第26話 殲滅

 コテージを収納すると直ぐに出発した。


シャルが逃げて来たルートを逆にたどっていく。ゴブリンは一匹もいない。多分、巣に誘導するためにわざと開けているだと思う。


 小賢しい奴らだ。


 小一時間位歩くと戦闘音がはっきり聞こえるようになってきた。


 (シャルはこんな距離を走って逃げてきたのか…。頑張ったんだな…。)


 「ゴブリンたちは、草原側だけど森の浅い所に展開しているようだわ。逃げ場をふさぐためにもその展開は理にかなっている。本来なら後方から攻撃を仕掛けたいのだけど、草原には身を隠す場所がないから無理ね。」


 「シャルたちが乗ってた馬車はどうして森の中を移動していたんだ?ゴブリンに追い込まれたのか?」


 アンディがシャルに聞いたが、シャルには分からないようだ。キョトンとした顔をしてアンディを見ている。


 「じやあ、どんな作戦でいく?」


 ロジャーがミラ姉の方を見た。


 「ロジャーと私。アンディとレイで組んで撃退していきましょう。シャルは、レイが守って。アンディが前、レイが後ろで側面から撃破しながら微速全身。シャルが後ろにいることを忘れないで。草原側に退路を確保しておくこと。私とロジャーは、側面から飛び出して後方から攻撃。相手の隊形を崩しながら混乱させつつ殲滅を目指す。レイは、側面からの攻撃だから遠慮なくでかいの使いなさい。」


 僕たちは、気配を消しつつゴブリンの側面に近づいた。


 「レイ、準備はいい?微速前進よ。」


 「ロジャー、準備はいい?防御はお願いよ。私は、あなたの後ろからぶっ放すわ。投擲の獲物の準備もできているわね。」


 「殲滅開始よ。ゴーッ!」


 ミラ姉の合図でロジャーとミラ姉は、草原側に向かって走り出した。ゴブリンの群れの後方に位置取りすると投擲とウォータボールを連射しながら移動する。


 僕たちは、ロックバレットとウォーターボール(大)をぶっ放し手当たり次第にゴブリンを屠っていく。


 ゴブリンは、側面と後方からの同時攻撃に対応できず瓦解していった。


 数十分後、最後のゴブリンをロジャーが仕留めて旬滅は終了した。


 「ゴブリンは殲滅しましたよ~。大丈夫ですから出てきて下さ~い。」


 僕は間延びした声で呼びかけた。横倒しになった馬車の陰から男が出てきた。


 「いやぁー、助かりました。一時はどうなることかと肝を冷やしましたよ。」


 「あなたがここの責任者ですか?」


 「はい。この商隊の責任者をしております。ゴードンと申します。」


 「じゃあ、あなたがこの子を囮にした方なのですね。うまくいかなかったようですが。」


 「えっ?あっ…。シャル…。」


 「この子が生きているのが不思議ですか?この子を多くのゴブリンが追っていくと思われたのでしょうが、当てが外れてしまいましたね。まさか、この子の他にも子どもを囮に使ったのではないでしょうね。」


 ミラ姉が怒気のこもった声で尋ねた。


 「いや、その、囮だなんて…。」


 男はしどろもどろになっていたが、どう言っても非戦闘員を囮に使ったことを覆すことはできない。シャルが助けられた時の状況を説明することができないのだ。


 「冒険者ですか。ありがとうございました。」


 傭兵団の隊長らしい男が近づきながら話しかけてきた。


 「警護の方ですか。では、あなたもシャルのことはご存じなのでしょう。」


 「シャル?何のことでしょう。シャルとは誰のことですか?」


 「おじさん。お姉ちゃんたちは?お姉ちゃんたちはどこにいる?」


 シャルがゴードンさんに尋ねた。


 「まさか、みんな囮に使ったってなんてことないでしょうね。」


 「何を言っている。大事な商品を囮なんか使うはずないだろう。」


 「しょっ商品ですって!少女を商品にしてるのですか!あなたは!」


 「くっ!キャメロン!こいつらを捕らえろ!殺してもいい!」


 「命の恩人になってこと言ってるんだ!」


 隊長さんは、腐った大人じゃなかった。でも、そのまま良い大人であってくれれば良いのだけど…。


 「俺たちのことを衛兵にでも訴えられれば、俺たちはお終いだ。俺にやとわれたお前たちも終わりなんだぞ。」


 「ゴードンさん、確かに俺たちはあんたに雇われているが、俺たちの仕事は、ラニザの町から王都まであんたの商隊を護衛することだけだ。あんたの商売と俺たちは何の関係もない。今、あんたの言うことを聞いてこの冒険者を襲ったりしたら同罪になっちまう。」


 良かった。キャメロンさんは、いたってまともな人だった。


 「なんか色々知られるとまずいことがあるみたいですね。ゴードンさん?」


 「なっ、何かも何もまずい事などあるはずかないではないか。」


 さっきまでの狼狽えようを繕うようにゴードンさんは、言葉を重ねてくる。


 「私は、王都まで商品を運んで、王都の皆さんに喜んでもらう真っ当な商売をしているだけだ。やましい事など何もない。」


 「やましい事がなければ、町にで堂々と申し開きしてもらいましょう。シャルを囮に使ったこと、少女を商品扱いしたことをどのよう申し開きなさるのか楽しみですわ。」


 (ミラ姉、いいぞ。もっと追い詰めてしまえ)


