第9話 回復ポーション作成って
朝食を食べ終わると三人は、町のギルドに出かけて行った。
駆け出しの冒険者パーティー『アンデフィーテッド・ビレッジャー(負けない村人)』を結成して5カ月。ランクは一つしか上がっていないが、安定してクエストをこなす期待のパーティーだ。
三日前までは、僕がこのパーティーに参加するなどありえないことだったけど、今は体力さえつけば考えてもらえるかもしれないと思う。しばらくは、村の修理屋さんをしながら体力をつけないといけないだろうけど。
僕は、三人を送り出すとためしにヒールを精錬してみた。ゴッソリ魔力が減ったことは分かった。
(何故…?)
ウォーターボールは威力を増しても魔力はあまり減らなかった。まず水を準備していたからかもしれないけど…。どうしてヒールは魔力をバカ食いするんだろう。考えられるのは、ヒールに必要な素材がアイテムボックスに揃っていなかったからかな…。いや、でも、アイテムボックスの中に材料がそろっていなかったら、精錬はでなかった。
アイテムボックスの中に収納すれば新品同様にするか、同じような物に精錬することができた。仕上がりにイメージが関係するのは何となく分かる。収納すれば、収納したものの形や仕組みが伝わってくる。知っている材料なら材料名も浮かんでくる。木材とか、松の板とかかなり幅があるけど…、代用が効くのは、一般名に分析されるのかもしれない。
今朝、ポトフを作った時以外は、ほとんど一般名だった。土とか石とか材木とか…、日用品ってそのあたりの材料でできているからだろう…。
まあ、良い。ヒールは、一つ増えた。今日は、もう作るのは無理。魔力がもう残っていないわけではない。もう一つヒールを作るのが無理というわけ。でかいウォーターボールは…、全然楽勝。いくつでも作ることができる。今のところ、ヒールは一日ひとつ精錬することを目標にした方が良いようだ。
それにしても、引っかかるのはアイテムボックスだ。ヒールは絶対アイテムじゃない。魔術だ。魔法アイテムは多数ある。ヒールの力を持つ回復ポーションなどだ。
でも、ヒールは回復ポーションに必要な素材はいらない。魔力を直接放射して被施術者の怪我や病気を回復する魔術だ。そんなアイテム以外の物を収納できるスキルをアイテムボックスと呼んでいいものだろうか。
まあ、その呪文で機能するから問題はないのだけど…。
(僕自身に鑑定魔術があれば、自分自身の状態を確認できるのだけど…。そういえば、大きな教会にいけばステータスやスキルを確認することができると聞いたことがある。教会に関係する職業のスキルか魔道具を使うのだろうが、この村や近くの町の教会ではできない。)
それから僕は教会に向かった。
「神父様、お早うございます。」
「おう、レイ、お早う。それにしても、お前にしては早いな。」
「ミラ姉達が朝早くから出て行ったからね。一緒に朝ごはんを食べたんだ。」
「そうか…。ミラも喜んだだろうな…。ことろで、こんな早くに教会に来たってことは、何か用事があるのか?」
「はい、お願いがあります。一昨日教えてくださったエアカッターをもう一度教えていただきたいのです。」
「うむ、教えると言っても、あれだけやってできなかったのだぞ。俺には、あれ以上かみ砕いて教えることなどできないぞ。」
「習得の仕方が分かったのです。昨日、ミラ姉たちと訓練して。」
「そ…、そうなのか。で、どうやったらいいのだ?」
「ここ、ここに向かってエアカッターを撃ち込んで下さい。最初は、弱いエアカッターを」
「ここって、そうしたらお前に当たってしまうぞ。弱いエアカッターでも軽い怪我では済まないのだぞ。」
「大丈夫だと思います。昨日、ミラ姉のウォーターボールで確認済みですから。でも、エアカッターも同じようにできるかわかりませんから念のため一番弱いエアカッターでお願いします。」
「分かった。そこに弱いエアカッターを撃ち込むのだな。しかし、ここでやったら何かあった時に危ないな…。よし、村の外に出てやってみよう。」
「村の外に出るのでしたら、その前に教えていただき他ことがあります。」
「んっ?何だ?」
「魔力病の薬の作り方とわかるならポーションの作り方を教えていただきたいのですが、できますか?」
「私が作ることができるのは、魔力病の薬と回復ポーションの初級ぐらいだぞ。しかも精錬ではなく材料をゴリゴリして、魔力を混ぜ込んで作る方法しかできんぞ。」
「その方法が知りたいです。材料代は何とかしますから…といっても、今お金は持っていないんですけど。」
「いやいや、お前から材料費をとろうとは思っていないぞ。祝宴の日にたくさんの家具やら道具やらを修理してもらったり作ってもらったりしたからな。それこそ増えた道具を入れる場所に困っているくらいだ。」
「それじゃあ、後で代金の代わりに倉庫を作りましょう。魔力を残しておかないといけないから今すぐはできませんが…。」
「おいおい、そんなもの貰ったら、貰いすぎになっちまう。直ぐに倉庫を作れなんて言わないよ。いつか、時間があったら倉庫を建てるのを手伝ってくれ。」
