き去りにして駆け抜けていった。


 上りに1時間30分かかった道のりをわずか50分で駆け下りてきた。そこから1時間で別荘に到着した。


 『5時20分』


 アンディーたちは、湯あみも済ませて部屋でくつろいでした。


 心配するといけないから、山道が終わった時、ドローンを飛ばして5時20分位に別荘に着くと手紙を送っていたからだ。

 

 僕たちが湯あみを済ませて部屋に戻ってゆったりしているとメイドさんが食事の準備ができたと知らせに来てくれた。


 夕食は、お互いのグルーで見たことや楽しかったことなど報告しあいながら頂いた。楽しく、美味しい食事だった。


 明日、朝食後には、王都に向かって出発する。楽しかった2泊3日の休養の時間は終ってしまう。



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