第8話 振る舞い料理って

「おはようございます。今日は、起床時間に目が覚めたのですね。」


「おはようございます。」


 朝の7時。朝の検温に来たのは、吉井さんではなかった。


 当たり前だ。吉井さんにも勤務時間と勤務日がある。

(お腹が空いたなぁ。)


 8時が朝食。今日は5分粥にするといっていた。おかずは、消化が良いものだとは言っていたが何だろう。


 朝食が来た。

(出汁巻き玉子、みそ汁、赤魚のおろし煮、ヨーグルト。美味しかった。)


 10時からはリハビリ。リハビリ室で少し歩いた。車いすに乗せられてリハ室に移動して、足元に気を付けながら10分ほど歩いた。指先にパルスオキシメーターを付けての歩行。SPO2値は正常。


(問題なし。)


 理学療法士さんが横についてくれていたから転ぶ心配はなかったけど、体力が戻っていないことを痛感した。


 リハビリ室には面白いものは一杯あったが収納はできなかった。流石に人の目が多すぎる。


 リハ室から戻って昼食を待つ。移動はまだ車いす。昼食の前に本村先生がやってきた。


「玲君、調子はどうだい。」


「良いです。歩行も問題なかったと思います。」


「少し息が上がっていたようだけど問題なかったと聞いているよ。今日から、トイレは、歩いて行ってみようかね。ただ、無理はしないようにね。それから、今日昼食後、採血して結果が良ければ点滴を外そうと思う。昼食からは、普通食にしてみるよ。普通は、もっと時間をかけて戻していくのだけど、回復が早すぎるからね。お腹が空いて仕方ないんだろう?」


「はい。お願いします。お腹が空いて困っています。」


「吉井君が、君が、毎日お腹が空いたと言っていると、伝えてきたからね。」


 いつも通り、お腹の触診と聴診の後、

「では、また、後で。」

と言って出て行った。


 昼食は、普通食。入院後初めて食べる病院の普通食だった。


 うどんと焼き魚。御飯とサラダ。ちょっと変な組み合わせだったが美味しかった。お腹いっぱいになった。久しぶりの満腹感だった。もしかしたら、このような幸せな満腹感は生まれて初めてのかもしれない。


「ありがとう。本村先生。」


 しばらくして、看護師さんがやって来た。吉井さんじゃなかった。


「採血しますね。」


 夕方近くになって本村先生がやってきた。


「検査結果は良好だったよ。しっかり栄養を消化・吸収できているようだね。点滴は、もう必要ない。でも、水分は意識して取るようにしてね。今までは、点滴で水分補給していたからね。」


「よし!退院にまた近づいた!」


 点滴を外したら急にお腹が空いた気がした。晩御飯が待ち遠しい。


(そうだ。晩御飯も収納してみよう。料理も精錬できるようになるかもしれない。)


(晩御飯がますます待ち遠しくなった。)


 その日から食事が来たらすぐに収納して精錬してみることにした。食べる途中で収納・精錬しても、量が元に戻ることはなかったが、アイテムボックスの精錬メニューに料理名が増えていた。


 ポトフとサラダ。豚肉のソテー。御飯。


(家に帰ったら、材料を集めて料理に挑戦してみよう。)


(消灯時間前だが、もう眠ろう。)




********************************************************




「レイ。目が覚めた?お早う。」


「ミラ姉?お早う。どうしてここに?」


「あんたが、魔力切れで倒れてしまったからでしょう。」


(あっそうか。ミラ姉に貰ったヒールを精錬しようとして、魔力をゴッソリ持っていかれて意識が飛んでしまったんだ。)


「ミラ姉。お腹空かないか?」


「そりゃお腹は空いたさ。もうすぐ朝だからね。」


「ミラ姉たちは寝ていないのか?」


「寝たよ。順番にね。レイを見ておかないと心配だったからね。」


「じゃあ、朝食を作ろうか。」


 僕は、ミラ姉と一緒に台所に降りて行った。


「ミラ姉、ジャガイモと肉と人参玉ねぎ、塩と油はあるかい。」


「香辛料なんかもあれば嬉しいのだけど。」


「野菜や肉はあるわよ。塩はもちろんあるわ。調理用のお酒と香辛料も少しだけどあるわ。」


「それを使わせてよ。」


「いいわよ。でも、レイは料理なんてできるの?」


「分からない。でも、やってみたくて。やらせてくれる?」


「もちろん。楽しみにしている。レイの初めての振る舞い料理ね。朝食だから簡単なもので良いわよ。」


 僕は、野菜と肉、調味料をアイテムボックスに収納した。


(よし、準備終了。)


「アルケミー・ポトフ」「アイテムボックス」


(大丈夫、ポトフができた。)


「ミラ姉、お鍋は、これで良い?」


僕は、竈のそばに置いてある鍋を指した。


「大丈夫よ。昨日きれいに洗っているから。」


「アイテムボックス・オープン。」


 ポトフを鍋に移した。


「いい匂い。」ミラ姉が言った。


 竈に火を入れてポトフを温める。


「熱々で食べてくれると嬉しい。」


 「ロジャー!アンディー!御飯よ。」

 ミラ姉が大きな声でロジャーたちを呼んだ。


 「「お~い。」」


 二人は、頭をぼりぼりと掻きながら部屋から出てきた。


「レイが朝食を作ってくれたのよ。食べましょう。あっ、そうそう、パンを出さないといけないね。」


「レイの料理か。食べることができるんだろうな。」


「酷いな、ロジャー。」僕は、にやりとしながら言った。


(僕自身も食べられるかどうかわからないのだけどね。)


 鍋から皿にポトフを注ぎ分けてテーブルに置いた。


「ポトフという料理だよ。精錬で作ってみた。食べてみて。」


 四人で席についてポトフに手を付けた。


「美味しい。」

 3人から言葉がもれた。


(良かった。)


 三人に初めて料理を振舞うことができた。材料は、僕が準備したものじゃないけど美味しくできて良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る