第17話 プロローグの終わりって

  今日は、森に行ける。ミラ姉たちと一緒に。


「レイ、出かける準備するぞ。」

 アンディが呼びに来た。


 僕は、すぐに起き上がり台所へと出て行った。


「お早う!今日は宜しく。」


「おう!宜しくな」


「さあ、今日の打ち合わせをするわよ。その前に朝食を手早く食べてね。」


 僕たちは朝食を食べ終わると、食器を片付け、もう一度テーブルの席に着いた。


「じゃあ、レイ、一週間の依頼内容をもう一度確認する。」


 ミラ姉は、パーティーリーダーだ。


「うん。了解。確認して。」


「じゃあ。これからは、依頼者と依頼を受けた冒険者パーティーだ。」


「で、さあ。レイ。今回の依頼は、レイの護衛と戦い方の指導ってことで良いんだよね。」


「僕としては、戦い方だけじゃなくて森のことや採集方法、冒険者のこと全般について指導してもらいたいんだけど。」


「冒険者のこと全般か…。でも、全般ってことになると私たちじゃ力不足だと思うわ。」


「それは、大丈夫だと思うよ。森や冒険者について僕はまだ右も左もわからない超初心者だからね。森へ入ったのだって、一昨日、神父様と毒気しポーションの材料を取りに行ったのが初めてだし、魔物退治もその時のポイズンスネーク一回きりなんだ。そんな超初心者だから無理せずゆっくり教えてもらいたいんだよね。」


「私たちもレイの体力や防御力などは、大体わかっていると思う。レイは、すごい力も持っているけど、防御力は紙同然よね。だから心配なの。私たちでレイを守れるか。」


「じゃあ、森の浅いところでの採集…、毒消しポーションの材料集めからはじめて一週間で体力回復ポーションの材料をそろえることができるようになるって言うのは可能かな?」


「回復ポーションの材料全てねぇ…、薬草は森のそう深くないところや西の草原で見つけることができると思うけど、ボアがねぇ。」


「ボアは、森の深いところにいるわけじゃないけど、あの牙と突進は厄介だよな。」


「でかい奴が来るとちょっと怖いものな。」


「そうなの。ボアは、私たちでも慎重にならないといけない魔物。私たちと一緒に倒すのなら無理はないと思うけど、レイ一人で倒せるようになるっていうのを目指すのは…。ボアの狩りは元々パーティーで行うのが普通なの。中級以上の冒険者なら一人で狩るのもありだけどね。レイは、一人でボア狩りができるようになりたいの?」


「全然、僕がミラ姉たちと一緒に狩れれば十分だよ。それと、できればでいいのだけど、森での野営も経験したいけどいいかな。」


「森での野営は、私たちも経験がないわ。先輩冒険者に色々聞いてはいるけどね。そうね、いつか経験することになると思うし、安全マージンを確保してみんなで経験してみるのもいいかもね。」


(よし!このまま、なし崩しでパーティーメンバーに入れてもらえるかもしれない。)


「じゃあ、今日は毒消しポーションの材料の採集ね。途中で食料になりそうな獣がいたら狩りをしましょう。森の浅いところだから大物はいないと思うけど気を抜かないように。それから、武具や魔術の鍛錬は森を抜けて村の近くに戻ってくるまでしないこと。良いわね。直ぐに避難できる場所以外で鍛錬なんかしてへとへとになっていたらいざという時に泣きを見ることになるわ。」


 僕たちは、ミラ姉にしっかりと釘を刺され、出かけることにした。


 森の浅い場所でフルプレートなんかを着込んでいたら笑われるというのでアンディたちは、いつもの装備だったけど、僕とミラ姉は、昨日買った装備を付けた。


「毒気し草は、川辺など水気が多い日当たりが良い場所に生えるって聞いたけど間違いない?」


「その通りよ。そして、そのんな場所は何か所もある。場所探しからしていたら時間ばかりかかってしまうわ。」


「ミラ姉たちは、そんな場所覚えているの?」


「勿論よ。見習い冒険者にとって薬草や毒気し草の採集は安定した収入を得られる入門の依頼よ。初めのころはそれだけしかこなすことができなかったからね。毒気し草の採集場所はしっかり記憶しているわ。」