それから、神父様と一緒に教会の工房に移動した。神父様がいつも薬やポーションを調合している場所だ。
「じゃあ、見ていてくれ。まずは、魔力病の薬からだ。材料は、ドクダミ、アオカビ、赤スライムの核と水。以上だ。魔力病の薬は、魔力を加えていく作り方ではない。水の中に溶け出した魔力成分を捨てながら水を加えて魔力が薄い薬にしていくんだ。慣れてきたら20分くらいで作ることができるようになる。」
それから、ゴリゴリと音を立てながら薬を作ってくれた。
「よし。できた。」
神父様が、乳鉢の中にできた魔力病の薬を渡してくれた。
「アイテムボックス。」
僕は、薬を収納し、
「アルケミー。」
精錬した。材料が入っていないから薬は増えない。少し、減ったくらいだ。
僕は、アイテムボックスから魔力病の薬を取り出し、神父様がもっている乳鉢に移した。
「ありがとうございました。神父様、薬の材料をいただけませんか。」
「おう。もちろん。じゃあ作ってみろ。」
神父様が別の乳鉢に薬の材料を入れてくれた。
「アテムボックス」
僕は、材料を収納し、
「アルケミー」
薬を精錬した。
「できました。」
乳鉢の中に薬を出した。
「ん?」
唖然として薬を見る神父様。最上級の魔力病薬ができていた。
二つの乳鉢を見比べている神父様。神父様が作った魔力病薬も最上級のものになっている。
「僕にはもう必要ないので…。必要な人がいたら使ってください。」
「え~っ。これは、私がお前に使っていた薬の何倍も上等な薬になっていると思うぞ。薬師ギルドに持っていって売れば、金貨何枚かで買い取ってくれるくらい上等な薬になっていると思う。そもそも、同じ材料でこれができるなんて信じられん。」
「次は、回復ポーションですね。よろしくお願いします。」
「お…、おう。じゃあ、材料からな。まず、薬草、ボアの魔石、精製水。以上だ。回復ポーションは魔力病の薬と逆の作り方になる。ゴリゴリしながらひたすら魔力を流し込む。では、やってみるぞ。」
神父様はきれいに洗った乳鉢に材料を入れた。
『ゴリゴリ、ゴリゴリ。』
しばらくゴリゴリした神父様。うっすらと汗がにじんでいる。
「よし。できたぞ。」
僕に少し濁った緑色の液体が入った乳鉢を渡してくれた。
「アイテムボックス」
「アルケミー」
アイテムボックスの中をもう一度乳鉢に戻す。
エメラルドグリーンの透き通った液体がさっきのポーションの半分くらいの量になって戻っていった。
「じょ、上級ポーション!中級を通り越して上級になっているじゃないか!!」
神父様の声が2倍くらいの大きさになっている。
「こ…、この量の上級ポーションなら金貨10枚は下らないぞ。でも…、ポーション瓶があったか…。ポーション瓶に入れておかないとすぐに品質が低下してしまう。」
今度は、半分以下の声の大きさで、ぼそぼそと…。
(独り言か?)
「レイ!ちょっと待ってろ。道具屋に行ってポーション瓶を譲ってもらってくる。」
神父様は、小走りに道具屋に向かっていった。
(上級ポーションができたって…。精錬なら徹底的に不純物を取り除くことができるからなのだろうか…。よくわからないけど、品質が良くなるのなら問題ない。)
すぐに神父様は戻って来た。
「リアンの奴、ポーション瓶一つに銀貨1枚だと。中級ポーションと同じじゃないか…。」
「神父様、ポーション瓶って何でできているのですか?」
「よく知らないが、魔石を混ぜこんだ粘土でつくるってのを聞いたことはあるが…。」
「魔石って何の魔石か決まっているのですか?」
「いや、決まっていないと思うぞ。」
「じゃあ、教会に魔石の余分ってあります?」
「おう、回復ポーション用にいくつかある。」
「では、魔石を一ついただけますか?それとそのポーション瓶を貸してください。」
「お、おう。」
神父様は、ポーション瓶と魔石を渡してくれた。
「アイテムボックス」
僕は、ポーション瓶と魔石を中に入れた。
「アルケミー・ポーション瓶、アルケミー、アルケミー、アルケミー…」
ポーション瓶を10本作ったが、魔石はまだアイテムボックスの中に残っていた。
「はい。神父様。」僕は、5本のポーション瓶を渡した。
(瓶も上級瓶になっているかもしれないが、見た目はさっき渡してもらったのと同じだ。滑らかさや輝きは増しているような気がするけど。)
「おっ…。おお、ありがとう。」
神父様は、ポーションを瓶に移した。3本の上級ポーションができた。
「このポーションは、1本売ってもいいか?」
神父様が俺に尋ねてきた。
「そのポーションは、神父様が作ったものですから僕に聞かなくてもよいのではないですか?」
「いやいや、私が作ったのは初級ポーションだ。このポーションを作ったわけじゃない。」
「でも、それは、神父様が作ったポーションですよ。僕は、神父様のポーションを精錬しただけですから。」
「分かった。それじゃあ。ありがたく使用させてもらう。これを1本売れば、教会の運営がかなり楽になる。」
