第12話 商売って…
「お早う。玲君」
吉井さんが起こしてくれた。
「お早うございます。吉井さん、お久しぶりです。」
「お久しぶりって、昨日お休みしただけじゃない。人聞き悪いですよ。なんか、長期休暇取ってたみたいで。…取りたいけど。」
「そっ…、そうですね。お休み、昨日だけだったですよね。エヘヘ…。」
こんな時は笑ってごまかそう。
(なんか色々ありすぎて吉井さんに前に会ったのってずいぶん前だったような気がして…。)
「もうすぐ御飯ですよ。今日は、お腹が空いたって言わないだね。」
「いや…、もちろんお腹は空いています。でも、昨日から少しずつお腹にたまるものを食べさせてもらっているので、少しだけ我慢できます。でも、お腹すきました。」
「はいはい、分かりました。朝食は8時からです。普通食になったんだね。おめでとう。本当にびっくりするくらい急に回復していくよね。」
昨日会えなかったから色々変わったことにびっくりしてくれたようだ。
(何か嬉しい。)
朝食メニューはいたって普通、玉子焼き、焼き魚、金平ごぼう、サラダ。味噌汁と御飯。ヨーグルトとフルーツ。僕は、満足。もちろんこっそり収納して、作ることができるメニューを増やしたよ。
それからは、あまりにまったりと時間が過ぎていった。向こうの世界のこと考えながら…。
そういえば、金貨1枚って感覚的にいくらくらいなんだろう。普通の生活では銀貨と銅貨だけでも十分贅沢に生活できるようだから数万円から十何万くらいかな…。二十万を超えることはないと思うけど…。20万を超えるようなら、金貨100枚って2000万円…。宝くじに匹敵する。それはないな…、多分。
漫画の本を読んでみたが、集中できない。こっちの世界でもいろいろ実験してみたい。しかし、病院の中で実験するのは危険すぎる。何か作ろうにも材料が手に入らないし…。早く退院したい。
(そうだ、こっちの世界でヒールを精錬して僕自身に使ったらどうなるのだろう。いやいや、今のところ具合が悪いところはない。ヒールを精錬するのは試してみたいが、材料がないのに魔術を精錬したらゴッソリ魔力が減って下手したら気を失ってしまう。そんなことになったら再検査が待っている。それはできない。退院が最大の目標だ。)
ゆっくりと時間が過ぎて行ってようやく昼。昼ご飯も収納してメニュー化。この病院の料理がレストラン並みに美味しいのなら数カ月で一流シェフになれるかもしれない。まあ、この病院の料理のレベルは一般的だと思う。
だから、一流シェフにはなれないが、向こうの世界では、超うまい料理だと言ってくれるはず、ミラ姉は言ってくれる。ロジャーとアンディも言うはず。僕は、三人の笑顔を思い浮かべながら、少しにんまりしながら、手早くアイテムボックスに入れ出しした。
(そうだ。向こうで目が覚めたらまずポーション瓶を精錬しないといけない。それはそうとして、こっちの世界でもポーションは作れるのだろうか?ドクダミってのが材料の中に入っていたけど毒気し草なんてこっちの世界にもあるのだろうか?)
確かめるためには退院しないと。
(良し。食う。寝る。リハビリ!リハビリに行こう!)
僕は、自主リハに行くことにした。
(体力つけて、飯食べて!足腰鍛えて、さあ、退院。字余り!)
今日は、バイク(自転車こぎ)もやってみた。10分で息が上がった。ランニングマシーンで歩く。トレンドだ。周りの人はみんなやってる。おじいちゃん、おばあちゃんが多い気がするけど。みんなやってるからトレンドだよ。
(神父様と歩いた時は、本当にきつかった。急いで歩くのって体力使うよね。)
(そろそろ良いかな。向こうの鍛錬に比べたら全然楽だけど、ミラ姉はいないから筋肉痛になってもヒールはしてもらえないし。)
(晩御飯食べたらもう寝よう。歯磨いて、ヒールを精錬してみよう。)
ご飯を食べ終わって歯磨き、トイレに行って(車イス使わないでトイレに行けるようになったんだよね。リハ室にも車イス使ってなかったでしょう。…って、誰に言っているんだ。さっき吉井さんに言ったこと。)
「アルケミー・ヒール」
(…、できた。僕の意識は、フッと途切れていった。)
「お早うございます。」
「お早うございます。マリンさん。」
「神父様たちは、食堂にいらっしゃいます。」
「えっ?朝まで飲んでいらしたんですか?」
「いえいえ、ちゃんと寝て、もう起きていらっしゃいます。レイさんは、お寝坊さんなんですね。」
「あっ。そっ、そうですね。僕は、寝過ごしちゃったんですね。」
「いいえっ、寝過ごしただなんて、まだ、そんなに遅くないです。教会の朝が早いだけで、レイさんの起きる時間は普通だと思いますよ。」
マリンさんは、微笑みながら慰めてくれた。
(しょうがないです。二人分寝ないといけないのだから…。)
僕たちが食堂に降りていくと、神父様たちは、身支度を整え、一仕事終えた雰囲気で話をしていた。多分、朝のお祈りだのお務めだのを済ませた後なんだ。
「お早うございます。」
「お早う、レイ。朝飯が終わった後で良いのだが、今日のポーション販売について打ち合わせをしよう。」
「はい。ベンジャミン神父様。」
「おいおい、「ベンジャミン神父様」は、たいがい大仰な呼び方だな…。神父様でもこそばゆかったのに、ベンジャミン神父様なんてどこにいるんだ?」
(えっ、えええっ。じゃあ、何て呼べばいい?)
