第15話 先行投資って

(目が覚めた。退屈な一日が始まった。食う寝るリハビリ、目指せ退院、勝ち取れ自由。)


「お早うございます。」

 吉井さんだ。


「お早うございます。」

 僕は、テンション低めで挨拶した。


「朝ご飯は、8時からです。それから、先生が午前中にお話ししたいとおっしゃっていました。10時の回診の時で良いそうです。」


 そこまで話すとニッコリと笑顔を見せてくれた。


「退院かもしれませんよ。」


(時間が動かない。なかなか10時にならない。自由になればしたいこと、試したいことあれもこれもたくさん思い浮かんでくる。図書館に行ってみたい。インクを買いに行きたい。板を買いに行きたい。海に行きたい。色々な物を収納してみたい。色々ん物を精錬してみたい。ウォーターボールを出してみたい。お風呂を作ってみたい。)


「お早う、玲君。」

 本村先生が来た。


「退院は、お母さんとお父さんの都合を確認した後決まるのだけど、明日でどうだう?」


「明日ですか?とても急です。本当ですか?」


「本当に急だよね。でもね、検査結果は、入院必要の項目が何もないんだ。先週の検査結果とは別人の検査結果のようになっていてね。実際別人のものではないかと疑われているだよ。」


 先生のトークは止まらない。僕は、唖然とした顔をしていたかもしれない。それでも続いた。


「玲君、君は先週まで死にそうだった人だったんだよ。今の検査結果じゃあ、そんなこと誰にも信じないと思うけどさ。本当は、もう少し入院してもらって徹底的に検査したいんだけど、何をどう検査すれば良いのか今のところ思いつかないんだよ。」


「じゃあ、僕は、健康になったということですか?もう何も心配ないと。」


 僕の問いかけに本村先生は答えてくれた。


「入院中の様子からロングスリーパーの疑いはあるけど、脳波も海馬にも異常はないようなんだよ。」


「あの…、ロングスリーパーって病気じゃないんですか?」


「そう。病気のせいで睡眠が長くなることはあるけど、玲君は違う。という訳で、生活習慣的なロングスリーパーだとしても病気とは考えられないよ。」


「良かった。病気ではないなら少々長く寝ないといけなくても全然大丈夫です。家で一杯寝ますから。」


 睡眠時間が長い理由は分かっている。しょうがないと思っている。


 「そうだね。家で長く寝ても健康に影響があるわけじゃない。病院に留めておく理由が見つからないんだよ。だから、退院しようね。お母さんと連絡が取れて退院の準備ができ次第退院しよう。」


 その日一日ウキウキしながら過ごした。時間は相変わらずゆっくりしか進まなかったけど自転車こぎもいつもよりも長く行った。


 ランニングマシーンの歩行も…。早く眠くなるように汗が出るくらい歩いてみた。ちょっとスピードを上げてほんのちょっと走ってみた。直ぐに息が上がったけど気持ちよかった。明日は、外に出ることができる。


 昼ご飯は、カレーライス。これはメニュー化必須。


 晩御飯はトンカツと味噌汁、フルーツ。トンカツのメニュー化は忘れてはいけない。


(晩御飯は今日で最後だ。)


(歯磨きしたら、ヒールの精製…)


********************************************************


(目が覚めた。さあ、台所に行こう。もう、みんな起きているかな。)

 部屋を出るとまだ暗かった。


「アイテムボックス・オープン・ライト」


 台所が明るくなった。


(朝ご飯は、何を作ろうか…。昨日のスープは残っているけど…。)


(トンカツ作ってみよう。パンにはさんでもいけるはず、みんな若いんだからがっつり朝食も大丈夫。)


 そんなことを考えているとみんな起きてきた。


「レイ、お早う。レイが一番なんて珍しいな。」とアンディ。


 それぞれ朝の支度を進めている。


「みんな、朝ごはん食べるだろう。」


 僕は、昨日のスープを魔力コンロで温めながら尋ねた。


「「「勿論。」」」三人の声が揃った。


 一昨日のパンは残っていた。固くなっているがパン粉を作るにはちょうど良い。


 「ミラ姉、昨日のパンと残っているボアの肉、使っていいかい。」


 「いいよ。パンはもう固くなってるし。」


 「アイテムボックス。」


 僕はパンと肉を収納した。


「アルケミー・トンカツ、アルケミー、アルケミーアルケミー。」


 トンカツを作って、温まったスープを皿に注いで。


「できたよ。」


 4人で食卓を囲んで


「いただきます。」


 朝のお祈りは略式だ。時間がないから。


「何だ、この肉…、パンにはさんで食べてもしっかり主張してくる。がっつり腹にたまる。」


 ロジャー大絶賛。


 朝食を食べ終わって片付けをした後


「ねえ、ミラ姉。」


「ん?何?」


「ミラ姉たちのパーティーに指名依頼ってできるの?」


「初心者の私たちのパーティーに指名依頼なんて来ないよ。」


「いや、僕がお願いできないかなって思って。」


「ええっ…。高いわよ。うふふっ。」


 ミラ姉は笑っている。冗談だと思っているんだろう。


「一週間の素材採集指導と護衛、もちろん素材は別途買取。その条件ならいくらになる?」


「ギルド依頼ならはっきりわかないけどそのくらいの依頼なら一週間で銀貨3枚くらいもらうかな。ギルドに支払うのは…、多分だけど銀貨5枚くらいじゃないかな…。指名依頼って中級冒険者以上にしかこないから、Dランクパーティーへの依頼料が最低条件なんだよね。」


