第24話「寄り道と……」

 ガラン、ガラ~ン♪


「…………よ」

「……う、ん?」


 店を出たライト。

 背中の荷物の重さはほとんど変わっていないが、左手にヤミー。右手にお財布──……金貨11枚。


「……ジ、かよ」

「ジか、よ?」


 きょとんとしたヤミーに。


 すぅぅ、

「──マジかよぉぉぉぉっぉおおおおおおおお!!」


 き、き、き、金貨11枚ぃぃぃぃいいいいいいい!!

 マジかよマジかよマジかよぉぉぉおお!!


「なななななななーーーー!! お、おいおいおいおいおいおいおい、どっどど、どーすんだよ、こんな大金────ヤミー!」

「かねー」


 にっ。


 うん。

 いい笑顔するじゃねぇか、ヤミー。

 よっしゃ! その笑顔に免じて──。

「なんでも、好きなもん食っていいぞぉぉぉおおおおお!!」

 そして俺も食う!!


「お、おー」


 大金のハイテンションのまま、ライトはヤミーを抱え上げ、そのまま、怪しい錬金術のある路地からに道へと突っ込んでいく!

 そして、なんだなんだと見守る人々をかき分けるようにして、再びの喧騒に。

 そうして、元の屋台に戻るべく、道を少し戻ったライト達は、そのまま、屋台街に飛び出していくのだが、ヤミーにはハイテンションの意味が分からないといった感じだが──まぁ、ライトが嬉しそうなのでつられて笑う。


「ははは」

「あ、は」


 よっしゃ!

 その笑顔のまま──なんでも、くぇい!!


 まずはさっきのからだな!


「おい、おっさん!」

「へい、毎度!」


 一件目。クレープ屋──。


「ふ……。この店で一番高いやつをくれッ」

 にやっ。きらーん♪

「…………………へい。銅貨5枚を二つでいいでやんすね」


 おう。


 ちゃりーん♪ 金貨で支払うと、目ん玉向かれたが、おつりに銀貨9枚と銅貨90枚をもらう。


「よーし、おごりだ食え食え!」

「くう!」


 ヤミーと手を繋ぎながら、さっきヤミーがご所望の品──一件目のクレープを手に入れ二人で頬張る。

 肉と小麦の優しい香り──。


 あーん……!


「うま!」

「んまッ」


 ニコッ。


 ヤミーの笑顔。


「……おいおい、口の周りすごいぞ」

「……ん???」


 よくわかっていないヤミーをみて、

 口に回りをどろどろにしているクレープのソースを、指ですくって舐めておく。


 ぺろ。あ、ソースうま!


「よし、ほかにも食いたいもんあったら言えよ?」

「はーい」


 2件目はなんだっけ──串焼き?

 いいぞいいぞ。

 なにせ、ライトさん、金貨・・もちだからねぇ!!


 どっからでもかかってこい!!


 そう言いながらも、さっそく買った串焼きをもぐもぐ。

 ……うむ、脂がのっててうまい!!


「んまい!」


 そして、3件目のかりんとう。


「一番高いので頼むよ──」

「…………一袋、銅貨3枚ですが、それでよろしゅうおます?」


 おうよ!!


 ちゃり~ん♪


 銅貨6枚でお買い上げ────うむ!

 ポリポリのサックサクで、うまーい!


「うまーい」


 ヤミーも大満足。

 それでも、まだまだ食べたりないのか、あっという間にペロリと平らげると、次なる屋台を目指すヤミー。

 いつの間にか攻守交替。


 ライトの手をひいてグイグイと。


「まてまて、おちつけ──屋台は逃げない」

 通りすがりに、銅貨2枚払って、シードルを2つ購入して、ヤミーにやると、口の周りをベトベトにして、一気に飲んでしまう。

 ライトも一口。


 微炭酸なのか、淡く発砲しているシードルの優しい香りが鼻を突き抜けて旨い!


「ん? つぎはそれか?」

「ん! ん!」


 シュババババ! と4連続で指をさす。


 OKOK、どっからでもかかってこい──。


「おっさんとおばさんとおにいさんとお姉さん──」


 ニヤリ、


「この店で一番高いやつを」

「「「「………………銅貨30枚になりやすー」」」」


 つーか、一番高くても、所詮は屋台のもんだっつーーーーーーーーの!! という店主たちの心の声はする~っとスルーし、大満足のライトとヤミー。


 うむうむ!!


