第30話 初級回復ポーション
「レイ、起きて。起きて頂戴。」
ミラ姉の声だ。体がゆすられている。
「ん…?何…。」
僕は少し寝ぼけ声で応えた。
「起きた?目が覚めたの?」
「うん。目が覚めた。何があったの?」
「夜襲よ。キャンプがゴブリンたちに襲われている。」
「ロジャーたちは?」
「コテージの外で撃退中よ。このコテージは、今のところ安全。ロジャーたちは、このすぐ側から離れないようにしているから危ないようなら避難してくるはずよ。」
「で、僕は何をしたらいいの?何かできることがあるから起こされたのでしょう。」
「そう。今回の夜襲は、全員無傷で乗り越えることはできないようなの。既にたくさんの怪我人が出ているみたい。Cランク以上の冒険者の集団だから死者が出るようなことはないとは思うけど…。でね、レイには回復ポーションをできるだけたくさん作ってもらいたいの。ただし、みんなに配って怪しまれない程度の効果の物。できる?必要な素材があるのなら夜が明けてしか手に入らないとは思うけど急いで取りに行くわ。全速で走れば村まで往復2時間はかからないから。」
「大丈夫、この前の素材採集で手に入れた分の薬草や魔石で足りると思う。ただ、できるポーションは上級になってしまうんだよね。調剤ギルドで金貨10枚で卸している回復ポーションだから小売り値になるといくらになるのか分からないんだよ…。これを、ポイポイ出すのはまずい気がするし…。」
僕は、どうしようかと思案しながらアイテムボックスを開いてみた。
「あっ、初級ポーションを作ることができるようになっている。」
僕は、新しく精錬メニューの中にできていた初級回復ポーションを精錬してみた。
水にほんの少しエメラルドグリーン色がついている液体ができていた。必要だった素材は薬草数本だけ。それだけで1ℓ近い初級回復ポーションができていた。
「ミラ姉、初級ポーションができた。1ℓ作ったけどどのくらい必要かな?」
「できるだけたくさんって言いたいところだけど差し当たって樽1杯分もあれば足りると思うわ。私のヒールも使えるから。」
(樽1杯ということは、どのくらいかな…。500ℓもあれば大丈夫かな?)
「アルケミー・初級回復ポーション500ℓ」
「ミラ姉、できた。何に入れておけばいいかな?」
「水袋に入れておいて。ロジャーが持ってたのがそこにあるわ。魔物の皮が素材だから入りきれない分は、水袋作ってくれる。」
「分かった。でも、そんなにたくさん作れるかな。」
「ロジャーのがそこにあるのだから、あと一つも作れば十分でしょう?」
「え~っ。だってその水袋10ℓも入らないじゃない。後49個は作らないと…」
「あんた、酒場のワイン樽って20ℓも入ってないでしょう。いったい何ℓ作ったの?」
「酒場の樽ってあのテーブル代わりの奴でしょう?だから少なめにして500ℓ」
「違うわよ。お祝いの時なんかにみんなで飲むむワイン樽よ。テーブルの上に置いてある。大体、500ℓも何に使うつもりなの。怪我人を風呂みたいに中に入れる気なの?」
「まあ良いわ。水袋三つ作って。私たち4人で手分けして怪我人の治療に回りましょう。そろそろゴブリンの撃退、終わってきたみたいよ。戦闘音が森の方に移って行っているわ。」
僕は、水袋を収納すると3つ続けて精錬した。同じくらいの大きさの水袋が4つになった。
飲み口は木でできていて、蓋も木だ。中に回復ポーションを移動させ、回復ポーションでパンパンに膨れた水袋が4つできた。
「準備できたよ。」
「周りの気配に気を付けてね。結界を外して外に出るわよ。外に出たらすぐにコテージを収納して。気配確認…。大丈夫!」
「了解。」僕も気配を確認して結界を外して外に出た。
(コテージ・収納)
コテージは、スッと消え、後に地下避難用の穴だけが残った。後で使うかもしれないからそのままにしておく。
「ロジャー!アンディ!」
ミラ姉は、小さくて鋭い声で二人に声をかけた。戦闘態勢のままコテージの周りに身を伏せていた二人が僕たちの方にやって来た。
「レイが回復ポーションを作ったわ。今から私たち4人で救護活動に入りましょう。襲撃の撃退はほぼ完了したようだから冒険者の拠点の方に行っても大丈夫だと思う。まずは、4人そろって移動よ。」
僕たちが拠点の方に移動すると一番大きなテントの方に怪我をした冒険者が運ばれていた。僕たちはそのテントに走っていった。
中に入ると手足の欠損等の大怪我の人はいないようだったがそれなりに大怪我の人が何人もいた。
「おう、君たちは大丈夫だったか。少し離れた場所に拠点を作っていたようだったから心配していたんだ。」
ギルドマスターが僕たちに声をかけてきた。
「ご心配かけました。何匹か拠点の近くに来ましたが数が少なかったので何とか撃退することができました。私たちは、レイが作った回復ポーションを持っているので皆さんの治療に当たりたいと思っているのですが、許可をいただけますか?」
「そうか!回復ポーションの手持ちがあるのか。それは、ありがたい。では、すぐに治療をお願いできるか。勿論治療費はギルドで持つ。町へ戻ってになるが治療費は必ず払うから頼むぞ。」
僕たちは、水袋の回復ポーションを傷に振りかけたり、飲ませたりとふんだんに使って怪我の治療をしていった。
そのままではただでは済まないような大怪我からちょっとした切り傷まであっと言う間に治癒されていった。襲撃での怪我の為、殲滅戦に参加が難しそうだった冒険者も完全に回復していた。
それでも水袋の中に余っていた回復ポーションは、撃退戦から帰って来た冒険者にカップに一杯ずつ飲ませた。全員戦闘前よりも調子が良くなったと大喜びだった。
そんな初級回復ポーションとは思えないほどの効き目のポーションを水のように使う僕たちをギルドマスターは、口をあんぐりと開けてみていた。
「ちょっと待てー!お前たち、そんなポーションの使い方をしていくら請求しようと思っているんだ。どんなに効き目があっても、法外なお金は払えんぞ!」
「ミラ姉、いくら請求するつもりなの?」
僕は素直にミラ姉に尋ねた。
「知らないわよ。初級ポーション30人分で良いんじゃない!」
「しょ、初級ポーションなのかこれ?これだけ使ってもらって銀貨15枚…、でいいのか?」脱力したギルドマスターが尋ねてきた。
「はい!毎度ありがとうございます。」
僕は、笑顔で答えた。
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