「分かった。じゃあ、指名依頼するよ。直接依頼じゃあパーティーの成績に加算されないでしょう。」


 僕は、みんなと一緒に町に行くことにした。一週間の指名依頼で毎日森の中に入るなら色々準備しておきたい。僕の防具も買っておきたい。安全第一。


 やっぱり2時間程で町に到着した。


「じゃあ、一番に冒険者ギルトに行って指名依頼、次に調剤ギルドに行って金貨50枚引き出して…。その内5枚は、銀貨に両替しておこう。」


 予定通り依頼とお金の引き出しはスムーズに終わった。指名依頼は、エマ姉が言った通り銀貨5枚だった。次に防具屋だ。


「みんなで行こう。どんな防具かいいのかわからないら教えてくれないかな。」


 4人で防具屋に行った。


「ええっと、君が使う防具ねえ。君は冒険者?」


「はい。いや、いいえ。まだ、冒険者ではないですが、いずれ冒険者になります。このパーティに入れてもらって。」


「そうか…。じゃあ、君は後衛だろう?身体強化はできるかな?」


「身体強化はまだできません。武器は、剣の予定ですが、魔術主体で戦うつものなので後衛になると思います。」


「で、できる魔術は、火・土・水・風・光のどれかな?移動しながら戦うのか、立ち止まって戦うのかで防具の在り方が変わってきますからね。」


「水と風が得意ですが、火もできます。光はライトの魔法だけです。」


「移動しながらの魔法が主体になるかな…。じゃあ、皮鎧と皮のブーツ。肘当て、膝当てが妥当かな。全部そろえて金貨3枚だ。上等な防具だぞ。」


「ミラ姉たちも防具をそろえようよ。」僕はみんなの顔を見ながら言ってみた。


「金がないからな…。」

 とロジャーが入り口の方を見ながら目を伏せた。


「じゃあさぁ、僕がポーション作るのを手伝ってくれないかな。報酬は、売り上げの5割ということで。僕は、後々上級エリクサーを作ってみたいんだ。でも、その材料を手に入れるためにはかなり危険な場所に行かないといけない。だから、その前払いとして。でも、すぐに作りたいわけでも作ることができるわけでもないんだ。時間をかけて力をつけて、安全マージンを確保してから挑戦したい。その為の先行投資させて欲しい。嫌かい?」


「先行投資か…。危険に向かって成長しないといけないんだ。」


「レイが作りたいポーションがあるのね。」


「分かった。俺たちも頑張る。」


「私は、後衛。身体強化はできる。回復系と水が主体。武器は、スタックとナイフ」


「では、皮ですね。身体強化ができるのであれば、マントもつけて問題ないでしょう。マント付きで金貨5枚で揃えられます。」


「前衛だ。身体強化はできる。獲物は槍。狭い場所ではショートソードも使う。」


「槍でしたら、フルプレートより胸当ての方が良いかもしれませんね。頭の防具は視界を妨げないもの。金属ブーツに小手。左肘にはバックラーがあった方が良いでしょう。全部そろえるのであれば、金貨7枚で宜しいですよ。」


「同じく前衛。獲物は両手剣。狭いところでは、ショートソード2本。火と土魔法を使うことができる。」


「フルプレートが宜しいのでは…。金貨10枚ですが、お買い得な品物だと思いますよ。」


「じゃあ、全部お願いします。でも少しおまけしてくださいね。」


「じゃあ、金貨25枚のところ24枚におまけしましょう。」


「金貨一枚だけですか…。じゃあ、何か品物をおまけしてくれませんか。探索に役に立つよう物、何かありませんか?」


「どなたかアイテムボックスかストレージのスキルをお持ちなのではないですか?」


「えっ、どうしてわかるんですか?」


 僕は、思わず聞き返してしまった。


「大量の買い物をなさろうとしてるのに、アイテムバッグはお持ちでないようですから。」


「レイ…、聞き返した時点であなたがスキル持ちだってバレバレよ。」


 呆れた顔でミラ姉が言った。


(そういうものかな…。)


「僕がアイテムボックス持っています。」


「では、これはいかがでしょうか?野営用の折りたためるコテージです。魔石に魔力を注げば一晩以上結界が有効になります。金貨4枚の品物ですが、これを付けて金貨25枚で如何でしょうか。」


「金貨1枚でそのコテージをつけてくれるの~っ。え~。分かりました。金貨25枚でお願いします。」


 僕は、金貨25枚支払うことにした。


 ミラ姉たちは、呆れた顔で僕を見ていたが、もう何も言わなかった。


 次に食料品の店に行き、肉やパン調味料をしこたま買い込んだ。村のバリーおばさんの店よりも品ぞろえが良かった。村を出る前には、焼き立てパンを買っておきたい。だって美味しいから。


 森に入れば山菜はあるかもしれないが、野菜はない。野菜も買っておこう。後は飲み水。料理に使うお酒も買っておいた。


 買い物が済んだ僕たちは、村に帰った。今日は、町の教会へは行かなかった。

 明日は、朝からポーションの材料を手に入れるために森に入る。魔物との戦い方や素材採集を習いながら、4人でとことん鍛錬する。次に向かうための第一歩を踏み出す。ワクワクしている。眠れそうにないほど…。


 夕食を終え、ベッドに向かった。


(そうだ。あっちでもワクワクすることがあるんだった。)


 アンチドートの精錬とヒールの精錬、ウォーターボールの精錬、ウィンドカッターの精錬50個ずつアテムボックスの中に溜め終わった頃意識が途切れた。




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