第4話 祝宴の儀って
(父さんと母さん。僕にとっては遠い記憶。この村で生まれ育った僕だけど両親の記憶はあまりない。いや、全く無いと言っていい。神父様に色々と聞いているが、はっきりと覚えてはいない。)
両親の記憶というわけではないが、知っていることはある。
村で唯一のSランク冒険者だったらしいこと。
とても強かったらしいこと。
昔は、ベンおじさん(神父様のことだけど)と3人でパーティーを組んでいたらしいということ。
すべて神父様や村の人から聞いたことだ。
「よし。今日はレイの成人の祝いだ。頑張ってご馳走を作らないといけないな。」
神父様は、満面の笑みで言ってきた。今年、村で成人の儀を迎えたのは僕一人。
例年なら2~3人はいて、町の教会から大騒ぎで戻ってきてすぐ祝いのパーティーが始まるのだ。
しかも、大抵成人の儀がおわったらすぐに村に戻ってくるから村のみんなは、昨日パーティーの準備をしていたんだと思う。
(別に僕が疎んじられている訳ではない。)
神父様が声をかけてくれて村のみんなが集まってきた。
「レイ、昨日はどうしたんだ。」
村長のジョージさんが大きな声で尋ねてきた。
「成人の儀の時に、気を失ってしまって。そのあと色々あって町の教会に泊まることになってしまったんです。」
「そうか。それなら仕方がないか。でも、お祝いの準備はしていたんだぞ。」
「すみません。」
「いやいや、別に責めているわけではないからな。二日連続でおいしい料理が食べられると思えば、レイにお礼を言わなきゃな。」
周りの村の人たちも
「うんうん。」と頷いてくれている。
「それじゃあ、さっそくお祝いの準備を始めよかね。でも、レイは、ほんの少ししか食べてくれないからね。作り甲斐がないんだよね。」
「エマおばさん!僕、食べられるようになったんだよ。きっとおばさんがびっくりするくらい食べるよ。」
「ほう~。そりゃあ楽しみだ。じゃあ、レイのために山盛りのご馳走を作らないといけないね。」
エマおばさんの言葉を合図にしたように、村の人たちはお祝いの準備を始めた。
村の集会所に集まってきたおばさんたちは、大きな声で笑いあいながら、料理をしている。
おじさんたちは、集会所の中にパーティー会場を作ってくれている。
テーブルやいすを並べ、エールや果実酒、子ども用の飲み物など集会所に運び入れてくれている。
昨日は、僕が戻らなかったから、ごちそうはみんなで食べたようだが、お酒は飲まなかったそうだ。心なしか男性陣は、顔が緩んでいるように見える。1時間もしないで祝宴の準備は終わった。
「では、成人の儀を終え、無事大人の仲間入りしたレイの祝宴の儀を行う。レイが我らの仲間になることに異議を唱える者はここにいるか!」
神父さんが、威厳を込めた声で問うた。
「異議なし」
村のみんなが声を合わせ答えてくれた。
「村の者全員がレイの仲間への加入を認めた。レイ、これから村の一員として、支えあい大きく成長していってほしい。おめでとう。では、レイ、君から村の皆に一言、そうだな…、決意を述べてほしい。」
神父様は、僕の目を見ながら伝え、村のみんなをしっかりとみて椅子に座った。
僕は、神父様の隣に立ち上がり、大きく息を吸った。そして、ゆっくりと息を吐いて心を落ち着かせた。
「皆さん。成人の儀から一日遅れてしまったこと申し訳ありませんでした。そして、一日遅れてしまっても、この祝宴の儀開いてくださったことありがとうございます。それ以上に両親を失って今まで、病気でろくに仕事の手伝いもできなかった僕を育ててくださったことありがとうございました。昨日の成人の儀の後、魔力回路を活性化させることができ、今までの病気が嘘だったように元気になることができました。これからは、皆さんの役に立てるように、皆さんを少しでも支えられることができるようになりたいと思います。ありがとうございました。」
僕は、今までのことを思い出しながら精いっぱいの挨拶をした。
そして、あちらこちらから祝福の声をもらい祝宴は始まった。
エマおばさんは、僕がガツガツとご馳走を食べる様子を、目を丸くして眺めていた。
自分が食べることを忘れるくらいびっくりしていたようだ。
涙を拭きながら笑顔で僕を見ていてくれたのを僕は見ないようにした。そんなの見ていたら、せっかくのご馳走がしょっぱくなってしまう。
みんなが食べたり、飲んだりして人心地ついた頃、神父様が立ち上がった。
「レイ、腹は、落ち着いたかな。」
僕のほうを見て小声で神父様が声をかけてきた。
「はい。」
僕は、答えた。
「皆、私の声を聴いてくれ。」
神父様の声で、思い思いに食事やおしゃべりを楽しんでした村の人たちが僕たちの方に注目した。
「成人の儀で、職を得たレイにその職と力を披露してもらいたいと思うが、皆は、どうだ。」
「願う!」
という言葉が直ぐ返って来た。
(毎年の流れなのだろうな。)
この祝宴に子どもたちが参加するのは、もっと後半だ。大人たちが祝宴の儀を終えた後、ご馳走を食べるために参加する。僕も今までは、そこからしか参加できなかった。
僕は、その言葉に応え、立ち上がった。
「レイよ。おのが職業を応えよ。」
「精錬魔術師です。」
「その力を我々に見せてくれ。」
「はい。では…、そこにある足が折れている椅子をとっていただけないでしょうか。」
「ほい。」
フレッドさんが集会所の端にあった椅子を持ってきてくれた。
「アイテムボックス」
僕は、アイテムボックスに椅子を収納し、
「アルケミー・椅子」
を唱えた後、椅子を取り出した。
折れていた椅子は、新品同様になって出てきた。
「オー!」
「凄い」
村のみんなはとっても誉めてくれた。
(嬉しかった。調子に乗って色々修理した。)
僕の職業は、道具の修理屋という認識が定着した。
(まあ、間違ってはいないのだろう。)
職業とスキルのお披露目の後、調子に乗った僕は、ワイワイ騒ぎながら夜遅くまで食事と初めてのお酒を楽しんだ。
明かりもないこの世界では、たいまつと蝋燭の光で夜遅くまで騒ぐことはまれなのだ。
生まれてはじめての夜更かしと酒酔いだった。家に戻った僕は、ベッドに横になるとすぐ眠りに落ちた。
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