第25話「再会5秒前」(ライバル視点)

 ことはほんの少し前──。


「うー……かゆい~!!」

「かゆいかゆいかゆいー!」


 バリバリと全身をかきむしるサーヤとネトーリ。


「うるっせぇぞ!! ギャーギャー騒ぐな!!」


 そして、怒鳴りつけるアグニールの三人が教会都市のギルド前にいた。

 見た目は乞食……。

 なにせ、ボロボロの服に武器らしい武器を持たず、目につくものと言えば禍々しい杖のみ。

 さらには、3人ともひどい悪臭を放っている。


 サーヤに至っては、その……なんだ、排便臭がする。


「だぁってー……宿があんなにひどいと思わなくてぇ」

「ど、同感です!」


 同感って、お前な……。


「お前が見つけてきた宿だろうが!! くっそー木賃宿ってのは、虫の巣窟かよ」


 バリバリとアグニール自身区部筋を掻きまくる。

 よくよく見れば全員、露出した肌にあちこち虫刺され。


「うぅ、二度と泊まりません」

「あたりまえだ!! 今日こそクエストを受けるか、なんとか金を引き出すぞ」

「だから、金を引き出すのは無理ですって──」


 うるせぇぇえ!


「昨日はテメェの怪しい大変変態しぐさのせいで無理だったのかもしれないだろうが!」


 半分正解。


「んな! どこが変態ですか!」


 いや全部──?


「顔とか恰好?」

「ロリコンだしねー」


「んがぁっぁああああ! 顔とかロリコンは関係ないでしょー!」

 あ、そこは認めるんだ。


「それを言ったら、今のアンタらも大して変わんなでしょうが!」

「んだとこらぁ!」

「そーよそーよ!」


 大ブーイング。

 ギルド前で騒ぐもんだから凄い注目されている。


「アグニールさんは鏡見た方がいいですよ! 乞食並みの恰好ですからねぇ」

「んだとぉ! それでもお前よりマジだっつーの!!」

「そーよそーよ!」


 はやし立てるサーヤ。


「サーヤさんはサーヤさんで、一番最悪ですからねー! 臭いんですよ、アンタぁぁあ!!」

「んがぁ?!」


 確かに、と──アグニールもススとさりげなく距離を置く。


「だ、だって、宿に風呂ないし……洗おうにも、人目があるし──」


 木賃宿に風呂があるかよ!

 だいたい人目があるって言ってもなー。


「アンタになんか、だ~れも手を出すもんですかぁぁあ!」


 鏡見ろ鏡ぃぃい!


「んがぁぁあ! ひ、ひどい!! いじめよぉ!! って、だいたい、あんたはアタシに手ぇ出してるでしょうが!」

「何年前の話ですか!! もう、興味ないですよ!!」

「なんだとロリコンがぁっぁあああ!!」


 ギャーギャー!!


「うっさい!! ギルド前で騒ぐな、迷惑でしょうがぁぁああ!」


 バッシャァァァアアアアアン!!


「「「ぎゃーーーーーーー!」」」

「ぎゃー! じゃにでしょうが……! ったく、込み合う時間帯に、ぎゃーぎゃーと!……用事がない縄帰ってください!」

 バケツの水を3人にぶっかけた──。


「あ! 昨日の馬鹿女!!」

「だれが馬鹿女じゃぁぁぁあ!」


 いや、サーヤ黙ってろ。


「んー? 馬鹿て……あー!! アンタは昨日の大変な変態!! 衛兵ッ」


 ──衛兵ぇぇぇえええええ!!


「ちょ?! 衛兵呼ばないでくださいよ!!」

「呼ぶわ、あほたれ! 衛兵ーーーーー!」


 ああああ、まずいまずい!!


「ここはひとまず────! 中へ!」

「ちょ?! きゃぁぁああああ!」


 バーン!!

 とすっさまじい勢いでギルドのスイングドアを蹴っ飛ばして中に入るアグニール!

 もちろん、小脇に受付嬢を抱えてだ!!


 ……う~ん。アグニール、ナイス判断!

 だけど、ちょ~~~~っと恰好が悪いなぁ?


「キャー! キャー! 放せぇぇえ! 犯されるぅぅう!──変態の仲間よぉぉぉおお!!」

「だれが変態の仲間じゃ!」「だれが大変な変態ですか!!」


 ──どっちもだよ!!


「っていうか、犯すかぁぁああ! 年増!!」

「っていうか、どこさわってんですか、このへんたーい!! あと、誰が年増じゃぁぁあああああああああああああ!!」


 バッチーーン!!


 はぶわぁぁぁああ?!

 ゴロンゴロン────ばったー-ん!


「うぐぐぐ……てめぇ、お、お、親父にもぶたれたことないのにー!!」

「うわぁ、アグニさま、よわっ」


 弱くないわーい!!


「殴って何が悪いか!」


 キリッ。

 渋い顔をしたギルド員こと、メリザがビンタを振りぬいた姿勢のまま、アグニールを見下ろしている。


「キリッ! じゃねーよ!! なんで初手からビンタでるねん?! いったいわー!!」

「いたくしてるんですよぉおお! もー昨日から何なんですか、あなたたちはぁあ! 変態を送り込むわ、悪臭を放つは、あまつされ、今度はセクハラですかぁぁ? スリーアウトでもう、アウトですからねぇええ!」


「「「アウトちゃうわぁぁぁああ!!」」」


 ……いててて。

「このクソアマぁぁ……!」

 涙目でむくりと起き上がったアグニール。

「てめぇ、俺を誰だと思ってるー」

「ああぁん……? セクハラで変態の仲間さん」


 ずるぅ!!