 僕たちは村を出て森に向かい獣道を進んでいった。先頭はロジャー、森の中だけど槍を持っている。


「ねえ、ロジャー。」


「ん?なんだい。」


「こんな狭い空間しかない森の中なのにどうして槍を装備しているの。」


「ああ、元々槍が得意なのと、毒消し草採取場所までにポイズンスネークを狩って魔石や毒袋を手に入れたいだろう。槍は、奴らを狩るのにちょうどいいんだ。刃先で押さえつけて、頭をチョキンと切り落とせば簡単だろう。」


(さすが、冒険者。無駄のない狩り方ってあるんだな…。)


 しばらく歩いていると

「ちょっと待って。」

 小さな声で言い、ロジャーが僕たちを手で止めた。


「レイ。」

 小声で僕を呼ぶロジャー。


「あの辺りにポイズンスネークがいるの分かる?」


 よく見ると、灰褐色に黒いまだら模様が見える。


「うん。いるね。」


「今から俺が狩ってみるから見てろ。レイも狩ったことがあるって言ってたけど色々な狩りかを知っているのも大切だからな。それから、もしもの時のために俺の真後ろにはいないように。位置取りは、魔物と戦う時に最も重要なことだから…。どうしてだかわかるよな。」


 ロジャーは、サッと蛇に近づくと槍先で頭を押さえ、クッと刃先をひねって蛇の頭を落とした。


「魔石と毒袋の採集の仕方は分かるかい。」


「それは、神父様に教わってできるようになったから大丈夫。」


 僕は、蛇の体を収納し、魔石と毒袋だけを分離すると体を元の場所戻した。


「終わった。」

 と僕が言うと、唖然とした4人が僕を見てきた。


「そ…、そうか。じゃあ、動こうか。」


 ロジャーの一言で僕たちはまた動き出した。しばらく歩くとまたポイズンスネークを見つけた。


(なかなか良いペース。ラッキーかも。)


「今度はレイが狩ってみてよ。」


「了解。アイテムボックス・オープン」僕は、ポイズンスネークにゆっくり近づいて行った。蛇は、僕の動きに合わせて鎌首を上げていく。『クッ』「エアカッター」


『ポトリ』


(今日はビビらないで一発で我慢できた。)


 切断場所は頭より5センチほど下、毒袋は、胴体の方にあるのか頭の方にあるのかわからない微妙な場所を切っていた。もしかしたら毒袋が破けているかもしれない。


「うーん。危なげないけど、もう少し頭側を切り落とした方が素材に影響ないかもしれないね。」

とロジャーが教えてくれた。


(僕もそう思う。できるようにならないと。)


 川辺や沼の周りを回って毒消し草をポーション100本分くらい採集し、ポイズンスネークは13匹も採集した。全部毒消しポーションにして売ったら、高級毒消しポーションが暴落するかもしれない。


 合間に角うさぎを一羽と山鳥を3羽狩ることができた。角うさぎは、アンディのロックバレット一発で、山鳥は、最後まで何も狩れていなかったミラ姉のウォーターボールの乱射で手に入れた。


 昼までにこんなにたくさんの獲物や素材を手に入れてしまった。本来なら一度ギルドに戻って素材を引き取ってもらい、家でゆっくりと過ごしてもいいくらいなのだが、今日は指名依頼をお願いしている最中だ。


 帰るに帰れない。依頼は森での採集と採集中の護衛である。森から出て行ってしまっては、いや、素材採集中の依頼ということを考えると草原までは十分セーフなのだろうが、家に帰ってゆっくりするのはアウトだろう。


「俺たちにとって初めての指名依頼だからなぁ。ギルドが認める為にどこまでしないといけないのかはっきり知らないんだよな。森や草原での護衛と武術と魔術の鍛錬も依頼に入っているから村の方に戻って武術の鍛錬と魔術の練習をしようか?」


