第10話 アンチドートの魔術って

 僕たちは、外での魔術習得を終えて教会に戻って来た。


「じゃあ、お礼の倉庫を作りましょうか。」


 僕は、中庭にでて倉庫を設置できそうな場所にやって来た。町の教会で作った倉庫を置くことはできそうだ。


「神父様、釘や金屑をできるだけたくさん持ってきてください。石材や材木はかなり持っていますが、釘が足りそうにないので…。お願いします。」


「釘と金屑か…。待ってろ。探してくる。」


 神父様は、教会の裏の居住場所へ入っていった。


 神父様は、しばらくして戻って来た。


「釘と金屑だ。持ってきたぞ。が…、今日は、このくらいでやめにしておかないか?」

と神父様。


 まだ、昼前、倉庫を精錬しても魔力切れで倒れることはないと思うが、今日は剣の修練も体力づくりの訓練もしていないからな。


「そうですね。わかりました。倉庫づくりは明日にでも。」


「レイ。お礼は貰いすぎなくらいもらっている。回復ポーションを町の調剤ギルドか道具屋に売れば相当沢山の金貨が手に入る。だから気にするな。」


「でも、約束しましたし、ポーションを作ることができたのも神父さんのおかげです。材料も神父さんに用意してもらいましたし、まだ残っているのですから、倉庫くらい作って渡さないと釣り合いません。」


「分かった、分かった、お礼のことは、もう言わない。それでな、時間はまだ早い故、毒消しポーションの材料を探しに行かないか?毒消しポーションの材料も知りたいだろう。」


「今日の仕事はもう、良いのですか?」


「診療所に来るような具合が悪そうな者はどこにも見当たらんし、初級ポーションは上級ポーションを1本薄めれば100本以上できる。備えは万全なうえに開店休業状態だ。毒消しポーションを作れば備えは更に万全になる。今のレイとなら一緒に材料探しに行っても、足手まといになることはないだろうしな。それ以上に毒消しポーションの材料探しは、そう危険なところに行く必要はない。」


「本当に危なくないのでしょうか?今の僕で大丈夫そうなら是非願いします。」


 僕は、神父様と一緒に材料探しに行くことにした。


「まずは、毒気し草。森の浅い場所、川べりなどの水が多い場所に生えている。行く途中、もしもポインズンスネークがいれば狩って行こう。ポインズンスネークは、毒をもった魔物の中では一番狩りやすい。」


 僕たちは、森に向かって歩いた。20分程歩くと、ちらほらと魔物の気配がしだした。


「レイ。分かるか?」


「はい。何となくですが、右の奥に何か潜んでいるような気がします。」


「そうだな。一番大きな気配は、そこだろう。この辺りの魔物は全て弱いが、右奥の気配は、ポインズンスネークではないかと思う。私が狩るのを見てろ。」


 1m程の毒を持つ蛇の魔物が身を潜めていた。気付かず傍を通る生き物がいれば、毒牙にかけ殺して食べる。


 しかし、1m程しかない為人を襲うことはほぼない。もちろん嚙まれれば、命を落とすことがあるが回復ポーションでも何とかなる。


 そういう意味で狩りやすい魔物だ。


 神父様は、ゆっくりとポインズンスネークに近づいていった。蛇は、神父様の気配を感じると距離を保つかのように鎌首を持ち上げながら退いて行った。


『クッ』と鎌首が後方に下がった時、


「エアカッター。」


 ポインズンスネークの頭がポトリと落ちた。


「レイ。どうだ。頭が動いたのが分かったか?」


「はい。飛び掛かる直前の動きですね。」


「そうだ。その動きに入ったポインズンスネークは、横に動くことができなくなる。攻撃のタイミングだ。そして、もう一つ大切なこと。ポインズンスネークが、鎌首を上げるようにゆっくり近づくこと。以上だ。では、魔石を回収しよう。毒袋も薬の材料になるから回収しておくように。毒袋の場所と魔石の場所は分かるな?」


