第14話 「その頃……(ライバル視点)」微ざまぁ

※ その頃のアグニールたち ※


「はぁ、はぁ、はぁ……くそ! きついな」

「ひぃ、ひぃ、ひぃ──アグニ様ぁ」


 情けない声を上げるサーヤは汗だくになりながらも、アグニールに縋りついていた。

 それをうっとうしく思いながらも、サーヤになんとなく肩を貸すアグニール。


 顔と色気と若さとだけのバカなガキだ。

 捨てていってもいいが、ネトーリの目の前だし、なにより明かりがいる。


 ライトを捨てていってわかったとこだが、想像を絶する暗さのダンジョンだということ。

 念のため、隠しておいた物資の魔道具はあっという間に腐食し、使えなくなったのは計算外だ。


「ち……!」


 【全】属性を誇るアグニールは、もちろん、全ての魔法が使える。

 ……そういう属性だ。

 一応、光魔法の『灯火ブライト』程度なら使えるが、本当に使えるという程度。


 なにより、魔力の総量は、並の魔法使い以下なのだ。

 『死霊王の杖』は魔力が使い放題だというが、まだまだ未知の部分もあるため、下手に使うわけにはいかない。


 一見しただけでは、呪いの類は無さそうだが、それはまだわからない。

 少なくとも、こんなダンジョンの中で試すにはリスキー過ぎる。

 実験するのはアグニール以外のものにやってもらわねばならないだろう。


(魔塔に帰るまではお預けだな……。魔力はギリギリまで温存しないと)


 戦闘も断続的に続いている。

 アグニールとサーヤの戦闘力でなんとか持たせているが、いざというときのためにアグニールの高火力は残しておかないとまずい。


 そのため、サーヤの使う、「口火」や「火球」などの火魔法で最低限の明かりを得ていたのだが……。


「おい! 暗すぎるぞッ!」

「ッ! わかってるわよぉ……」


 ポッ! とサーヤの前に小さな火がともる。

 Lv1火魔法『口火』か……。


(こんなんじゃ、足元も見えねぇぞ!……使えねぇ、ガキだ)


 火魔法にも照明効果はあるとはいえ、光のそれには遠く及ばない。

 おまけに地下が騒がしいせいか、全てのアンデッドが起き上がり、アグニール達を強襲していた。


「ターンアンデッド! ターンアンデッド!」

『『ミギャァッァアアアアア……!!』』


 脇道から襲い掛かるアンデッドども。

 ネトーリが奮戦しているが、いつ魔力が切れるか……。


「おい! サーヤ! へたり込むな。がんばれ! もうすぐだ」

「うぇぇぇ、もうやだぁ!」


 チッ。面倒くさい女だな!!


 サーヤは、メンバーの消耗・・が激しい『銀の意志ズィルバー』の補充として、この頭空っぽ女を仲間にしたが……これだ。



(……そろそろ、替え時かもしれんな)


 死霊王の杖の実験にはちょうどいいかもしれない。

 どうせ誰かに最初に使わせなければならなかったのだ──。


 チラリとサーヤの横顔を見るアグニール。

 確かに見目は麗しいが……。


 ──飽きたな。


 そんなことを考えつつも、チラッと、長く使ってきたもう一人ののことを思い出す。

 携帯魔力タンクとして使ってきた少女のこと。


「あー……。あれは、もったいなかったかなー」

「はぇ?」


 耳聡いサーヤが顔を上げるが、適当に笑顔で返す。


「なんでもない。さぁ、照明が尽きたよ」


 数分すらもたない、クソ魔法め!


 フッと暗闇に閉ざされる空間。

 それを祓うべく、ブツブツ文句を言いながらもサーヤが再度『口火』を放ち、最低限の明かりを確保。


(……チッ。もっとましな魔法はねぇのかよ、このバカ女が!!)


