第13話 中級回復ポーションって

「ジェイ様、もう少し卸すことができるポーションがあるのですが、買取していただけるでしょうか。」


 僕は、ギルドマスターに商談を持ちかけた。


「状態異常解消ポーションを7本と後で鑑定してもらったポーションを10本。金貨140枚と100枚で240枚の商談です。如何でしょうか?」


「ちょっと待て。先ほど卸してもらったばかりなのだぞ。どれだけため込んでいるのだ?」


「ため込んでなんていませんよ。神父様と一緒に精錬したポーションですが、鑑定の関係で別々に販売することになっただけです。これ以上は、ありませんので購入するなら今しかありませんよ。購入していただけないのでしたら道具屋か王都に持って行くしかないのでできれば購入していただきたいのですが…。」


「まて…、まてっ。誰が購入しないなんて言った。是非卸してくれ。いや、卸して下さい。」


「では、その値段で宜しいですか?」


「勿論です。直ぐに用意します。直ぐなのでお待ちください。」


「神父様…っ、商売は押しですね。」


「お前は、押していないと思うぞ…。まあ…、良いのではないか。お前らしい。」


「えっ…。金貨240枚ですよっ!押していますよ。今までだったら半額にしています。」


「分かった。分かったよ。押した。お前は押したんだよな。なんせ、二倍の利益を手に入れたのだからな。じゃあ、全額現金でもらっていくのか?」


「いいえっ!たくさんの現金を持っていても碌なことはありません。でも、せっかく町に来ているのだからミラ姉やロジャーとアンディにお土産を買ってあげたいので…。金貨100枚はギルドカードに入れて、残りは現金でもらいます。」


「金貨140枚を使う気なのか?何を買おうと言うんだ!」


「いえいえ、違いますよ。金貨40枚は、神父様が作った状態異常解消ポーションの代金です。2本分は神父様が作ったものでしょう。」


「いやいや、その認識は間違っていると思うぞ。私が作ったポーションと今回販売したポーションは、全く違うものだろうが。」


 「いいえ、間違っていませんよ。何しろ神父様の作った状態異常解消ポーションを精錬したのは僕ですから。」


「だからな、精錬した時点で別の物になるんだよ。」


「ですから、神父様のポーションがなければあのポーションはできませんし、その後、僕が作ったポーションもできませんでした。何より神父様が作ったポーションには何も加えていませんし…。ですから、それを違うものと言うのは難しいのでは?僕は、自分が作ったポーションの代金は貰っていますよ。だから、心置きなく受け取ってください。」


「分かった。もう何も言うまい。しかし、こんなことされてしまっては、朝、言っていたお願いがしずらくなってしまうのだが…。」


「レイ様。買取の準備ができました。入ってもよろしいですか?」


 僕たちの話の最中にギルドの係員が声をかけてきた。


「はい。どうぞ。」


 僕は、回復ポーション10本と状態異常解消ポーション7本をテーブルの上に並べ係職員が部屋に入ってくるのを待った。


「ありがとうございます。では、品物を鑑定させていただきます。」


 多分、上級鑑定士なのだろう。ポーションに手の平をかざす動作をしていたがすぐに鑑定をやめ、テーブルの上に金貨が一杯入った袋を置いた。


「金貨240枚です。」


「あっ…。金貨は140枚にして、残りはカードに登録して頂きたいのですが、大丈夫でしょうか?」


「金貨100枚は、レイ様のギルドカードに登録するということで宜しいでしょうか。」


「お願いします。手続きには、どのくらいかかりますか?」


「すぐに対応したします。金貨を数えなおし、カードに登録するだけですから…。少々お待ちください。」


 すぐに、カードへの登録は終わり、金貨140枚が入った袋が手渡された。


「神父様、金貨40枚、お受け取り下さい。ありがとうございました。」


「うむ…。分かった。確かに受け取った。」


(神父様は、苦虫を嚙み潰したような顔をして受け取ってくれた。)


