第37話 金貨941枚

 朝一でコテージを引き渡し、新ダンジョンを出発した。


 アンディーたちには余裕の時間だったようだが僕にとってはバタバタだった。 碌に朝食も食べることができないくらい急がされた。


 だから、町に向かって森を歩いていている時お腹が空いていた。


 「アンディー、木の実取ってきてくれない?お腹が空いたよ。」


 「おっ!指名依頼か?ギルド依頼は終了したから受けてあげていいぞ!銀貨3枚でどうだ?」


 普段は、優しくまじめなアンディーが絡んできた。珍しい。ギルド依頼が終了したことで、よっぽど気が楽になったんだろうな。


 「もう、アンディったら。意地悪言ってないで探してきてあげなさいよ。」


 ニヤリと右ほおだけで笑うとアンディは森の中に消えて行った。


 「レイがなかなか起きないから朝ご飯お腹いっぱい食べられなかったのでしょう。携帯食でもかじっていたら?」


 「あれ、あんまりおいしくないし…。お腹にはだんだんたまってくるけど顎が疲れて…。ねえ、ロジャーそう思わない?」


 「レイは、顎の鍛え方が足りないんだよ。冒険者続けるなら顎も鍛えないと、いざという時、食えないぞ。」


 「いざという時、何を食べるの?」


 「なんでもさ。」

 とロジャーは、手を広げる。


 その手にはいつの間にか頭が落とされたポイズンスネークが握られていた。


 「レイ、お前のアイテムボックスでこいつの処理と美味しい調理をしてくれないか?」


 「あれ?いつの間に仕留めたの?ええっと、処理はOKだよ。でも調理は自信ないな…。」


 僕は、蛇を受け取り毒袋と魔石の取り出しをした。近くにいた先輩冒険者にポイズンスネークの美味しい調理法を聞いてみたけど誰も知らなかった。


 「ロジャー、蛇の死骸捨てちゃうよ。」


 「待て、待ってくれ。どうにかできないか考えてみるからもう少し持っていてくれ。」


 ロジャーは、この前からポイズンスネークの死骸をポイポイ森の中に捨てているのが気にかかっていたらしい。貧乏性なのか環境への配慮か良く分からない。


 30分もしないうちにアンディーが抱えきれないほどの木の実を持って戻って来た。


 「群生地を見つけてな。マジックバッグ持って行けば売るほど採集できるぞ。」


 「じゃあ、私とアンディで採集してきましょう。採集した物をレイのアイテムボックスに移せば長持ちするでしょう。沢山あって困るものじゃないし、この際だからできるだけたくさん採集しましょう。」


 ブラックベリーとレッドベリー、ベリー系の木の実が数種類手に入るようだ。モモに似た木の実もある。


 初級冒険者にとって木の実は自分たちの食料としても町で売って臨時収入を得るにしてもラッキーな獲物だ。そのまま見逃す手はない。


 「じゃあ、行ってらっしゃい。あっ、そしてありがとう。」


 ロジャーと僕はアンディから木の実を受け取って、食べながら歩いた。やっぱり美味しいな。


 木の実があれば、携帯食なんていらないよ。


 2時間くらいしてミラ姉たちは戻って来た。本当に持ちきれないほどの木の実を採集してマジックバッグに一杯入れてきた。


 僕は、それをアイテムボックスに移した。これで腐ることも痛むことも心配しなくて良くなる。


 昼過ぎには町に着いた。


 僕たちは一旦冒険者ギルドに集合し、ギルド依頼中の採集物や獲物を買取カウンターに預けた。


 僕が出したのは10000個を超えるくず魔石だ。あまり小さいのは後で返してくれると言っていた。


 というか、お金にならないくず魔石は引き取りたいと言っておいた。ポーション瓶の材料になるから大量に必要なのだ。


 受付係のお姉さんは、あまりの数に少しげんなりした顔をしていたが、今回のギルド依頼の査定にも必要なはずだから小さいくず魔石まできっちり査定してもらわないといけない。


 「他には、持ってきているものはありませんか?」


 「在りません。僕たちは、ダンジョンの中には入っていないので…。ゴブリン集落の殲滅作戦の時に手に入った魔石だけです。」


 「では、査定が終わるのは、明日になりますので、今日はお帰りになって結構です。明日、昼過ぎには、もろもろの分も含めて査定が終了していると思いますから、今日はゆっくり休んでそのくらいの時間にいらしてください。預け渡しの書類にサインを忘れないようにお願いしますね。それから、ギルド依頼の依頼料は、今日お渡ししますからリーダーのアメリア様は、受け取って帰ってください。ギルマスの指示で報酬には少し色を付けておきましたよ。ご苦労様でした。」