「そうだねぇ…。もうそろそろお昼だからねぇ。」


「お昼だからどうしたっていうの?」


「お腹空かない?」


「え?まだお昼だよ。夕飯はまだず~っと後。こんな時間に食べたら、夕方にお腹がすいちゃうでしょう。」


「じゃあさ、お茶でも飲もうよ。」と僕。


「お貴族様かっ!」

 とアンディが背中をどついてくる。


「やっぱりダメ?」


「何が?」


「休憩。」


「ダメじゃないわ。そうね。朝からずっと動きっぱなしだったから少し休憩しましょう。」


 ミラ姉が休憩を認めてくれた。

(ふぅー。良かった。)


 僕たちは、木陰の乾いた場所を見つけて、毒虫や危険な生き物がいないかを確認した後、座り心地がよさそうな場所に腰を下ろした。


「水分は、しっかりとっておきなさいよ。」


 ミラ姉が水袋を回してくれた。一口ずつ水分をとって次に回す。ぬるい水だけど体に滲みる。


(美味しい。)


「これからなんだけど、毒消しポーションの素材は十分すぎるほど手に入ったから村の方に戻って武術と魔術の鍛錬をお願いしようと思うんだけどいいかな?」


「それは、大丈夫。今から移動しても十分時間は取れるわ。」


「その時に、アンディにロックバレットを教わりたいんだけど。」


「いいぜっ。いっくらでも教えてやる。」


 休憩中、ロジャーがどこかに消えて行ったと思ったら甘いにおいのする木の実を採ってきてくれた。


「ほいっ。レイ、食ってみな。甘くておいしいぞ。」


「ありがとうロジャー。みんな、ロジャーが木の実をとってきてくれたよ。食べよう。」


 僕たちは、みんなで分けて木の実を食べた。赤い木の実が一番甘くて美味しかった。4人で食べる木の実は幸せな味がした。


「さあ、出発するわよ。」


 ミラ姉の声で僕たちは腰を上げ、村に向かって出発した。途中、ポイズンスネークを2匹狩って蛇の魔石と毒袋は、15個ずつになった。ほぼ半日でこれだけ狩れるって何なのだろう。この辺りの蛇が絶滅しないと良いのだけど。


 村の傍に着くと魔術の練習から始めた。


 一番最初にアンディにロックバレットを教えてもらう、いつものように、アイテムボックスにロックバレットを撃ち込んでもらい収納。ロックバレットを精錬して準備完了。


「何か的が欲しいわね。」


「大岩の場所まで行ってみましょうか?」


「村から少し離れるけど、危ない場所じゃないしいいかもな。」


「アンディーやミラ姉の魔法の練習によく行ったよな。」


 僕たちは、ミラ姉たちお奨めの大岩の場所に歩いて行った。


「レイ、あそこの木の枝を一本落としてみて。」


「エアカッター」

『ビュッ、ポトリ』


「あれ?アイテムボックス・オープンを言わなくても出た…。」


「出たね。いいじゃない。短くできるのは…。まずは、狙いを正確にする練習からするからね。」


「レイ。さっきの枝もらうぞ。」


 ロジャーが木の枝を拾って大岩の前に枝元の方を尖らせて岩の前に突き立てた。


「まずは、あの枝に当たらないように岩の上と左右に充てる練習からね。せっかく準備した枝がすぐになくなったら嫌じゃない。アンディ、ロックバレットを上4左右3発ずつ、できるだけ早く。」


「了解。」


 アンディがロックバレットを上に4発、右に3発、左に3木の枝ギリギリを通るように撃った。


「違う違う。上、右、左、上、右、左の順番に売って最後が上!理解できた?」


「分かった。もう一度。」とアンディ。


「ロックバレット、ロックバレット…。」上、右、左、上…、上。さっきよりも少し狙いが甘くなったような気がするけどアンディは頑張った。


「次、ロジャー。移動しながら投擲。石を5個拾って、右から左に移動しながら、右、左、上、右、左。理解できた?」


 「了解。」


(アンディの投擲は、見事だった。身体強化も使っているんだろう。後ろの岩にぶつかった石は、爆発するように砕けて行った。)