 サクッと割ったバゲットにプリップリのソーセージを乗せたやつに、さっと胡椒を一振りしたホットドッグ×2

 カリッカリに焼いたパン生地に、ジュグジュグと溶けたチーズが躍動的な赤茄子ソースの鮮やかな一口ピザ×2

 葉っぱを皿にした、キノコとニンニクとハーブで香りをつけた、オリーブオイルで絡めたミニスパゲティ×2

 バターたっぷり、干果実をふんだんに散らした、フワフワのパンケーキ×2


 合計銅貨30枚なりー。


「うま! うま!!」

「うまー♪」


 もっもっも。

 二人して口をパンパンにして食べる。

 途中で、ライトはエールを、ヤミーには果実水を。


 飽きることなく、モリモリ食べて、腹ポンポン!


「ふー」ポンポン

「ふぅ」ぷっくり


 シュバ!


「む、まだ食えるのか? 腹めっちゃポッコリしてるぞ」

「うー」


 ヤミーが最後に求めたのが、

「シチューか」


 その場で食べるシチューで、屋台売りではなく、店先で立ち食いするタイプの奴。


「よし、あれで最後にしとこうぜー」

「こくこく」


 素直に頷くヤミー。

 店のおばちゃんは、ライトの山盛りの背嚢を訝しく思いながらも、小さなヤミーには愛想よく笑いかける。


 どうやら、最後の一杯らしい。


「あー……この子の分だけでいいです」

「あいよ。悪いから──水おまけしとくよ」


 あ、どーも。


 普通に買えば、水だってタダじゃないからね。


 ライトは水を受け取り、ヤミーはシチューの入った器を受け取る。

 それを嬉しそうに、ゆっくり食べるヤミー。


 中身は何だろう?

 川エビと、煮崩れた野菜と──……。


「キノコと燕麦が入ってるよ。ウチはこれしか出さないからね」

 あ、さいですか。


 いわゆる家庭の味なのだろう。

 ライトでも再現できそうな簡易さがいい。


「ん」

 それを半分だけ食べると、ライトに差し出すヤミー。


「あらあら。お兄ちゃんと分けっこですって」

「あ、いや」


 お兄ちゃんじゃないけど──ま、いいか。


「いいから、全部食いな」

「ふるふる」


 分けるって?


「センキュ」

 それ以上ライトも固辞することなく、シチューを食べる。

 正直腹いっぱいだが、これくらいならまぁ……あ、うまいわ。


「ごっそさん」

「あぃ、よろしゅうおあがり──」


 どこの挨拶だよ……。


 たっぷりと買い食いしたライト達は満足して、露店をあとにするのだった。


「いやー。文明最高だわ」

「さいこー」


 うんうん。

 野営飯も悪くないけど、やっぱ街で食う飯が一番うまいな。

 バリエーションも豊富だし──。


「こくこく」


 ふふ。


「また行こうな──」

「こくこくこく!」


 そうしてヤミーと手をつないでギルドに向かうライト。

 腹が膨れれば、気持ちにも余裕ができる。


 大荷物のまま、ぱんぱんに膨れた腹を抱えてライトは、上機嫌のままギルドのドアをくぐって中へ。

 なにやら、人だかりができていたが、気づかずそのまま……。


「ただいま戻りました~」

「ましたー」


 カランカラ~ン♪


 いつもは言わない挨拶も今日は特別だぜ。

 なにせ、生還記念の大金記念の初攻撃魔法記念の記念中の記念だ。

 ついでに、アグニールに一発ぶち込んでやりたい記念とくらっぁああ!


「あ、メリザさん────……は受付中か」


 ま、誰でもいいや。

 報告報告~っと、お、空いてる窓口発見。


「すんみません。クエストの経過報告に──」

「だーかーらー!! お前ンとこのクソ冒険者の失敗で、こうなったんだぞ!! Aランクパーティがウソつくっていうのか、おい!!」



 ん?


 この、声──。



「テメェんとこのクソライトの失敗のせいで、こっちは全財産をだなぁぁぁあああ!…………あ?」

「………………よぉ」


 クソ冒険者のライトでっす



 ニィィ……!



 凶悪な笑みを浮かべたライト。

 唖然としたアグニール。



 そして、まさかまさかの展開に────。

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