第15話「闇の目覚め」

「ぐ……!」


 鋭い痛みに、目が覚めるライト。

 あたりは薄闇に包まれており、何も見えないに等しい。


「い、生きてる……?」


 あれ? うそ、だろ?

 ライトはあの時、死を覚悟していた。

 すでに致命的なダメージを負っていたことは間違いない。たとえ、内臓が無事でもあの出血量ではどうやっても地上までたどり着くのは無理だろう。


「……レベルアップのおかげか?」


 そういえば、リッチと、大量のアンデッドを滅したせいか。

 急速にレベルアップしたのを感じていた。


 感覚的には30くらい……。

「いや、待て……!」


 こ、これって──。

 腹と腕に巻かれた包帯。


「だ、だれが──?!」

 まさか、アグニール達が戻って来た?

 いや、そんなことあるわけがない──じゃぁ……。



 かさっ。



「ッ!!────だ、誰だ!!」


 サッ! と身構えたライト。

 まさか、アンデッドの生き残り??


 間の悪いことに、武器は何もないが、ライトにはこれがある──ジャキンッ!!


「どこからでもかかってこい!」

 魔力は十分────くらえッ!



 ──ウィィィィイン!!



 光が収束し、指先に集中する。

 これでいつでもレーザー発射可能! もしアンデッドだったら、ぶっ飛ば──────。


「ッ!」


 ドキリと心臓が跳ねる。

 ライトの視線の先には、白いナニカ──。


 白い髪。

 白い肌。


 そして、白い……少女。


「お前は……」


 全てが白い少女────……。


 いっそ神秘的な雰囲気を纏った少女は、ライトの指先に集まったレーザーの光にぼんやりと照らし出される。

 そう、あの子だ──。


 まるで、人形のような少女。

 携帯魔力タンクに中にいた少女がそこにいて、じっとライトの顔を見つめていた。


「……ひかり」

「あ……!」


 そうして、そっと零した言葉に慌ててライトは、レーザーを取り消し、闇に溶かす。

 危ない……!


 危うく撃つところだった。

 えっと……。


「そ、そうだ!……これ、お前が──君がやってくれたのか?」


 そっと、腹を抑えるライト。

 手当の仕方は拙いが、それでも、止血とポーションの使用の痕跡が見られる。


 コクンと頷く様子をみるに、間違いないようだ。


「そうか……ありがとう」


 おかげで助かったよ、という言葉を飲み込むライト。

 かわりに、

 レーザーの残光が消える中、ライトはいつも通りの光魔法で照明とする。


「──『光球』『光球』『光球』『光球』『光球』『光球』!!」


 ポポポポンッ!

 天井に『光球』を数発撃ちこめば、照明としては十分に過ぎる。なにせ熟練度Lv10だからな。


 その光を眩しそうに眺める少女。

 光の下に照らし出された少女は、より一層白さが際立つ。


「あ……」


 そして、その中に浮かび上がった少女のあられもない恰好に気付いて、ライトは慌てて視線を逸らす。

 な、なんで何も着てねぇんだよ!


「ちょ、と、とりあえずこれを着て!」

 自分の纏っていたボロボロのシャツを投げるライト。

 リッチに貫かれたり、血で汚れていたりで散々だが、何もないよりはいい。


 そのシャツを不思議そうに見つめた少女は、何を考えているかわからない。

「前だけでも隠してくれよ……」


 ……ポリポリ。


 まいったな……。

 それにしても、光線に進化したあとも、光魔法は問題なく使えるようだ。

 BOSS部屋の有様はなかなかに凄いものだった。


 あちこちにレーザーの発射痕跡が残り、天井にも巨大な穴が開いている。

 そして、ほとんどのアンデッドが消滅し、死体も残っていない。


 まぁ、ほおっておけばリポップするのだろうが、BOSS部屋をせん滅した後はどうだったかな?


「…………」

「…………」


 ジっとみられていることに気付くライト。

 いや、ライトというよりも、ライトの使った魔法か──。


「えっと……」


 互いに無言。

 ライトはともかく、少女は初対面だろう。……まぁ、ライトも初対面といえばそうなのだが。


 何を言えばいいのか──。

「あっと……その、俺はライト──……き、君の名は?」

 年端も行かない少女にどぎまぎするライト。

 体はガリガリだが纏っている雰囲気と、白い肌からもわかるように恐ろしいほどの美少女だ。


「……ん? 名前だよ、名前──?」


 おかしいな?

 しゃべれないのか? そんなはずはないと思うけど──。


「しゃべれないの、か?」

 ふるふると軽く首を振る少女。


「そうか。じゃあ……名前を教えてくれないか?」

「……ヤミー」


 ヤミー。

 ……闇の底で見つけた白い少女。

 どこかちぐはぐな気もするが、なるほど──ヤミー、か。


「いい名前だね」

 なんとなく零した言葉にポッと顔を染める少女。

 一見して感情に乏しそうに見えたがそういうわけではないらしい。


 それにしても、この子──。


「……まずは、ここを出ようか」


 いや。どうして、この子がタンクの中にいたのか、それを聞くのはそのあとでもいい。


 そうだ。

 目的を忘れるな……。


    『あはははは! 今更気づいたかいライトくーん』

    『きゃははははあ! アイツならチョロいって! きゃーははは』

    『冒険者なら、仲間・・以外は信用してはいけませんよ?』


    あーはははははははははははははははは!


 ギリッ。


 そうだ。

 そうだったな──。


「アグニール」


 ……アグニール。アグニール。

 アグニーーーーーーーール!!


「俺はお前のことを許さないぞぉぉおお……」


 だから、


「……今からぶっ飛ばしに行くぜッ」


 そして、


 サーヤ。

 ネトーリ!


「お前らもなぁぁぁぁっぁあああああああああああ!」


 全ての理不尽を糧にしてライトは再び立ち上がる。


 闇の底でヤミーと出会い。

 光の先の光線を手に入れて──!


「これが宣戦布告だぁぁぁあああああ!」


 ジャキンッ!!


 再びのレーザー!


 もうアグニール達はいないのを百も承知でライトは、レーザーを放つ!!

 魔力を充填するのではなく、持ち前のそれを、ただただ、感情を取ろするためだけに!!


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ──ズキューーーーーーーーーーーーーン♪


  ──ズキューーーーーーーーーーーーーン♪


   ──ズキューーーーーーーーーーーーーン♪


    ──ズキューーーーーーーーーーーーーン♪


「はぁはぁはぁ……」

 ぐっと、こみ上げてきた苦いものを飲み込むライト。

 もはや、我慢などしない。

 まはや、容赦などしない。

 まはや──……。


「……………………行こう」


 思いの丈をぶっ放したあと、ライトは少女に──ヤミーと名乗る、その白い少女に手を差し伸べるのだった。

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