「ベンでいい。ベンさんでもベン神父でも好きなように呼べ。」
「じゃあ、私はニコで。」
(おいおい、ニコライ神父まで乗っかって来たよ。)
「じゃあ、ベン神父様とニコ神父様でお願いします。」
僕は、何とか呼び名を落ち着けることができた。
「まず、飯だ。腹がペコペコだよ。」
今日の朝ご飯は、パンとスープ、そして昨日の差し入れの残り。それでも、教会の朝食としては豪華なもののようだ。みんな笑顔で食べている。僕も美味しく食べた。空腹は最高の調味料は真実だ。
「腹は落ち着いたか?」
とベン神父様。
「はい。それで、まず、ポーション瓶の精錬から始めようと思います。材料は変えずにデザインを変えるだけで良いのですから簡単です。高級ポーション瓶は、アイテムボックスの中に収納していますから、今のポーション瓶を精錬すればすぐに終わります。14本分のポーションはすぐに変更できます。正確には、ベン神父様が作った分の残り4本と僕が作って神父様に渡した10本分のポーション瓶はすぐにできます。毒消しポーションの瓶もすぐに変更することができます。神父様が作った毒消しポーションは、残り4本分。瓶を精錬しなおせばすぐに販売できます。そして、僕が作ったポーションなのですが、神父様が作ったのを精錬したものとは少し品質が違うようなのです。両方とも上質ポーションなのは間違いないのですが、アイテムボックスの中では、違うものとして認識されています。だから、僕が作ったポーションはもう一度鑑定してもらう必要があると思うのです。」
一気にそこまで話して神父様の顔を見た。
「おっおう。概ね、お前が言った流れでいいと思う。回復ポーションのことについてニコと相談したことがあってな。それは、後でお願いするとして…、じゃあ、ポーション瓶の精錬を頼んで良いか。」
「はい。アルケミー・上級回復ポーション瓶。アルケミー・アルケミー・アルケミー・…」
続けて20本の瓶を精錬。
「アルケミー・上級毒消しポーション瓶。アルケミー・アルケミー・アルケミー・アルケミー…」
毒消しポーション瓶は10本。
「できました。」
「アイテムボックス・オープン」
僕は、ベン神父様が作った回復ポーション4本と毒消しポーション4本。僕が作って神父様に渡した10本の回復ポーションを食堂のテーブルの上に並べた。回復ポーション14本は見た目は全く同じに見えるので離して置いている。
「今出したのが、教会にお渡ししたポーションです。」
ニコ神父様は、出てきたポーションをあんぐり口を開けてみている。
「おっ、おい。ベン。この量の上級ポーションを一気に売りさばくのか?」
「道具屋じゃ無理だが、調剤ギルドが引き取ってくれる。昨日、約束したからな。」
「マリン!ポーション箱を二ついや、三つ持ってきてくれ。」
「おいおいベン。勘弁してくれ。教会から高級ポーションを大量に運び出したりしたら、盗賊や物騒な連中に狙われるようになるではないか。」
「そ…、そうだな。すまない。もちろん高級ポーションを見せびらかすように運んでいく気はないさ。レイ、ポーション箱に整理して入れたらアイテムボックスの中に入れておいてくれ。」
「このポーションを販売するのと状態異常解消ポーションの上級ポーション瓶を手に入れないといけない。瓶がないと販売することができないからな。」
ベン神父は、昨日言っていたことを覚えていてくれた。
「ベン神父、状態異常解消ポーションの瓶の材料は、他のポーション瓶と同じなのでしょうか。」
(あまり流通していないポーション瓶らしいからな…。もしかしたら作り方が全く違うのかもしれない。)
「分からん。私も見たことがないのだ。」
「ニコ神父様は、ご存じありませんか?」
「ん?…、知らんな…。レイのスキルなら実物を手に入れて精錬してみればわかるのだろう?」
「その通りですね。やってみればわかることでした。」
食事を済ませた僕たちは、朝一番で調剤ギルドに向かった。朝一の時間だったが、調剤ギルドはにぎわっていた。なんでも、高品質の魔力病薬と回復ポーションをギルドが手に入れたという噂が流れたというのだ。どこぞの王族が魔力病薬を必要としているだのその回復ポーションがあれば、欠損も回復できるだの尾ひれのついた噂が広まったらしい。
僕たちが受付の列に並んでいると昨日僕たちの対応をしてくれたお姉さんが、周りを気にしながら近づいてきた。
「ベンジャミン様、今日は、どのような御用でしょうか?」
「ん?今日は、私ではなく、ここにいるレイが用事があるのだ。私は…、そうだな、付き添い…だ。」
「ベンジャミン様が付き添い…なのですね。では、少々お待ちください。ギルドマスターが、ベンジャミン様に用があると申しておりましたので…。」
ほとんど待つことなく僕たちは、応接室に通された。
「ベンジャミン様、ようこそいらっしゃいました。昨日の魔力病薬と回復ポーションの効果は何なのでしょうか。」
