第5話「トリプルAダンジョン」


『死霊王の寝所』


 そこは、王都と教会都市の中間に位置する墓所型のダンジョンだ。


 出現するのは主に、物理攻撃に耐性のあるファントムや、魔力を食らいその魔力で動くマナ•グール系などの高Lvのアンデッド。


 おかげで、『死霊王の寝所』は、物理系の戦士では魔法の武器なしに挑めないダンジョンなのだが、このダンジョンのアンデッドは通常のアンデッドと異なり、魔力を喰らうため、魔道具の腐食が激しいといういやらしい特性がある。


 物理系が入れない、

 魔力を食らうアンデッドが出没するダンジョン……。

 通常の手段では攻略不可能。

 その特性ゆえ、難易度はぶっちぎりの「AAAトリプル・エー」だ。


 だが…………。


「──僕らはその攻略法と最深部に眠るというアーティファクトの存在をみつけたのさ」

「は、はぁ……? アーティファクトですか」


 薄暗く、かび臭いダンジョンの通路。


 ライトの光魔法を照明として、

 ペラペラとクッチャべりながら大賢者アグニを先頭にずんずんとダンジョンを進んでいく。


「そう! 伝説クラスのアイテムだよ! 魔塔長年の研究の成果──古代の文献を解読した結果! ついに、ここにあることが分かったのさ、」


「へ、へぇー」

 

 メンバーは、もちろんアグニール、サーヤ、ネトーリ……そして、気のない返事を返すライトの4人だ。

 てっきり、ライトは前衛職がいるかと思ったのだが、どうやらこれで全部らしい。


「わかるかい! この興奮を!!……あー、早く欲しい! 古代文明で最高位の魔術が使っていたと言われる『賢者の杖』が!!……もっとも、今はダンジョンボスが持つためか、ダンジョンの名を冠する『死霊王の杖』と呼ばれているけどね」


「そ、そうなんですねー……」


 超興味がないのだが、アグニールはおかまいなしに喋りまくる。


「ふふ。凄いだろう?! その杖は、古代の叡智で空気中の魔力を変換し、術者に還元できるらしいんだ。……それさえあれば、魔力切れを気にすることなく魔法を使うことができるというんだから、素晴らしいと思わないかい?!」


「……すごいですねー」


 あーはいはい。へーすごいすごい。

 魔法を無限に使える杖・・・・・・・・・・ねー。


(超、いらねぇアイテムじゃん……)

 だって攻撃力ないもん……光魔法。


 そのため、魔力切れの心配がほぼない、【光】属性のライトにとっては、ま~~~ったく興味も関係もないので、とりあえず頷いておく。


 こんなダンジョンの奥で雇い主と喧嘩してもしょうがないしね。処世術、処世術。


 ──……そう。

 何を隠そう。


 結局、パーティ募集に手を上げてきたアグニールのそれ••を受けることにしたライト。

 怪しいと思いつつも、サーヤたってのお願いということもあり、

 こうして、雑用兼、照明係として臨時にパーティへ加入することになったのだ。


(はぁ……DランクがAランクパーティへ、ね?)


 普通ならあり得ない編成だが、違法というわけでもない。


 Aランクパーティが責任を持つというのなら、Dランクのライトがパーティを組むこともあるし、

 それは、ギルドも認めている。


 ライト自身、数は少ないとはいえ、照明役兼荷物持ちとして、高ランクのパーティに同行したこともあるので、珍しいことではないのだが……。


 それにしたって、Aランクパーティなら、もっと強力な魔力タンク要員や、照明だって魔道具で対応できるはずじゃないだろうか?


「──とか。そう思っていますね? ライトくん」


 ドキッ


 最後尾を歩くライトの前を歩くネトーリ先生が考えを読むように振り返る。


「え、あ、はい……先生」

「はは。もう先生じゃないよ──それよりも、ライト君を誘ったのには理由がある。見てごらん」


 そう言って、安物の魔法の照明を取り出すと、点灯する。

 一瞬、淡い光が生まれるが、すぐにブスブスと煙を上げて消えてしまった。

「あ…………」

「ほら、ご覧?……このダンジョンは別名、魔喰いダンジョン。見ての通り、ちょっと特殊でね。モンスターのせいか、ダンジョンの空気のせいかは不明だけど、魔道具の類は腐食が激しいのさ」