 やはり、携帯魔力タンクを放棄したのは時期尚早だったかもしれない。


 ……とはいえ、リッチやら、マナ・グールが蠢くあのBOSS部屋では、魔力の高い彼女は真っ先に餌食になるだろう。


 もちろん、それを持っていればアグニールも危険というわけだ。

 なので、放棄するの一択しかなかったわけだが……。


「まぁいいさ。この杖がだめなら、また・・作ればいい──────ん?」

「あれ?」

「んん? なんですか、この灯り??」


 ふと気づいたアグニール一行。


 な、なんだぁ?



 ──ふわぁっぁ……。



 と、妙に周囲が明るい。

 サーヤの使う、口火は蝋燭程度の明かりしか生まないはずなのに、今やダンジョンの通路全体が明るくなりつつある。


 ネトーリがなにか聖属性の魔法でもつかったのだろうか?

「なんかしたか?」

「い、いえ? とくには?」


 ターンアンデッドの連続使用で疲れ切っているネトーリにそんな余裕はない。

 たしか、ライトの使っていたホーリーライトのような魔法があったはずだが──……。


「どうしました、アグニールさん?」

「いやー。なんか急に明るくなってないか──?」


 ネトーリも首を傾げているところを見るに、彼ではないらしいが……。


「そういえば……というか、なんか暑いような?」

「ほ、ほんとだ! あっつい! あつぅぅい!!」


 ──あっつ!


「な、なんだこりゃ!?」

「あちちち……!」


 ばばっ! と手早く上着を脱ぎ棄てる馬鹿おん──……サーヤ。


「お、おい! お前の魔法だろうが! もっと、出力を絞るとかできないのか?!」

「む! アグニール様が節約しろっていうから、最低限の魔力ですぅ!……って、あつい、あつい! やっぱり、これ気のせいじゃないよー?! な、なんか、地面が──」


 へ?

 地面……。


「ちょ、あ、アグニールさん? こ、これは一体」


 ふぁぁぁ──どころの明かりではなく、ブワァッァアア! と通路全体が明るくなり、何か知らんけど、地面がグツグツと──……って、やばいやばいやばい!!


「なんか知らんけど」

「これは──」

「やばいですよぉぉぉおおおおおお!!」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


「「「やっば……」」」

 何か知らんが、やっばい──!!



 そ、

 総員ッ


「た

「い

「ひーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ゴバァァッァアア──────……ズキュウウウウウウウーーーーーーーーーーーーーーンンンンン♪



「「「うわっぁぁああああああああああああああああああああ!!」」」


 突如、地面が沸騰した!

 いや、燃え上がった!!


 いや、光に包まれてとにかくぅぅぅぅううううううううう!!!




  チュドォォォォオオオオオオオオオオオオオオオン!!! と大爆発した!!



「「「ぎゃぁっぁぁああああああああああああああああ、あッちぃぃぃぃいいいいいいいいいい!」」」


 一瞬にして、地獄のような様相になるダンジョンの通路!

 潜んでいたアンデッドもゴウゴウと燃え上がり、ゴースト系ですら、ジュゥと消滅する。


 そして、アグニール達の前方通路にはズキューーーーーーン! と、正体不明の赤光がつらぬき、飛び去り、ダンジョンの外へと!!



「ひぃぃぃい、火ぃぃぃいい! 燃えてるぅぅう」

「あっつい!! あつぅぅぅぅぅいん!!」


 轟々と通路が燃え上がり、

 アグニール達の装備も燃えていく!


「あわわわわ! あわわわわ! 泡ぁぁあああ!」


 とにかく何でもいいから火を消せと、残り少ない水やらポーションで体をザバザバと洗う!


「あっちぃ! っていうか、くせぇっぇえええええ!!」

「あ、アグニールさん! それ、ヤギの乳ですよ、うわッくさ!」


 ピョンピョン飛び跳ねるアグニールとネトーリ。


 そして、薄着になっていたサーヤは悲惨にも全身黒焦げになってフラフラと、

「うぐぐ……し、しぬ」


 バターン!