「次、レイ。まずエアカッターで、上、右、左、右、左の順番で。」


「了解。」


「エアカッター、エアカッター、エアカッター、エアカッター、エアカッター。」


(しっかり狙った。枝には当たらなった。しかし、遅い。狙いも甘い。)


「次は、私。10発」


「ウォーターボール、ウォーターボール…。」アンディの投擲くらいのスピードと正確さだった。


「次、アンディ。右から左へ移動しながら。5発、上、右、左、右、左の順番で」


「ロジャー、左から右へ移動しながら5発、順番は同じで。」


「レイ、さっきと同じ。スピードを上げて。」

 …。

 同じことを10回は繰り返した。


  僕は、4回目から、ウォーターボールで、アンディーは、5回目からファイアボールに変えて8回目から僕もファイアボールに変えた。


「少し休憩しましょう。」


(きついけど、なんか楽しい。)


 ミラ姉たち3人は、2回目からずっと走りながら魔術を使ったり投擲をしたりしていた。僕だけ、止まって魔術を撃っている。それでも少しずつスピードが上がり、正確さも増しているのが分かる。


「同じことを後2~3回やるわよ。レイの魔術は準備がいるんじゃないの?今のうちに準備しておきなさいね。」


「分かった。やっておく。」


「レイ、次は、一発撃つごとに移動して。初めは一歩だけでもいいけど、できるだけ早く、次撃つ方と反対の方に場所を移動して。」


 「右、左、上、右、左の順番ね。で、上に撃つ時は、下に屈むのかい?」


「そうね。撃って動けばいいわ。撃てば、場所を特定される。だから動くことを習慣化する。その練習。」


「了解。」


「さあ、次の10本行くよ。」


「ロジャー、アンディ、移動方向は時々変えるから指示を聞いておくように。私への指示は、レイがしなさい。それも後衛の練習よ。分かった?」


「はい!」俺たちは声をそろえて返事をした。


「ロジャーから、右へ移動。」

「おっ!」


「アンディ、左へ移動」

「了解」


「レイ、動くことを忘れないように。それに、撃ち終わった後に指示。」


「はい。」

(右に撃って左へ、左へ撃って右へ。上に撃って屈んで、左に撃って右へ。)


「ミラ姉、後ろへ移動。」


「ロジャー左前へ」

「アンディ、右へ」

「レイ少し右へ移動して撃ち始めて」


「ミラ姉、右へ」

  …。

 次の10回も終わった。そして、次の10回も終わった。

(頑張った。)


 「魔術・投擲練習は次が最後ね。もう少し離れて、的の目印にした木の枝から葉っぱを一枚ずつ落としていくよ。」


「ロジャー、ロックバレットで10、アンディ、投擲5を2回、レイは、ウォーターボール5とロックバレット5で、私は、ウォーターボール10で回していくわよ。」


「動かなくていいからできるだけ早くね。」


「ロジャー、初めて」

「アンディ」


「レイ。」

「エアカッター、エアカッター…、ロックバレット、ロックバレット…。」


 (十発中7発で木の葉を落とした。一発は木の葉でなくて枝に当たった。)

 …。


 三廻り目、アンディの時に木の枝から葉っぱが無くなった。


「じゃあ、村に戻りながら剣の練習ね。レイ、木剣出してくれる?」


「了解。」


 僕たちは代わる代わる打ち込み稽古をしながら村へ戻っていった。


 今日の冒険は、これから始まる僕たちの冒険のスタートライン。僕の冒険へのプロローグの終わりってこと。やっとみんなとはじめられた冒険のスタートラインだ。






【後書き】

 パートタイム異世界転生。初めての作品です。ここから始まる異世界での冒険、魔術と科学の融合物語。


もう少し読みたいなって思ったら★ポチっと

面白かったら★★ポチポチっとお願いします。

これ、最後まで読んでみようって思ったら

★★★ポチポチポチっとお願いします。

レビューで感想など頂けると泣いて喜んでしまいます。 


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