 なるほど……。


「だから、前衛もいない。……戦士系の冒険者じゃ、魔法の武器なしでゴーストを倒せないしね。なによりゴーストの『憑依攻撃』に耐性が少ないからね」


 ……うーむ。

 たしかに、これじゃ並の魔道具じゃ、すぐにダメになりそうだ。

 憑依耐性のアイテムも結局は魔道具だからな。


 そして、物理攻撃には無敵のアンデッドが出現するダンジョン。


 あー……どーりで。


「それで俺の魔法が……」

「そういうことだね。ここの攻略に欠かせない『照明』をどうしようかと悩んでいてね、そこで【光】属性を得た君のことを思い出したんだよ」


 ……すんませんねー。

 ハズレの【光】属性で。


 結局、照明係かよ、と。

 ちょっと、くさくさした気分のライト。


「いやいや、悪い意味で言っているんじゃないよ? 君は立派さ。……本来、戦闘に向かない【光】属性をそこまで鍛え上げたのだから。実際こうして役に立っているだろう?」


 墓所の通路に撃ち込まれるライトの光魔法Lv2『光球』。

 そして、パーティの周囲をを照らすLv1の『灯火』。


「……まぁ、そうですね」

「謙遜することはないよ──今こうして役に立っていることを思えば、【光】属性に関する評価も改まると思うんだよね。……実際、アグニールさんなら、そのあたりの評価を変えることができる人だと思うね」


 大賢者アグニール──魔塔一の天才。

 たしかに、彼なら世論操作くらいできるだろう。

 ハズレ属性と言われた【光】のイメージを変えることも可能かもしれない。


 …………だけど、ライトはそんな理由でクエストを受けたわけではない。


 もちろんアグニールのネームバリューに驚いたのもあるが、それ以上に久しぶりに会ったサーヤと、臨時パーティの間だけとはいえ、少しでも一緒にいたかったからだ。


 未練がましいとも思う。


 もう、彼女がかつての……初恋の時のような少女とは違い、「誰かの恋人」であったとしても、だ。


(……サーヤ)


 先頭を歩くサーヤがアグニールと仲良く歩いているのを見て、胸がチクりと痛む。


 ……っていうか、なにが「かなしくて初老の元クソ神父」とくちゃべりながら行かなきゃならないのか──。

 ……地獄か、ここは。


 やってらんねぇ、と思いつつ、

 それから、入り口を過ぎて、約半日──。


 時折現れるモンスターはすべてアグニールとサーヤがなぎ倒していった。


 ……さすがは大賢者と言ったところか。


「サンダーボルトぉおお!」

「エルダーファイヤ!」


 アグニールはもちろんのこと、

 サーヤの火力も負けてはいない!


 さすがは4大魔法の中でもっとも火力のある【火】属性魔法使い!


『『グァァァ!』』

『『ミギャーーー……』』


 あの際どい魔導服をパタパタと爆炎になびかせながら、二人が持つ高そうな魔導杖から放たれる極大魔法に、マナグールやファントムごときでは近づくこともできずに消し炭にされる。

 

「よーし、周辺のアンデットはあらかた片付けたぞ! 今日はこの辺で休止しようか」

「はい! アグニ様!」


 イチャつくサーヤを生暖かく見守るネトーリ神父は、念のため、二人に回復魔法をかけ(こう見えて、ネトーリ神父は【聖】属性魔法使いなのだ!)た。


 さらには、周辺に潜むアンデッドを払うために『ターンアンデッド』の魔法をかける。


 周囲にネトーリ神父の神聖?な魔力が漂う。


 そして、仕上げに、

「じゃあ、ライト君頼むよ」

「了解」


 ブゥン……!


 光魔法Lv6発動!


「──はぁぁ!! 『安息光サンクチュアリ』!!」



 カッ──!!



 ライトを中心に、周囲を温かい光が覆いつくし、不浄な墓所の空気が払われる。


 この魔法が発動している限り、モンスターは近づきにくくなる・・・・・・・・のだ。


「すごいね、ライトくん──……。魔法の熟練度の高さが感じられるよ。しかもこの強さで、Lv6の魔法を維持し続けられるんだね……」

 関心した顔のアグニールに、少しはにかむ••••ライト。

「は、はは。恐縮です。さすがに一日中は無理ですけど、皆が休息をとる間くらいなら大丈夫ですよ?」


 なにせ、ライトの魔力は生まれつき常人よりも高いうえ、ダメ押しのように魔力の上昇率の高い【光】属性が、さらにそれを補強ししているのだ。

 ちょっとやそっとじゃ、魔力切れを起こすことはない。


「うん! じゃあ、頼むよ。二人ずつ二時間交代で休もう」

「は~い♪」「心得ました」「了解」


 さすがAランクパーティ。きっちりと休むところは休むらしい。

 『安息光』を維持するライトは一番最後に休み、最後の2時間でネトーリ神父と交代する。


 つまり、これから長い見張りと休息の時間が来るというわけだ。


 やれやれ……。

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