「神父様。道具屋に行きたいのですが宜しいですか?」




 僕たちは、町で一番大きな道具屋に行った。


「ミラ姉達に役に立つものを送りたいんです。ずっとお世話になって来たから。」


「そうか。ミラたちへのプレゼントか…。いいんじゃないか。レイが初めて稼いだ金だからな。あいつらも喜ぶだろう。…で、何にしようと思っているのだ?」


「マジックバッグってありますか?アイテムボックスみたいな機能があるバッグがあったら冒険するのが楽になるかと思うのですが…。」


「マジックバッグか…。あるにはあるだろうが高額だぞ。…まあ、金貨100枚で購入できないことはないと思うがな。」


 僕たちは、道具屋の店主にマジックバッグあるかどうかを聞いた。この店のマジックバッグの値段は、魔石も含め金貨70枚。収納の為には、魔石をセットし、魔石に魔力を貯めておく必要がある。セットされたCランクの魔物の魔石に満タンに魔力を貯めるとおおよそ一月収納することができるそうだ。


 魔力がなくなると収納した物はバッグから飛び出してしまうらしい。収納容量は、3m四方。かなり大きい。入れ口の大きさは、魔力を通すことで変わる。バッグの中に入れると重さは感じなくなる。冒険者御用達バッグ。これをミラ姉たちにプレゼントしたら冒険者活動が楽になるはずだ。


 今日手に入れた金貨は200枚。バッグの値段は半分以下…。神父様に手伝ってもらって作ったポーションを売って手に入れいた金貨なのだけど…。


 毒消しポーションは、自分一人でも作ることができそうだった。毒消しポーションを作るだけでは一日で金貨70枚は無理かもしれないけど、数日で稼ぐことができる金額だと思う。


(よし、買おう。)


 そのほかにも色々見て回った。でもピンとくる道具は見当たらなくて…。


 でも、魔力コンロは良いなと思った。金貨1枚。

(買ってみよう。)


 僕は、マジックバッグと魔力コンロを購入した。


 購入したバッグとコンロはすぐに収納。もちろん、材料は足りていなくて精錬はできなかった。何が足りないかわからないけど、熟練度があがると足りない材料が分かるようになるのだろうか…。


 魔力コンロは、精錬できそうだった。実際、精錬はできたのだが、魔力コンロに使うことができる魔石がなくてその場で使用できるか確認することはできなかった。


 毒消しポーション用の魔石がすべてなくなって、回復ポーションの魔石が半分くらいになっていたのは、魔力コンロを精錬したせいなのだろう。多分。


 道具屋を出てもまだ昼にはなっていなかった。


「レイ、一度ニコのところに戻っていいか?」

神父様が言ってきた。


「はい。大丈夫ですよ。まだ、時間は十分余裕がありますし。」


  僕たちは、ニコ神父様の教会に歩いて行った。道具屋から15分ほどの距離だったが、その間に神父様がニコ神父様と昨日相談したことというのを話してくれた。


 簡単に言えば、ニコ神父様が中級ポーションを作ることができるから、一緒にポーションを作ってみて欲しいということだ。初級ポーションが上級ポーションになってしまったのだから中級ポーションがどうなるか試したいのだそうだ。僕としても中級ポーションの作り方が分かるのだから願ってもない話だ。


 「レイ君、調剤ギルドでの取引はうまくいったのかい。」


 「はい。思った以上に。商売は、押しなのです。」


 「ん?…そ、そうか。商売は、押しか…。それってベンに教わったのでしょう。」


 「はい。ベン神父様の押しは、すごかったです。」


 「そうか…。私も見てみたかったですね…。」


 「おい、ニコ!余計なこと言うんじゃないぞ。」


 「大丈夫だよ。心配するな。さあ、さっそく中級ポーションを作ってみましょうか。」


 僕たちは、ニコ神父様について教会の工房に入った。


 すでに材料は準備してあった。


 「中級ポーションの材料は基本的には初級ポーションと同じです。ただ、人の血液を加え、ポーションから不純物を除く。簡単に説明するとそれだけです。では、ポーションを作ってみますね。」