「魔石は、多分わかると思うのですが、毒袋が分かりません。」


「毒袋は下あごの奥にある。毒腺と呼ばれる器官だ。手袋をしてこのハサミで下あごを首側から開いて…、これだ。」


「アテムボックス」

 僕は、毒袋と蛇の体の部分を収納した。


「アイテムボックス・オープン・魔石」

 手に魔石が現れた。


「神父様、回収しました。神父様が持っておきますか?」


「ん?えっ…。いや、レイが持っていてくれ…。」


 呆れた表情で僕を見ている神父様。


「レイ…、お前と一緒だと楽でいいな。」


「あはは…。蛇の体はどうしますか?」


「食えないことはないが、小骨ばかりで美味しくないからな…。捨てちまおうか。」


「はい。」

 僕は、蛇の体を元の場所に戻した。小さな魔物だからすぐに何かに食べられてしまうだろう。


 魔石を1個ゲットした。


「じゃあ、出発しようか。」


 僕たちは、また、毒気し草が生えていそうな川べりに向かって歩き出した。


 数分歩いた所でまたポインズンスネークを見つけた。神父様に習ったようにゆっくり近づいて鎌首を上げさせた。


 タイミングを見誤ることがないように

「アイテムボックス・オープン…。」

『クッ』

 鎌首が後ろに下がった瞬間

「エアカッター・エアカッター」


 一回じゃあ心配だったので2発。頭がポトリ腹部も2つになっていた。


「魔石は大丈夫か?」と神父様。


「アイテムボックス」


 僕は蛇を収納して魔石と毒袋を見ると2つずつに増えていた。


「大丈夫です。」


 いらない蛇の体と頭は元の場所に出しておいた。


(毒消しポーションの材料は一人でも準備できる。)


 川べりについてしばらく探していると神父様が僕を呼んだ。


「レイ、あったぞ」


 日当たりの良い川べりに毒気し草が生えていた。20本程手に入れた。


 根を残しておけばまた生えてくるということだ。場所はしっかり覚えておこう。


 日当たりの良い場所を探すと毒気けし草を何か所かで見つけることができた。


「魔石は2つだが、毒気し草は十分だろう。それに、魔石が1つあればポーション瓶に5~6本分の毒消しポーションが作れるからな。」


 僕たちは、ポインズンスネークを見つけながら帰ることにした。来る時とは少し道を変えて村に戻ったが、ポインズンスネークを見つけることはできなかった。


 教会に着いてすぐ、工房に入り毒消しポーションを作ることにした。


「毒消しポーションの作り方も回復ポーションと大体同じだ。魔力を込めながら材料をゴリゴリする。材料は、毒気し草、ポインズンスネークの魔石、精製水で良いのだが、魔物の毒に特化した毒消しポーションにするには、魔物の毒袋から分離した毒と人間の血液を混ぜ合わせたものから作る血清を混ぜるとよい。それは、一般的な毒消しポーションに後から血清を混ぜてもいいからな。まずは、毒消しポーションを作ってみよう。レイが作ってみるか?」


「いいえ…。材料を混ぜながら魔力を流し込むというのが良く分からないので、神父様にお願いしていいですか?」


「わかった。では、私がやってみよう。」


神父様が毒消しポーションを作ってくれた。


 出来上がったポーションは、濁ったオレンジ色。それをアイテムボックスに入れ、精錬。


「精錬しました。」


 乳鉢の中に毒消しポーションを戻す。出来上がった毒消しポーションは透明な青紫色だった。


「おいおい。これまた、上級毒消しポーションじゃないか。こんなのいくらで売れるかわからないぞ。それに、上級毒消しポーション用の瓶もない。」


「じゃあ、道具屋で回復ポーション用の瓶と交換してもらいましょうか…。」


「道具屋にも上級用の瓶はないだろうなぁ。初級用の瓶なら教会にもあるのだが…、さしあたり初級用の瓶で良いか。回復ポーションほど早く劣化はしないが、できれば、上級用の瓶で保存しておきたいのだが…。」


