第26話「罪と罰とレーザーと」

「……………………よぉ。クソライトの御帰還だぞぉ?」


 会いたかっただろぉ──アグニール!


「──墓場から帰ってきたぜ」


 ニィ。


「んな?! お、お、おま、おまえはぁぁあ?!」


 ぱっかー! と口を開けてあほ面をさらすアグニール。 


そして、

「ラ、ライトさん!! ぶ、無事だったんですね?!」


 ひしっ


「ッ?!」


 びっくりしたー。

 メリザさんか……。


「ああ、よかったー。帰還予定を過ぎても帰らないので、さっきからこの人らが無茶苦茶言うんでもしやと思ってたのですが──」


 ジロリ。


「ちょっとちょっと、アナタたちどういうのとですか? さっき、ライトさんは死んだとかなんとか……」


 ほぅ?

 そういう話ね??


「ば、ばかな?! バカな! あ、あ、ありえない!」


「バカな?? ありえない??」

 そして、訝しげな顔のメリザさん。


「お、おまえ────ええ? お前、本物かぁぁああ?!」


 ライトとしては願ってもない展開だ。

 まさかまさかの帰って来て早々の再会!

 しかも、予想以上のタイミングだ。

 最悪の場合、すれ違うかと思っていたら────これだ。


「え? え? オマエとか、本物とか、え? え? え??」


 勝手にボロを出していくスタイルのアグニール。

 その様子にメリザさんの顔が段々険しくなるも、まだ誰もも気づいていない。


「お、お、お、お、お、──おまッ! お、お前がどうしてぇ?!」

「嘘?! ライトあんた、あの時!」

「チョッ?! サ、サーヤさん何言うつもりですか?! アグニールさんも!!」


 あわあわとまるで幽霊でも見たかのような顔の3人。くくく、この顔ぉ!


「はっはっはっ! 見ての通りあしはついてるぜぇ」


 ふはははッ、アンデッドの巣窟に置いてきたんだもんなぁ! ワンチャン幽霊になっててもおかしくはないよなぁぁああ!


「くっ!」


 ──だが、おあいにく様ぁぁぁあ!


 俺は生きてるぞぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!


「だからよぉ、」


 ……ジャキンッ!!



 落とし前をつけにきたぜぇぇぇええええええええ────!


「な、ななな、なんのマネだ?! て、テメェの魔法なんざ!」


 はっ!

 そう思うなら、試してみろやぁぁぁ!!


 俺の魔法は光にあらず!……もはや、光線!!!

 その味をぉぉぉおおおお!



 ──キュウィィィイン────!



 光が指先に収束していく!

 その様子に、

 驚愕するアグニールだが、容赦なくその顔面に指先を突き付ける。


「ちょっとちょっと、ライトさん!? なにするつもりですか?!」


 今更ながら、メリザさんが焦りを帯びた声をあげるも、今は邪魔だ!!


 今、ここで、この瞬間こそが最高なんだよぉぉ!


「はははは、ははははは、ははははははは!!」


 おあつらえ向きに、サーヤとネトーリまでいる!


 なんか知らんが全員ボロボロでひどい悪臭を放っているが、構うものか!!



 ──全員、まとめてぶっとべやぁぁああああ!!



 ヴン…ヴン………!

  ヴヴヴヴウゥゥゥ────!!


 指先に収束する光の奔流が輝いて止まる!!

 それは一瞬煌々と輝くも、ついには小さな光の球となって指先数ミリ先に浮かんで震えて、止まる────あとは!!


 ……あとは撃つのみ!!


 撃•つ•の•み!


「死ねよ、アグニール」

「ああん!?」



 ──カッ!!



 ライトの脳裏は一瞬にして殺意に塗りつぶされていた!


 ちょっと前までは殺せないとか、

 ぶっ飛ばすだけとか色々考えていたが──……。

 ギルドで奴を見た瞬間、まさに一瞬のことだ!!


 ギルド?

  殺人の禁忌?

   アグニールぅぅぅうう?!



 ──知るか!!



「知るかぁぁぁぁああああああああああああああ!!」


 魔力充填、最大!!

 最強出力──向上ッッッ!!

 


「そのムカつく面の中心にぃぃいい!」



 熱量最大、光量最大、範囲最大、射程最大、威力最大、射撃持続最大、収束率最大、射速最大、最大、最大、最大最大最大最大最大最大最大最大最大最大最大最大最大最大最大最大最大最大ッッッ!!


 最大中の、最大ッッ!!



 ──レーザー叩き込んでやらァァ!!!