 ニコ神父は、ボアの魔石を細かく粉末にしていた。初級ポーションの時は、砕いた魔石を入れいた。乳鉢には薬草が入っている。神父様は、薬匙に擦切り2杯の魔石を加えた。精製水を正確に測り、200cc。


「神父様、薬草の量も決まっているのですか?」


「うむ、薬草は、均一ではないからな、約100gだ。適量と思われる量よりも10g程少なめに入れている。反応の様子を見て細かく刻んだ薬草を少しずつ加えていく。逆に、薬草が多すぎるときは、魔石の粉末をごく少量ずつ加えれば良い。」


「分かりました。」


「血液をスポイトで3滴加え、乳棒でゴリゴリすりつぶしていく。この時、乳棒を通して魔力を注ぐことを忘れないようにしないといけない。」


 かき回され、摺り潰された薬草から緑色の汁が出て水に溶け反応していっているのが分かる。血液は直ぐに水に広がり赤みは見えない。


「さらに200ccの水を加え、血液を1滴加える。」


 ゴリゴリと乳棒で摺り潰す。薬草の繊維は細かくなり、解けて液体の中に溶け込んでいく。緑色に濁っていた液体が少しずつ透明になっていく。乳鉢の底が見えるほど透明ではないが植物の汁に魔石の粉が混ざっているような状態だった液体が少しだけ透明になってきた。


「更に200ccの水と血液を1滴。この時あまり色が薄いようなら細かく刻んだ薬草を少し加え、この中で摺り潰さないといけません。薬草を加えない時も、水と血液を加えたら乳棒を通して魔力をなじませます。」


 ゴリゴリと乳棒でかき混ぜ、


「良し、水と血液。これをはじめから数えて5回繰り返す。すると、1000ccの中級ポーションが出来上がるという訳です。」


 一度だけ薬草を加え、1000ccの中級ポーションが出来上がった。出来上がった中級ポーションは、少し濁ってはいるがほぼ透明の緑色の液体だった。


「神父様、僕が精錬して宜しいでしょうか?」


「勿論、宜しく頼む。」


「アイテムボックス。」「アルケミー・ポーション」「アイテムボックス・オープン」


 乳鉢の中に淡く光を放つゴールデングリーンの液体が現れた。目を真ん丸にしてあんぐりと口を開けているニコ神父様。ベン神父様は、上を向いて口をあんぐりと開け右手の平で両目を隠している。


(何のポーズだろう。)


(もしかしてやっちまったのか?)


「初級…、青みがあるから初級だろうが…、エリクサー…。」


「死者さえも生き返らされるという…、あれか?」


「初級だからな…。それでも、死してすぐなら生き返らせることができるかもしれん。」


「レイ!なんちゅうもん作っとるんだ。」ベン神父様は、青い顔をしている。


 「こんなもんホイホイ作れるなんてことが知れたら、自由なんてなくなってしまうぞ。良くてお城にかくまわれて精錬三昧のていのいい幽閉。下手したらさらわれて、奴隷扱いだ。」


「これは、お前のアイテムボックスの中に入れて出すな。出すなよ。」


「エリクサーのことは忘れなさい。いいですね。」


「神父様方、一つ宜しいでしょうか?」


「な、なんだ。」


「今のは、ニコ神父様が作った中級ポーションを精錬したからエリクサーになったと思うのです。僕が、一から精錬したら多分ならないと思うのですが、試して良いでしょうか。」


