第78話 ツーリング
女騎士様は、チャールズ様の専属騎士だ。
「チャールズ様の護衛兼指導の任を賜っております。オードリー・マーティンと申します。御指導、よろしくお願いいたします。」
ちょっときれいで、カッコいいお姉さんだ。
みんな少し引いていたが、ちょっとだけ敵わないなと思ってただけ。けっして嫌いなタイプの人ではなかった。
「よろしくお願いします。アメリアと申します。皆には、ミラと呼ばれています。オードリー様もそう呼んで頂ければ嬉しく思います。」
「では、そう呼ばせてもらうわ。ミラ。私のことは、ドリーと。長ったらしい名前だといざという時、遅れてしまうでしょう。」
なんか良い人そうだ。
「俺は、いや、ええっと、私は、ロジャーです。」
「私は、アンディーと言います。」
「僕は、レイです。」
「みなさん、よろしくお願いします。ドリーです。」
「お前たち、何やってるんだ。隊形を発表するぞ。」
「先頭、ブランドン。その後ろ、ロジャー。チャールズ様。その右横、ドリー。左横、アメリア。チャールズ様の後ろ、ミーシャ様。ミーシャ様の右横、アンディー。左横、レイ。ミーシャ様の後ろが私。私の後詰め、ウィル。では、隊列を組め。」
「「「「はい。」」」」
僕たちは、言われた順番に並んで、バイクに乗車した。チャールズ様のゴーレムバイクはドリー様が、ミーシャ様のゴーレムバイクは、ボールス様が出して並べてくれた。
「門までは、並足スピードで進む。歩行者に気を付けて進むように。騎馬隊、門まで露払いを行え。良いな。」
『ハッ。』
騎馬隊とバイク隊に囲まれている王子様と王女様。並足スピードで進んでいる為、瞬く間に人垣ができ、たくさんの人に見送られるように進むことになった。
なんか恥ずかしい。
王都の門に着くと騎馬隊が横一列に並び僕たちを見送る。その後ろからたくさんの人たちが手を振って見送ってくれた。
先頭のブラントン様がスピードを上げる。
時速30km位になっただろうか。少し振動は強くなったけど、風が心地よい。
大きな声を出せばかろうじて話ができる位のスピードだ。
「皆さんが、運転とスピードに慣れるまでこの速度を維持します。」
「はい。」
ミーシャ様とチャールズ様が大きな声で答えた。
「小鳥が飛んでいます。でも、私たちの方が早いかもしれません。」
王女殿下がアンディーに話しかけている。
「いえいえ、まだ、小鳥の方が早いと思いますよ。でも、もう少ししたら私たちの方が早くなります。楽しみにしていてください。」
アンディーも楽しいそうだ。
「皆さん。スピードには慣れてきましたか?もう少し速度を上げてもいいでしょうか?」
「「はい。」」
ミーシャ様とチャールズ様が、答える。
「速すぎて怖いと思ったら、右手を上げてください。止まれの合図は、皆様に私の手の平を見せて合図を送ります。」
「私に合図を送るのは、ドリー様とアンディーです。お二人の合図を気にしておいてください。」
「「了解した。」」
確認の後、ブラントン様がスピードを上げ始め、時速50km程のスピードになった頃、加速を一段落した。
ハンドルから伝わってくる振動は強く激しくなったが、二人とも右手を上げることはなかった。
この位のスピードになると風の音で話し声は聞こえなくなる。ゴーレムバイクは、振動と揺れを吸収し、安定した走りだ。
ドリー様がその様子を見てブラントン様が見える場所まで移動し、もっとスピードを上げるように指示した。
ブラントン様は、更にスピードを上げた。お二人の手は上がらない。
時速100km。その速度で10分程走った時、最初の目的に着いた。
「モリンフェンの丘です。」
その名の通り丘だ。丘の上だった。走って来た方向に小さく王都が見える。
時計を見ると12時30分。
馬車で5時間の距離を40分で走ったことになる。
そう高くない丘だったが景色が良かった。
緑の草原と少し小さくなった王都。白い壁に囲まれた王都がきれいだった。
少しの時間、丘からの景色を見て、水分を補給して出発することになった。
「では、先ほどの速度で走り続けます。後1~2時間でグリーンレイクの保養地に到着すると思いますが、途中の休憩は必要でしょうか?」
