第30話「この子と未来へ──」(序章エピローグ)

「はー……ちかれた」


 ちーん……♪


 数日にわたる事情聴取からようやく解放されたライト。

 その傍らにはちょこんと行儀よく据わるヤミーがひとり。


「ちかれたー」


 うんうん、そうだね。

 基本、君はぼーっとして、ギルドのお姉さんに可愛がられてただけだよね。

 ……つーか、ちょっと太ってるし。


「ごん」

「あいた」


 え? ヤミーに殴られた?


「でりかしー」

「あ、はい」


 ……メリザさんたちめ、余計なことばかり教えやがって。


 あの日、命からがらギルドに帰還したライトは、タイミング良く?(悪く?)アグニール達と遭遇。

 そのため、たまりにたまった感情が爆発し、なんというかその……ちょっとやらかし過ぎてしまったのである。


 ギルドの天井に大穴を開け、

 ついでに壁にも大穴、椅子やテーブルがいくつか消失する結構な被害をもたらしてしまったのだ。


 ぶっちゃけ人死にが出なかったのが不思議なくらいだと後で言われて、そのせいもあってかこ~~~~~ってりと絞られたけども、なんとか放免されるに至った。


「でも、弁償かー……とほほ」


 ギルドの入口の小さな上り口に腰掛け遠い目をしながらちょっとオセンチな気分になるライト。

 だって、金貨38枚だもん……。


 そんなライトを不思議そうに見ながら次々に出入りする冒険者に、商人や依頼人たち。


 まぁ、幸いにもドロップ品が山ほどあったうえ、

 結構なレア素材もあったのでそれで相殺で来た上、逆に少しばかり手持ちに余裕ができたのは不幸中の幸いといったところ。


「とほほー」


 よくわからない顔をしつつも、ライトの頭に顎をのせて体重をかけるヤミー。

 おっふ、頭に胸の感触が────……なんもないわ。


「ま、それでも、弁償で済んでよかったと思うべきか」

 なんだかんだで前向きに考えるライト。

 ゆーて、ライトはこれでもポジティブなほうだ。


 帰ってきて以来、「……性格が変わりましたか?」なんてメリザさんに言われるほどやさぐれた・・・・・目をしているらしいが、根本は変わらない。

 だいたい、やさぐれてもしょうがないほどの体験だった。


 囮にされ、死にかけて、起死回生の逆転。そして、復讐──……。

 そりゃ人生観も変わるってものだ。


 そして、当のアグニールたちは、といえば、やらかし過ぎたうえに、生き証人のライトがいる以上言い逃れはできないとして、ギルド憲兵隊が王都から招聘されて連行していったという。

 最後まで、見苦しくギャーギャー言っていたらしいが、衆目のなかでライトに敗北したうえ、そのライトをダンジョンに見捨ててきたと言われれば、ぐうの根も出ないようだった。


 あとはギルドが処断を降すとかで、数日前、サーヤやクッソ神父とともに連行されたと聞かされたのだった。


「けっ、ざまーみろ」

 ……もっとも、ダンジョンでの出来事は、ライト以外に証人はいないし、残る生き証人のヤミーはと言えば、よくわかっていない様子。

 そもそも、彼女の存在があやふやだったのだ。


 奴隷登録もないし、市民権があるわけでもない。ましてや冒険者でもないというヤミーは、書類上はこの世に存在しない人間だったのだ。

 一応、ライトはアグニールの所業はギルドに伝えていたものの、半信半疑。

 アグニールが追認しない限りこれ以上の追及はできないということらしい……つーか、アグニールが認めるわけがない。


 そんなわけで────……なぜか知らないが、ヤミーの保護責任者がライトということになった。

 人権というか、保護者というか……。


「ざまぁー♪」


 ──まぁ、こういった事例が全くないわけではない。


 楽しそうにライトの頭の上でキャッキャしているヤミーをポンポンしながらライトは思う。


 ……なにせ奴隷というのも、実は高価だ。

 戦争奴隷にせよ、犯罪奴隷にせよ、なんにせよ国家に登録されて正式に取引される商品なわけで、なんだかんだで記録は残っているし、税金もかかる。


 当然、それを嫌って国家の管理外で取引される奴隷というのはいる。

 いわゆる闇取引──違法奴隷や脱法律奴隷というやつだ。


 それらには国家による承認がないので、当然記録には残らない。

 闇の業者やクッソ神父のような輩が、記録を巧みに抹消し──安価で取引しているのだ。

 その用途はまぁ……あまり語るようなものでもない。


 おそらくヤミーもそういった経緯で集められた奴隷なのだろう。

 実際、ヤミーやライトのような外れ属性は、ガキのうちに親に売り払われたり、捨てられたりすることも珍しくないからな……。

 