 「五月蝿いわ。私は急いでいるんだ。この辺りの田舎町なぞに寄り道する暇なぞないんじゃ。」


 「キャメロンさん、この男の町までの移送、手伝ってもらえますか?」


 ミラ姉は、キャメロンさんと協力して今回の人身売買のことも解決しようとしているようだ。


 「そうだな。この男は、叩いたらほこりが出そうだからな、もしかしたら報奨金も出るかもしれないな。」


 「キャメロン!裏切るのか。私はお前たちの雇い主だぞ!」


 「真っ当な商人が雇い主のはずだったんだがな…。」


 「ヨシュア、コイツをふん縛っとくんだ。逃げられないようにな。」


 キャメロンさんたちは、ゴードンを縛り上げ、町まで移送することにしてくれた。ミラ姉とアンディが一緒に行く途中、僕たちの村に寄って、少女たちを村長さんに預けた。


 シャルと少女たちは、ゴードンに預けられた際の事情や囮にされたことを衛兵に話すため、少し休んで町に行くことにした。僕とロジャーで護衛する。


 ゴードンに預けられた時の事情は、シャルの説明だけでは心もとない。他の少女に確認してもらう。


 話を聞いてみると騙されて連れてこられただけで、売られて連れてこられたわけではなさそうなのだ。それは、これから調べてもらえばわかることだろう。


 実は、倒れていた馬車や運ばれていた道具は、こっそりアイテムボックスの中に収納していた。馬はキャメロンさんたちが連れて行った。


 ゴードンの財産は売りさばいてありがたく使わせてもらおう。主にキャメロンさんたちの給金とシャルたちの養育費としてだけど。


 村長さんの家で少し休んで町に向かって出発した。おしゃべりしながら歩いて行ったが、片道3時間近くかかる道のりは、少女たちにとっては少し長すぎた。


 町に着く直前になると寡黙になりつらそうな表情になっていた。ようやく町についたのは、夕方だった。


 少女たちと一緒に詰所に行くと、ミラ姉たちしか居なかった。キャメロンさんは、ゴードンを衛兵に引き渡して町をぶらついているそうだ。


 雇われた時の状況と契約内容の確認が行われ、キャメロンさんたちに何の罪もないことが確認されたため、自由にしていて良いが、ゴードンの罪が確認されるまで町に留まるように指示されたそうだ。場合によっては、報奨金がでるとのことだった。


 シャルたちが到着したので、衛兵からの聞き取りが始まった。


 シャルを助けた時のことは、ミラ姉たちが一応話していたらしく、僕とシャルから状況を確認しただけで直ぐに話は終わった。


 ゴードンに預けられた時のことのシャルを含めて少女たちへの聞き取りは少し時間がかかった。人身売買に関わっていたのが誰からなのかがはっきりわかっていない。どこへ売られようとしていたのかもはっきりしていないそうだ。


 はっきりしているのは、非戦闘員のシャルを囮に使ったこと。シャルが助かったから罪に問われないわけではないとのことなのだ。


 ゴードンが口を滑らして言った言葉、「商品を囮するわけなどないだろう。」そして、ゴブリンの群れから助け出した僕たちをキャメロンに「捕らえろ。」と言ったこと。それだけで奴を罪に問えるのか。


 この国では禁止されている人身売買、奴の言動は真っ黒だ。でも、それだけでは、罪を確定することは難しい。もどかしい。


 少女たちへの聞き取りが終わったのは暗くなってからだった。僕たちは、少女たちを孤児院に届け、今晩止まらせてもらうようにお願いした。神父様とマリンさんは快く引き受けてくれた。


 まだ、食事は終わっていなかったが量が心許なさそうだったので、屋台から買ってきて差し入れした。孤児院の子どもたちも大喜びだった。


 次に冒険者ギルドに行かないといけない。トラブルがあって遅れたが、森の異常を伝えるために僕はたちは、森から急いで戻って来たのだから。


 ミラ姉が受付に並んでいる。


 「あれ?ミラちゃん。指名依頼は後4日残っているんじゃない?」


 「指名依頼のことではありません。緊急報告です。」


 「緊急報告って穏やかじゃないわね。何?」


 「ゴブリンの異常発生と大量進化の可能性です。」


 「ゴブリンの集落を発見したの?」


 「進化した多数のゴブリンの目撃と戦闘です。」


 「目撃・戦闘の場所は?」


 受付のお姉さんは、地図を持ってきてミラ姉が場所を指示していた。


 「あなたの予想で良いわ。ゴブリンの巣の在りそうな場所と予想の根拠を教えて」


 ミラ姉は、僕たちが野営をした場所から森の中央へ向かった場所を指示していた。


 「予想の根拠は?」


 「私たちが助けた囮の少女が誘導されていた方向です。」


 「分かりました。今すぐ、ギルドマスターに報告してきます。しばらく待っていてください。」


 しばらく待っていると、受付のお姉さんと一緒にギルドマスターがやって来た。


 「明日、討伐隊の招集をします。あなたたちには、案内を依頼します。ギルド依頼です。受けてくれますね。」


 受付のお姉さんから、ギルド依頼が伝えられた。



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