第21話 選択
僕たちは、バリーおばさんの店で、買い物をしていた。
肉や飲み水一応初級ポーション。
冒険者が普通遠征の時に持って行く保存食。
寝袋。折りたたみコテージはアイテムボックスの中に入っている。
ロジャーは大きめのリュック。
横に槍を固定して、なるべく重くないものを担当してもらっている。
でも、見た目は、パーティーの道具をほとんど持ってくれているように見える。
アンディは、両手剣を背負わないといけないから、邪魔にならないように鞄を背負っている。
自分の雨具兼用マントだけだが、遠征用の荷物を持っているように見える。
エマ姉は、アイテムバッグを肩から掛けてマントを付けている。遠征道具の半分近くはエマ姉のアイテムバッグの中にある。
僕も小型のリュックを背負っているが、リュックの中に入れるふりをしながらおばさんの店で買ったものはアイテムボックスの中に移動させている。
膨らんで見えるが中身は殆ど空っぽだ。
もちろん、ロジャーのリュックに買った水なんかを入れる時は、僕がリュックに入れる振りをしてアイテムボックスの中に収納した。
みんなが初めての遠征なのだから、十分な準備をして、できるだけ身軽な状態で移動したい。
特に僕はまだ十分な体力がないから、そのことは重要だ。
十分すぎるほどの食料とポーションを補充した僕たちは、一度家に戻り、持ち物を再度確認して森に向かって出発した。
僕は、ほんの少しピクニック気分だった。
草原を抜け森に入っても魔物の気配は少なく、偶に、木の実なんかも見つけることができる。
大きなリュックを背負っているロジャーよりも身軽なアンディが、さっと列を離れて木の実をとってきてくれる。
だから、お昼になってもお腹も空いていなかった。水分も木の実で補給できるので歩きながら森の木の実を食べることは理にかなっている。
森が深くなり、差し込む光が弱くなってきた。
日没までにはまだ時間があるはずだから、森を覆う木か高く、葉が茂っているからだ。強くはないが、頭の上にも魔物の気配を感じるようになってきた。
「ここまで魔物に出会わないのも珍しいわね。」
「木の上の方には弱い魔物の気配もするけど、この辺りには、強い魔物の気配はないよね。」
「俺たちの中じゃロジャーの索敵が一番信頼できるからな…。ミラ姉、どうしてだと思う?」
「全然予想がつかないわ。でも、ここにじっとしておく訳にはいかないらね。真っ直ぐ森の奥の方に向かうか、少し回り道、そうね…、草原の方に少し膨らんで緩やかに森の奥に向かうかだわね。」
「別に、急いで森の奥に行きたいわけじゃないから、できるだけ安全な道を行きたいな。」
僕は、ビビリだ。でも、ビビリの方が安全だとは限らない。ビビリだと本当に危険な時に動くことができなくなる。ビビリは、危ないのだ。
でも、できるだけ危険には近づきたくない。まだ、危険に対応できるだけの力がない。
その練習のために森に来たんだ。予想した上で、対応方法を教えてもらって危険に近づきたい。
「そうね。できるだけ安全な方を選択しましょう。でも、ちょっと違うわね。そう、変な言い回しになるけど、危険が少ない可能性が高い方ってことね。じゃあ、草原の方に迂回しましょう。」
しばらく、歩いていくと森が少し明るくなった。
「この位のところをしばらく進みましょう。森の奥の魔物気配に注意しながら、勿論前方には一番注意しないといけないわよ。」
「大き目の魔物の気配が前の方にする。」さっそくロジャーが見つけた。
「群れじゃないようだ。個体だ。狩るか?」
「何が近づいてきているか分かる?」
ミラ姉が聞いてきた。
「ボアかフォレストシープか…。2mは、超えていないと思う。足音を消さない魔物だ。」
「ボアかシープか。今晩のご馳走になるな。」とアンディは、乗り気だ。
「今日全く狩りをしないっていうのは、何のための指名依頼かわからなくなるわね。配置を考えましょう。」
僕たちは、ロジャーを先頭にミラ姉、僕、アンディの並びだ。
前の方に気配があると言っても遭遇が前になるとは限らない。どちらの方から遭遇しても前衛、後衛の基本隊形が組めるような並び方だ。
右前方の茂みが揺れ、ボアが現れた。
「ロックバレット」
僕は、茂みに向かって初撃をはなった。反応無し。
「ロックバレット、ロックバレット、ロックバレット」
「ストップ。レイ!」
茂みに槍を向けてロジャーが制止した。
慎重に茂みに近づくロジャー。
『ガサッ。』
槍を突き出した。
『グサッ』
「狩り終了」
ロジャーが指を立てて笑顔を見せた。
ボアをアイテムボックスの中に収納。
「次に、出発!」
僕は、元気な声を出した。
「レイ、解体しましょう。急いでるわけじゃないんだから。」
「解体終了したよ。」
僕はニッコリ笑って答えた。
会敵から解体まで20分くらいかな。実力以上の出来だとは思うけど、これが当たり前になることを目指そう。
呆れ顔の三人とこれから進む方向について話をした。
このままの森の深さをもう少しキープするのか徐々に奥の方に進んでいくのか。
「徐々に、奥に向かいましょう。」
「そうだな。この辺りまでは、異常はない。だからこれから奥に異常があるかもしれない。異常がないかもしれない。だろう。」
「でも、私たちは、森の奥の探索と森の奥での野営を目指している。」
「さて、どうしようか。森の奥に行かないで、家に帰るか。異常があるかもしれない森の奥に向かって野営するか。まあ、もう少しこの進路を取るという選択もあるかもしれないけどいずれ、帰るか奥に行くがの選択になる。」
とロジャーが話を切る。
「どうする。レイ。依頼者はお前だ。決めて良い。」
「もしかしたら、冒険者になるか、ならないかの選択かもしれない。もしかしたら、生きるか、死ぬかの選択かもしれない。依頼者のレイの選択に任せるよ。」
三人は僕を見た。
「分かった。ゆっくり奥に向かおう。森の奥に冒険だ。」
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