「だれがセクハラじゃ!!──全ッ然ちゃうわ!! 一個も当たっとらんわ!!」

「じゃー、そこの臭い女はなによ? アンタの仲間でしょ? 何この格好、なめてんの? 変態以外の何物でもないでしょ? 街中で下着なしの布一枚って……」


 変態やん。


「変態ちゃうわぁぁぁあ! 泣くわよ!!」

 いや、変態やろ?

 めっちゃ涙目のサーヤ。

 そして、そこを突っ込まれれはグぅの音もでないアグニール。

「ぐぅ」


 あ、グゥはでた──。


「ちょ、ちょぉ、アグニ様反論してくださいよ!!」

 いや無理。

 一部の反論の隙もない──アグニの目から見ても変態にしか見えんわ。


「うわーーーーーーん!! みんなしていじめるぅ!!」

「あ、泣ーかしたぁ」

「お前のせいでもあるだろうが!!」


 メリザの挑発に簡単に乗ってしまうアグニール。

「ちょ、ちょ、アグニールさん、成り行きとはいえ、ほらギルドに来たんですし──」


 お、ナイス、ネトーリ。珍しい──。

 慌てて軌道修正すると、アグニールも振り上げたこぶしを下ろす。


 あ、そうだった。


「そうだったそうだった。サーヤのことはおいといて──」

「おいとくな!! うわぁっぁあん!」


 びーびーうるさい。


「はぁ? 何の用ですか、変態さんの団体は──御用ならウチじゃなく衛生詰め所かと?」

「変態じゃねーっつーの!!」


 はぁはぁはぁ!


「僕らがギルドに来た目的は、そう────」


 ばさぁ!!

 マントを翻し──アグニールは死霊王の杖を手に、ポーズを決める!!


「Aランクパーティ『銀の意志ズィルバー』がリーダー、アグニール! ここに帰還を宣言!」


 ばーん!!

 さりげなく、サーヤとネトーリも左右に控えてポーズをとる。

 うん……まごうことなき、Aランクパーティ。これでギルドの連中も思い出しただろう──こんな田舎ギルドに、Aランクがやって来たという事実に!


「…………くさっ」


 ずるぅ!!


「「「臭くはない!!」」」

「いや、臭いですよ……。風呂はいってるんですか??」


 うるせぇっぇええええええ!!


 がっくりとうなだれる3人なのであった。

 で──。



 チーン♪



 数分後──。


「……だから、無理ですって──」

「なんですかぁぁぁあ?」


 うがーー!!


 舞台をカウンター前に変えて、再び交渉中のアグニール達。

 悪目立ちして、注目の的だ。


 ギルド中が騒ぎになっている──臭いだの、変態だの、ロリコンだの、臭いだの──。

「臭くねぇ!!────っと、それでだ、」


「いや、ですからぁ──」


 再三の説明。


「無理なもんは無理ですって!! 正規の手続き踏んでくださいよー」

 はいッ。


 バーン! そう言って、冒険者認識票を再発行書を差し出すメリザ。


「──ほんとかどうか知りませんけど、所定欄をうめて、諸々を書いてもらえれば手続きはするっていってるじゃないですか!!」

「それを待てねぇっつってんの!!」


 いやだからぁ!!


「しつこいな、もーーーーー!! こっちも暇じゃないんですよ?──で、なに? 『銀の意志ズィルバー』ご一考──はは、うける」

「うけねーよ!!」


 なんで、この馬鹿女は信じねーんだよ!! 


「馬鹿女じゃないわよ!」

「うるせぇぇえ!! ややこしくなるから黙ってろぉぉぉぉおお!!」

 あと、口にだしてねぇえ!! 心読むな!!

「アグニ様は顔に出過ぎなんですよ──!!」


 うるせぇっぇええええ!!


「あーあーあ、うるさいうるさい。ほかの方に迷惑ですから、書類書かないならお引き取りくださいよー」

「だーもー!! どいつもこいつもぉぉぉお!!」


 こっちのセリフだなー。


 とメリザが胡乱な目でみている。


「俺はアグニールだっつてんだろ!!」

「はは、ファニー」


 ファニーじゃねぇぇぇえええええええええええええ!!


「ふーふーふー」

「どうどう、アグニールさん落ち着いて、あと杖しまって」


 はっ!


「くそ!!」

 思わず魔法をぶっぱなしそうになるアグニールが鉄の意志で抑え込む。

「クソかどうか知りませんけど──一応レィディ~ですからね、私。あと、名を騙るならもうちょっとマシな格好したらどうです?」

「騙ってねぇぇええ! アグニール中のアグニールだっつーーーーの!!」

「いやいや、アグニール様と言えば、一応・・貴族ですよ? しかもAランクパーティのリーダーですよ?」


 誰が一応じゃ!!


「そんな、人がぼっろくて、くっさい服着て、体を洗わず、そんでもって──はは、冒険者認識票を3人分、なくしたですって?」


 はは、ファニー。


「だーーーーーーーーもーーーーーーー!! 確かに言われてみればおかしいけどぉぉお!」


 わかるよ!!

 わかるわかる!!


 わ・か・る・け・どぉぉぉお!


「こっちはなぁ!! テメェんとこのクソライトの失敗のせいで、こっちは全財産をだなぁぁぁあああ!」

 激高し、涙すら浮かべるアグニールであったが、そこに──。

「あら? ライトさん?」


「……へ?」


 ライト?


 ライトって──……え?

「………………よぉ」


「……あ」


 あ、あ、あ、あ、あ──


「「「あああああああああああああああああああああああああ?!」」」


 驚愕する3人の前に、まさかまさかの人物が。

 そう、あの日、あの時、あの瞬間、あの場所に置き去りにした、





 ────ライトがそこにいたのだ!!

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