「では、1時間走って到着しなかったら休憩を取るということでどうでしょうか?」
アンディーが提案した。僕たちもどのくらい時間がかかるかわからないからだ。
「それなら、ブラントン様に時間を測る道具をお貸ししましょうか。」
「そのような道具があるのか?時間の進み具合は、太陽の高さで大体わかるが、正確に時間が分かる道具があるなら助かるな。貸してくれるか。」
「はい。どうぞ。」
僕は、時計を精錬して時刻を合わせるとブラントン様に手渡した。
「おお。不思議な道具だな。かたじけない。お借りする。」
ブラントン様は、時計の味方を確認するとバイクに跨った。
「では、皆さん出発します。準備は宜しいですか?」
「「はい。」」
ここからは、あっという間だった。景色を見ながらゆっくりという訳ではなかったが、快適なツーリングだった。
時々、魔物の姿も見たが流石に保養地となっている場所までの整備された道だ。見かけただけで戦闘になることなどなかった。
1時間で保養地までついてしまった。
王族用の別荘に荷物を降ろし、1時間程休憩した後、湖の周りを一周ツーリングすることになった。湖一周すると50km程度。
ロジャーが先頭、ドリー様がその次、チャールズ様とミラ姉が並んでその次、ミーシャ様とアンディーがその次、その後ろにボールス様。最後が僕と言う順番が言い渡された。
騎士の皆さんは、先駆けと後詰めだ。
湖からの風が心地よかった。
湖のそばには、きれいな道が岸辺に沿うように通っている。景色を見ながら馬車で走ることができるようにだ。
馬車であれば、1日かかる距離の道だ。
その道を8人で走った。ミラ姉とチャールズ様は、魔術の話や今までの冒険の話。
二人の話に時々ドリー様が入っていた。
ロジャーは、時々ドリー様と武器の話をしたらしい。僕にまでは聞こえなかったけど。
アンディーとミーシャ様はクリエイト魔術の話で盛り上がっていた。その時、ウェポンバレットの話を出したものだからボールス様が食いついてしまった。
笑顔や驚きの声、笑い声で一杯のツーリングだった。
僕も、クリエイトの魔術の話に参加したり精錬魔術の話をしたりして楽しんだ。
湖1周2時間弱のツーリングは、あっと言う間に終わってしまった。
別荘に着いた時刻は、4時40分。
「もうすぐ夕食の時間になります。湯浴みをした後は、お部屋でお休みください。夕食の準備が出来ましたらメイドがお声を掛けますゆえ。」
部屋は一人一部屋与えられた。家の中で一人で過ごすなんて何日ぶりだろう。
宿では、男は全員同じ部屋で過ごしているから。
夕食の時は、今日見た景色の話題が中心だった。走っている時は、会話ができないから、後から感想を言ったり、確認をしたりすることが楽しかった。
自分しか気づいていない景色や出来事もあったりして、それをお互いに知らせ会うことで、同じ道を走るでも楽しみが広がようだ。
帰り道が楽しみになった。
食事が終わった後は、グループになって色々な話をしていた。
ミーシャ様は、クリエイトの魔術を上達したら、どうしてもウェポンバレットをやってみたいといって、アンディーにウェポンバレット見せろとせがんでいる。
ロックバレットができる騎士もアンディーのウェポンバレットに興味津々のようだ。
「マジックバッグの中の材料で武器をクリエートできるようになったら、ロックバレットができるようになるかもしれません。」
アンディーは、自分が練習したことをみんなに話して聞かせていた。ロックバレットができても、クリエートができない騎士は、王女殿下にクリエートのコツを聞いていた。
チャールズ様は、エマ姉にべったりだ。エマ姉もまだ小さいチャールズ様を可愛がっていたから二人とも楽しそうで良かった。
ワイワイと楽しい時間はあっと言う間に過ぎていき、解散してそれぞれ部屋で休むことなった。
とても楽しい時間を過ごした僕たちは、次の日が始まるのが楽しみだった。
部屋に戻って、ベッドに入った。
王族のお二人も騎士様方も気さくで良い方々で良かった。楽しかった。
今日一日外で過ごした疲れの為か、直ぐに眠りに吸い込まれていった。
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