「ん?そ…、そうか?まあ、エリクサーはすでにできているのだから増えてもなんてことはないか…。分かった。レイ、やってみなさい。」


「で、相談なのですが、材料を分けていただけないでしょうか…。」


「そうか。そうだな。では、薬草と精製水、ボアの魔石の粉末と血液。量は、このくらいあれば、十分だろう。さっきの材料の2倍以上だからな。」


「アイテムボックス。」


 僕は材料を収納した。


「アルケミー・ポーション」

 回復ポーションが精錬された。


「神父様、どこに出したらよいでしょうか?」


「ん?もうできたのか?では…、こちらのビーカーの中に入れてくれ。」


「はい。アイテムボックス・オープン」


 ビーカーの中にシルバーグリーンの液体が現れた。


「最高級回復ポーション!回復力であれば、エリクサーに引けを取らないと言われている伝説のポーションだ!」


「国王への献上品にしてもおかしくない品だ。こんなもの売りに出せるか!」


「ニコ、待て。いけるかもしれない。原液のままなら無理だが、100倍に薄めれば…。性能の良い高級ポーションとして販売できるぞ。」


「レイ。今すぐ高級回復ポーション瓶を…、そうだな100本作ってくれるか?材料は、足りるか」


「魔石が心もとないかもしれません。」


 「ニコ、魔石は手持ちがあるか?」


「ボアの魔石があるが、1個だけだ。まだ、粉末が残っているから当面の中級ポーション作成には困らないが…。良い、使え。」


 僕は、ボアの魔石を受け取り、高級ポーション瓶を作成した。


「アルケミー・高級ポーション瓶、アルケミー、アルケミー、…。」途中で何本で来たかわからなくなったが、百本は、出来上がった。


「ニコ、ビーカーの最高級回復ポーションを100倍に薄めろ。」


「お、おう。」ニコ神父様がポーションを希釈してくれた。その時もかき混ぜ棒をつかって魔力になじませないといけないそうだ。


「よし、じゃあ、ポーション瓶に入れていくぞ。レイ、ポーション瓶を出し…。」


「はい。」僕は、薄めた回復ポーションを収納し、ポーション瓶に詰めた。


「できました。」


「おっ?おお…。そうか。では、このテーブルの上に出してくれないか。」


「はい。」


 テーブルの上に100本の高級回復ポーションが現れた。


「さて、このポーションの扱いなのだが、一挙に100本売りさばくのはやめた方が良い。入手方法を疑われ、きっとよくないことが起こる。しかし、その前にこのポーションの所有者について確認しておかないといけない。このポーションは、この教会の材料でレイが作ったものだ。エリクサーは、レイの理論では、ニコが作ったものになるのだったな。でだ、取引をしよう。ニコの作ったエリクサーは、もしもの時のためにレイが持つ。だから、エリクサーは、レイの物にする。かわりに、今回できた100本の高級回復ポーションをニコが貰う。どうだ、ウィン・ウィンの良い取引だと思わないか?」


「でも、僕は、何も使わず、エリクサーを手に入れたことになりますよ。ものすごく得な気がするんですけど。」


「お前は、そういうが、誰もかれも得しているからいいんだよ。」とベン神父様。


「で、ニコは、この高級回復ポーションを毎月何本か売りさばいて教会の運営と孤児院の経営に充てる。で、どうだ?もちろん、ニコは、この回復ポーションの出どころは秘密にしておく。薬師ギルドに売るか道具屋に売るかは任せる。」


「願ってもない話だが…。分かった。宜しく頼む。レイ、済まんが、この取り引き、受けてはくれないだろうか?」


 ニコ神父様は、申し訳なさそうに頭を下げてきた。


(いやいや、僕だけが得している気は否めないのだが…。僕一人では作ることができないエリクサーをもらって良いのだろうか…。しかも、瓶には入っていないが数本分の量はある。心苦しい。)


「だめか?」


「いえいえ、僕の方が申し訳ないです。」


「ええ~い。埒が明かん!取引は成立だ。帰るぞ、レイ。」


「あっ。はい。」


 僕たちは、教会の皆さんに見送られ、村へと帰っていった。


(ミラ姉たち、家にいるかな…。)


 健脚の神父様に遅れないようにと必死に歩き、村へと向かった。約2時間後、僕たちは村の入り口に到着した。


「レイよ。色々ありがとう。この村の教会もニコのところもしばらくは運営費で頭を悩ませることはなくなった。これからどうしていきたいのかはまだ聞いていないが、何かあったらいつでも教会に相談に来てくれ。では、またな。」


 僕たちは、村の入り口で別れ、それぞれの家へ帰っていった。

 






 



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