「あああああ、やばい!! やばいですよ、アグニールさん! サーヤさんが!」

「知るかぁぁぁあ! あっちぃぃいいいい!……なんか適当に掛けとけ!」


 掛けるたって、ほとんど使ってしまったし──……。


「……な、なんもないですよ!! 全部、アンタがつかったじゃないですかぁぁあ!」

「うるせぇっぇええええ! あるだろうがよーーーーーーーーーーー!」


 そう、


「そうか、これかぁぁぁあああああ!!」

「そうだ、これだぁぁぁぁああああ!!」


 ちょうど尿意を結構我慢してきた二人。


「へ、へへ。昔の女ならこれくらいのことしてたんじゃないのか? このロリコン神父」

「してませ────……あ、したっけ?」


 ブスブスと煙を吹いてぐったりしているサーヤに向かって──。


「へ? ちょ、ま、マジ──」


 盛大にィぃ……。


「ちょ、や、やめ──」



  ♪


 ♪



「──や、やめぇっぇてぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」





 しゅー……。



 通路の熱がようやく収まってきたころ。

 全身ボロボロになったアグニール達。


「くそ……いってぇぇ」

 ボロくずのようになった服をなんとかかき集めて、即席パンツをはくも、それ以外はなんもなし。


「うぅぅ、もうお嫁にいけない」


 しくしく、さめざめと泣くサーヤは、かろうじて脱ぎ捨てていた服が無事だったのでなんとか、ローブで隠しているけど……。


「うわ、くっさ──サ、サーヤさん、ちょっと離れましょうか?」


 ネトーリは、聖典をバラシて腰みのに。

 っていうか、女の子に言っちゃいけないことを言ってるが、まぁスルー。


「誰が臭いかぁぁぁああああ!」


 ……スルーされませんでした。


「まぁ、あんまり騒ぐな。幸い、誰も死んでねぇ。多分これはトラップかなんかだな」

「は、はぁ? トラップ……ですか? こんなのありましたっけ?……うわ、深ッ」


 じゅぅぅう……!

  じゅぅぅう……!


 恐る恐る、溶けた地面をのぞき込むネトーリ。

 その下には、漆黒の闇が広がっており、ジュウジュウという熱が冷める音のほか何も聞こえない。


「こ、こりゃぁ、下のBOSS部屋までつながってるんじゃないのか? サーヤ、賽銭でも入れてやれよ。けけけ。ライト君も喜ぶぜぇ」


「だーれが、あんな冴えない奴ぅ。ガキの頃から鬱陶しかったのよねー。まぁ、魔力あるみたいだから、いい属性を手にしたら、ボディガードくらいには使えると思ってたけど────ひぇ? う、上も?!」


 上?


 ふと、周囲が明るいことに気付いたサーヤが見上げると、なんとまぁ、陽の光が。


「「「うわ」」」


 それも、すぐに地形の影に隠れてふっと消えてしまったけども、残照のせいか、まだまだ明るさが残っている。


「……マジかよ。BOSS部屋から、これが……。ま、まさか、リッチの魔法か?!」


 死霊の王、リッチだ。

 元が大賢者か何かだというから、これくらいの魔法は使えるのかもしれない。


「やべぇな、ライトたち・・・・・が食い殺されたら、リッチはこっちに来るぜ?……いや、今にもこの穴からくるのか?」

「ええ! そ、それはまずいよー。今ろくな装備ないんだよ?」


 ろくな装備どころか、着るものすら欠いております……。


「な、なら、急いで脱出しましょう! もうすぐのはずです! さぁ、魔力を出し惜しんでる場合ではありませんよ!」


 ネトーリが慌ててボロカスの装備をかき集める。

 ないよりはましか。


「チッ。そうだな……。おい、サーヤ! 魔力がきれたら負ぶってやるから、照明をけちるな!」

「え、えぇー? いいけど、本当におぶってよー?」


 ウッセーナー……。

 わかってるよ!


 実は場合によっては置いていこうなんて考えつつも、アグニール達は、必死の思いでダンジョンの出口を目指すのだった。

 そうして、なんとかかんとか、半日ほどかけて脱出したのだが、その時には文字通りボロボロになっていて、乞食よりひどい有様だったのは言うまでもない……。



 チーン♪

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る