第29話 コーシェン…威圧魔術
もう、草刈りと言う名の素材採集ができる場所はなくなってしまった。
鳥獣保護区になっているこの辺り一帯は、野生動物の狩りをすることはできない。
では、何をするか。実験だ。アイテムボックスと精錬魔術を使う実験をいくつも思いついた両親は実験三昧を熱烈要望中だ。
何しろ実験と道具から作ることができるという夢の環境らしい。
「それにしても、ビーカー、試験管、試験管立て、試験管ばさみ、シャーレ、ガスバーナー、三脚、ピンセット、ロートなんか欲しいわね。」
「君の御用達の教材屋で一つずつそろえてもらおうか?電話して今から向かえば今日中にはそろえて戻ってこれるんじゃない。」
「電話する!お父さん貰ってきてくれる?」
「えっ?僕一人で?みんなで行くんじゃないの?」
「え~っ、一緒に行ったら今日は実験できなくなるじゃない。」
「僕も、玲と実験したいよ。じゃあ、実験道具はいいや。ねっ。」
「ゆ・う・き~さ~ん~。」
「はっはい。」
「お願いできま・す・かぁ。」
「はっ、はい。」
「ありがとう。うれしいわ~。そっ、試薬も頼んでおくから一緒に買ってきてね。お・ね・が・い。」
「は…、はい。」
お父さんは、すぐに出かけて行った。母さんは父さんを見送ると直ぐに教材屋に電話した。
(普通、電話して出発だと思うのだけど逆でも平気なんだな…。母さんのお願いに失敗はないのか…。)
「ねぇ…、母さん、さっきのお父さんにやったやつ、不思議な力だね。」
「えっ?何のこと?」
「「ゆ・う・き・さ~ん~。」ってやつ。
僕のこの辺りに同じようにしてくれない。」
僕は、アイテムボックスを開いて指さしながら母にお願いした。
「不思議な力なんかじゃないと思うけど、良いわよ。そこに向かって同じように説得すればいいのよね。」
「れ・い・く~ん~。」…。
「これで良いの?」
アイテムボックスを開いてみると『コーシェン』の魔術が増えていた。
後で精錬をしてみよう。
「ねえ、玲。一つ試してみない?」
「何を?」
「水の電気分解というか、水の分解。あなたのアイテムボックスの中でエネルギーが必要な化学反応ができるのかどうか。」
「電気分解は分かるよ。実験したことあるから。水酸化ナトリウムを溶かした水に電気を通すと、ブラス極側に酸素、マイナス極側に水素が発生する反応が起こるんだよね。それが、水の電気分解。それとエネルギーと何の関係があるの?」
「水と水素と酸素は違う物質なのは分かるわよね。」
「そりゃあ分かるよ。水は常温では液体で中性。沸点は100℃融点は0℃。分解された酸素も水素も気体。水素は燃える。酸素は物を燃やす性質がある。そのくらいは知ってる。そのこととエネルギーが関係あるの?」
「水素と酸素を混合してきっかけの火を近づけると燃える。一度火が付くと水素がなくなるまで燃え続けて水ができる。混合気体だと一瞬で燃える。爆発ね。そして、燃焼や爆発の結果熱が発生する。燃えてるわけだからね。」
「熱と言うのはエネルギーのことなの。つまり、水素と酸素は化学反応つまり燃焼してエネルギーを発生するの。さて、電気分解は?」
「電気分解は電気を流しているときだけ起きるよね。電気を流すのをやめると分解はおわる。電気もエネルギーなの?」
「そう、電気分解は電気というエネルギーが与えられている間だけ起こり、水は水素と酸素に分解される。」
「で、水に魔力を与えることで水素と酸素に分解できるかを試してみたいということだよね。」
「正解!魔力も電気や熱と同じようなエネルギーになりえるのかということを確認しましょう。」
母さんは、笑顔で僕に実験の意味を教えてくれた。
「了解!」
水は、すでにアイテムボックスの中にたくさん入っている。僕は、電気分解のイメージで水を分解してみた。
『酸素-1』に『水素-2』の割合で気体ができていった。
ヒールを精錬した時ほどではなかったけど魔力が減っていくのが分かるくらいの減り方で魔力が吸い取られた。
お風呂1杯位、およそ50ℓの水を分解すると、水素がおよそ120立方メートル、酸素がおよそ60立方メートルできていた。
この水素や酸素も窒素みたいに液体にできるかな…。
「この魔術分解にも名前を付けないといけないよね。」
「ちょっと待って。分解っていう単語調べるから。」
母さんは、スマホを触って水の分解という単語を見つけてくれた。
「ウォーター・ディーコムポジションで良いんじゃない?分解するっていう意味だから」
「ウォーター・ディーコムポジションだね。分かった。」
僕は今度は1ℓほどの水の塊をアイムボックスの中につくり
(ウォーター・ディーコムポジョン)を唱えた。この位の量の水の分解なら魔力が減ったようには感じなかった。)
「母さん、昨日作った液体窒素をイノシシにぶっかけたとしたらどうなると思う?」
「どうしてイノシシにぶっかけるのか、そのシチュエーションが良く分からないけど、イノシシが行動不能になると言うのは予測できるわ。」
「じゃあ、水を入れたツボに液体窒素をぶつけたらどうなるかな?」
「どうなるでしょうね?陶器のツボは、すぐに凍り付くことはないかもしれない。でも、たくさんの液体窒素をかけられたら水は氷るはずよ。」
「実験していい?」
「この広場でやる分には、大丈夫だと思うわ。面白そうだからやってみましょう。」
僕は、50センチくらいの高さのツボを作って水を入れテントから離れた場所に置いた。
イメージは、液体窒素のウォーターボール。リキッド・ニトロゲン・ボール…
(長い。縮めてリキロゲンボール。…で良いだろう。)
ツボに向かって連射してみた。
「リキロゲンボール。リキロゲンボール・リキロゲンボール。」
野球ボール位の液体窒素がツボに命中した。
一発目でツボは砕けて水は氷になって、次に飛んできたリキロゲンボールで砕け散った。
そのリキロゲンボールと次のリキロゲンボールでツボがあった辺りにの地面は凍り付いてしまった。
(すごいな、これ。)
「玲!使用禁止、これは、使用禁止よ。」
母さんは、大きな声で僕に使用禁止を厳命した。
その時、突然、眠気が襲ってきた。起きてからまだ3時間もたっていない。いくら何でも、眠るにははやい。でも、寝ないと危ない気がする…。
どうせ眠るなら…。精錬をしたい。気を失うかもしれない精錬をしたい。
這うようにテントに戻った僕は、
「アルケミー・コーシェン。やっぱりきつい。でも、もう一度。アルケミー・コーシェン。」
僕は、フッと意識を手放してしまった。
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