第28話「撃っていいのは撃たれる覚悟──」



  ボッカァァッァアアアアン……!


 パリン、パリパリ……。


 青く光る頑強なバリアーが砕け散る音。

 そして、

「あぎゃぁぁぁああああ!」


 と、みっともなくゴロゴロと転げまわるアグニール達。


「あぢ! あぢ! あっぢぃぃいい!」

「いやぁぁああ! 燃えてる! 燃えてるぅぅう!」

「あばばばばばば! あばばばばばばばばばばばばばば!」


 はは。

 スゲー生命力。


 こいつら、服に火がついて酷く悪臭が漂うも、ま~だ生きてやがる。


「……ま、」


 それもそのはず、


「──わざと外したからな」


 ニィ。


「な、なんだと……ゲホゴホ!」

「そ、そんな強がり言っちゃってぇぇえ」


 強がり?

 そりゃお前らだろ。


「そ、そうですよ! ギリギリ私どものバリアーを防いだようですが……」

「い~や? ギリギリでもないし、強がりでもないぜ?」


 だってよー。


 ツカツカツカッ!


「な、なんだこの!!」


 ゴキィ!!


「がはぁぁああ!」

 なんかクソ生意気な口をきこうとしていたアグニールの顔面につま先を叩き込むライト。

 その首にしがみつくようにしてアグニールを見下ろしているヤミーがまったく感情の読めない目でホゲーとしていた。


 うん、アグニールを見ても、

 ……何も思うところはないらしい。


 まぁ、それはそれでいいとして──。


「お~う、まーだわかんねぇのか?」

「な、なにを……。こ、このザコ──」


 ゴンッ!!


「ぐぁぁあ!」

「誰が雑魚だって?」


 ボタボタと鼻血を抑えるアグニール。


「ひ、ひぃ!! アグニ様の顔になんてことを──」


 あっそ?


「じゃ、こっちか?」


 どすっ!!


「ぎゃぁぁああああああ────は、歯ぁぁああああ!」

「はは。これでいいか? お揃いだよな?」

 うん。

 平等パンチが欲しそうなのでサーヤの顔面──……一番痛そうな陣中にグーパンチを叩き込んでやった。


「ひゅ~、かてぇ顔」


 プラプラと手を振りながらくる~りと振り返るライト。


「……じゃ、お次は──」


 ニッコォ。


「ちょ、ちょちょ! わ、私は関係ない──! 関係ないんだ……ぁぁあああああああああああああ!!」

「は? 関係……ない?」


 誰が?

 ……クッソ神父が──?


 ははは。


「関係ない?」

「え?……えぇそうですとも! まったくちっとも──というかこんな奴等知らない──」


 すぅぅぅ、

「関・係・大ありじゃぁぁぁああああああああああああ!!」


 ゴッキィィィイン!! と、両手にハンマーを作って顔面陥没シュート!


「あぎゃばぁぁぁああああああああああ!」

「は!──どの口ぶら下げてほざきやがる! そんな口なら陥没させておいたほうがいいっつーの!」


 過去の因縁もそうだし、

 なにより、テメェもダンジョンで、見捨てた張本人だろうが!!


「つーか、お前が一番関係ありまくりだろうが!! あああああん?!」


 ゴンゴンゴンゴン!!

 思い出したら、なんかむかついたのでクッソ神父の顔面には丁寧に両手を使ってジャブとストレートをそれぞれ計二発ずつぶち込んでやった。


「ひ、ひでぶぅ……」


「ふん。殴られたら誰でもいてーんだよ」

 そう言い捨てると、

 ぷしゅー……もれなく全員の顔面が「*」にへっこんだのだった。


「さぁてと、お次はどうしてやろ────……っと、んん?」



  トントン


「ちょっと、ライトさん」


 肩を叩かれ振り向くライト。


 そこには、






 ニコ








 ……ん??


「何すか、メリザさん?」




※ ※





 ちょいちょい……!




「あん? なんっすか、今いいとこなんですけどぉ?」




 肩をしつこくたたくメリザさん。


 ちょっと鬱陶しいけど、今はそれよりも──。




「くっくっく、いい顔してんじゃねーか、アグニールぅぅう」


「……いや、だから、」




 *型に陥没したアグニール達が瀕死で呻くのを尻目に、やや強めに肩を叩くメリザさん。


 そして、


「「「うぶぶぶぶぶぶぶ……」」」


「なんだよ? 聞こえねぇよ?」




 くっくっく。




 ボキボキと拳を鳴らしながら、


 *型に陥没したアグニール達の顔面を順繰りに眺めながらにっこりするライト。


 戦士系統でなくとも、雑用で鍛え、大量レベルアップを果たしたライトの膂力は貧弱な魔術師系統をボコすくらい余裕だ。




「さーて、お次は──」


 まだだ、まだ終わんねーぞ、アグニール。


 殺さねぇ代わりに存分に……。




「だ・か・ら──!!」




 ん??


