第19話 冒険資金

 今日は、回復薬の素材集めをしよう。


 台所には、みんな揃っていた。今日は、僕が最後だ。


「お早う。」


「お早う。さあ、早く朝ご飯を食べて出かけるわよ。」


「今日は、回復ポーションの素材集めをしよう。その後、調剤ギルドに行ってポーションの販売と町の教会へ素材収めに行きたいんだけど大丈夫かい?」


「その内容なら素材集めは午前の早いうちだけね。森の中に入って行ったら間に合わなくなりそうだから、草原で集めましょう。ボアが見つかると良いんだけど、草原にはあまり出てこないのよね。それでも大丈夫?」


「大丈夫。あっ、そうだ。町の教会に先に行って少しだけ精錬してから調剤ギルドに行くってことに変更していいか?」


「順番を変えるくらい全然大丈夫よ。さあ、朝ご飯を食べたら草原に向かって出発よ。」


 森に向かって歩いた後、西に向きを変えて薬草が取れる草原に向かった。


 草原の中で薬草を見つけ出すことは簡単ではない。どこらかしこに草があってどれが薬草なのかはちょっと見ただけでは区別がつかない。


「レイ、薬草は見分けられるのよね。」


「できないかもしれない。薬草は今もアイテムボックスの中入っているけど、草原に生えているのは見たことがない。こうして、周りを眺めてもどれも似ているようで違うようだ。」


「実物があるなら、それを出して確認しなさい。葉のつき方と形。葉のつき方は横から見てごらん。らせん状についているでしょう。葉にはギザギザがあって先端はとがっているけど全体的に見ると丸い。濃い緑色。全ての特徴が一致しないと薬草じゃないわよ。」


「いいか。採集するときは、根を残すんだぞ。最初は俺が、護衛役だ。離れすぎると知らせるから周りを確認しろよ。」

とロジャーが声をかけてきた。


「昨日みたいに沢山素材を見つけるぞ。」


 アンディの声を合図に僕たちは薬草探しを始めた。


 しばらくは見つからなかったが、ミラ姉が最初に見つけ、それから少しずつ見つけ出すペースが速くなってきた。


 僕もしばらく探し回って一本目を見つけたのをきっかけに見つけ出すことができるようになった。集中して薬草を探しているとロジャーが声を出した。


「レイ!」


 小さいが鋭いロジャーの声だった。他の二人にもハンドサインで合図を送っている。


「ボアだ。先頭が母親、後ろにウリ坊が続いている。ウリ坊を連れている母ボアは、凶暴になるぞ。どうする。狩れない魔物ではないが危ない魔物だ。」


「やってみよう。」

と僕は答えた。


 ロジャーがハンドサインで配置を決めていた。


「母ボアは、ウリ坊を逃がそうとするだろう。その動きに乗ってやる。ウリ坊を狙おうとすると母ボアの凶暴さが増す。いいな。母ボアを狙うんだ。ミラ姉が今、母ボアを誘導している。アンディは、ウリ坊の逃げ道を残すことで母ボアを仕留められる位置に移動した。俺が今から初っ端の攻撃をする。レイは俺とボアの直線から少し左横にずれた後方で待機。俺が二の撃で仕留めそこなったらレイが仕留める。強烈ウォーターボールでも強烈エアカッターでもとにかく仕留めろ。魔石さえ取れればいいのだから。始めるぞ」


「了解。ウォーターボールでいく。」


 ロジャーが投擲で母ボアに初撃を与えた。


 母ボアは、ロジャー向かって突進してきた。距離はある二の撃は、槍で行うようだ。


 まっすぐ向かってくるボアに正対し槍を構える。僕は、その線上から左に位置取りをしロジャーの二の撃を待つ。強力ウォーターボールをいつでも打てるように準備して。


 線上から半歩分移動し、ボアの首に槍を突き刺した。それでもボアは止まらず僕の方に突っ込んできた。


「ウォーターボール(大)」

(当たった。)


 ボアは、ウォーターボールの勢いでゴロゴロと転がり槍を首に刺したまま動かなくなった。


 狩り成功。


 槍が折れていたのでロジャーは、ガッカリコンだ。


 ボアの子は、散り散りに逃げ捕まえる事はできなかった。


 魔物の子はその辺の獣よりもよっぽど強く逞しい。きっと、無事成長し、新しい脅威になるだろう。


 とらえたボアは、すぐに血抜きを行い、魔石を取り出して貰った。ボアは、皮と肉も重要な素材だ。皮は、丁寧に剥ぎ取り、部位ごとに肉を切り出す。素材部分と捨ててしまう部位や血液も全て、収納できる限りアイテムボックスに収納した。