「神父様、では、初級用の瓶を貸していただけませんか。材料が回復ポーションと同じならもしかしたら、中級用のポーション瓶くらいなら精錬できるかもしれません。」


「そうだな…。持ってきてみよう。精錬をお願いできるかな?」


「はい。」


 神父様が持ってきたポーション瓶を精錬してみた。思った通り、初級用のポーション瓶とは思えないくらいきれいなものができた。


 10本分の瓶を精錬し、5本分の瓶を神父様に渡した。出来上がった毒消しポーションをポーション瓶に移し終えると5本では入りきれなかった。


「入りきれなかった分は、血清を足して魔物毒用の毒消しポーションにしよう。」


 神父様は、そういうと手のひらに傷を入れて血液をビーカーの中に溜めて行った。 


「痛そう…。」


 僕は、慌ててアイテムボックスから回復ポーションの瓶を取り出して神父様の手に振りかけようとした。


「レイ!やめろ!ヒール」


 神父様は慌ててヒールの呪文を唱えた。


「このくらいの傷に上級ポーションを使うことはやめてくれ。もったいなさすぎる。」


「えっ?そんな…。とっても痛そうでした。」


「おいおい。冒険者になればこれくらいの傷であたふたしていちゃあ、命がいくつあっても足りないぞ。しっかりしてくれ。」


「はい…。分かりました。」


「さて、この血液に、毒袋の毒を絞り込む。この時に、毒に触れないようにな。かぶれたりひどい時には、命にかかわったりすることもある。」


 神父様は、ピンセットのような道具で毒を血液の中に絞り落した。血液は、真っ黒になって少し変なにおいがした。


「さて、これで1時間くらい放置しないといけない。中に何も入らないようにふたをするのだが、空気の流れが必要だからきれいな布をかける。」


「待っている時間にレイが毒消しポーションを作ってみるか?材料は、アイテムボックスの中にあるだろう。」


「そうですね。でも、試してみたいことがあるので、協力していただけますか?」


「なにかな…。」


「アンチドートの魔術を教えていただきたいのです。」


「おや、アンチドートは、明日にすると言ってなかったかい。」


「そうなのですが、今は、アイテムボックスの中に毒消しポーションと毒消しポーションの材料があるでしょう。魔力だけで毒消しの魔術を作るのと魔法アイテムとその材料がアイテムボックスの中にある時とに違いがあるかを確かめてみたいのです。」


「違いがあるかどうかか…。分かった。レイにアンチドートをかければいいのだな。」


「お願いします。この辺りに向かってアンチドートをかけてください。アイテムボックス・オープン」


「では、いくぞ。アンチドート」


 魔術は、アイテムボックスに吸い込まれていった。ほんの少し魔力が減った気がする。


アイテムボックスの中にアンチドートが収まっている。


「アルケミー・アンチドート」「アルケミー」「アルケミー」


 魔力はあまり減らない。材料は少し減っているようだ。ポーションは、減っているかどうかわからない。しかし、魔力はほんの少し減ったという感じ。


(アンチドートの魔術って毒消しポーションの材料があれば簡単なんだ。)


 ヒールの材料もあるから後で試してみよう。


 アンチドートも手に入れられたけど魔力的には十分余裕があった。


(倉庫作っちゃおうかな…。)


「アルケミー・倉庫」


(できた。魔力的には問題ない。)


「神父様、倉庫できちゃいました。」


「何ができたって?」


「倉庫です。中庭に設置してよいですか?」


「明日以降に建てるって言ってなかったっけ?」


「言っていたのですが、できちゃって。」


「お…っおう。そうか。じゃあ、頼む。」


 僕は、中庭に出て倉庫を設置した。町で作った倉庫とそっくりな倉庫だ。


「神父様~っ。終わりました。」


 神父様が、自宅から出てきた。


「凄い倉庫ができたな。あっと言う間に。これも精錬か?」


「はい。精錬の呪文で作りました。」


「凄いな。本当に。…おっと、そろそろ血清の放置時間が終わるころだな。では、血清作りを行ってみようか。」


 真っ黒だった毒入りの血液は、うっすらと上下に分かれていた。


「冬場だったら冷たく暗い場所に二日くらい置いていてしっかりと分離させるのだが、今の季節だと血液が腐ってしまうからな。精錬で分離できれば上質な毒消しポーションになるのだが、レイ、分離ができそうか?」


「分かりませんが…、やってみたいです。」


(蛇の体の中から毒袋や魔石を取り出せたのだから、透明な部分、血清は抽出できるような気がした。)


「アイテムボックス」


 僕は血液を収納した。


「アルケミー・血清」


「神父様、血清はどこに出したら良いですか?」


「おおっ。もうできたのか。では、毒消しポーションの中に…、いや、このビーカーの中に入れてくれ。」


「アイテムボックス・オープン・血清」

 僕は、ビーカーの中に血清を出した。


 神父様は、血清をスポイドに取り、毒消しポーションの中に5滴ほど滴下した。


 かき混ぜ棒でかき混ぜると透明な青紫色だった毒消しポーションは無色の液体に代わっていった。


「無色にまでなってしまうのか…。上級状態異常解消ポーションなのか?」


「これを入れることができるポーション瓶は、この村にはないな。」


「レイよ。このポーションと血清は、お前のアイテムボックスの中に収納していてくれないか?保存できる瓶がない。」


「神父様、僕もそのポーションを作ってみても良いですか?血清をアイテムボックスに収納すれば、材料は揃うので。」


「おっ…、おう。良いぞ。作ってみなさい。」


「アイテムボックス」

 僕は、血清と上級状態異常解消ポーションを収納した。


「アルケミー・状態異常ポーション」


アイテムボックスの中で状態異常解消ポーションは、2倍になっていた。


「神父様、できました。」


「そうか。分かった。状態異常ポーションはしばらく預かっていてくれ。」


「はい。」

 

 






【後書き】

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