「ん?何なのかとは?効かないはずはないのだが…。」
「効かないなどと滅相もないです。効き方が異常なのです。効きすぎなのです。いや、すぎなのではありません。効いて助かったのです。ありえない効果に奇跡だと噂が広がっているのです。たった一晩でです。何があったか想像できますか?奇跡が起きたのですよ。」
「そんな…、大袈裟な。でも、まあ、悪い噂でなければ、役に立って嬉しい限りです。」
「ところで、ベンジャミン様、次の納入はいつしていただけるでしょうか?実は、今から開拓村の教会にお伺いしようかとしていた所なのです。」
「その納入のことで、昨日言っていたようにレイがうかがったのだ。そんなに興奮せず、まずレイと話をしてくれ…、では、レイ、頼む。」
「はい。神父様。ギルドマスター、今日は、昨日と同じ回復ポーションを4本。毒消しポーションを4本。昨日と同じものではないですが、上級ポーションを10本持参しました。新たに持参した10本の鑑定と回復ポーション、毒消しポーション4本の買取をお願いしたと思っています。それに加えて、状態異常解消ポーションの準備をしておりますので、その上級ポーション瓶を一つ譲っていただきたいとおもってまいりました。如何でしょうか。」
「という訳で、引き取り、鑑定、そして状態異常解消ポーションの上級ポーション瓶の準備、すぐにできるかな?」
「はい!すぐに。」
本当に早かった。
「買取は、回復ポーション4本分で11枚×4本=金貨44枚、毒消しポーション6枚×4本=金貨24枚、合計金貨68枚。状態異常解消ポーションの上級ポーション瓶はサービスです。」
買取はあっと言う間におわった。鑑定は、やはり時間がかかった。
待っている間に状態異常解消ポーションの瓶を収納し精錬してみた。
「アルケミー・状態異常解消ポーション瓶・アルケミー・アルケミー・アルケミー…。」
20本の状態異常解消ポーション瓶を作った。まず、神父様がつくった状態異常解消ポーションを一本、神父様が作った血清をつかって僕が作った毒消しポーションで作った状態異常解消ポーションを1本作ってテーブルに出した。
「神父様、状態異常解消ポーションもできたので鑑定してもらって良いでしょうか。」
「鑑定士がかわいそうになってくるがな…。頼んでみて良いのではないか?」
「ギルドマスターを呼んでもらっていいか?」
神父様が、担当の男に声をかけた。
「は、はい。ただいま呼んでまいります。」
「ベンジャミン様?なんでございましょう。」
「これは、状態異常解消ポーションだ。これも卸して良いと思っている。急いでもらっているところ申し訳ないが、これも鑑定してもらえるかな?両方とも上級だが微妙に違うかもしれないのだ、あらかじめ伝えておくからしっかり鑑定してくれ。」
「そのような希少なポーションまで卸して頂けるのでしょうか。ありがとうございます。直ぐに鑑定させますのでしばらくお待ちください。」
「神父様、何かすごいです。」
「ん?そうか…。商売なんてな。所詮、押しだ。押しがあって押しが強ければ何とかなる。今回は、上級ポーションという強力な押しがあるからな。簡単なんだよ。」
「…、そうですか。良く分かりませんが、商売って押しなんですね。」
そう待たずギルドマスターがやって来た。
「ベンジャミン様。鑑定結果を持ってまいりました。」
「ギルドマスター、商売は、私ではなくレイが行うと言っていただろう。報告はレイにしてくれ。私は、全てレイに任せている。」
「失礼しました。レイ様、鑑定結果を持ってまいりました。」
「はい。宜しくお願いします。」
「まず、今日お持ちいただいた回復ポーションは、昨日の物の方がほんの少し効き目が上のようだと…、ただ確定ではありません。その可能性があるということで一本金貨10枚ということでお願いします。状態異常解消ポーションは、両方とも差異はなく、希少性も加味いたしまして一本金貨20枚でお引き取りさせていただければとてもありがたく存じます。」
「希少性か…、もし、状態異常解消ポーションを後10本準備しても金貨20枚で引き取ってもらえるかな?」
「もちろんです。ぜ、是非引き取らせてください。お願いします。」
「わかった。じゃあ、回復ポーション10本、状態異常解消ポーション2本の買取お願いします。」
「分かりました。少々お待ちください。」
「神父様、良かったですね。しばらく運営が楽になりますね。」
「ん?何言ってるんだ?」
「今、販売したの神父様にお渡しした分ですよ。次から僕の分を販売してみます。見ていてください。商売は押しなんでしょう。でも、状態異常解消ポーションの分は、ちゃんと払いますよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます