第2話 精錬魔術師って

 突然のそして奇跡の復活の後、騒がしかった病室もようやく落ち着きを取り戻していた。喜びを言い表せない様子だった両親もようやく落ち着きを取り戻した。


「快気祝いはどこでしようか。」

などまだまだ先のことを相談しながら一旦家に戻ることにしたようだ。


 危篤で呼び出されて数時間後とは思えないような明るい笑顔と話し声で…。


 (ここ病院だからね。少し声は抑えようね。)


 下腹部中央の壊死部分は、全快とはいかないまでも魔力回路を活性化したせいで少しずつ小さくなっているような気がする。まだ、数時間もたっていないからよく分からないけれど、痛みはない。全くない。


 それにしても、少し疲れているようだ。まだ、午前中だというのに…。少し眠い。僕は、静かに目を閉じた。




********************************************************************




 「あっ!神父様〜。レイさんが目を覚ましました。」シスターがバタバタと音を立てて神父様を呼びに行ってくれた。


 「全く、びっくりさせないでください。」

 神父様は、笑顔で僕の枕元に現れた。


 「いきなりあんなにたくさんの瓦礫を収納してしまえば、魔力切れをおこすの当たり前じゃないですか。」


 腕を組み、眉を八の字にしながら僕の方を見ながらお小言である。


「魔力切れ?瓦礫を収納したのは覚えているのですが、同時に意識が薄くなってしまって…。」


「あっ、神父様がここまで運んでくださったのですか。」って神父様と僕しかいなかったのだから当たり前だとは思うけど一応聞いてみた。


「ええ…。そんなことなんでもないんですがね。そんなことより、レイくんは、15歳にしては、体重が軽すぎやしませんか?シスターマリンよりも軽いかもしれませんよ。」


「ニコライ神父っ。私は、そんなに重くありません!多分ですが…。」


「アハハ…。小さい時から体が弱くて…。量、食べることができなかったから。…でも、今日はお腹が空いてペコペコです。こんなの生まれて初めてかもしれません。」


「それじゃあ、丁度良かった。瓦礫撤去も終わりましたから、お祝いの夕食を一緒に食べてからお帰りなさい。」


「ありがとうございます。とっても楽しみです。」


 僕は喜んでその誘いを受けることにした。


「じゃあ、マリンさん、食堂にご案内して。私も今回の依頼終了の報告書書き上げたらすぐに行きますから。」


 マリンさんと一緒に食堂に行くと良い匂いがしていた。


「じゃあ、あちらに腰掛けて少し待っていてくださいね。孤児院から子供たちを呼んできますから。」


 すぐに子どもたちがやってきて席に着き、シスターと神父さんがパンやサラダ、スープを一人ずつに配ってくれた。メインディッシュは、お肉。何の肉なのかは分からなかったけど、スパイスがほんの少し降りかかってい美味しかった。生まれて初めて美味しいと感じた。


「美味しい…。」


 頬に何故か温かいものが流れていた。


「生きている。美味しい。」


「どうしたんですか。レイ君。涙なんか流して。」


「えっ? 涙…? 初めてなんです。食事が、こんなに美味しいって感じたの。何を食べても味なんて感じなかったものだから…。」


 魔力病の影響だったのか今まで食欲なんて感じたことなかった。


「にいちゃん。大丈夫か?どこか痛いのか?」


孤児院の男の子が僕に尋ねてきた。


(優しい子だな。心配してくれてるんだ。)


「大丈夫。痛くなくなったんだ。それが嬉しくて…。知らずに涙が溢れていたみたい。心配してくれてありがとう。さあ! 食べよう。折角のお祝いの食事が冷めてしまう。」


 それからは、笑顔で食べた。生まれて初めてお腹いっぱい。15歳の誕生日は、最高の一日になった。


 子どもたちは、それぞれ部屋に戻り、僕は、神父様と二人食堂でお茶を頂いていた。白湯に少しハーブの香りがついているお茶。


「神父様、僕に精錬魔術師について教えていただけますか? 」


「精錬魔術師についてですか。私もあまりというか、全く詳しくないのですが、私が分かることであれば、お教えしましょう。」


「神父様? 精錬魔術師というくらいですから、精錬魔術を使う職業なのでしょう? それでなんですか、精錬魔術ってなんなんですか? 」


「そうですよね。精錬魔術師というのは、レア職業なのは、わかっています。でも、それがどのような職業なのかは、はっきり申しましてよく分かりません。なので、まずは、精錬術について説明しましょう。」


「精錬術は、精錬窯やその他の魔道具や道具を使用して、薬や道具を作る職業です。」


「作ることができるものは、アルケミーの呪文で見ることができるそうです。目の前に浮かんでくるのか。魔道具で見えるのか私には分かりませんが。」


「レイ君、アルケミーを唱えてみてくれませんか? 」


「あるけ? みぃ」


 僕は、錬金術の呪文を唱えてみた? のだが何も起こらなかった。


「耳慣れない呪文ですからね。アルケミーです。もう一度、自信を持って。レイさんならできます。」


「はい。あるけミーですね。アルケミー…。」


「はい。」頷く神父様を見ると何となくできる気がしてきた。


「アルケミー」


 目の前、否、違う頭の中?映像が…、黒いボードのようなものに見える。ボードをイメージした途端、目の前に黒いボードが現れた。


「どうですか。うまくいきましたか?」


 神父様が尋ねてきた。神父様には、ボードは見えていないようだ。


「はい。ボードが現れました。…、あれ、何か文字が見えます。」


「読めますか?」

 と神父様も興味津々のようだ。神父様と話しいる間にボードは消えてしまった。でもその文字は、読むことができた。


「はい。もうボードは消えてしまいましたが、カップとハンカチーフという文字が見えました。」


「では、アルケミーに続けて、カップと唱えてみてご覧なさい。必要な道具や材料が見えるかもしれないよ。」



「アルケミー・カップ」


 アイテムボックスが開きカップが手元に現れた。


「あれ? 失敗したのかな? それって先程お祝いに渡したカップですよね。アイテムボックから出てきたのでしょうか? 」


「本当ですね。今日賜った職業ですからすぐに上手くいくとは限りませんよね。」


「じゃあ、「アイテムボックス」」


 カップを片付けようとアイテムボックスを開いて僕は、固まった。そこに、先程神父様にいただいたカップがあった。


(精錬魔術って、道具なしで精錬ができるの?)


「神父様…、カップを精錬したようです。」

神父様も僕をみて固まってしまった。


「レイ君、じゃあ、もう一つのハンカチーフというものも精錬してみてくれないかい。」


「はい。」


「アルケミー・ハンカチーフ」


 アイテムボックスが開き、中にハンカチーフが作られていた。向こうの世界で母が涙を拭いていたハンカチ。シワクチャで、涙で濡れたハンカチがそこにあった。


(精錬魔術師ってアイテムボックスに入れたことがあるものを作ることができる職業なのか…。)







【後書き】

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