第14話 アイテムバッグって
家に帰ると誰もいなかった。ミラ姉たちは、泊りになるほどに奥の森に行くことはないと言っていたから間もなく帰ってくるだろう。
僕は、晩御飯の準備をしながら三人の帰りを待つことにした。食糧庫には小麦とボア肉、玉ねぎ、葉物の野菜があった。
(そうだ、バリーおばさんの店に食料を仕入れに行こう。あっ…、お金は金貨しか持っていない。この村では、銅貨か銀貨しか使えないし…。そうだ、教会へ行って両替してもらおう。)
さっき別れたばかりなのに僕はまた、神父様のところに行くことになった。
「神父様~。」
「ん?なんだ?」
神父様は、神父服を脱いでシャツ一枚になっていた。
「すみません。金貨を両替していただけませんか?バリーおばさんの店に買い物に行きたいのですが、金貨しか持っていなくて…。」
「金貨を両替か…。ちょっと待て。」
神父様は、中に戻って何か探しているようだったが…。
「済まぬ、レイ。金貨一枚分の小銭は教会にはないようだ。今あるのは銀貨3枚と銅貨20枚。初級ポーションが5本だ。ボアの魔石も全部使っちまったから現物で渡すこともできない。全て渡しても、銀貨7枚分にもならないだろう。食料を渡しちまったら、教会も困ってしまうからな…。」
「では、それで、初級ポーションができたとき足りない分としていただけませんか?神父様の初級回復ポーションを精錬すれば、性能の良い上級回復ポーションができるので…。」
「分かった。では、後ほど初級回復ポーションを20本渡すことにしよう。昨日、今日で得たお金の一部を使えば材料は山のように手に入るからな。では、これがお金と初級ポーションだ。」
僕は、神父様が出してきた初級ポーションをアイテムボックスに収め、お金を受け取ってお店に向かった。
「今日は~。」
僕は、バリーおばさんの店に入っていった。
「いらっしゃい。レイ。今日は何か入り用かい?」
「うん。調味料とパン。それと食用の油が欲しくて。あっ、チーズもあると嬉しいな。」
「全部そろっているさね。欲しいだけ買っとくれ。」
「ありがとう。じゃあ、これだけね。」
(一度やってみたかった大人買い。)
調味料を全種類、大きなチーズと出来立てのパン。オリーブオイルっぽい食用油一樽。店を物色して見つけた鮭みたいな干し魚。
「おいおい、こんなに買ってくれるのかい。気前がいいねえ。」
「うん。神父様のお手伝いで町までいってさ。少し多めのお小遣いが手に入ったんだ。」
「ほぉー、教会の手伝いかい。偉いね。ちょっと待てな、今計算するから。ええっと…、全部で銀貨3枚になるよ。端数は、オマケだ。」
(うん。僕の計算でも銀貨3枚と銅貨2枚程度。大人買いにサービスしてくれた。)
「ありがとう。じゃあ、アイテムボックスにいれるね。アイテムボックス。」
山のように積んであった食料品がスッと消えて行った。
「ウワッ。」
バリーおばさんは、びっくりした後、笑い出した。
「そりゃあ、便利だ。こんど仕入れに行く時に手伝ってもらいたいね。毎度ありがとう。また、来な。」
(さて、材料は沢山手に入った。何を作ろう。)
(病院メニューはまだ4品だけ、その内、今日の材料で作れそうなのは…、ハンバーグ。ミラ姉に野菜スープを作った貰おう。)
神父様に貰ったポーションを精錬したり、買ってきた魔力コンロの魔石に魔力を流し込んだりしているうちに夕刻になり、ミラ姉たちが帰ってきた。
「ただいま。」
「みんな、お帰り。」
「レイこそ、お帰り。」
「あっああ…。ただいま。」
「お腹空いた。ミラ姉、今日の晩御飯は何にするの?」
ロジャーが聞いてきた。
その会話に僕が割り込んだ。
「ミラ姉、僕がパンとメインディッシュを準備するから、ミラ姉が野菜スープを作ってくれない?」
「メインディッシュって何を作ってくれるの?」
「それは、できてからのお楽しみだよ。ただ、台所のボア肉と玉ねぎは使っていいかな?」
「どのくらい必要?」
「とりあえず、あの肉の半分くらいかな…。」
「半分なら全然大丈夫。明日は、森に入る予定だから手に入れることができるはずよ。スープにも少し使おうかしら…。じゃあ、作り始めるわね。」
「作り始めるなら、これ。」
僕は、魔力コンロをミラ姉に渡した。
「えっ?なに~、これ」
「魔力コンロだよ。」
「「 え~っ! 」」
ロジャーとアンディの合唱。息が合ってるな~、二人。
「なんで、家に魔力コンロがあるの?高級品なのよ。」
「今日、町の道具屋で買って来たんだ。あるときっと便利だよ。」
「いくら?いくらだったのこれ。」