 解体は、全部やってもらったが、次からは、アイテムボックスの中に入れるだけで素材別に分けることができる。


 槍が折れてしまい、凹んでしまっていたロジャーだったが、ぼくが精錬で修理すると急に元気になり、もう一頭ボアを借りに行こうと言い出す始末だった。


 でも、その後、槍を折ったことをミラ姉にキツく注意され、もう一回凹んだ。


 今回の狩りの反省をして、今日の素材集めは終わり、町に向かって移動することにする。


 お昼過ぎには、町に着いた。まず、教会に行く。


「少し待ってて、神父さんと話をして素材の取引をしてくるから。」


「教会の中で待っていた方が良いの?」


「そうだね…。いや、行きたいところあるならそこに行ってて。僕がそこに行くからさ。どこに行ってる?」


「それなら、すぐ近くの道具屋にいるよ。次は、泊りの素材集めだろう?何が必要か下調べをしておいたが安心だろしね。」


「分かった。取引がおわったら道具屋に行くね。」


「俺、武器屋に行きたいんだけど、良いかな?」


「我が儘言わないの!」


 ロジャーは、ミラ姉に一喝された。


 みんなと別れて教会の中に入っていった。


「今日は~。レイで~す。神父さんいますか?」


「今日は。神父様は今工房ですよ~。呼びましょうか?」


  マリンさんが孤児院の方から出てきてくれた。


「工房に用事があるので伺っていいか聞いてきてもらっていいですか?」


「は~い。聞いてきますね。多分大丈夫だと思いますが、一応ですね。」


「よろしくお願いします。」


 すぐにマリンさんは戻ってきて、僕は工房に入っていった。


「神父様、今日は。今日は、取引に伺いました。」


「取引ですか。何か怖いですね…。」


「えっ?」


「冗談ですよ。で、取引ってなんですか?」


「実は、血清を作りたくて、教会に血液があれば、上級ポーションの何かと交換していただけないかと思いまして。僕の中級回復ポーションと交換でもよろしいのですが、教会には当面必要な分があるかと思いまして…。」


「君の中級回復ポーションは、最高級回復ポーションですからね。今のところうちの教会には間に合っています。では、毒消しポーション10本、状態異常解消ポーション5本と血液1ℓと交換ということで宜しいですか?」


「それでお願いします。ポーション合計15本は、このテーブルの上で宜しいですか?」


「え?今あるの?」


「血液は、今ないのですか?」


「血液はありますよ。工房の中に保存しています。」


「じゃあ、テーブルの上に出しますね。」


「えっ?ちょっと待って。」


 神父様は慌てて、マリンさんを呼んでいた。


「マリンさん、ポーション箱を急いで持ってきて。二箱お願~い。」


「じゃあ、出しますね。」


 そう言うとポーション瓶とポーションの精錬を始めた。血清はベン神父様と一緒に作ったものがまだ残っていた。


 状態異常解消ポーションは、血清数滴でできるのでまだ数十本分の材料は残っている。


 まず、上級毒消しポーション瓶を100本。上級状態異常解消ポーション瓶を100本作っておく。


 前の分が少し残っていたけど数をそろえてもしょうがないので100本ずつ。


 次に上級毒消しポーションを5ℓ、状態異常解消ポーションを1ℓ精錬し、ポーション瓶の中に移動させる。


 その間にマリンさんがポーション瓶を持って工房に入って来た、ゼイゼイと息が上がっていたからきっとバタバタと走って来たのだろう。


(マリンさんごめんなさい。)


「アイテム・ボックス・オープン」


 僕は、毒消しポーション10本と状態異常解消ポーション5本をテーブルの上に並べた。


「一体、何本のポーションをため込んでいるんですか?まあ、聞かないけど、あんまりびっくりさせないでくださいよ。」


 「先に譲ってもらうだけって借金しているみたいでダメじゃないですか。」


 「信用してるから大丈夫ですよ。」

と言うと工房の奥に入って血液を持ってきてくれた。


 1ℓの血液は、5個の見たことがない袋に入っていた。


「有効に使って下さいね。」


「ありがとうございます。」


 血液を手に入れた後、約束通り道具屋に行った。


「みんな、今から調剤ギルド行くけど一緒に行ってくれないか?みんなで採集した素材で作った毒消しポーションを売りに行こうと思うんだ。」


「調剤ギルドなんて行ったことないぞ。」


「大体、取り引きしてもらえるの?」


「それは、大丈夫。ベン神父様がつないでくれたから。」


「そういえば、一回、売りにいってたくさんお金貰っていたんだった。」


「そのお金で防具買ったんだったわね。」


「そう、だから大丈夫。今日はさしあたり毒消しポーションを20本。素材の販売報酬は等分するってことにしてたから、今日の販売報酬は等分ね。」


「毒消しポーション20本ね。昨日、毒消し草とポイズンスネークをさんざん採集したからね。」


「じゃあ、行こうか。それと、さっき、教会でポーションと血液の交換をしてきたから、次回から状態異常解消ポーションも売ることが出るようになるけどね。」


「今日は~。」


 僕は、いつもの受付のお姉さんの前に並んだ。僕に気付いたお姉さんは、隣の受付係のおじさんに声をかけると席を離れ僕のところにやって来た。


「レイ様。ギルド長から応接室にお連れするように言われていますので、ご一緒においで下さいますか?」


「連れも一緒にいいかい?」


「確認してまいりますので、少々お待ちください。」


 数分もたたずにお姉さんが戻って来た。


「ご一緒に結構です。皆さまどうぞ、こちらへ。」


「レイ様、今日は何をお持ちいただいたのでしょうか?実は、レイ様の状態異常解消ポーションを是非、譲っていただきたいと注文が入っていまして。」


「すみません。今日持ってきたのは毒消しポーションなんです。次伺う時は、状態異常解消ポーションを10本ほど持ってくることができると思うのですが…。何本必要なのでしょうか?」


「一本でもいいのです。緊急の要請でして。命に関わる状況なのだ伺っております。」


「ちょっとお待ちいただいて宜しいですか?アイテムボックスの中を確認してみます。」


(さっき100本の状態異常解消ポーションを作ったばかりだから残りは95本あるんだよね。でも、これはベン神父の血清で作ったものだからな…。いいか、前回の残りが一本あったということで…。)


「在りました。前回の残りが1本。」


「ほ、本当ですか。それを譲っていただけないでしょうか。」


「前回の値段と同じで宜しいのですか?」

と僕。


(ここは押しだ。)


「も、勿論です。本当に助かります。」


「で、毒消しポーションの方は?これも前回と同じ品質の物です。同じ値段で?」


「も、勿論です。」


(なんか、このギルド長勿論しか言わない気がする。)


「では、状態異常解消ポーションと毒消しポーションを出しますね。ここで宜しいですか?」


「はい。勿論です。」


「アイテムボックス・オープン」


 僕は、状態異常解消ポーションと毒消しポーションを机の上に出した。


「鑑定と販売手続きをお願いします。」


 僕は、ギルド長に伝えた。ここまでくるといつも通りだ。


「支払いは、金貨4枚分は、銀貨でお願いします。」


 「残りはギルドカードに入れていてよろしいですか?」とお姉さん。


「いや、今日はすべて金貨でお願いします。」


「承知いたしました。」


 お姉さんは、出口で一礼して出て行った。


 すぐに鑑定師が来て鑑定し、違いないことを確認すると、ギルド長の指示で毒消しポーションは、まとめてポーション箱入れ、状態異常解消ポーションは仰々しい飾りのついた箱の中に入れて運んで行った。

 

 目の前からポーションが無くなるとほどなくして、金貨袋を持った副ギルド長が現れた。


「では、レイ様。代金のご確認をお願いいたします。」


「金貨136枚、銀貨40枚です。」


「では、確認させていただきます。」


「ミラ姉、銀貨の確認をお願い。」


「うっ…。は、はい。」


 ミラ姉は、言葉に詰まりながら銀貨を数え始めた。僕は、金貨。10枚ずつ積み上げ、13。後6枚。


「はい。間違いありません。」


「ミラ姉は?」


「まっ…、間違いなかったわ。」


「じゃあ、取り引きは、これで終了ですね。ありがとうございました。」


「レイ様、ありがとうございました。次回は、いつおいでいただけるでしょうか?」


「5日後冒険者ギルドに用事がありますので、その時には伺えるかと思います。」


「よろしくお願いいたします。その時、状態異常解消ポーションを10本、必ず。約束ですよ。今日は本当にありがとうございました。」


「レイ、ちょっと話せる場所あるかしら。私たちだけで!」


「何か話があるの?」


「レイ様、私たちは、席を外しますから、この部屋を使っていただいて結構ですよ。」


「本当ですか。ありがとうございます。ミラ姉、この部屋で良い?」


「うっ、あっ、そっ、そうね。ここでもいいわ。」


「話が済みましたら、そのまま部屋を出ていただいて大丈夫です。ギルドを出る時、受付に一言声をかけてください。では、失礼します。」ギルド長たちは、そう言い残し部屋を出て行った。


「レイ!金貨130枚って何!私たちはそんな高級素材採集していないわ。」


「そうさ。俺たちが採集した素材は全部合わせても全部が最上品だとしても金貨1枚にもならない。肉を含めてだよ。」


 ロジャーも言ってきた。


「よしんば、レイのスキルを使って素材の価値が上がったのだとしても俺たちが集めたのは素材だ。ポーションを手に入れたわけじゃない。」


「でもさ、今回販売したポーションは、今回の依頼中集めた素材で、今回の依頼中作ったものだよ。だから、みんなで等分しないといけないと思う。そうしないとみんなのパーティーメンバーに入れてもらえなくなるじゃないか。そんなの嫌だよ。今は、みんなのパーティーに入るための練習の依頼だと思っているんだ。」


「そうなの?私たちのパーティーメンバーになりたいから…。」


 「僕は、今お金を手に入れるスキルだけは持っているかもしれない。でも、まだみんなと冒険者パーティーを組む力は足りないでしょう。しばらくは、多分みんなのお荷物になると思う。でもでも、みんなの役に立ちたい。安全に冒険を続けられる力になって、僕と一緒でも冒険したいと思ってもらいたいんだ。」


「あのねレイ。あんたをお荷物だなんて思ったこと一度もない。大切な家族だと思っている。だけど、このお金そんなに簡単に貰うことはできない。私たちには多すぎる報酬なの。」


「レイ、それだけ自由になるお金を手に入れられるなら、俺たちよりベテランで力がある上級冒険者に護衛を頼んで素材集めをすることもできる。その方がきっと安全だ。だから、俺たちにその報酬は多すぎるんだ。」


「アンディ、それは僕がしたいことと違う。僕は、冒険がしたいんだ。ワクワクしてドキドキして、知らないことを経験したいんだ。ミラ姉たちと一緒にワクワクしたりドキドキしたりして知らない素材を手に入れたり、新しいポーションを作ることができるようになったりしたい。誰か知らない、とても強い人たちに守られながら冒険ごっこをしたいわけじゃない。やっと自由に外に出て体を動かせるようになったんだ。やっとみんなと冒険できるようになったんだ。だから、お願い一緒に冒険させてください。今日、手に入れたお金を冒険のために使ってよ。みんなで楽しく生活するために使ってよ。僕も、みんなと一緒に頑張りたいんだ。役に立ちたいんだ…。」


「レイ、レイ、分かった。一緒にやりたい。私も同じ気持ち。分かった。レイが得意なことに私たちも甘える。一緒にすごい冒険をする。だから、泣かないで。あなたを責めているわけじゃない。あまりの金額にびっくりして、そんなにもらっちゃいけない気がしたの。どう使うかなんて、考えられないで。だから、ごめん。責めているわけじゃないのよ。分かって。」


「「レイ、ごめん。」」

 ロジャーとアンディが同時に言った。


「俺たちは、家族だ。小さい時から仲間なんだ。お前を弟みたいに思ってるけど足手まといなんて思ったことはない。それだけは、分かってくれ。」


 アンディは僕の肩を抱いてそう言ってきた。


「俺も同じだ。レイ。」


「うん。分かった。僕たちは家族で仲間で良いんだよね。」


「「「当たり前(よ)だろう!」」」


 3人が声をそろえた。


「わかった。ただ、金貨を何十枚も持っているのって不安すぎるわ。」


「レイは、アイテムボックスがあるからそんなに不安は感じないかもしれないけど、普通そなに大金持って歩くものじゃないんだぞ。」


「わかった。じゃあ、金貨は僕がアイテムボックスで保管しておく。今日は、銀貨10枚ずつ山分けってことでいい?」


「銀貨10枚も大金だけどね。」


「それじゃあ、レイが保管している金貨は私たちの冒険の準備金ということで、冒険道具を充実させるために使いましょう。それでいい?」


「それじゃあ、レイに甘えさせてもらうか。」


「うん、甘えて、家族だから。」


 ミラ姉にヒールをかけてもらって赤くなっていた目の周りを治してもらい、部屋を出た。


 言われた通り受付に声をかけて、食料の店によっておいしそうな食材を手に入れて村に戻った。


 道具屋で野営の道具をそろえるのは明日にすることにした。


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