第28話 強制ギルド依頼

「レイ!起きないと置いて行くわよ。」


ミラ姉の声がする。


(起きないと…。何か体が重い。昨日は、かなり無理したからな…。筋肉痛が…。)


「レイってば、いつまで寝ているの。本当に置いて行くわよ。」


「起きてるよ。ミラ姉。起きているんだけど体が…。筋肉痛が…。」


「じゃあ、一緒に行くのあきらめる?」


「行く!行きます。起きます。置いてかないでっ。」


「じゃあ、起きてこっちに来なさい。ヒールをかけてあげる。」


「ありがとうございます~ぅ。」


 僕は、転がりながらベッドのへりに移動しギシギシと音がしそうな体をミラ姉の方に動かしていった。


(痛い…。)


「ヒール。」


(フゥー。痛みが消えていく楽になっていく。)


「ありがとう。痛みが治まったよ。」


「体を鍛えるためにはヒールを使わない方が効果的なんだけど、今日は、ヒールをかけた方が良いよ。せっかく筋肉を鍛えたのに効果半分だな。」

とロジャー。


「そうなの?じゃあ、これからなるべくヒールは控えるよ。」


「まあ、ほどほどにね。」


 筋肉痛を直してもらって朝食を済ませた後、僕たちは冒険者ギルドに向かった。


「お早うございます。」


(礼儀正しい僕は、まずは挨拶から、勿論ミラ姉たちも挨拶していたよ。)


「お早うございます。」


 受付のお姉さんも笑顔だ。

 ギルド依頼は昨日から貼りだされている。


『ゴブリンの集落殲滅(進化後ゴブリンが多数) - Cランク以上参加強制』


中級パーティーは、BCDランクに分かれている。


SAランクパーティーは、上級パーティーだ。


 結成半年のアンデフィーテッド・ポイナーは、まだランクをもらえない初級パーティーだ。


 今回のギルド依頼-『ゴブリンの集落があると思われるところまでの案内』を無事達成することができれば最低でもDランクをもらえるだろう。


 もちろん、その前の僕からの指名依頼もランク獲得のポイントに含まれている。


 そんな大事な時期のアンデフィーテッド・ビレジャーなのだが、今回、僕の無理を聞いてくれるということで、受付にいるところだ。


「掲示板にあるようにギルドの強制依頼をかけています。1刻ほどで殲滅に必要なメンバーは集められると思いますから出発の準備をしていてくださいね。」


 受付のお姉さんがミラ姉に伝えてきた。


「その依頼のことでお願いがあって来たのですが、受付で伝えて宜しいでしょうか?」


「どのような内容でしょうか?」


「実は、ここにいるレイを荷物運び要員として臨時でパーティーメンバーに加えさせてもらえないかということなのですが、大丈夫ですか?」


「何故、レイさんを臨時メンバーに加える必要があるのでしょうか?」


「ここで言わないといけないのでしょうか?」とミラ姉。


「ということは、スキルに関することなのですね。分かりました。ここでは、お聞きしません。ただ、レイさんは、今、アンデフィーテッド・ビレジャーの指名依頼主という立場でもありますから確認しないといけないことがいくつかあります。その上、あなた方のパーティーはギルド依頼を受けてもらっている最中ですからね、臨時パーティーメンバーの雇い入れについては、ギルドマスターへの確認が必要な事項になります。」


 そこまで話すとお姉さんは、受付カウンターから奥へと入っていった。


「ギルド強制依頼の発動中でバタバタしていますが、ギルドマスターが時間を取ることができるそうです。会議室の方においでいただけますか?」


 受付のお姉さんに呼ばれ、僕たちは会議室に入っていった。


 会議室の奥に一人の年配の男性が立っていた。


 「初めましてかな?私が、フォレストメロウの冒険者ギルドのマスターを任されているチェイスだ。君たちがアンデフィーデッド・ビレジャーかな。そして、そちらがレイ君で間違いないかな?」


「「はい。」」


 僕とミラ姉の返事は重なっていた。


「で、アンデフィーデッド・ビレジャーがレイ君を臨時に雇いいけたいということ何たが、理由を教えてくれないか?」


「はい。では、私が。」

 とミラ姉が前に出た。


「一つは、レイが大きなアイテムボックスをスキルに持っているということ。二つ目は、レイとは同じ村で育ちましたが、信頼できる仲間であるということ。最後に、臨時的にでも私たちのパーティーの一員としてギルド依頼に参加することをレイ本人が強く望んでいるからです。」


 「では、レイ君に聞こう。何故、臨時パーティーメンバーとして今回のギルド依頼に参加したいのかね。」


 「私は、まだ冒険者登録をしていませんが、荷物運びとしてなら今回の依頼に参加できるのではないかと思いました。どこかのパーティーに加入しておかないとに荷物運びでcは今回の討伐依頼に参加できません。今回のゴブリンの進化確認と集落の手がかりは、このパーティーと一緒に森に入った時に見つけたものです。ある意味、私が招いてしまったアクシデントの結果なのです。だから、冒険者を目指す私としては、今回の討伐は是非解決まで確認したいです。私が荷物運びとして参加することができる信頼できるパーティーはアンデフィーデッド・ビレジャーだけなんです。是非、許可をお願いします。」