「ん~?いくらだったかな…。他の物も一緒に買ったから良く分からないや。」
「他の物って何?」
「それは、今は秘密。後で教えるよ。だから早くご飯の準備をしよう。魔力コンロに魔力は入れているからすぐに使えるよ。」
「分かったわ。スープは任せなさい。あっと言う間にできるから、メインディッシュは任せたわよ。最悪、野菜スープだけでも何とかなるからね。無理して怪我したりやけどしたりしないでね。」
僕は、竈に網を渡して、薪を燃やした。しばらくすれば炭火になるはずだ。
「ミラ姉、僕の方の準備は終わったよ。スープが出来上がる少し前に教えて。熱々のメインディッシュをみんなに食べさせるからね。」
「レイ、出来上がったわよ。」
「ロジャーとアンディは、お皿に次ぎ分けるの手伝ってちょうだい。」
「え~っ、出来上がる少し前に教えてって言ったじゃない。」
「アルケミー・ハンバーグ、アルケミー、アルケミー、アルケミー。アイテムボックス・オープン」
僕は、作ったハンバーグを網の上に出した。ジュウジュウという音と美味しそうな肉が焼けるにおいがした。しばらくすると、ハンバーグの表側に小さな泡がでてきた。
「よし。出来上がり。」
ぼくはトングを使ってハンバーグを皿にとり、一人一人の前に並べた。つけ合わせはなしだ。
「ハンバーグだよ。熱いうちに食べて。」
フォークだけで切れる柔らかい肉。
「美味しい。何これ?肉のようだけど、玉ねぎも入ってる。味はしっかりついて肉のうまみも感じる。初めて食べる肉料理だ。」
アンディ絶賛だ。
「パンもどうぞ。」
バリーおばさんの店で買ってきたパンを薄く切って皿に盛り、テーブルの上に置いた。パンは、半分くらいになっていたけど4人で食べても十分だ。
「ミラ姉が作った野菜スープも具沢山で美味しい。」
ロジャーがスープを口に運んでいった。
(僕も同感だ。)
お腹がいっぱいになっても僕たちはしばらくテーブルから動かず、幸福感を噛みしめていた。
「片づけをしましょう。」
「ここは、僕たちに任せて。」
ロジャーとアンディが食器を運んで洗ってくれた。
片付けも終わってみんながテーブルで追いついた頃、
「さあ、全部、話しなさい。」
ミラ姉が、僕をにらんできた。
「じゃあ、残りの贈り物から」
僕は、アイテムボックスからアイテムバッグを取り出した。
「何?このバッグ。」
僕が出したバッグを手にしたアンディが聞いてきた。
「アイテムバッグ。中は、約3m四方の広さになっている。魔石に魔力を入れてないから中はまだ広がってない。魔力登録した人しかバッグを開くことができないから色々と安心らしい。」
3人とも何か言いたそうに口をパクパクしている。
「アイテムバッグっていったいいくらすると思っているのよ。安心らしいって、そんな高級アイテム安心できないわよ。」
「え~っ、冒険者生活に便利だろうと思って買ったのに…。」
「そっ、そりゃあ、便利よ、便利に決まってるでしょう。中級冒険者以上には必須アイテム。でも高いの。頑張ってもなかなか買えないくらい。なのに、なんでここにあるの?」
「ミラ姉、僕が生きてこられたのは、みんなのおかげなんだ。今日、みんなのおかげで手に入れた力で、お金を稼ぐことができた。神父様から色々教えてもらって、材料を準備してもらって、作ることができたポーションを調剤ギルドに買い取ってもらってね。」
「一体、幾らしたの。いくらで買い取ってもらったら魔力コンロとアイテムバッグを一緒に買うことができるのよ。」
「運が良くてね。今日は、金貨240枚で買い取ってもらった。今まで、生活費も全てミラ姉たちに出してもらっていたから、買って来たんだ。これからは、僕も生活費入れることができるようになるから。」
「いやいや、生活費いくら入れるつもりなんだ?俺たちの生活費って一月銀貨3枚程度だぞ。」
「全く…、家族なのよ、私たちは。あなたがきつそうな時に何にもしてあげられなかった。傍にいることしか。それなのにあなたは…。」
「ねぇ、ミラ姉、ロジャー、アンディ。そのバッグ使ってくれないのかい?それ持っていたら危ないのかい?」
「見せびらかしていたら、確かに危ないかもね。でも、冒険者は、バッグは必ず持っている。アイテムバッグだとわからなければ大丈夫よ。」
「じゃあ、使ってくれるんだね。」
「勿論だ。ありがとう。使わせてもらうよ。」
「で、レイ、二つでいくらだったの?」
「ん?金貨71枚だよ。」
「「「え~っ!」」」
【後書き】
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