第31話「護衛クエスト」(第二章『闇の少女』)


 ガラガラガラガラガラ……。


 延々と続く谷間を走る馬車列。

 かなりの重量物を積んでいるのか、その動きはあくびが出るほどに遅く、まるでドン亀だ。

 そして、それを護衛するのは、わずかな数の……周囲をおっかなびっくり見渡しながらノロノロと進む粗末な武装の傭兵たちと──。


 その馬車列を虎視眈々と狙う目が、一つ──二つ、三つ、四つ、

 ……そして、無数。



『『ゴルルル……』』



 ふしゅー……!

  ふしゅー……!


 まるで軍隊のように統率を取れた行動をしながらも隠しようもない殺気を放つと、その無数の視線に馬車列を捉え、ビクビクしている傭兵たちをみて、ニィと口角を緩める。


 まさにこう思っているのだろう──恰好の獲物だ、と。


 そして慎重に慎重をかさね、

 ついに、その荷が手に届きそうなくらいに近づいたのを見計らったその瞬間、殺意のボルテージを最高潮にまで上げて、襲い掛かろうとした────まさにその瞬間……ッッ!!



『『『ゴルァァ────



  ズキューン!



 ボンッッ!



 ──ひ、光ッ?!

『『『ゴァァア?!』』』


 ──奴ら・・それ・・を感じ取れたかは定かではない。


 ただ。

 まさにその瞬間、奴らの機先を制するかのようにして、木々の間に満ちる闇を切り裂くように科学の光が迸った。

 刹那、胴を両断されたモンスターが数体──悲鳴を上げることもできずに、半身と別れて、ズズズ……と湿った音と共に倒れていくと──。


 一斉に立ち上る、ズズーン……! という轟音。


 その大音声が谷中に鳴り響くと、音の驚いた鳥たちが一斉に、バサバサバサバサバサーッ! 騒がしく飛び立っていく。

 奇襲失敗……。


『ゴァ!』


 それを知ったのか、舌打ちでもしそうなくらい苛立たしげな声が響くと、それにかぶせる様にして谷間のあい路から挑発的な声が響く。


 ……ふん。


「木々の間から奇襲ってか……?」 

 指先から漂う硝煙を「……ふ~ッ」と、吹き消す真似をする青年にして、魔術師のライト・・・が不敵に笑う。


 ハッ!


「ちっちっち。オーガ・・・さんよぉ……俺が何年照明役やって来たと思ってる?」


 そんなのはよぉぉ……


「見え見えなんだよー!」


 ──ジャキンッ!

 言うが早いか、今度はレーザーを放ったばかりにその指をオーガの群れ・・に指向し、両足を踏ん張って馬車の幌の上に片膝立つ!


 そして、言って見せる!

「……悪いけどなぁ、森の木々隠れたところで無意味だぜ──」


 なんたってなぁ……!


 ニィ、と口角を緩めるライトが一気に言った。

「──こちとら暗がりを払うのが専売特許ッ……俺には丸見えなんだよッッ!」


 うらぁぁ!



  光魔法Lv2『光球ライトボール』!!


「くらえっ!」


 ポポポポポポポンッ!

 まるでマシンガンのように、指先から特に光魔法を連射すると、谷間のあい路を形作り森の木々の間に着弾させ、間接照明を作り上げる!



  ──カッッ!



『ゴルアッァァアア?!』

 何百カンデラの証明だろうか?!

 すでに光魔法をカンストしたライトのそれは並の魔法使いのそれの何倍もの光量をもって森の闇を吹き払う!


 すると、いるわいるわ。

 森の木々に隠れるようにしてオーガの群れがうじゃうじゃと──その数、一体、二体、三体……いっぱいいっぱい!


「ほっ! なにがBランクのクエストだ……!」


 ライトは敵の情報が事前情報と全く違う規模に半笑い。

 正直、Bランク相当のクエスト報酬じゃ割に合わなさそうだ。


「らいとー?」

「あぁ、帰ったらメリザの奴にクレームだな」


 ん!


 ポンポン。

 いい笑顔で笑うヤミーを背中越しに撫でたやりつつ、ライトが口角を吊り上げる。




  (ふん……なにが、楽なクエストだよ)


   まったく……!


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