 「レイ君が、今回の集落発見のきっかけになったアクシデントを招いたというのは?」


 「それは…。」

 ミラ姉が、答えた。


 「レイが見張りの時に、囮にされて逃げている女の子を見つけて、私たちの拠点に引き入れたことです。その前に、その拠点の中からゴブリンの群れがたくさんの獲物のを森の奥の方に運んでいるのを見つけていたのですが、ゴブリンの群れと戦闘をするきっかけとなったのはレイの見張りの時の出来事が原因と言っていいかもしれません。」


 「では、君たちは、進化したゴブリンを含んだ群れとすでに戦闘を経験しているのだね。その時の群れの大きさと進化したゴブリンの数と種類を教えてくれないか?」


 「数は、30位。ゴブリンマジシャンとゴブリンアーチャーは確実にいました。他ははっきりわかりません。」


「ミラ姉、魔石の数は、38個その内1個は、シャルを助けた時のゴブリンアーチャーの物だからあそこにいたゴブリンは37匹だったと思う。ゴブリンマジシャンの他に進化したゴブリンは6匹いたと思う。普通のゴブリンのくず魔石がちょうど30個あるから多分間違いないよ。」


「ほっほ~ぅ。中々便利そうですね。アイテムボックスは。むっ…、既に戦闘経験済みで殲滅戦が行われる場所へ案内するギルド依頼に参加を希望してるのですね。許可しましょう。頑張ってください。」


「はい!許可、ありがとうございます。」

 

 僕は、きっといい笑顔だったんだろう。


「じゃあ、出発までギルドのサロンでゆっくりしておいてくれ。」


 ギルドマスターにそう言われ僕たちはサロンでしばらく時間を潰した。


「殲滅戦は、できれば昼の間で終わらせたい。」


 集まったパーティーメンバーの前でギルドマスターが話し始めた。


「これから、出発して、森の前の草原で一泊。そこを拠点にして索敵を開始する。集落の方向はほぼ確定している。途中まで、そこにいるアンデフィーデッド・ビレジャーが案内する。索敵班は、その後を引き継ぎ、集落の場所を確定する。その情報をもとに拠点出発時刻と殲滅行動開始時刻を決定。索敵班とアンデフィーデッド・ビレジャーの諸君は、草原を素通りする形で森の中に入ってもらうが大丈夫か?」


「「大丈夫です。」

「了解です。」」


 2つの応答が重なった。


「レイ、身軽に移動できるように荷物はすべてレイが運んで。OK?」


「了解。」


「レイは、今日は草原まで同行。草原で待機して拠点準備をお願い。私たち3人は、昨日拠点にしていた場所まで索敵班を案内して集落があると思える方向を伝えたら草原に戻る。」


「分かった…。草原で拠点づくりをしておく。次の日は、同行するからね。」


「当たり前よ。一緒に暴れましょう。まあ、連れて行ってもらえたらだけどね。」


 それから、僕たちは草原に向かって出発した。草原まで4時間ほどかかった。


 草原に着いた僕たちは打ち合わせ通りに行動。さらに2時間ほどしてミラ姉たちは草原に戻ってきた。


 ミラ姉たちが戻って来た時には、穴を掘り終えたころだった。7.5m四方。かなり大きな穴になる。


 他のパーティーの野営場所に近くに作ったら大迷惑になるので、遠慮して少し離れた場所に作った。


 他のパーティーの野営場所の方からミラ姉たちの声がしたので、みんなを呼びに行って、コテージを穴の上に建てた。今回も避難用の地下室付きだ。中に入って結界を張った。


(これで、みんなとゆっくり話せる。)


(今日もたくさん歩いた。)


「みんな、お疲れ様。」


「おう、レイもお疲れ。」


 ロジャーとアンディが右手を上げて手を広げてくれた。


『パンッ。』

 ハイタッチだ。


「さあ、夕食づくりよ。」


「じゃあ、ハンバーグを作るよ。ミラ姉、スープ作ってもらっていい?」


「なんか、村に戻ったみたいね。まあ、いいか。はい!スープ作るわ。」


 僕たちは、村に戻ったように穏やかな食事をコテージの中で楽しんだ。今日は、速く寝よう。


 多分、明日の朝早く招集がかかって集落へ向かって出発することになる。


 夜は、ゴブリンたちの時間だ。人は、その時間に移動したり行動することはない。索敵班ももうしばらくすると帰ってくるだろう。


「レイ、先に寝ていて。ロジャー見張りをお願い。私は、一度ギルドマスターに今後の予定について確認してくる。戻って来た時には、ドアをちゃんと開けてよ。いい?」


 そういうとミラ姉は、コテージを出て行った。


「ロジャー、アンディ、僕、もう、寝ちゃうかも…。何かあったら起こして。」


「OK、お休み。」


「まだ、とっても早い時間だから俺たちはまだ寝ないよ。でも、お休み。」


「ミラ姉が帰ってくるまでは…、眠りたくないだけど…。でも、眠い…。」

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