 なんか知らんが、あの墓所から帰る途中でヤミーから魔力を受け取らなくても絶好調!!!

 魔力がムッキムキだぜぇっぇえええええええ!!


「らいとー?」


 ギュッ。


「ッ!」


 ナニカガフクヲ掴むカんショクがアッテー。

 ダケド、そんなモノよりコイツを殺したい──。


 ダカら、

  だから───。


「死ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい─────




 ウィィイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……!



 ──ねぇぇぇっぇえええええええええええええええええええええええ!!」



 バチバチッ

  バチバチッ


   バッチンッ!


 ……あまりの魔力の集中に紫電が奔り、

 空気が焦げるオゾンの匂い!


 ──ジジジジ……。



 そして、なにもかもが──……。

 なにもかも、が─────────。


「て、てめぇ! こんなところでコケ脅しの光魔法を使う気か?!」

「ひ、非常識よ! ライトぉぉおお!」


 はっ!


 黙れぇぇぇえッ、アグニール&サーヤぁぁぁああああ!!



 ──非常識はぁぁぁぁっぁああああああああ!



「テメェらだろうがぁぁぁぁぁっぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ──



 発ッ……。


「らいとー、ダメだ、よ?」

 ヒシッ。


 発射直前、腕にしがみつく温かな感触。

 指を覆うようにヤミーがそっと小さな手を重ねて、ライトをじっと見る。

 そして、ヤミーの体からはモヤのよう、黒い闇、が。


「暗くして、ね、よ? 暗い、場所、だとおちつ、くよ?」


 モヤモヤモヤモヤ……。


 暗い、くらい、暗い闇──。 

 だけど、墓所のような恐怖がわかない。


 むしろ、落ち着くような、宿屋の天井のような……闇。


 これは──


「お、お前?! や、ヤミーか?!」

 アグニールの声にようやく我にかえるライト。



「……ッッ」


(し、しまった……!)


 うっすらと涙を浮かべたメリザをみて、

 無表情の中にも、必死さと母親のような母性をませてライトを見つめるヤミーをみて……。


 ようやく我に返るライト。


 くっ、

 頭に血がのぼりすぎていたようだ……。


 そうだ。

 ここは、街中。

 ここはギルド!!


 こ、ここは、墓所の底じゃない!!



   ──ダンジョンじゃないんだ!!


「らいとー。おちつい、た?」


 そして、さらにギューッと、ライトの服の上から腰に縋り付く感触に気づくライト。

 

 見れば、ヤミーが怯えてライトにしがみついている。

 視線の先はライトとアグニールの間を行ったり来たり。


 おそらく、アグニールに良い感情はないのだろう。

 だが、今のライトも怖いと──────。

 それでも……!


「くッ!!」


 バチバチバチ……バチンッ────。

 しゅ~……。


「あっつぅぅう……ッ」


 空気が解ける匂いとともに霧散していく魔力の奔流。

 それはまるで何事もなかったかのように────かつてのライトの光魔法の再現のように……。


「はぁはぁはぁ、はー…………」


 ぶるぶると震える腕と指。

 指鉄砲の形で硬直したそれ──。


 少し常の先が焦げている……。

 その嫌な臭いが漂う中、


「う、撃てねぇよな……」


 撃てねぇよ……。

 う、撃てるかよぉぉぉぉおおお!!!


「こんな場所でぇぇぇ、撃ってたまるかよぉぉぉぉおおおおおおおお!!」


 アグニーーーーーーーーーーーーーール!


「──くそぉぉぉぉおおおおおおお!!」


 レーザーの弱点がこんなところに!!

 どうにもできない怒りをたたえたライトが絶叫する。


 その様子をなんだなんだとギルド中が集まり、様子を見ている。


 もちろん、メリザも、アグニールたち『銀の意志』のメンバーも、だ。


「は、はははは! 相変わらずの虚仮威しかー?? いったいなんなんだ急にぃ! こんなギルドのど真ん中で魔法使いやがってよぉ!」


 ニヤァと笑うアグニール。

 一瞬呆気に取られていたアグニールが、ライトの焦燥を敏感に感じ取るとマウントを取りにくる。


 その顔はこの状況を徹底的に利用してやるとばかりに……!


 そうとも、アグニールは魔塔一の頭脳を誇り、

 腐っても生き馬の目を抜く冒険者業界でAランクに上りつめた男──弱気よわきの臭いには、常に敏感なのだ!


 そして、指をまるめると──!!


「おらぁ、何の真似だ! 急に発狂しやがって!────光魔法使いごときがしゃしゃりでてくんじゃねーよぉぉお!」


 デコピンをライトにぶちかます!!