「神父様。厚かましいお願いなのですが…、ポーションの材料少し分けてくださいませんか。タダでとは申しません。できたポーションの半分は、お渡しします。それでなんとかお願いします。」
「できたポーションを半分って…。また上級ポーションが何本もできたら貰いすぎになってしまう。材料は、良い。分けてあげるよ。」
神父様は、さっきポーションを作った時の5倍くらいの材料を持ってきた。
「そんなにたくさん…。」
「さっきは、私が作ったポーションを精錬しただろう。一から作るとなるとどのくらいの材料が必要かわからないからな。それに、出来上がったポーションを何本か売れば、この材料代の何十倍の金額になる。多分な。」
僕は、材料をアテムボックスに収納しポーションの精錬をした。
「アルケミー・ポーション」
一回精錬すれば、次からは、アルケミーの呪文だけで良い。
「アルケミー・アルケミー」
3回精錬した。
「神父様、何か入れる物を出してください。」
神父様は、陶器でできたビーカーのような入れ物を出してくれた。
「アイテムボックス・オープン・ポーション」
容器に8分目ほど注いだ。作ったポーションの3分の1も減っていない。
エメラルドグリーンの回復ポーション。
上級ポーションだ。
神父様は、残りのポーション瓶2本にゆっくりと注いでいった。容器のポーションは、3分の1も減っていない。後、4・5本はポーション瓶が必要なようだ。
「アルケミー・ポーション瓶・アルケミー・アルケミー・アルケミー…。」
更に10本のポーション瓶を作り、5本を神父様に渡した。
「おお、ありがとう」
僕は、アイテムボックスの中の残り5本のポーション瓶にすべてポーションを入れて取り出した。15本の上級ポーションができた。
「レイ!この教会は、大金持ちになってしまうぞ…。」
「良かったです。これで、運営に四苦八苦しなくて良くなりますか?」
「おっ、おう。これで、この村に教会を残すことに文句を言われないようにできるさ。誰にもな。」
神父様は、ニヤリと口元を上げると僕の方を見た。
(回復ポーション作成ってぼろ儲けできるかも…。)
僕は、この世界で暮らしていく基盤を見つけたような気がした。
「ここを片付けたら、村の外に出ようか。」神父様と工房の片づけをすると僕たちは、村の外に出て行った。
「神父様、ここですよ。ここにエアカッターです。」
「分かった。怪我するなよ。」
「アイテムボックス・オープン。お願いします。」
「うむ。エアカッター。」
エアカッターは、アイテムボックスの中に吸収されていった。
(エアカッターというくらいだから材料は空気か…。)
「アイテムボックス」
僕は、周辺の空気をアイテムボックスの中に収納した、小さな突風が起こった。
「アルケミー・エアカッター」
エアカッターが二つになった。
魔力はあまり削られていない。
「アルケミー・アルケミー・アルケミー」
合計5個のエアカッターがアイテムボックスの中にできた。
森の方向に一本の木があった。
「アイテムボックス・オープン・エアカッター」
『バサッ』
と音がして木の枝が落ちてきた。
「おい。エアカッターができるようなったのか…?」
神父様が怪訝な顔で僕の方を見ている。
「ええっと…、できるようになったというか。精錬しているといった方が正しいのですが…。発動は、アイテムボックスから取り出している。という訳です。」
「な~んだ。そんなことか…。なんて、納得できる訳ないだろう!」
神父様の乗り突っ込みだ。
「で、神父様。次は、強力な奴でお願いします。」
「おいおい、大丈夫か?強力なエアカッターだと刃の大きさもそこそこあるぞ。」
「大丈夫だと思います。多分…。刃が大きいのであればアイテムボックスの入り口もできるだけ大きくしておきます。」
「アイテムボックス・オープン。では、この辺りにお願いします。」
僕は、アイテムボックスの口が開いているあたりを指示した。
「うむ。わかった。ムムムッ。」
神父様は、魔力を練って準備を始めた。
「エアカッター!」
『ビュッ』
アイテムボックスの中に入れることができた。
「うまくいきました。」
それから、神父様にライトの魔術を教えてもらった。
アンチドートの魔術はヒールと似ているから次回にすることにした。
今日は、ヒールも作ったから意識をなくす未来しか見えない。アンチドートは毒消しポーションとほぼ同様なので、材料がそろったら、毒消しポーションの作り方から身につけた方が良いだろう思ったのだ。
ライトは、光を発する魔法だが、一般的な攻撃力はほぼない。太陽光をアイテムボックスにため込むことができれば比較的簡単にできるのではないかと思ったのだが、そんなに簡単ではなかったようだ。太陽光はほんの少しもため込むことができず、ライトの魔術は、魔石と炎を消費していた。
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