 ──そんなこんなで、ヤミーはクエスト中に保護された流民という扱いで──……要するに保護者が必要ということになったのだ。

 そして、そのお鉢が回ってくるのは当然ライトになったというわけ。


「ま、いいんだけどね」


 なんだかんだで命の恩人だし、ライトはヤミーのことが嫌いではない。

 むしろ、似たような境遇の彼女にシンパシーすら感じている。


「いいよねー」


 はいはい、いいよいいよ。


「よーし、くよくよするのは、やめやめ!」


 パンッ!


 頬を叩いて気合を入れるライト!


 壮絶な体験ではあったが収穫もあったのだ。

 だから、もっと先を見据えよう。


 ライトの夢────冒険者として大成すること。

 そして、サーヤと…………。


 ふと、思い出した幼少期の夢。


 そこにいた思い出の中のサーヤの顔はいつの間にか、ヤミーのそれにすり替わっていた。


 ふ……。

 当然か。

 美しい思い出は邪悪に笑うサーヤによって見事にぶち壊されてしまった。そして、あの闇の中でライトの手を掴んでくれたのはこの子だった。



 ヤミー。



 ライトと同じ──いや、それ以上に外れとされる闇属性の少女。

 そして、ライト以上に過酷な運命を歩んでいたけなげな女の子。


 ならば、サーヤと夢見た招来は、この子と実現してもいいじゃないか。


「うん、行こうか、ヤミー」

「?……うん」


 頭にしなだれかかるヤミーをそのまま肩車して駆け出すライト。


「はは! あはははははは!」

「あははー」


 うん。いいじゃないか。


 ……夢は変わっていくものだ。

 あの日のサーヤはもういない。……あれは幻想でしかなかったのだ。

 そして、それ以上に夢見た未来は、ライトが外れ属性の光であったことで失われてしまった。


 だけど、もうライトはかつての外れ属性ではない。



   ウィィィン……。



 走りながら、そっと指先に魔力を集めると、小さく唸るレーザーの光。

「……そうさ、もう俺は昔の俺じゃない」


 外れ属性のライト、寄生虫のライト、雑用専門のライトはもういない──。


「念願の……夢にまで見た攻撃力を手に入れたんだ」

 

 光属性をひたすら鍛えた日々が走馬灯のように流れていく。

 暑い日も寒い日も、

 雨の日も風の日も、


 来る日も来る日も、ひたすらに鍛え続けた外れ属性────。



 それがついに報われたのだ!



「はは! あはははははははははははははは!」


 いいね!

 いいじゃないかッ!


 外れ属性上等だよ。

 光属性でしかなかったDランク冒険者が、成りあがっていくんだ!


 それはおのこなら誰でも夢見るサクセスストーリーだ!

 これほど心躍るものはない!


 さぁ、どこに行こうか。

 ずっと試してみたかった討伐系クエストをやるか?


 それとも、凄腕の傭兵と組んで護衛クエストをやるか?


 いっそ、探索クエストを受けて未知のダンジョンに挑戦するか?


「どれもこれも……」


 今ならできる。

 今からできる──。


 今こそできる────!!


「こんなにうれしいことはない!」

「あはははははー♪」


 ああそうだ。

 ヤミー、君のおかげだ。


「だから見ようぜ────このレーザーで行ける景色のどこまでも!」

「おー!」


 はははははは!

 わかってるじゃないか、ヤミー!


 この子とペアを組んだライト様は無敵だぜ!

 もう、採取系クエストで日銭を稼ぐのは終わりだ!


「でっかく稼ぐぞー!」

「かせぐー」


 そうして、お金をためて、ランクを上げて、ゆくゆくは────!


 そう、ゆくゆくは!!


「目指せSランク」

「らんくー」


 うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!



 ヤミーを肩にのせてドタドタと街を駆け抜けていくライトと、

 肩車されたまま、万歳をして風を楽しそうに受けるヤミーがいたのだった。



 それがライトに待ち受ける激動の日々の幕開けであるとはまだ二人は知らない……。



  ─────あとがき─────


これにて、序章完結。次もライトとヤミーがコンビを組んで大暴れ(?)します!


また、当作品はWebtoon化されております!

大絶賛でLINE漫画等で読むことができます! 是非とも~!


 

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