第33話 キャンプ地創造
一杯寝た。入院していた時以来の長さだった気がする。
太陽はすでに山から登り切っていた。小鳥の囀りがにぎやかだ。
キャンプ4日目、今日も良い天気になりそうだ。テントの外に出て草刈り場を散策する。所々土を掘り返した跡があった。
多分、父さんがやったのだろう。この山では、粘土が取れるはずって言っていたから…。やみくもに掘って見つかるのかな…。
粘土のサンプルがあればこの辺りから見つけることができる気もするけど残念ながらサンプルもない。父さんに粘土も買ってきてもらわないといけないな。
草刈りと大きな石なんかの取り除き作業が済んだばかりのこの丘陵地は、土の茶色だけで植物の緑はない。
造園業者が来て芝を植えたり木を植えたりするのだろうが、あまりに味気ない景色になってしまった。それに乾燥すると土埃が舞いそうだ。
そうだ、芝の種を買ってきてもらおう。体力回復ポーションと一緒に蒔いたら元気に根付くかも知れない。
いや、きっと根付く。僕は、芝の種を買えるだけ買ってきて欲しいと父さんにお願いすることにした。
「玲~っ!お早う。」
母さんだ。母さんも早起きだ。
僕が寝た後、さすがにこんな場所じゃすることもなかったんだろう。早く寝たんだろうな。
「お早う。」
僕はテントに戻っていった。
「父さんにお願いして欲しいものがいくつかあるんだ。一つは鉛筆。二つ目は鉛筆削り器…片手に持って鉛筆を中に入れてぐるぐる回して削る奴。鉛筆は、外側に塗料がない方が良いな。三つ目は、できるだけ大量にだけど西洋芝の種。実験したいことがあってさ。後、簡単に手に入るのなら鉛筆の芯の材料。もしも手に入るなら粘土を少しこんなもんかな。」
「ちょっと待って、整理してメールで送るからまず、木目の鉛筆、鉛筆削りプラスチックじゃないのが好都合、西洋芝の種(できるだけたくさん)、鉛筆の芯の材料、粘土(少し)。と鉛筆の芯の材料を調べてみるわ。」
母さんは、グ〇〇ル先生に聞いている。
「鉛筆の芯って黒鉛と粘土、油でできているらしいわ。」
「油って食用油で大丈夫かな。」
「何の油か説明してるページがなかったからはっきりわからないけど滑りをよくするためらしいから手持ちの油で大丈夫じゃない。」
「トライアンドエラーだね。で、黒鉛って何?」
「黒い色をした炭素を含んだ鉱物のようね。どこにでもあるかと言うとどうでしょう…。まあ、探してもらいましょう。なければ精錬してみたら。材料は炭素と水素だけみたいよ。」
鉛筆を精錬してうまくいけば良いのだから、なくても鉛筆が作れるなら向こうで作れる可能性が高くなる。
3時近くになった頃、父さんが戻って来た。
西洋芝の種は10万円分買ったそうだお店の人にゴルフ場でも作るのかと聞かれたとか。笑ってごまかしたんだと。
今からやることは芝生再生実験だ。鉛筆の精錬はその後でも十分できるはず。
母さんは、父さんと一緒に試薬や実験器具を整理していた。試験管やビーカー、ロート、ロート台、ガラス棒…。沢山だ。
僕はその間に芝の種を水に浸していた。吸水は物理現象だからアイテムボックスの中でも進めることができる。短時間で。
その水には回復ポーションを5ℓ程溶かし込んでいる。5分ほどで吸水進めることをやめ、父さんと母さんのところに行った。
「今からこの辺りに芝を植えようと思うんだ。だから荷物をいったん収納するけど良い?使い続けたいものがあったら教えてね。」
「テントはどうするの?」
「テントは、今晩も立てておかないといけないから収納しないよ。」
「そうよね。じゃあ、整理が終わっていないものはテントに運んでおくわ。」
しばらくして、荷物の移動が済んだと父さんが伝えてきた。僕は、テーブルやバーベキューコンロや台所道具など全部収納した。テント一つ残して周りは茶色の丘陵地だ。
「ウォーター・シャーワー」
この山に登ってくる途中の沢で収納した水を撒いた。
丘陵地の色がこげ茶より黒っぽい色に変わった。土を十分に湿らせた後に給水を済ませた西洋芝の種を蒔く。
浸っている水と一緒に丘陵地全体にまんべんなく蒔くイメージで、水に乗せて運んでいく
「ウォーターミスト・種を運べ」
丘陵地全体に霧がかかり、下に沈んでいくと直ぐに晴れた。真夏の午後だというのに少しひんやりとした。
次は種を撃ち込まないといけない。もう一度回復ポーション入りのウォーター・シャワーだ。
「ウォーター・シャワー。」
勿論ミネラル十分の沢の水を使った。
「終わった!」
やり遂げた僕は満足感で一杯だ。
何か、大地創造を行った気分だ。まあ、見た目は、水播きをしただけなんだけど、丘陵地から水と一緒に種が流れ出さないようにする、その加減が難しかった。
「何が終わったんだ?」
父さんが聞いてきた。
「さっき買ってきたばっかりなのに?種蒔きの手順色々めんどくさそうなことが書いてあったぞ。」
「うん、でも面倒だったから、精錬でやってみた。」
「10万円分だぞ…。」
「それに、テントを張っているスペースの分の種は残しているから大丈夫だよ。」
僕は、種をポケットから取り出して見せた。
「9万9千5百円分だぞ…。」
一袋五百円だったらしい。律儀な父である。
鉛筆の精錬は、すぐにできた。材料の組成と実物があると簡単にできるらしい。
実物がない向こうの世界での精錬がうまくいくかどうかは、向こうのレイの想像力次第だろう。もしかしたら鉛筆は向こうの世界にもあるかもしれないし。
次は、情報交換手段の確立だ。アルケミーで作ると情報がコピーされるから異世界へ送ることができる。
紙一枚でやってみるか。
手帳の1ページ目を切り取り鉛筆の使い方と鉛筆削りの構造と使い方をイラスト付きで書いた。
その後、今やっていることを簡単に説明して、異世界の状況を知らせてほしいと書いておいた。
この手紙に返事が来るのはいつになるかわからないけど、返事が来れば対応はしやすくなるだろう。
これは、僕から僕への手紙だから日記みたいなものだな。自分自身に近況を尋ねるなんて変だけど分からないものはしょうがない。
昨日はとっても物騒な魔術を大量に使ったことは分かるから魔物と戦っているのかもしれない。命は大切にしてもらいたいものだ。何せ、多分僕の命もかかっているのだら。永遠に眠れなくなるのも目が覚めないのも致命傷だ。
書き上げた僕への手紙をアイテムボックスに入れ、情報付きで元の手帳にリペアする。
これで文章が書きこまれたダイアリーがアイテムボックスの中に記録されたはずだ。
できるだけ早く返事が欲しいけど向こうの僕はいつこの手帳に気付くだろう。
昨日の夜はカレーだけの簡単キャンプ飯だったから、全員集合した今晩は、豪華だ。ザ・バーベキュー!海鮮もあるでよ!お腹いっぱい食べた。そして、寝た。
でも寝る前に実験用テーブルを作成させられ、実験器具を並べるのを手伝わされた。それでも7時過ぎ、暗くなる前に眠気に襲われた。
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