 「金貨2枚。これって中級冒険者並みの依頼料よ。」


 ミラ姉たちは嬉しそうだ。そりゃそうだ。まだ、初級冒険者のアンデフィーデッド・ビレジャーは、ギルド依頼で金貨を稼ぐなんて夢のような話なのだから。


 「じゃあ、何か美味しいもの食べに行こうぜ。」


 「だめよ。これは、冒険者資金に溜めるお金よ。次は、ダンジョンに行くんでしょう。今の装備じゃまだ、心許ないのだから。」


 「でもさ、ミラ姉、この後また、参加者全員に報奨金が出るってギルマスが言っていたでしょう。だからさ…、少しだけで良いからお祝いしようよ。ご馳走食べよう。」


 僕は、精いっぱい甘えてみる。末っ子の特権!姉は末っ子に甘いはずだ。


 「うっう…っ。しょ…、しょうがないわね。今回は特別。特別だからね。銀貨3枚までよ。それまでなら出しましょう。じゃあ、アンディとロジャーで場所見つけてきてくれる?私は、宿取ってくるわ。レイは、調剤ギルドに呼び出されているのでしょう?宿を取ったら教会に行ってシャルたちの様子を見てくる。レイも調剤ギルドの用事終わったら教会へいらっしゃい。ロジャーたちもお祝いの場所決めたら教会で落ち合いましょう。」


 僕たちは、それぞれの用事を済ませるために町に散らばっていった。僕が向かったのは調剤ギルドだ。


 (指名依頼を出す前行ったきりだっけ?何日前になるんだろう?まだ、約束過ぎていないよね。)


 そんなこと考えながら調剤ギルドに入って行くと直ぐに受付のお姉さんがやって来た。


 「ようこそいらっしゃいました。では、ギルドマスターの部屋へおいで下さい。」


 「レイ様、今日はお約束の物の納品に来ていただいたのでしょうか?」


 「上級状態異常解消ポーションだったけ?」


 「そうです。それを10本です。大丈夫ですよね。」


 「大丈夫です。ここに出して良いですか?」


 「ちょっと待ってください。ポーション保管箱を持ってきてください。」


 受付のお姉さんがドアから駆け出し、大急ぎで保管箱を持ってきた。


 「アイテムボックス・オープン」僕は、声に出してアイテムボックスからポーションを10本取り出した。


(後、85本以上入ってるんだけどね…。)


 「もう何本か余裕があるのですが、何本引き取ってもらえますか?」


 僕は、思い切って聞いてみた。


 「何本でも引き取ります。予約は、すでに100本以上入っているのです。緊急の依頼だけであと20本。命にかかわる状態異常です。」


 「では、後、25本、合計で35本納品させていただきます。」


 「あっ、ありがとうございます。これで今晩から眠る…ことが、できます。急いでポーション保管箱をもう一つ持ってきて下さい。」


 直ぐにアイテムボックスを開き、勿論口に出してだ。まず10本の上級状態異常解消ポーションを出す。さっき持ってきてもらった保管箱に20本詰めてもらい鑑定してもらう。


 次の保管箱が来た。直ぐに残り15本のポーションを納品した。


 合計で35本、今までで最高の取引額になる。一本金貨20×35 で金貨700枚。


 一財産だ。こんなに簡単にお金を稼ぐことができるならお金のための冒険は必要ない気がする。


 ただ、こんなにお金を持っていることは公にはできない。命がいくらあっても足りない。僕は、あまりに弱すぎる。


 「代金は、ギルドカードに振り込みでお願いします。」


 でも、銀貨にしておかないとどこでも使うことができない。僕は、アイテムボックスの中を覗い見た。銀貨がまだ38枚入っている。


 その内3枚をロジャーに渡して今日のお祝いに使ってもらおう。


 でも、ギルドカードに入っている金貨の数とアイテムボックスの中の金貨の数、覚えておかないといけないな…。


 ギルドカードに金貨800枚 アイテムボックスには139枚だ。銀貨や銅貨もアイテムボックスの中には入っているが金貨139枚と冒険者ギルドに今日貰った金貨2枚。今日の所持金は金貨141枚。


 ミラ姉から許してもらった銀貨3枚と僕が出す銀貨4枚。それを出しても銀貨は、まだ20枚以上残るはず。


 後、金貨59枚で金貨1000枚になるのか。


 やっぱり、このままじゃ、命がいくつあっても足りないかも。




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