「っ!」

 鋭い痛みに顔をゆがめるライト。

 だが、アグニールは追撃の手をとめない!


 バチンバチン!

 と繰り返しライトを弾き、ゲラゲラとわらう。


「おうおう! 雑魚のくせになんのマネだぁ?」


 バチンバチン!!


「アグニールだぁ?!……アグニール『様』だろうがよー」


 バチンバチン!!


「これだから、勘違いしたバカはよー! ええ? 光属性はクソばっかだぜー」


 バチンバチン!!


 ──ひゃはははは!!


 ここぞとばかりに、ぐいぐい反撃開始のアグニール!

 まさかの奇襲を受けた主導権を奪い返さんと、一気にライトに詰め寄る。


 そして、サーヤとネトーリの援護も次々と!!


「そーよそーよ! 何よ今さらあぁぁあ!」

「はは! 昔ッから君はそうでしたよねー! ほんっと、クズで使えない──」


 あーははははははははははははっは!!


「さぁて、今更、僕らの前に面ぁみせやがってどーいうつも──」



   「ちょい、待ち」

   てい!──ずびし! ずびし、ズビシ!


「あだ?!」

「いったーい!」

「あいたたたぁ!!」


 3人の顔面が爆発。

 頭上からのチョップに思わず振り向くと、

「いっだぁぁあ! だ、だ、だれぇ?! 今、僕の脳天にチョップ入れたやつぅぅう?!」

「いやいや、私ですけど──? ギルド受付のメリザですけどぉ?」


 んんああっぁあああ?!


「なんだてめぇえ?! なにをギルド職員の分際で、僕様にちょっぷいれてくれちゃってんのぉおお?!」


「いやいや、いれますよ?! いれまくりますよ?? もっとほしいですかぁ?」


 全然笑ってない目で──ニコォと笑顔を浮かべるメリザさん。


 チョップというか、手刀?!

 いや同じだけど、チョップとかいう可愛いレベルのそれじゃないオーラ。


 そして、その目はまっすぐにアグニールをみつつ、周辺視野ではライトをとらえている。


「え? め、メリザさん?」

「はい、メリザですよ。ライトさんはちょ~~~~~っと、待っててくださいね──なにやら、と~~~~~っても聞かなければならない事情があるようで──」


 え、あ、はい。


「あと、ギルド内で魔法は禁止ってのは知ってますよね」

「う、あ、はい」


「ん。よろしい、それはおいおいとして────おいごら、アグニール」


 ぶは!

 呼び捨てしたぁあ!


 思わず吹き出すライトに、ぽかんとしたアグニール。

 しかし、刹那の時をおいて一気に怒りを爆発させると──……。


「んっだこらっぁああ! てめぇ、受付嬢がぁぁぁあぁああああ!!!!」

「そーですけどぉ? 受付嬢の分際・・・・・・でお聞きしてますけど、アンタさぁ、さっきライトさんが死んだとか未帰還とか、なんだかんだ言ってましたよねぇ? そんでもってトラップで冒険者認識票なくしたから、顔パスで金を下ろさせろとかぁぁぁあ?」


 ほーーーーーーーーーん?

 ギルド舐めてます??


「「「どきぃ」」」


 一瞬で硬直するアグニールたち。

 ……つーか、

 そんなこと言ってたのね。どーりで……。


「んでさぁ??」


 ギロっと睨むメリザさん。

 顔怖ッ!!


 っていうか、トラップってなんだ?

 冒険者認識票をなくしたぁ?

 それってば何の話だってばよ??


「────……ライトさん、生きてんじゃん??」

「「「う……」」」


 いや、う……って。

 見りゃわかるだろが!!


「あーでもぉ、よかったですねぇ?」

「……は?」


 クスリと笑うメリザにハテナ顔のアグニールたち。

 言っている意味が分からず──首を傾げていると、

「…………いやー。ライトさんが帰ってきてくれたおかげでアンタらが本物の『銀の意志ズィルバー』だって証明できましたね」


 ニッコリ。


「──じゃー。どうします? お金を卸しますか??………………それとも、」


 すぅ──と空気が冷える気配。


 思わずライトも身震いするほど……。

 え? メリザさんですよね? いつもニコニコ優しい受付嬢の──。


「──虚偽申告のところを、もーーーーーう少し詳し〜〜〜くお話されてからにしますぅ~?」



 ニッコォォォオオ!!


「「「ひぃぃいい!」」」


 すっごい迫力のある笑みで凄むメリザさんに縮みあがるアグニール達であった。

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