 なんか、肩が────




「──存分にじゃねーーーーーだろうが、人の話聞けやぁぁぁああ!」


「ひ、ひぇ?」


 キーーーーーーーーン……!




 耳をつんざく大音声にライトの体がびくりと震える。


 反射的に肩を潜めて小さくなろうとするライトの肩をメリメリメリメリぃぃい!




「いだだだだだだ!」


 なんか肩が痛たたたたたたたたたたたたたたたあぁぁああ!!




「いてぇだろうが、バカ、ライトさんーーーーーーーーーーー!! わかったら、まずこっち向けやぁぁぁあああ!」


「は、はいぃぃいいいいい!!」




 肩ごと無理矢理ゴリゴリゴリィ……と、向きを変えられるとメリザさんに向き合わされるライト。




「んーーーーーーー! よーーーーーーやく、こっちを向きましたねぇ、ライトさーん?」


「は、はい……。えっと、あの──??」




 お、おぉ。


 そうだった、メリザさんに帰還報告しないと。


 あと、ドロップ品の査定を────……。




「『えっと、あの』じゃ、ねーーーーーーーーーーーーーっつーーーーーーーーーーの!!」


 なにが、査定じゃ、


 何がドロップ品じゃぁっぁああああああ!!




「あれを見ろぉぉおお!!」


「は? あれ?」




 ズビシィ……!




 すさまじい勢いで指さすメリザさん。


 何か知らんが天井とか、壁とか指さして──……おー、青空だ。




「あーあれね。綺麗な空──」




 ゴンッ!!




「綺麗な空、じゃねーーーーーわ、アホ!! アホ!! このアホ!!!」


 なにやっとんじゃ、アホーーーーーーーーーーー!!


「いっだ……?! え? ええ? えええ?」




 なんでぇ?




「『なんで』が、なんで出るんじゃぁぁぁああああああああああああ!」


 むしろ、お前がなんでじゃぁぁぁあああああああああ!!




「うわ!! こわ!!」


 メリザさんこわぁぁぁああああ!!


「こぁーい!」




 キャッキャッと喜ぶヤミーと、ドン引くライト──「ゴンッ!!」




「いっだ?!」


「なんで、『え? なんで、いま殴ったん?』って顔しとんねん!! お前、さっきドン引きしとったな?! あああん!!」




 いや、だって、いきなりのテンションでドン引く────……「ごんッ!!」




 いっだ!!




「だから、なんでお前がドン引くねーーーーーーーーーーーーん!! みろ、このバカ!!」




 ジュゥゥゥウ、ジュゥゥゥウウ……。


 ドロロロロ……。




「おー」「おー」




 ライトとヤミー。おんなじ顔して、溶けた天井と穴の開いた壁を見やる。




「おー……じゃねーーーーーーーーーーーーーーわ、バカ!!」


 このバカ!!


 ここはギルドじゃぁぁぁああああああああああ!!




 メリザさん、怒髪天。


 ギルド中がビリビリ震える声で、ライトを怒鳴り散らす。




 これには、ライトも驚くが確かに冷静になってくれば、やりすぎたかもとちょっと反省──。




「もっと、反省しろよ、バカ!」


「いや、だって──」




 だって、じゃねーよ!!




「えー……つーか、メリザさん性格変わりすぎじゃない?」


「お前に言われたくはないわ!!」




 むがー!!




 メリザさんの怒りの声に、ちょっと、回復してきたアグニール達がニチャニチャ笑っていやがる。


 *型の顔面が盛り上がって、逆に今度はパンパンに張れているが、それはそれでむかつくな──。


「おう、ゴラ! アグニール! なにニヤニヤしとんねん!!」


「ひ!」


 ひ! だってよ、ブプー!




「だから、ライトさん性格変わりすぎでしょ!! なにその、きっつい性格?! どうしちゃったの、あの優しいライトさんは」


「そんな奴しねぇよ」




 とっくにあのダンジョンの底で死んだっつーの。




「まったくもー……。これ、どーすんですか?」


 あーもー……。


 メリザさん、ついに頭を抱えてしゃがみこんじゃった……。なんか御免。








 しかし、ライトはこれで矛を収める気は全くなかった。


 なにをコソコソ逃げようとしているか知らんが、見えてるぞ、アグニールさんよぉお……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る